4部 エジプトから入院・退院まで
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マズイ。アブドゥルさんもやられてしまった。
今、敵スタンドはトドメを刺そうとアブドゥルさんの目の前に迫っている。
「!承太郎!」
敵の気を引こうと、承太郎が走り出す。向かった先は…。
「イギー!」
承太郎はイギーの首を掴み、そのままこちらとは逆方向へと走っていく。
イギーのスタンド能力は砂を使うが、ここは砂漠。そしてイギーは相当強いと、アブドゥルさんは言っていた。あの2人であれば、きっと倒してくれるだろう。そう信じて、私は動き出した。アブドゥルさんの隣に花京院くんを横たえ、私はハンカチを出して手当てを始める。
「ポルナレフ、車から応急処置セットを!」
先程の衝撃でなくなっていないといいが。
「アブドゥルさん。手に力は入りますか?ここ、強く抑えててください。ある程度血が止まったら、包帯を巻きますので教えてください。」
全く。この度で一体何回、手当てという名の応急処置をしてきただろう。花京院くんの方を見ると、ジョセフさんが治癒の波紋を流している。
「持ってきたぜ!」
ポルナレフが持ってきた応急処置セットを開けると、随分包帯が減ってしまっているが、なんとかなりそうだ。ガーゼを何重にも重ねて、花京院くんの瞼に押し当てる。
目の中のゴミはもう取ってある。眼球の傷は、今は何もできない。とにかく、瞼から流れる血を止めなくては。私もジョセフさんと一緒になって、治癒の波紋を流し込んだ。
「なまえ。…大丈夫か。」
一応、血は止まった。今は車に乗り、近くの病院へ向かっている道中だ。黙って下を向いている私に、承太郎は気遣いの言葉をかけてくれる。
怪我をしているのは承太郎の方なのに…よっぽど酷い顔をしているのだろうか。
「花京院くんがやられた時…私、気が付かなくて…。あの場にいたのが承太郎だったなら、止められたかもしれない…。」
自分の無力さが、自分を惨めにさせる。私のスタンド"クイーンオブカップ"は"掴む"能力だ。それなのに、掴めなかった。なにも。なんのためにここにいるのだ、私は。
「結果論だ。今さら話したって仕方ねえだろう。」
そうだ。結果論を話している。私は。私は結果的に、花京院くんを助けられなかったのだ。それが重く心にのしかかっている。
「承太郎…花京院くん、ちゃんと目が見えるかなぁ、ッ…眼球、傷ついてた…っ。」
いつの間にか、隣に座る承太郎の手を掴んでいたらしい。承太郎は何も言わず、私の手をギュッと握り返した。
「なまえ…さん…?泣かないで…。」
とても小さい声が、荷台から聞こえて振り返る。後ろにはイギーと、気を失っていた花京院くんだけのはず。空耳か?とも思ったが、花京院くんの手がゆっくりと動いている。
「花京院くん!待って、目は開けちゃダメ!」
一応ガーゼを当てて包帯も巻いているが、無意識に目を開けてしまって傷口が開いてしまっては大変だ。
私は承太郎の手を離し、荷台に移動した。イギーが不満げな声を漏らしたので、抱っこして承太郎の隣へ乗せてあげると今度は承太郎が不満げな顔をしている。
「なまえさん?」
もう一度花京院くんを見ると、彼は起き上がろうとしている最中で、慌てて手を取った。
「花京院くん。私、ここにいるよ。」
そう伝えると、花京院くんは安心したように口元を緩めた。すぐに、背中に手を回し、起き上がるのを補助した。
「僕は、目に怪我を負ったんだね。」
包帯を手でなぞって、彼はそう聞いた。そして、
「なまえさんは?怪我をしていないかい?」と、あろう事か私の心配をしている。
「バカだな!花京院くんは!私は元気!怪我してるのは花京院くんだよ!」
口では怒り、顔は泣いている。それが声だけで伝わって、彼は笑っている。
「泣かないで、なまえさん。」
手を目印に、花京院くんの手がどんどん私へと登ってきて、私の頬に辿り着いた。花京院くんの指で優しく、頬を伝う涙を拭ってくれるが、それでは拭いきれない。
「花京院くんが…全然目を覚まさないから……!」
致命傷ではないはずなのに、怪我をしたのは目なのに、彼は全然目を覚ましてはくれなかった。それが、一番怖かった。
「このまま静かに、死んじゃうかと…思って…ッ。怖かった…!怖かったよ〜〜!!」
顔にぶつかってしまわないよう、彼を気遣って、静かに彼の背中に腕を回した。彼の胸は、当たり前だが彼の匂いがして安心して、余計に涙が出る。彼の心臓の音も、私を安心させた。
「僕は生きてるよ。なまえさん。大丈夫。」
安心させるように低く囁く声が、優しく響いてくる。花京院くん。生きている。ここにいる。ちゃんと生きてる。頭でそう繰り返しながら、花京院くんの匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
「なまえさん。お願いがあるんだ。」
先程よりもいくらか小さい声で、彼はそう言う。彼のお願いならば、なんだって聞く。私にできる事ならば、なんでも。
「君を慰めるためにキスしたいんだけど、見えなくてね。君からしてもらってもいいかい?」
車のエンジン音や走行音に紛れて聞き逃してしまいそうな小さな声で、花京院くんは確かにそう言った。その言い方すら私を慰める要因になっているのだが、彼は気づいているのだろうか?
彼の頬に手を伸ばすと最初は驚いていたが私の手だと分かると頬を寄せてきて、自分の手を重ねた。ついでに、と言わんばかりに私の手首にキスを1つ。
「花京院くん。いつも、守ってくれてありがとう。」
キスするよ、なんて言えないから、感謝の言葉で合図をすると、彼は綺麗な笑顔を見せた。それは、目を隠されているのにも関わらず、本当に、とても綺麗な笑顔だった。