4部 エジプトから入院・退院まで
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ここからはしばらくこの車で移動するらしく、みんな誰がイギーと乗るかで揉めている。イギーはその横をトコトコと歩いていき、当たり前のように後部座席の中央に鎮座した。あまりに自然な動きにみんな無言になっている。それがおかしくて、一人吹き出した。
「ねぇイギー。私、隣に座ってもいい?」
そう言った私を、イギーはチラ、と見、隣の席に視線を流した。座っても良いということだろう。
「ありがとう!ついでに花京院くんもいいかな?」
花京院くんの腕をぐい、と引っ張ってイギーに見せると、途端に唸りだす。……ダメか…ワンチャン、頼めばいけるかなと期待していた。
「ごめんごめん。分かった。私だけ座るよ。」
みんなにごめんのポーズを取ると、一同は長いため息をついた。当たり前だ。砂漠を越えるのにオフロードカーを買ったのだ。結構揺れるし荷台は固い。そこに3人ギュウギュウ詰めにならなくてはいけないのだ。
仕方なく、花京院くん、ポルナレフ、アブドゥルさんは荷台へと押し込まれ、車は出発した。
「ジョセフさん。私、コップの水の形状維持、できるようになりました。」
そういえば言うのを忘れていたと、今さらながら運転中のジョセフさんへ報告すると「何ィ!!?」と声が返ってくる。いつも思うが、いちいち反応が大きい。
「いやぁ…花京院くんと色々と考察して試していたら、つい数日前に。」
ジョセフさんは感覚でやれ、と言っていたが、私は頭で考えてからやる方が証に合っている気がして、花京院くんに相談したのだ。そしたら原理の考察やら力の加え方やら色々と案を出してくれて、何度も試行錯誤を重ねていたら本当に数日前に、形になったのだ。
「なまえ、お主本当に」「才能あるでしょう〜?」
ジョセフさんが言う前に言ってやって、ニヤニヤと笑みを浮かべる。バックミラー越しのジョセフさんと目が合うと、嬉しそうに笑った。
「本当に、教えがいがあるわい!」とすごく嬉しそうである。とりあえず、これで一通りの訓練が終わった。あとはこれを、応用するだけだ。自分の手を見ると、バチバチと光っているのが目で見ても分かるようになっている。確実に、力をつけている。それが自分でも分かって、自信になっていた。
「んん!!?」
ジョセフさんの驚くような声に顔を上げると、車が急ブレーキをかけて、車体が浮き上がった。
衝撃が収まってから後ろの3人を見ると、みなどこかしらかぶつけたらしく…可哀想である。
「見ろ!あれを!」
ジョセフさんに言われて全員外を見ると、先程のヘリコプターが墜落しているのが見えた。一体なぜ…先程分かれて、先に飛び立ったばかりのはず。
何があったのか分からないが、ヘリコプターへ駆け寄ると、異様な光景が目に入った。
倒れている人が2人。その1人は、ヘリコプターの機体に爪を立てて息絶えている。口から、肺から、水が溢れているようだと、承太郎は言った。溺れている、とも。もう1人は生きているようだが「み、水……」と口にして怯えている。ここで、一体何が……。
辺りをキョロキョロと警戒していると、突然悲鳴が上がった。みんなが言うに、水筒から何かが飛び出してきて、パイロットの首を引きちぎって水筒の中へ引っ張りこんだというのだ。証拠に、先程まで生きていたパイロットの首から上は無くなっていた。
ス、と花京院くんが私の視界を遮る。彼の目を見上げると、少し強ばった体が解れた気がする。
「敵スタンドだ!敵スタンドが水筒の中にいるぞ!」
そのジョセフさんの声で、みな一斉にそこから距離をとり姿勢を低くしてうつ伏せになった。
水筒を挟んで3:3に分かれている。
さぁ、どうするか…まず、敵のスタンドの能力を見極めなければ…。
水筒を見据えて考えると、背中に花京院くんの手が乗せられる。きっと無意識なのだろう。チラリと花京院くんを見ると、彼も水筒を見据えてなにか考え込んでいる。
しかし、この膠着状態では、何もできることはないだろう。せめて、なにか投げ込める物でもあれば、反応を見られるのだが……。
「ポルナレフ。水筒を攻撃しろ。」
花京院くんが突然口を開いてポルナレフに指示した。なにか、策を思いついたのだろうか。彼を見て、逆隣のポルナレフを見ると戸惑った様子で「嫌だ」という。
無理もない。相手の能力が分からない上に、ポルナレフのシルバーチャリオッツはそこまでの射程はない。
それこそ、最大射程を持つ花京院くんのエメラルドスプラッシュの方が様子見にはいいのでは…?
ポルナレフも私の考えと全く同じ事を言うが「僕だって嫌だ。」と花京院くんはキッパリと言った。
「自分が嫌なものを人にやらせんな!どーゆー性格してんだテメー!」
ポルナレフにしてはご尤もな事を口にする。
「嫌なものは嫌だ。」
頑なな花京院くんに、こんな状況なのに思わず笑ってしまいそうだ。
「ん?」
私を挟んで言い合っていた2人が急に黙った。視線が同じ方を向いている。なんだ?と思い顔を覗かせると、敵スタンドの腕が花京院くんに迫っていくのがスローモーションで見えた。
「花京院くん!!!」
やられた。花京院くんがやられた。と、とにかく、ここを離れなければ。
今の一撃で顔を怪我している。他にどこか怪我したのか、花京院くんは気を失ってしまっているようだ。
私の上に倒れてきた体を転がし、咄嗟に抱き上げる。この間、約3秒。
ポルナレフは花京院くんを運ぶのを変わると言うが、その時間が惜しい。
追いつかれればきっと、3人全滅するだろう。
そのまま、2人で車まで走った。花京院くんが起きる気配はない。血が地面に滴っている。早く手当てを……いや、目を傷つけられている。傷が治ったところで、傷つけられた目が、見えるようになるだろうか…?
「なまえ!」
承太郎の声に顔を上げる。そうだ。早く車へ!
後ろをチラリと見やると、すぐ後ろまで迫っているようだった。
「ハーミットパープル!!」
ジョセフさんのスタンドの射程圏内まで入った。後ろを走っていたポルナレフは少し足を切られてしまったようだ。
だが、生きていて良かった。
車に乗り、まず花京院くんを見た。心臓は動いている。傷は目の傷だけ。なのに、目を覚まさない。
「…花京院くん…!」
アブドゥルさんは「失明の危険がある」と言った。
前にJ・ガイルと戦った時と一緒だ。あの時も花京院くんとポルナレフの間に挟まれて、何もできなかった。今回も、彼は私を守ろうと、ポルナレフとの間に私を入れたのだ。自分が不甲斐ない。情けない。結局、彼に守ってもらっているだけじゃないか…!
車の上で辺りの様子を伺っていると、中にいたイギーが外に出てきた。直後、車が音を立てて砂に引きずり込まれていく。
「花京院くん!」
そばにいたので、アブドゥルさんと、花京院くんの体を持ち車体を掴んだ。そして、姿を現した敵スタンドは車の前輪を切り落とし、沈みかけていた車から、私達を振り落とした。
何とか、花京院くんを離さずに自分の体から着地できた。しかし、みんな散り散りになってしまっている。それに、音に反応するスタンドなので迂闊に動けない。抱いている花京院くんを降ろすことも、今はできないのだ。
花京院くん…。彼はちゃんと目を覚ますだろうか。早く…早く病院へ行かなければいけないのに……。
私は、花京院くんを抱く腕の力を、ギュッと強めた。