4部 エジプトから入院・退院まで
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「…夢……ッ!」
しまった。眠ってしまった。今まで波紋の呼吸で、多少の睡眠不足は我慢できていたが…。潜水艦での睡眠では足りなかった上に、慣れない水中での戦いに疲労してしまったらしい。
「なまえ〜!元気だったか?」
まるで久しぶりに旧知の友と再会したかのように、DIOが私を抱擁する。鬱陶しい。力が強くて離れられない!
「離せ。鬱陶しい。」
自分で言って、承太郎のようだと内心思った。承太郎はこんな気持ちなのか、確かに鬱陶しい。うざい。
「悲しい事を言うな。久しぶりに会えたのだ。少しくらいいいだろう?」
まるで躾のなってない大型犬のようだ。制御ができない。これが花京院くんだったなら、かわいいかわいいと、とてもかわいがるのだが…。
DIO相手に無理だ。演技でもできない。
「ついに、エジプトに来たのだな。」
不意に、DIOが顔を上げて話し出す。そのまま、体も離してくれると大変嬉しいのだが。
「そしてついに、花京院とくっついたらしいな。」
ぴく、と体が反応する。先程とは違い、DIOの視線や言い方が鋭い雰囲気を醸し出している。
「そんな事、貴方に関係ない。」
「いいや、ある。忘れるな。なまえは俺の物だ。」
またその話か、とため息が出る。この話は3度目だ。この男は人の話を聞かないので、毎回この話になる。
うんざりして、否定するのもやめる事にした。
「まだ体の交わりはないだろうな?」
DIOの手がスス、と体を滑るのに鳥肌が立つ。咄嗟に体を突き飛ばすと、火事場の馬鹿力が出たらしく、DIOとの距離ができた。彼を見ると声を上げて笑っており、それが私を酷くイラつかせた。
「体を確認するだけだ。わざわざ夢の中でそんな事しないさ。」
DIOはコツ、コツ…とゆっくり距離を詰めてくる。
嫌だ。触れられたくない。花京院くんがいい。花京院くんじゃなきゃ嫌だ。花京院くんじゃなきゃダメだ。
助けて。いつものように助けて、花京院くん。
後ずさっていたが、やがて背中が壁に当たって止まる。逃げ場がない。私はDIOを睨みつけた。
「…!なまえ……。」
手を伸ばしかけていた手を止め、DIOは目を見開いている。そして段々と、狂気を含んだ歪んだ笑顔へ変化していった。
「やはり、最高な女だな、なまえ!その泣き顔は、とても良い。とても美しい!あぁ、このまま…食ってしまいたい!!」
手が震えている。私も、DIOも。震えの意味は、絶対に違うが。
ガッと私の肩にDIOの手が置かれる。彼の長い爪が肩にくい込んで痛い…!手を取ろうとするが、ビクともしない。しかも、気がついた時にはDIOの顔がすぐ目の前まで近づいており、私の涙を舐めとっていた。
「ッッーーー!!!」
言葉にならない悲鳴を上げるが、DIOは意に介さず、私の顔に次々キスを落としていく。嫌だ。嫌だ。やめろ。もがいてももがいても、DIOはビクともせず、身勝手に、私の顔中にキスをしている。
「花京院くん…。」
花京院くん、早く起こして。早く!
「花京院!…典明!典明、早くっ…!」
「このDIOを前にして、他の男の名前を呼ぶな!なまえ!」
ついに、DIOに唇を塞がれた。嫌だ。嫌だ嫌だ!!
突然、息ができなくなって、苦しくなってくる。
呼吸が止まったのに気がついて、DIOが体を離す。
「チッ…花京院か…。」
もう、この行為を続けるつもりはないらしく、ゆっくり手を離し、離れていく。
「なまえ。次に会う時まで、その純潔、守っていてくれよ。」
何を言っている…。純潔?なぜそんな事が奴に関係あるのだ。そう思うのだが、息が詰まって、声は出てこない。もう、目覚める。光に包まれる直前、奴の満足そうな、楽しそうな笑顔が見えて最悪な気分だ。本当、今すぐにでも殺してやりたい…!
「……!!!」
目を開けると、花京院くんの顔が目の前にある。
キスされているのだと気がつくと、強ばっていた体の力が抜けた。
目が合うと、ゆっくりと、花京院くんの顔が離れていく。
「うぅぅ…花京院くん……花京院くん、ごめん……。」
既に涙で濡れている目から、また涙が溢れてくる。手も、震えている。花京院くんの顔に、殴られたような傷があった。きっと、私の手が当たってしまったのだ。周りを見るといつの間にか車に乗っていて、みんなそれぞれ怪我をしているし、車にも不自然な傷がある。何よりも手が痛い。
「みんなもごめん……。ごめんねッ……!」
夢の事、傷の事。どちらも申し訳なさすぎて、涙と謝罪しか出ない。
いつかの私のようにキスで起こしてくれた花京院くんは、泣き止みそうにない私を車の荷台へ連れ出した。
シートは狭いので助かった。
「おいで。」
向かい合った私に、花京院くんは優しく声をかけて手を引いた。荷台は床が固いので、自分の膝の上に座れということだろう。大人しく花京院くんの膝へ座ると、随分と距離が近い。そのまま花京院くんを抱きしめた。突然だったが、彼は怒らないし嫌がらないだろうと思ったからだ。案の定すぐに抱きしめ返してくれて背中を撫でてくれた。安心する。好きだ…。
それでも、すぐにこの涙は止まりそうにないが。
「花京院くん、ごめん……手当て、しなきゃ…。」
私の大好きな、花京院くんの顔に、傷をつけてしまった。それも私がだ。DIOから逃れようと体を動かしていたので、かなり力いっぱい動かしたはずだ。絶対に痛かっただろう。
「うん。でも、なまえさんが先だ。何があったか話してくれる?」
耳元でそう言う花京院くんの声は酷く優しく、それがなんだか申し訳なくて、余計に出てくる涙を、花京院くんがハンカチで拭ってくれる。
「うっ……花京院くん。キスして…。」
「えっ。」「えっ!?」
花京院くんの驚く声に続いてポルナレフも思わず声を出した。けれど、今はポルナレフに構うほどの余裕がない。
「お願い…。そうしないと、DIOの感覚が消えないの。」
懇願するように顔を上げると、花京院くんはなにか察したらしく瞳に、僅かに怒りの色を滲ませた。
「君、まさかDIOに……!」
肩を掴む彼の手が震えだす。そしていつもよりも荒々しく、私にキスの雨を降らせてくる。
「花京院くん…ありがとう…ありがとう…。」
随分長い事、そうしていた気がする。気がついたら車のラジオの音が聞こえてきていて、音楽が流れていた。
「許さないぞ…DIO…。なまえさんに、こんな…。」
抱きあっている花京院くんの腕が微かに震えているのが分かる。相当、怒ってくれている。
「花京院くん。」
名前を呼んで顔を上げると、眉が完全に下がってしまった彼と目が合った。なんて、悲しそうな顔をしているんだ。
「花京院くん、ありがとう。夢から、目覚めさせてくれて。」
花京院くんならば、私を目覚めさせてくれると信じていた。代わりに、彼に怪我を負わせてしまったが…。
「…けど、起こすのに時間がかかってしまって…。」
申し訳なさそうに視線を下げる花京院くんだが、目を合わせようと、私は彼の頬に手を添える。
「花京院くん、私いま、花京院くんにキスしたいんだけど、してもいい?」
「………うん。」
長い沈黙のあと、切ない表情で笑った花京院くんは、やっぱりとても綺麗だった。