4部 エジプトから入院・退院まで
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さっきポルナレフが言っていたように、レジャーで来られたら良かった。泳げない私でもそう思えるほど、周りの景色は美しい。水の中を絵で描いたことはあまりないが、こんなに色とりどりの景色ならば、描くのはさぞ楽しいだろう。そんな呑気なことを考えていたのがいけなかった。なんかこの岩、顔みたいじゃない?と思った次の瞬間には、その大きな顔に吸い込まれでいた。
「なまえさん!」「なまえ。」
渦巻く水中で、危うく繋いでいた手が外れそうになったが、花京院くんと承太郎がガッチリ私を挟んでくれて流されずに済んだようだ。ようだ、というのは、挟まれている感覚はするが目が回って何も見えないからだ!
花京院くんの学ランと、承太郎の学ランの鎖しか見えない状態でグルグルグルグル回り、気がついた時には奴の口の中だった。
「うぅ…目が回った…。」
2人への感謝もそこそこに、思わず膝をついた。
まるで洗濯機のようにぶん回しやがって…許さん…。
動けない私の肩に、花京院くんの手が乗る。
思わず花京院くんの目を見る。目が回った時は一点を見つめると治まる。気がしているためだ。視点がズレると意味がないので、花京院くんの頬を両手で固定した。花京院くんが驚いた顔をしていて申し訳ないが、少しの間我慢してほしい。
ハイプリエステスの話を聞いていると、どうやら承太郎の顔がタイプらしく、思わず口を挟みたくなった。
確かに承太郎は顔がいい。だが私の目の前の、この花京院くんだって負けてないぞ。承太郎よりも紳士だし、喧嘩なんてしないし、最高の男なんだぞ、ど。
なのだが、私以外に花京院くんの良さは伝わらなくてもいい、なんなら私だけが知っていたいと思い直し、口を噤んだ。目眩は、もうだいぶ良い。
「ミドラー。」
承太郎のミドラーを呼ぶ声に、私は花京院くんから視線を外して承太郎を見た。
「一度アンタの素顔を見てみたいもんだな。俺の好みのタイプかも知れないしよ。恋に落ちる、かも。」
恋。承太郎が恋と言ったか。ふーん、なるほど。そういう作戦ね。と思っているとみんなで口々に褒めだした。承太郎一人に任せればいいものを。みんな褒めるの下手か。そんなんじゃ女の子にモテないぞ。案の定、ハイプリエステスは怒ってしまって、承太郎だけ吹き飛ばされた。
「承太郎っ!」
歯に挟まれた承太郎は、力で耐えている。私も助太刀しようとしたが、花京院くんに止められてしまって、そうしているうちに承太郎は、ハイプリエステスの歯に、押しつぶされてしまった。
「えっ……?」
思わずその場にドサッと膝を着く。「承太郎……?」
まただ。ホイールオブフォーチュンの時のような絶望感だ。信じられない光景に、みんな呆然とそこを見つめている。私も、震えてしまって声も出せない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「ッ!!」
微かだが、壁の向こうから声が聞こえた気がして顔を上げる。そばに来ていた花京院くんもそれに気づいてそちらを見る。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
いる。承太郎がいる。…生きている!!
「承太郎ッ!!」
「オラオラオラオラオラオラ!オラァッ!!」
承太郎はスタープラチナで、ダイヤモンドと同等の硬度の奴の歯をへし折って出てきた。周りの歯も全てへし折っている。
「おい。みんなこのまま、外へ出るぜ。」
良かった。怪我もない。元気だ。安心して涙が出てくるが、私もみんなに着いて行かなくては。
「あれ…?」
「なまえさん。大丈夫、連れていくよ。」
情けないが、腰が抜けて立てない。花京院くんはそれに気づいているのかいないのか、ハイエロファントを私にしっかりと巻き付け、私達はハイプリエステスの体から泳いで脱出した。
そのまま海面まで上昇し、ついに、陸地に到着した。
花京院くんは私を抱き抱えたまま浅瀬を歩いている。
立てないのは察しているようだ。そして私からは何も言っていないのに、承太郎の元まで歩いて連れていってくれた。え、エスパーか何かなのか…?花京院くんは。
「なまえ。」
承太郎は承太郎で私が何を思っているのか分かるようで、「今回も、いなくならなかったぜ。」と一言だけ残して歩いていった。なんだ。この2人は。私の事、私よりもよく分かっている。
「花京院くん、おろして。腕が痛くなっちゃうから。」
もうそろそろ立てる気がするし、私達2人とも濡れていて服が重い。それに、酸素が入ったタンクの重量もあるのだ。そのまま少し進み、花京院くんは岩の上に私をゆっくり降ろして座らせてくれた。
「ありがとう。花京院くん。今回も、助かっちゃった。」
隣で装備を脱ぎ捨て始めている花京院くんへ、感謝を伝えた。
「ふふ、どういたしまして。そうだな……お礼は、キスでいいですよ。」
最初は優しい笑顔だったが、最後の笑顔は自分の唇に指を当て、挑発的な笑顔でドキッとする。まるでここにして、と言っているようだ。
「えっ。」
しかし、キス、か。あの時以来、いつもみんなが近くにいてできていないのだ。できることなら、私だってしたいし、きっと花京院くんも同じ気持ち…だと、思う…。多分…。
「今なら、みんな見てないよ。」
花京院くんは見せびらかすようにキスをするようなタイプじゃない。私は後ろを振り返る勇気はないが、花京院くんを信じよう。
「花京院くん。」
名前を呼ぶと目を細めて、彼は身を屈めた。
水に濡れて、いつもよりも色気が増していて、見ているだけでドキドキする…。その顔が少しづつ近づいてきて、少し海水で冷えたお互いの唇が重なった。
ちゅ、ちゅ…と何度も角度を変えて唇を重ねているうちに、いつの間にか冷えた唇は熱を取り戻していた。
そろそろ…と考えていると、満足した笑顔で、花京院くんが離れた。そして私の装備を外してくれる。全部任せきりで少し申し訳ないが、私はその胸にもたれ掛かり再度感謝を述べようとした。
「ありがとう、花京院くん……。好き。」
あ、思わず、いつもの心の声が漏れてしまった。
「君は……ッ本当にかわいいなッ…!!」
先程のお色気はどこへやら。花京院くんは今度は顔を真っ赤にして、ぎゅっ、と私を抱きしめた。
「おいおいアイツら…またやってるぜ…。」
ポルナレフの呆れた声が聞こえ、思わず吹き出して笑ってしまった。本当に、そろそろ行かなければ。置いていかれたら大変だ。
「花京院くん。そろそろ行かなきゃ。」
とポンポンと背中を叩くと、ようやく離れて、外しかけていた私の装備を取り去った。
「全く…これ以上僕を君に夢中にさせて、一体どうするつもりなんだ?」
平常心を保とうとしているが、頬にはまだ赤みがあり、とてもかわいい。
「それ、私のセリフなんだけど…。毎秒毎秒、私をドキドキさせないでくれる?」
2人で赤い顔をしながらブツブツと言い合いながら、みんなの元へ足を進める。
「はぁ?僕がいつ…!」なんて怒ってるが、この男は自分の顔が良いのを理解していないのだ。…ため息が出る。
「その綺麗な顔で微笑まれたら、世の女性はみんな目を奪われちゃうの。その顔でかわいいとか好きとか言われたら、落ちない女はいないでしょうね。」
「顔!?君に言われたくはないな!」
珍しく花京院くんと言葉の応酬をしているので、みんななんだなんだとこちらを見、やがてポルナレフは「心配して損した。」とゲンナリしていた。ちょうど良かったポルナレフ!花京院くんが自分がイケメンだと理解していないんだ!納得させるのを手伝ってくれ!
「一生二人でやってろ。」とポルナレフにシッシッと手で払われた。みんなも興味をなくしたようで、自分の作業に戻っていった。
「ついにエジプトに上陸したな。」
アブドゥルさんの言葉に、みな海を見る。ここまで1ヶ月と少し。とても、過酷な旅だった。
「ジェットなら20時間で来るところを、30日もかかった。」
ジョセフさんのその言葉を聞いてジョセフさんを睨みつけたのは、私だけではないはずだ。少なくとも承太郎は睨んでいたと思う。
ついに、DIOのいる大陸にやってきた。
私は彼に会って、私を生かし続けている理由を聞かなければならない。
そして私達は、聖子さんを救うために、絶対に奴を殺さなくてはならない。
みな気を引き締めて、海を背に歩き出した。私もみんなの後に着いて、
ドサッ
「なまえさん!」
あれ…体に力が…それに、瞼が閉じてくる…。
顔を青くして駆け寄ってくる花京院くん。それが、最後に見えた光景だった。