3部 インドからエジプト上陸まで
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「そう⋯あの赤ちゃんが、スタンド使い⋯。」
花京院くんの話を聞き終えて、納得した。
あの傷の意味は、そういう事か。
よくよく考えれば、タイミング良く現れたのもおかしな話だ。しかし、起きると記憶が消えてしまうのは、とても厄介だ。何より、スタンドを使える状況ではなさそうというのが、一番ネックだ。
「なまえさんは⋯なぜ僕の話を信じてくれるんだい⋯?頭がおかしくなったとは、思わないのかい?」
花京院くんの弱々しい問いに、思考が浮上する。花京院くんは、たまにおかしな事を聞く。
「信じるのはおかしな事?DIOみたいな奴は最初から信じないけど⋯。私は信じたい人を信じる。信じてみて裏切られたら、それはそれで別に良い。受け入れる。」
信じると選択したのは自分だと、運が悪かったと、受け入れるしかないと思っている。というより、それが一番楽なのだ。裏切られたと、怒っている方が疲れてしまうから。
「なまえさん。ありがとう⋯ありがとうッ⋯!」
ついに、花京院くんは泣き出してしまった。
そんな。泣かせるつもりはなかったのに。
どうしよう!と立ち上がって、とりあえずヨシヨシと頭を撫でた。そして、持っていたハンカチで涙を拭いてあげる。いつだったか、花京院くんに自分の涙を拭いてくれと頼んだことがあったな、とぼんやり思い出した。花京院くんもこんな気持ちだっただろうかと考えていると、花京院くんの紫色の瞳がこちらを見ているのに気がついた。綺麗な、藤色の瞳。キラキラ光る飴玉のようなそれに引き寄せらる。パチ、と一度瞬きて見えなくなるが、再び瞼が上がると再び見える綺麗な藤色。本当に、吸い込まれそうな程綺麗だ。
そのままゆっくり、少しずつ、顔が近づき、藤色が瞼で隠されたのと同時に、私は彼の瞼へ触れるだけのキスをした。濡れた瞼は、少ししょっぱかった。
「さ、戻ろう。」
我ながら、なんて大胆なことを⋯それも1日に2度も⋯。1度目はパニック状態だったから、花京院くんは覚えていないかもしれない。だが、私ははっきりと覚えている。
ふぅ、と呼吸を整えてから、みんなのいる焚き火へと花京院くんを連れて戻った。
「おぅ。メシ、準備出来てるぜ。」
ポルナレフが食事を取りながら、中央を指差す。よく見ると鍋がグツグツいっている。私は近くにあった器に中身を盛り付け、花京院くんへ手渡した。食欲はあまりなさそうだが、昨日あまり眠れていないのだ。ちゃんと食べて、ゆっくり休んでほしい。花京院くんがスプーンを口に運ぶのを見届けてから、私も自分の食事を器に盛り付けた。
「ジョースターさん!ポルナレフ!今の見ましたか!?」
花京院くんが立ち上がり、2人に声をかける。私は咄嗟に赤ちゃんの方を見るが、特におかしなところはないように見える。花京院くんは何を見たというのか⋯。
花京院くんは焦ったように私を見た。ものすごく申し訳ないが、何も見ていない。
彼が言うには、赤ちゃんが安全ピンを使ってサソリを殺したという事らしい。しかし、いくら探してもサソリは出てこず、みんなに信じてはもらえなかった。これは、ちょっとマズイ。花京院くんの頭がおかしくなってしまったと、みんな疑ってしまっているのだ。腕の傷を見せても、状況は悪くなる一方だ。無理もないのだが、この状況は、私も心が痛む。どうにかして、信じてもらいたいのに⋯!
「強硬手段だ!ハイエロファントグリーン!」
「待って、花京院くん⋯!」
この状況でスタンドを使ってしまっては、花京院くんが!
どうにか止めようと思ったが、一歩遅かった。シルバーチャリオッツの当て身を受け、花京院くんは気を失ってしまった。間一髪地面に倒れるのは阻止できたが⋯これでは⋯1人、夢の中へ行ってしまう。
ぎゅ、と花京院くんの肩を抱いた。ポルナレフが「運ぶのを手伝うぜ。」と言ったが断って1人で寝床へ運んだ。ふと辺りを見渡すと、ハイエロファントの気配がする。なぜか姿は見えないが、気を失って眠っているのにハイエロファントは消えていないようだった。
なるほど。そういう事か。
私は食べかけの食事を急いで平らげ、花京院くんの隣にシュラフを敷いて横になった。そしてクイーンを体に纏わせ、花京院くんの手を握って目を閉じる。
待ってて花京院くん。いま、私も行くから。死なないで、待っててくれ。今日は体を張ったからか、疲労のお陰で眠気はすぐにやってきた。もっと早く、深く、眠らなければ⋯と無意識に花京院くんの方へと体を寄せ、そのうちに、私は深い眠りへと落ちていった。