3部 インドからエジプト上陸まで
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「花京院くん!起きて!」
朝方、物音で目を覚ますと花京院くんが魘されて暴れていた。余程恐ろしい夢を見ているのだろうとしばらく声をかけていたがなかなか起きず、最後の方は怒ったような声になってしまったがそれで何とか目を覚ましたらしい。呼吸は荒く、酷く汗もかいている。
「今のは⋯夢⋯⋯?」
ベッドから身を起こした花京院くんは頭を抑えて息を整えている。どれだけ恐ろしい夢を見ていたのか⋯。まさか、DIOの夢ではないだろう。
「酷く、恐ろしい夢を見ていたんだが⋯思い出せない。」
そう言って花京院くんが差し出したコップの水を飲み干す。いくらか落ち着いたようで安心した。
「ジョセフさん達は先に飛行機の手配に行ってるって。花京院くん、大丈夫?起きられそう?」
「⋯あぁ、すぐに支度するよ。」
まだ顔色が悪く心配なのだが、あまり心配しても嫌だろうと視線を外そうとするが、花京院くんの手の傷が目に入った。
「花京院くん。それ、いつ怪我したの?」
「え?⋯あれ⋯?」
目の前に掲げて傷を見る花京院くん。傷がある事を知らなかったようだし、ついさっき傷ついたかのように、まだ血が流れている。
「とりあえず、手当てしよ。動かないで。」
もう布団は汚してしまったが、パジャマまで汚れてしまわないよう花京院くんを制し、私は手際よく手当てをする。深い傷ではないようだが⋯なんだか妙だ。それに、嫌な予感がする⋯。こういう時の予感は、大体は当たってしまうのだ。
なんやかんやあり、私達は無事にセスナ機に乗っている。ただし、知らない赤ちゃんも一緒に、だが。
こんな危険なセスナ機に同乗させるなんて、本当は嫌だったが⋯一刻を争う事態だったらしく仕方なく許したと言っていた。
「悪いけど30分ほど眠る。」
そう言って隣のポルナレフは眠る体制に入り、逆隣の花京院くんを見ると珍しく、彼も目を閉じていた。今朝の悪夢のせいで睡眠が足りなかったのだろう。ゆっくり眠ってほしい。私もなんだか眠くなってきたが、日中眠るとDIOの夢を見てしまうので我慢しなくてはならない。しかし⋯花京院くんの寝息を聞いていたら眠ってしまいそうだ⋯。私は必死に目をこじ開けて、眠気と戦った。眠い⋯ちょっとだけ⋯。いいやダメだ!起きろ!いやでもちょっとだけ⋯と心の中で葛藤を繰り返していた。そうして何度目かの起きろ!の声で私は気がついた。
正しくは、ポルナレフを起こすジョセフさんの声だ。
おしめを変えろという事らしく、ポルナレフはノロノロとおしめを外している。
確かに、言われてみれば少し臭う。いや、少しじゃないな、大分だ。
ポルナレフは文句を垂れながらおしめを付け替え、承太郎の協力のもと、固定しようと手を動かしているが⋯赤ちゃんを逆さまにするなんて、この人達正気か?
「うっ⋯。」
花京院くんの声に彼の方を振り返ると、眉間に皺を寄せて魘されているようだった、そして、私は気がついた。
花京院くんの腕から、血が出ている!
「花京院く⋯ッ!」
花京院くんに声をかけると同時に、花京院くんが突然暴れだした。「止めろ!」と叫びながら振り回す腕を力づくで止めたが、それでも、暴れるのを抑えきれない。
「なまえ!花京院を止めてくれ!」
ジョセフさんはそう言うが、普段の彼からは想像もつかない力なのだ。それに、この体制では力が入れづらい!
「花京院くん!起きて!」
朝起こした時のように大声をかけながら、私はシートベルトを外して花京院くんに馬乗りになった。
「なまえ!無茶するんじゃあねえ!」
承太郎はそう言うが、多少の無茶をしないと止められないのだ。止められなければ、このまま墜落する。
「花京院典明!起きろ!」
腕を拘束するが、足は私には止められない。どうすれば⋯!飛行機はクルクル回転しながら、地面に近づいている。
「花京院典明!目を覚まして!私を見ろ!!」
最後の手段だと、私は心の中で花京院くんに謝罪し、左手で鼻を掴み、口付けをした。
「むぐっ⋯!」と、花京院くんから声が漏れるがそれすらも逃さないように隙間を埋めた。
ポルナレフの驚く声が聞こえたが、もうこれしか思いつかなかったのだ。
「ん!?」
ようやっと、花京院くんの目が開かれた!開かれた目は驚きと戸惑いが見て取れた。
花京院くんが暴れなくなったため、なんとか水平に持ち直し、線内は歓喜に包まれた。のだが、結局、ジョセフさんのよそ見でセスナ機は墜落してしまった。
あのまま真っ逆さまに落ちていたら全員怪我をしていただろうし、最悪死人が出たかもしれない。不幸中の幸い、という事にしておこう⋯。
「よォなまえ!さっきの、男前でカッコよかったぜェ!」
ポルナレフは素直に褒めてくれたつもりだろうが、私は反射的に睨みつけた。ポルナレフの言い方はいつもいつも、人をからかっているように聞こえてしまうのだ。
私はポルナレフを無視し、花京院くんへ救急箱を持って近づき、隣に腰掛けた。花京院くんはビクッと肩を震わせたが、先程の腕の傷の手当てをしなければ。
「花京院くん、腕見せて。」
そう声をかけると「⋯⋯腕⋯?」と言い、今朝のように腕を目の前に掲げて驚いている。まただ。また彼は、身に覚えのない傷を作っている。何かおかしい。
「見せて。」
そう言って腕を引っ張ると、広範囲に傷ができている。しかも、何か文字のようになっているではないか。
「⋯"BABY STAND"⋯!?」
「僕は、おかしくなってしまったのだろうか⋯。」
花京院くんは頭を抱えてしまっている。
「覚えていない。大事な何かを、忘れてしまっている気がするんだ⋯。」
「⋯⋯とりあえず、一旦手当てをするね。」
これは、花京院くんが切ったのだろうか?
花京院くんはポケットからナイフを取り出して見つめている。血は着いていないようだが。
しかし、自分でやったというのならよっぽどだ。普通だったら、1回刺しただけで痛みで怯むはずだ。それを、腕全体に⋯⋯。間違いなく、彼の身に何かが起こっている。私はそう確信した。
「手当て終わり。花京院くん、何か飲み物持ってくるね。ここで待ってて。」
私は1度、墜落したセスナ機へと戻り、自分と花京院くんの荷物を降ろした。そして飲み物を2本取ったところで、あの赤ちゃんの鳴き声が辺りに響いた。
抱いているのは、花京院くんだったが、抱いているというよりは胸倉を掴んでいるような⋯もしかして。
ジョセフさんが「おい!花京院!」と花京院くんの元へ行くよりも先に、私は花京院くんへ駆け寄り赤ちゃんを抱っこした。
「花京院くん、赤ちゃんはこうやって抱っこするんだよ。初めてだった?」
そうフォローすると「あ、あぁ。」と返ってきたが、いつもの花京院くんではない。
1度赤ちゃんの顔を見、ジョセフさんへと渡した。
花京院くんの傷といいこの赤ちゃんといい、なんだか嫌な感じだ。
「私、花京院くん連れて散歩に行ってきます。いいですよね?」
ジョセフさんにそう声をかけてから、私は花京院くんの背中を押してみんなから距離を取った。
今は、1度離れた方がいいと思ったからだ。
少し離れたところで、適当な岩場へ腰掛けると、花京院くんも隣へ座った。
「花京院くん。花京院くんの考えを教えてくれる?」
花京院くんの固く握られた手に、私の手を重ねた。
握り込みすぎて血が滲み、冷たくなっている。
「なまえさんは⋯信じてくれるかい⋯?」
なんだか泣き出しそうな声と表情で、花京院くんは少しずつ、話を始めた。