3部 インドからエジプト上陸まで
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「ククッ⋯クククク⋯」
どれくらいの間そうしていただろうか。数秒か、数分か。全員黙って穴から外を見据えていると、花京院くんが突然笑いだした。
「花京院くん?」
外を見て、何かを指さしているように見える。
依然、花京院くんは笑い続けている。特徴的な笑い方だな。初めて見た。あ。
「ふ⋯ふふ、」
私も笑いが出てきてしまい、2人揃って笑っていたらジョセフさんに心配されてしまった。しかし、立て続けに承太郎、ポルナレフまで笑いだしたので、ジョセフさんは絶望の表情になってしまった。
なんだか、それさえも面白い。
「ジョセフさん、よく見てください。あの辺。」
そう言って数十メートル先を指さすと「なまえ〜無事なのか〜!?」と抱きしめられたが、今はそれどころじゃない。もう一度「あれです。」と言うとジョセフさんは今度こそそちらを見る。花京院くんも笑いを収めると、ジョセフさんに丁寧に説明した。だが、まだあまりピンときていないらしい。
承太郎が「どきな。」と前に出るのを止めているが、彼はそのまま手頃な岩を手にし、スタープラチナでその岩をぶん投げた。するとどうだろう。何もないように見える空間にヒビが入り、辺りは途端に闇に包まれた。
一気に気温が下がって、汗も冷える。寒い。
5頭いたラクダは2頭しか残っていない。可哀想に⋯申し訳ない事をした。
「なまえさん。今日は夜営で、これからテントを張るみたいだから、ゆっくり休んで。」
そう言って花京院くんが自分のローブを肩にかけてくれる。どこまでも優しいな、この王子様は。
「ありがと。その前に、傷の手当てだけどね。」
3人がテントを張ってくれている間に、私と花京院くんは火を起こし、花京院くんの傷の手当てをする。だが、腕はなんとかなったが、学ランを着ているため、肩は無理だ。
「仕方ない。花京院くん、学ラン脱いで。」
「えっ!?」
花京院くんはとても嫌そうだ。驚いた顔から、苦い顔へと変わっている。
「⋯分かった。脱がなくていいから、ボタン開けて。」
譲歩してみたが、彼は嫌そうな顔を崩さず、こちらを見ている。
しばらく見つめ合うが、彼は何も言わないし動かない。こうなったら、強行突破だ。
「えっちょっと⋯なまえさん!」
私は学ランのボタンに手をかけた。前に借りた事があるので、学ランを脱ぐのはまだ構わないだろう。バッ、と、ボタンを外し終えた学ランの前を開け放つ。
問題はこのあとだ。どうしたら、中のシャツを脱いでくれるだろうかと考えていると「じ、自分で外すよ⋯。」とついに観念してくれた。
ひとつひとつゆっくりとボタンを外していく間に、花京院くんはチラチラとこちらの様子を伺っている。
最後のボタンを外したが、余程嫌なのかシャツを広げようとはしない。
「花京院くん、何が嫌?大きなアザがあるとか?傷とか?」
何か見られたくないものがあるのかと、優しく聞いてみた。無理やり開けるのはできなくもないが、話をして納得してくれるのならそちらの方がありがたいからだ。
花京院くんは静かに首を振っている。そして小さい声で「⋯⋯ないんだ。」と一言言う。「ない⋯?」ないとは?何が⋯。
「僕には筋肉がないんだ。承太郎みたいに。」
花京院くんは言ってしまった!とばかりの表情で、固く目を瞑っている。なるほど。男の子のプライド、みたいなものだろうか。
「承太郎と比べるなんて、花京院くんって意外とバカなのね。」
呆れたように言うと、花京院くんは目を開いて眉根に皺を寄せている。プライドに傷をつけてしまっただろうか。しかし、このコンプレックスは、承太郎達がそばにいる限り解消されないものなのだ。許してほしい。
「ジョセフさんもポルナレフも承太郎も、日本人とは体の作りが違うじゃない。花京院くんも分かってるでしょう?それに、私、ムキムキな男の人ってあまり好きじゃないの。」
チラリと向こうの男達を見やる。花京院くんは顔を上げてこちらを見ていた。
「んー。言い方を変えよう。私、花京院くんの体が好みかもしれない。見たい。見せてほしい。」
おっと、言い方を変えたはいいが言葉のチョイスを間違えた!花京院くんは「えっ。」と驚いているし、もしかしたらさすがに引かれたかもしれない。「僕の体が目当てだったんですか⋯。」と開きかけたシャツの前で腕をクロスしてしまった。
「あぁ、違う!違うの!なんか気持ち悪いおじさんみたいになっちゃってごめんね!」
と慌てていると、花京院くんは「プッ」と吹き出した。
こ、この男⋯!せっかく優しく話を聞いているのにからかったな⋯!!
「分かった。脱ぐよ。」
怒ろうかと思っていたら、スッキリした顔の花京院くんがシャツに手をかけていたので踏みとどまった。
自分で脱いでくれるのなら、それがいい。ついに花京院くんの手が、左右へと広げられた。
「⋯⋯造形美。」
嘘だろ。あるじゃないか筋肉。少し不安げな瞳の花京院くんと、本人が言うよりもしっかりした筋肉。そして焚き火の絶妙なライティングが、素晴らしくマッチしていてとても美しい。まるで彫刻のようだ。私は彫刻はやった事がないが、今の彼を立体で残せるならば、是非とも勉強したい。もちろん、絵にも残したい。この光景を瞳に、脳に、焼き付けねば⋯!
美しさに見とれていると「あの、手当てを⋯。」と言いづらそうに声が上がったので、慌てて手を動かした。
恐らくこの旅でできたであろう傷跡がいくつかある。痛々しい。が、それさえも美しく見えてしまう私は重症だろうか。
「ありがとうございました。」
手当てを終えると、思わず感謝の言葉が出てしまった。花京院くんは不思議そうな顔で「⋯?僕の方こそ、ありがとう。」と言ってボタンを閉めていた。
とても素晴らしいものを見せてくれてありがとう⋯花京院くん⋯。あとで描かなくては⋯と考えていると、服を着終えた花京院くんが後ろからポンと肩に手を置いた。そして「それで、僕の体はどうでしたか?なまえさん。」と意地悪な笑顔で聞いてきた。
「⋯⋯!ッ最高でしたっ!!」
思わず大声でそう答えると、少し驚いて、それから声を出して笑いだした。焚き火の灯りのせいか、顔も赤くなっているように見える。
本当に、これでは私が変態というイメージになってしまうではないか。でも、花京院くんが楽しそうなら、なんだっていいのかもしれないな⋯。
その日は5人でテントに入り、仲良く並んで眠った。
夜中、承太郎と花京院くんの間に挟まれて魘されたような気がするのだが、起きたら花京院くんを飛び越えて端っこにいたので驚いた。まさか、花京院くんを乗り越えて転がって行ってしまったのかと顔を青くさせていたら、また花京院くんに笑われた。花京院くんが移動してくれたらしい。もっと早く言って欲しい。
もっと、花京院くんには笑っていてほしい。
初めての友達との旅の思い出は、楽しい思い出がたくさんあってほしいと、私は願っていた。花京院くんが楽しそうにしているのを見ると、私も幸せな気持ちになるのだ。この時間が、もう少しだけ続きますように、と、私は願った。