3部 インドからエジプト上陸まで
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久しぶりにホテルで寝られるのを楽しみにしていたのだが、ジョセフさんが警察に追われる事態になってしまったため、車でパキスタンを目指す事になった。
事前に食料を買えるだけ買い込み、夜のうちにベナレスを出た。
ポルナレフが運転席で、助手席に誰が座るかで若干揉めかけたが、後ろに3人座る事を考えるとどう考えてもジョセフさん一択という事になりそれで落ち着いた。
車は順調に進んでいき、夜が明けるともう景色は一変していた。
「時になまえ。お主呼吸法の訓練は進んでおるか?」
ジョセフさんが思い出したように私に問うた。あれから時間が経っている。一度現状を報告した方がいいだろう。
「まだ10分はできません。5分ならなんとか。」
あれから毎日、あいている時間には特訓していたのだ。意識して呼吸をするだけなので、なにかしながらできるのは効率がいい。しかし、ジョセフさんのお眼鏡にかなうだろうか……?ドキドキとジョセフさんの反応を待っていると、「なんと!」と、ジョセフさんは嬉しそうな声を上げた。
「ワシは物心ついた時から波紋の呼吸が使えていたため早くに習得できたが…そうか。やはりなまえ、お主には素質がある!」
課題の10分にはまだまだ及ばないが、褒めてもらえるのはやはり嬉しい。「えへへ…。」と笑うと花京院くんも「すごいね、なまえさん。」と褒めてくれた。
「それでは、そろそろなまえには、これを着けて過ごしてもらう。」
そう言ってジョセフさんが取り出したのは、ガスマスクのようなもの。
「もしかして、呼吸法矯正マスク、ですか?」
ジョセフさんに聞くと、SPW財団に特別に作ってもらったのだと言った。
過去、ジョセフさんも使用した事があるらしいのだが、デザインが良くなかったので改良してもらったらしい。
「これからしばらくの間、これを着けて過ごすんじゃ。歯磨き、洗顔、風呂、食事。それ以外は外してはならん。」
「ええっ!?」
それってもしかして、寝る時も…!?な、なるほど。最初に言っていた四六時中波紋の呼吸をできるように、とはそういう事か…と納得した。腹を括るしかない。
「ジョースターさん。これは、安全なんですよね?」
横からそう問うた花京院くんは心配そうだ。
「なぁに。なまえの事だ。2、3週間もあれば慣れるじゃろう。」
に、2、3週間…2、3週間と言ったか、今…!!
このマスクがどれだけの物かは知らないが、2、3週間これを着けなければならないなんて…。いや、時間がかかればかかるだけ、その期間は延びるのだ。一刻も早く、波紋の呼吸を使えるようにならなければ…!!
私は意を決して、呼吸法矯正マスクを手に取った。
「なまえさん…。」
花京院くんは相変わらず心配そうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫。ジョセフさんが、私が耐えられないような物、渡すわけがないでしょ?」
そう言って彼に微笑みかけ、ゆっくりと、マスクを装着した。
…確かに、苦しい。つい、呼吸が乱れてしまう。
私は呼吸を整えるために、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
まだ少し苦しいが、これが、今の私の精一杯なのだろう。
もう一度花京院くんを見て、安心させようと笑みを浮かべた。
「花京院。」
それまで黙って見ていた承太郎が口を開いて花京院くんを呼んだ。みんなの意識が承太郎へと向けられる。
「なまえの言う通り、大丈夫だ。そもそも、これを持ってきたジジイが大丈夫だって言ってんだ。心配するのは分かるが、信じて応援してやれ。」
「承太郎…。」
承太郎は私が乗り越えられると信じてくれている。
いつもそうだ。信じているから、承太郎はあまり私に手を貸さないのだ。
承太郎が信じてくれているなら、なんだってできそうな気がする…!
「承太郎…かっこいい…!!」
「!」
花京院くんの息を飲む音が聞こえてそちらを見ると、花京院くんがショックを受けたような顔をしていた。
「テメー…そういうのは花京院に言いな。」
承太郎はため息を吐いているが、花京院くんに言え、とは…。
「いや、花京院くんはいつもかっこいいから。言う隙がないじゃない。」
周知の事実なのではないのか?と首を傾げると、車内にため息が充満した。は?なに?
「ありがとう。なまえさん。僕も、なまえさんを信じるよ。頑張ってね。」
花京院くんは私の手を取り、そのまま自然な流れで顔を近づけ、そして、私の手の甲へとキスをひとつ落とした。
「えっ!!?」
「あぁ、ごめん。つい。」
つい。つい、で花京院くんはキスするのか!と、思ったが、花京院くんは自分でも驚いた顔で手で口を抑えている。つい。つい、キスをしてしまったのだろう。本当に。
前に座っていた2人は前を見ていて見えていなかったのか、後ろの妙な空気感に頭に"?"を浮かべている。承太郎もさすがに驚いて、言葉が出ないようだった。
ただでさえマスクで呼吸が苦しいのに、こんな事をされては…!
私はゲホゲホと、激しく噎せてしまった。
「ご、ごめんなまえさん…!」
花京院くんが申し訳なさそうに背中をさすってくれるが、一向に咳は収まるところを知らないのだった。