3部 インドからエジプト上陸まで
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「うわ。ジョセフさん、それ、どうしたんですか!?」
私は顔を顰めながら、ジョセフさんの腕の"それ"を指さした。
「これか?うーむ。気がついたらこうなってしまっていてのォ。」
そう言ってポリポリと掻いているが、これは…まるで人の顔のようではないか…?
カルカッタにいた時にはそんなものなかった気がする。長い間バスに揺られたとはいえ、そんなにすぐに、ここまで大きくなるものだろうか…?
思わず一歩後ずさると承太郎にぶつかったので「ねぇ、承太郎。これどう思う?」と聞くと一言「キメェ。」と返ってきた。承太郎、そんな言い方する奴だったっけ?
「あの。もしかして、これスタンドじゃないですか?」
寄生するタイプのスタンドは今まで見た事がないが、似たような能力、イエローテンパランスを思い出していた。もしも寄生するタイプだとしたら、私の能力ですぐに外せるかもしれない。
しかし、ジョセフさんは一度医者に診てもらうという。
なんだか、嫌な予感がするが…。
ポルナレフが「病院、付き添ってやろうか?」と言うのを「いらん!」と一蹴して1人で行ってしまった。
…念の為、病院の前で待っていよう。
「なんか、騒がしくない?」
最初は病院内が騒がしいなと思っていたが、パトカーが数台病院の前にやってきて中に警官がたくさん入っていった。
「これは…。」
花京院くんは隣に立って中の様子を伺っているが、規制線が張られ、中の様子は分からなかった。
さっき、無理にでも着いていけばよかった。
「花京院くん、お願いがあるんだけど。」
私は背伸びをして花京院くんに小声で言った。
今、スタンドの可能性に気づいているのは私だけだ。
もしスタンドだったなら、おそらく寄生型。そのタイプならば私が掴んで剥がしてしまえば、被害は少ないだろう。
「花京院くんのハイエロファントで、ジョセフさんを探して欲しいんだけど。」
少し腰を折って聞いていた花京院くんは私の顔をじっと見た。顔が近くて少しドキッとした。
「いいけど…」と言葉を切ってハイエロファントを出した花京院くんは「なまえさん1人だと心配だから、僕もついて行くからね。」といつもの優しい顔ではなく、真剣な顔で言って、触手を伸ばした。
「う、うん。分かった。」
私と話す時はいつも優しい顔をしているので、あのような顔を見たのは初めてだった。綺麗な人の真剣な顔は、あんなにも怪しい光を放つのか…と鳥肌が立った。他の誰でもない、私にあの視線が向けられたのだと、少しゾクリとした。花京院くん…知れば知るほど魅力的な人だ…!
「いたぞ。向こうの路地だ。」
花京院くんは視線でジョセフさんの方向を示した。私が小声で協力を仰いだのを見て、騒がずに対応してくれるらしい。
「承太郎。ちょっとなまえさんとデートしてくる。」花京院くんはサラッと適当な事を言い、「行こう。」と私の背中を押した。承太郎は「は?」と眉間に皺を寄せているが、すぐに溜息をつき、シッシッ、と手を払った。
何はともあれ、これで騒ぎにならず抜け出せた。まだ遠くへは行っていないらしく、ジョセフさんとはすぐに合流できた。
「スタンドじゃ!」
合流するなりジョセフさんはそう言ったが、そもそも私は「スタンドじゃないか?」と先に言っていたのに。
思わずじと…と視線を送ると、ジョセフさんは居心地が悪くなって咳払いをした。
「さ、取りますよ。」
私は体にクイーンを纏わせ、ジョセフさんの腕についたスタンドをひっぺがした。
承太郎には私と花京院くんはデートに行くと言ってきたので、ジョセフさんには先に戻ってもらった。
ジョセフさんにここまで来た事情を説明し、私達は少し遠回りして戻る事にしたのだ。
「なまえさん。」
花京院くんの声に顔を上げると、頭をポン、と触られた。私を見下ろす視線は優しい。
「やっぱり。かわいい。でも、こっちも捨てがたいな…。」
今度は逆の手を頭へ乗せる。花京院くんの手元を見ると、綺麗な髪飾りを手にしていた。
「綺麗…。」
宝石だろうか?キラキラと光を反射させる石がついていてとても綺麗だ。
「なまえさんはなんでも似合うね。選ぶのがとても楽しいよ。」
そう言ってまた別の髪飾りを手に取る花京院くんは、本当に楽しそうだ。しかし、選ぶとは?もしかしてだが、またなにか私に買おうとしていないか?
「花京院くん。また私に何か買おうとしてる?」
と素直に聞くとこれまた素直に「うん。」と返ってきた。
「僕が、なまえさんに似合うと思ったから。僕が選んだものを身につけて欲しい。僕が選んだものを身につけているのを見ると、とても嬉しいんだ。」
そう言ってはにかんだ花京院くんはとてもかわいくて、とても儚くて、とても、愛おしく思った。
花京院くんの言うそれは、所謂、独占欲。支配欲。
「なまえさん。これとこれ、どっちが好き?」
花京院くんは、私が顔を真っ赤にしているのに気がついているはずだ。それなのに、気にせず言葉を続けている。
「こっち…。」
気づいているのだ。私が、花京院くんに恋している事を。そして花京院くんも、きっと私の事を好いている。嫌われてはいないだろうとは思っていたが、まさか。
青色と緑色、私は緑色を選んだ。花京院くんの色だ。花京院くんの、ハイエロファントの緑だ。
「僕も、きっとなまえさんに似合うと思ってたんだ。」
パチ、という音を立てて、私の髪の毛に買ったばかりの髪飾りをつけた花京院くん。その顔は、満足そうな笑みを浮かべていた。
「……今のなまえさん、すごくかわいい…。描きたいな。」
そっと頬に花京院くんの指が触れて、恥ずかしさに耐えられなくなった。
「花京院くん。は、恥ずかしいから…やめてほしい…。待って…。」
もう頭がパンクしてしまいそうで、目に涙の膜ができ、手も少し震えてきた。懇願するような目で見上げると、案外近くにあった花京院くんの瞳がキラリと光った、気がした。
「ごめんね、なまえさん。あんまりかわいいから、ちょっと意地悪しちゃった。」
そう言うと花京院くんは、眉を下げて体を離した。
キス、されるかと思った…!
いや、まさか彼に限ってこんな街中で、それもこんなに明るい時間に、そんな事する訳ないのだが。それでも。
先程の花京院くんの表情は、この先に進んでもおかしくない顔をしていたように思ったのだ。
「なまえさん、そろそろ戻ろうか。」
花京院くんはそう言って、私に左手を差し出した。
まだ微かに震えているが、私も花京院くんに手を伸ばし、そしてひとつに合わさった。
私は、とんでもない人を好きになってしまったのではないか…?と今更ながらに、花京院という男のスペックの高さに恐れおののいたのであった。