3部 インドからエジプト上陸まで
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私達は今、カルカッタからベナレスへ向かうバスに揺られている。アブドゥルさんが抜けて5人になったはずだが…ポルナレフが一生懸命話しかけている女、ネーナ。なぜだか行動を共にする事になったらしく、ポルナレフが先程からずっと喋っている。うるさい。
「花京院くん、少し眠ってもいいかな?」
ご飯を沢山食べて、眠くなってきてしまったので、隣に座る花京院くんに声をかけた。
「あぁ、いいよ。着いたら起こしてあげるよ。肩も貸してあげる。」
ニコ、と効果音が聞こえてきそうな笑顔でそう言う花京院くんに「重いし1人で寝られるよ。」と不満げな表情で返すも、「信頼してもらえてるみたいで嬉しいんだけどな。」といつもの有無をいわせない笑顔で返された。こんな時、なんと言って断ればいいのか分からない。恐る恐る肩に頭を乗せるとフッ、と花京院くんの優しい吐息が聞こえてきた。きっと今、柔らかい笑顔を浮かべているんだろうと安易に想像ができた。
「おいおい、こんなとこでイチャつくなよ…!」とポルナレフの呟きが聞こえてきた気がしないでもないが、私の意識はすぐに落ちていった。花京院くん、やっぱりいい匂いがするんだよな……。意識を手放す最後に考えたのは、これだった。
「なまえさん、もうすぐ着くよ。」
優しく揺すられて目を覚まし、花京院くん越しに窓の向こうを見ると景色が一変していた。活気のあるカルカッタとは違い、活気もあるにはあるのだが、穏やかだ。頬を花京院くんの肩に乗せているのも忘れて「綺麗…。」と呟くと「なまえさん、それはいくらなんでも、かわいすぎるんじゃあないか?」と聞こえた。
「えっ?っ、わあ!ご、ごめん。居心地がよくてつい…!!」
視線をあげたらくっつきそうなほど近くに花京院くんの横顔があって思わず立ち上がって距離を取る。
花京院くんも、私が目を覚ましても動かないのを見て驚いただろう。手で額を抑えて窓の外に視線を逸らしてしまった。
「あ、あの、花京院くん…。」
なんと言っていいか分からず、もう一度席へ着いて花京院くんの腕に手を置いた。
騒いでいるので前の席の承太郎、ジョセフさんが何事かとチラリと視線を寄越すがすぐに逸らされた。
後ろの席のポルナレフは、一瞬目が合ったがなぜかうんざりした表情で溜息をつき、これまた逸らされた。
「いや、なんでもないんだ。なまえさんが想定外にかわいかったから。」
いつもの優しい表情ではなく少し慌てた声色でそう言うと、私の手に自身の手を重ねた。私のせいではないのだと言いたいのだろう。
ポルナレフが後ろから、再度盛大な溜息を吐いた。
「さぁ、本当に、もうすぐ着くみたいだよ。」
気持ちを切り替えた花京院くんが窓の外に視線を移す。それに倣って私も外を見た。
「綺麗な街だね。絵に残したいくらい。」
何の気なしに言った事だが、花京院くんが少し驚いたように目を丸くしてこちらを見た。
「なまえさんも、絵を描くのかい?」
「うん。も、って事は花京院くんも?」
私が聞くと花京院くんは嬉しそうに微笑んだ。
思わぬ共通点を見つけて、私も嬉しい。
「前から、なまえさんを描きたいと思ってたんだ。」
降車の準備をしながら、花京院くんはそう話す。そんなの、私だって…!
「私も、花京院くんを描きたいって思ってた!」
花京院くんから荷物を受け取り私もそう答えると花京院くんは一瞬の間を置いて、ハハ、と声を出して笑った。たまにしか見られない、貴重な笑い方だ。そんな笑い方をするなんて、なにかおかしな事を言っただろうか?
「いや、そうだね。今度時間がある時に、外に行こう。」
初めての花京院くんからの誘いに、口角が上がるのが抑えられない。
花京院くんが先にバスから降り、こちらへ手を差し伸べた。本当はこの瞬間だって、絵に描いて残しておきたい。そっと、花京院くんの手に自分の手を重ねて、私もバスから降りた。
「うん、約束ね。」
ニヤけるのを誤魔化すように、私は花京院くんに小指を出した。花京院くんも小指を出して2人の指が絡まる。
「お前らほんとに…ッ!ところ構わずイチャつきやがって!!後でやれ後で!!!」
本日何度目かのポルナレフの説教を聞きながら、私達はバスを見送った。