2部 出国からインド上陸まで
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「また夢…?」
夢の中で目を開けて愕然とする。前回の夢から数日しか経っていないのだが?とうんざりした。
また、DIOのいる部屋にいるではないか。
「やあ、なまえ。よく来たね。」
いちいち癇に障る言い方をする男だ。それでは私が来たくて来たみたいじゃないか。
ジト、とDIOを睨みつけた。
「そんな目をするな。事実、もうインドまで来ているだろう。」
ジョセフさん、承太郎越しにDIOに居場所がバレているのは知っていたが、ここまで正確に…。返り討ちにした手下達が伝えているのか…。
「それで、今日はなんの用?」
夢はDIOが私に見せている。DIOに主導権を握らせるのは癪だが、諦めてそう呟いた。
「なまえ、この髪はどうしたんだ。」
と私の頭に触れようとしたので、触れる前に腕を掴む。また承太郎達に消毒液をかけられてはたまったもんじゃない。それに、どうした、とは。DIOがそこに口付けなんてしなければ、私の頭はこうなってはいないのに。
「イメチェン。」と適当に答えた。どうせそんなに気になってはいないだろうと。
「そうか。綺麗な黒髪なのに、残念だ。」
そういうDIOの声は本当に残念そうな声だったが、別にどうでも良い。
「それにしてもなまえ、急に綺麗になったんじゃあないか?」
DIOは私に腕を掴まれたまま、上から見下ろした。私はDIOの腕を掴み、下から見上げている。
「もしや、恋をしているのではないか?相手は…花京院か?」
「貴方と恋バナなんてしたくないのだけれど。」
何が楽しくて、こんな奴と。それにそろそろ、離れて欲しい。
「いけないなぁ。なまえは私の物なのに。」
「はぁ?」
見下ろすDIOの視線が鋭いものに変わるが、私がDIOの物だって?私は強気に睨み返した。
「私は私の物。貴方の物でなければ、花京院くんの物でもない。」
「いいや、なまえは私のモノだ。いずれ分かる。」
キッパリと言い切ったDIOの言葉。私がDIOのモノだと?そんな訳ない。私は私のモノだ。しかし、いずれ分かるという言葉には少し引っかかる。この男は、何を考えている。
「このピアス、なまえによく似合っている。自分で選んだのか?それとも、花京院か?」
空いている手で触れようとしてきたので私ももう片方の手で掴んだ。DIOが大きすぎて、腕を掴んでいるのは私なのに、まるで私の方が襲われているようだ。
「花京院はセンスがいいな。そこだけは褒めてやろう。」
会話はDIOが主導権を握っていて、話題はどんどんと移り変わっていく。
「DIOは、どうして私を生かすの?どうして、私に構うの?」
今まで聞いてこなかった疑問を、DIOに投げかけてみた。DIOの話を聞いていると、大事な話があって呼びつけた訳ではないと判断したからだ。私から話題を出したのは、初めてだった。
それに気分を良くしたのか、彼は綺麗な笑顔を浮かべた。
「嬉しいな。君から話しかけてくれるなんて。」
というセリフに吐き気がする。ただ聞きたいことを聞いただけだと、自分に言い聞かせた。
「君は私が、このDIOが、気に入ったから。」
そう言ってぐぐぐ、とDIOが私の腕を押してきて、私は焦る。コイツ、今まで手加減をしていたのか…!
あっという間に壁際まで追いやられ、背中が壁についた。DIOの腕が横にある。何が嬉しくて、この男に壁ドンなんかされなくてはならない。下から睨みつけるが、DIOはそんな私の視線なんてどこ吹く風という余裕の表情を浮かべている。
「私がなまえを気に入っているから、生かしている。私がなまえとおしゃべりをしたいから、こうして呼んでいるのだ。私はなまえの成長が、嬉しくてたまらないんだ。」
DIOの右手が、ソッと私の頬に触れた。まずい、このままでは、きっとまずい。
試しにスタンドを出そうとするも、やはり夢なのでスタンドは出ない。その様子をDIOは、上から見下ろしている。
「あぁなまえ。かわいいなまえ。本当にかわいらしいな。今すぐに食べてしまいたい。」
DIOから逃れようと頭を働かせるが、両脇はDIOの腕があるし、下を見るとDIOの膝があり下がれない。
このまま彼は、きっと私にキスをする。今度こそ、唇に。想像するとゾッとしたが、今の彼の顔はそういう顔をしている。
イチかバチか、私はDIOの胸に顔を埋めた。首に腕を回してひっつこうかとも思ったが、そのまま首から血を吸われない保証もないのでそうした。
「なまえ。顔が見たい。顔を上げてくれ。」
私は静かに首を振る。DIOは私の反応を見て、壁に着いていた手を離して私を抱きしめた。
「恥ずかしいのか?なまえは照れ屋だな。」
そんなわけない事は分かっているだろうに。わざわざ人の神経を逆撫でするような事を…。
目覚めはまだだろうかと、焦れる。
なんとしてでも、時間を稼がなくてはと頭を働かせていると、急に浮遊感が体を包んだ。隙間からチラリと見ると、少し明るい。目覚めだ。
「クソ、もう時間か。」
今日初めての、DIOの少し悔しそうな声を聞いて、勝った!と思った。これ以上くっつかなくていいと思うと、自然と口角が上がった。
「なまえ、また会いにきてくれ。」
私はまた、後ろの光に引き寄せられる。
誰が会いに来るか!呼ぶな!と言ってやりたかったが、前回と同様、もう声は出なかった。
「なまえ!」
焦ったような私を呼ぶ声に、意識が覚醒する。
目を開けると、承太郎と花京院くんが私を気遣うような目で見ていた。
「お前…DIOの夢を見てたな。」
承太郎が確信した言い方をしている。余程魘されていたのだろう。じっとりと汗をかいている。
「なまえさん、酷く魘されていたよ。大丈夫かい?」と花京院くんがハンカチを差し出してくれる。が、私は花京院くんの肩に寄りかかっている事に気がついた。
「わ、ごめん花京院くん。重かったでしょ。というか、私、魘されて、汗かいて…!」
思わず立ち上がって謝罪をすると、承太郎がため息をついた。
「落ち着け。DIOのヤローの夢を見たのか?見てねえのか?」
あまりの落ち着きぶりに、こちらも冷静になっていく。大人しくストン、と座り、大人しく花京院くんのハンカチを借りた。いい匂いに、心が落ち着いた。
「見たよ。」
と言うと2人は息を飲んだ。それもそうだ、前回からあまり間がない。魘されているのを見て、この2人が起こしてくれたのだろう。あのまま時間が続いていたら、私はきっとキスされていただろう。
「2人とも…ありがとう〜〜!起こしてくれて本当に助かったよぉ〜〜!」
思わず涙を流すと、2人はギョッとした表情で腰を浮かせた。隣にいたアブドゥルさん、ジョセフさん、ポルナレフも何事かとこちらに注目している。
夢で何をされたのか聞かれたが、思い出したくもなくて口を噤んだ。厳密に言うと、何もされていないのだ。
「いくら夢でも、もうDIOに1人では会いたくない……。」
私があまりに泣くので、これからホテルに宿泊する際は一人部屋にならない事になった。うら若き乙女なのだが、睡眠不足になってしまう事を考えるとそれがいいだろうと、全員が納得した。花京院くんは最初反対したが、私の懇願するような視線に渋々だが折れてくれたのだ。これからは、私が魘されたら誰かが起こしてくれる。みんなの負担を増やしてしまって申し訳ないが、当面の間はお願いする事にした。
そうこうしていると、列車はついに目的地に到着した。ここから船に乗り、インドへ上陸する。
私達は少しずつ、だが確実に、DIOに近づいている。
夢を見る頻度に、DIOとの物理的な距離も関係あるのかもしれないと思い当たって、ゲンナリしたが、ここで私だけ帰る訳にはいかない。
今も、聖子さんは苦しんでいるのだ。
私は胸ポケットに入っている聖子さんに貰ったピアスに触れた。
聖子さん、私、頑張るから。聖子さんも頑張って。
私は日本を出る時の誓いを思い出し、立ち上がった。
「行こう、なまえさん。」
列車を降りると、花京院くんが振り返って待ってくれていた。みんなも待ってくれている。
「うん!」
私はみんなの元へ、足を踏み出した。