1部 DIOとの出会いから出立まで
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「パパはとーってもお金持ちだから、生活費は心配しないでね。どうしてもって言うなら大人になってから出世払いでもいいのよ。」
茶目っ気たっぷりな言い方をしているが、私が考えていた事を心配してわざわざ言ってくれたのだろう事は安易に推測できた。
どこまで行っても優しいんだから。
「パパになまえちゃんの事話したらね、"孫が増えるのかぁ〜!"って泣いて喜んでたわよ!」
まだ見ぬ聖子さんのパパ…ジョセフ・ジョースターさんも、私を歓迎してくれているらしく、なんだか照れくさくなった。
ちなみに、遺産もあるし、家を売ったお金をそのままお渡ししますと言った時は、聖子さんだけじゃなく承太郎にも、烈火の如く怒られた。
そのお金は家族が残してくれたものだと。
確かに、そう言われてしまえば安易に使うことはできない。
いつか、何かあった時のために、それまで大事に取っておこう。
人生、何があるか分からないのだから…。
その日は承太郎に手伝ってもらいつつ引越しの搬入、荷解きをしていた。
そして承太郎が休憩がてらタバコを吸いに外へ出た時。
承太郎がいない間も少し進めておこうとダンボールを開けていると、エジプトに行った時に持っていたバッグが出てきた。
そういえば、このバッグの中には……。
「あった……。」
タイミングを見て捨てようと思っていた矢の先端だ。
見た瞬間、彼…DIOの顔が浮かんで背筋が少し震えた。
彼は何を考えてこの矢を渡したのだろう。どうして欲しいのだろうか。
いや、そんな事どうでも良い。このまま大事に持っているのも気持ち悪い。
捨てるよりも壊してしまおう。
そう思い改めて見てみると、だいぶ古いのか知らないが既にヒビが入っている。
これなら私の握力でも簡単に壊せるだろう。
握った時に手が切れないように不要なタオルを巻いて、ググ、と力を込めた。
こう見えて私は普通の人よりもとても、力が強い。小学生の頃はゴリラと言われて泣いていた事もある。もう過去のことだが。
その、成人男性よりも強い力で握りしめた矢の先端は、予想通り"バキッ!"という音を出して割れたようだ。
「痛っ!」
なぜ。タオルを貫通した訳でもないのに、右の手のひらに傷ができている。
しかも、傷口の大きさには似合わずボタボタと止まる気配はない。
止まらない血はあっという間にタオルでは吸いきれなくなって、(畳にシミができちゃう!)と焦った私は追加のタオルを手に急いで立ち上がり、縁側へ飛び出した。
「あ……。」
血を流しすぎたせいか、とてもじゃないが立っていられなかった。
「なまえ!!」
休憩から帰ってきた承太郎が青い顔で庭へ飛び込んで来るのを見て、私はゆっくり瞼を下ろした。
「…う……。」
次に目を開けた時に見えたのは、驚いた表情の聖子さんの顔だった。そしてみるみるうちに目に涙が溜まっていって、とうとう零れ落ちた。
「なまえちゃああん!心配したのよー!」
そう言って泣きながら抱きしめてくれる聖子さん。本当に心配症だなぁ、貧血で倒れただけなのに。
安心させるようにそう笑顔で言うと
「何言ってるの!1日中うなされてたんだから!」と軽く怒られた。
1日?たかが貧血で?いや、ここ最近の忙しさで、心も体も限界がきていたのか…。
着ている衣服を見やると、確かに汗をかいていた感じがある。ちょっと汗臭い。
「シャワー、借りてもいいですか?もう体調も良くなりましたし。」
「あ、そうね。でも心配だわ。また倒れちゃわないかしら?」
そういう聖子さんは本当に心配している表情だった。本当にもう大丈夫なのに…と思ってると
「なまえ。もう起きて大丈夫なのか。」と承太郎が顔を出した。
聖子さんの騒ぎ声で、私に何かあったのでは、と様子を見にきてくれたらしい。
「そういう事なら俺が。万が一倒れてもすぐ分かるように、風呂場の前に立っててやる。それとおふくろ。なまえは病み上がりなんだ。やかましいぞ。」
それだけ言うと承太郎は去っていった。
「素直じゃないんだから〜!」と聖子さんと笑いあってから、聖子さんは晩ご飯の支度へ、私はお風呂へと別れた。
「ありがとう、承太郎。」
1日振りのお風呂に長めのため息が出る。部屋から出て行った後に承太郎がお風呂を沸かしてくれたらしい。さすが、デキる男だ。お礼に対する返事はないけど。
「…あれ?」
湯船から手を出して、ある事に気づいて思わず声が出る。
「どうした。」と承太郎の固い声が聞こえてきた。心配してくれてるのだろう。
しかし……
「承太郎、私昨日、手のひらに傷があったよね?」
そう、昨日矢を壊そうとして怪我をしたのだ。
タオルで止血しようとして止まらなくて倒れた、そこへ承太郎が駆けつけてくれたのだ。
その、止まらないほど血が流れていた傷が、ないのだ。
塞がったからではない。元々怪我なんてしてなかったかのように、不自然な程綺麗なのだ。
数秒の間のあと、承太郎は「あった、はずだ。少なくともお前が倒れた時は。」
いつもはっきり言う承太郎にしては珍しく歯切れが悪い。
「おふくろが手当てをしようとした時には、既に塞がっていたらしい。」
「……。」
あんなに血が出ていたのだ。そんな傷が数分後に塞がるだろうか?
あの矢が頭に浮かび、同時にDIOの姿も思い浮かんだ。
あの時彼は「矢は人を選ぶ」と言っていた。
彼の言葉を借りると、私は"選ばれた"のだろうか。
急に怖くなって、勢いよく湯船から立ち上がった。
その音を聞いて、倒れたと思ったのであろう承太郎がドアを勢いよく開けて入ってきた。
「っわーーー!!!なんで開けるの!!!」
さっきまでの恐怖心を羞恥心が上回り、近くにあったシャンプーボトルを力いっぱい承太郎へ投げつけた。
ゴッという鈍い音と「グッ…!」という承太郎のくぐもった声が響き渡った。