2部 出国からインド上陸まで
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「ねぇ、なまえさん。シャワーを浴びたいんだけど。」
船員達が無線機をいじっているのを眺めていると、アンちゃんが言いづらそうにそう言ってきた。
海へ落ちたから、全身が海水でベタベタしていて気になるのだという。
「うーん…今は無理かな…。」
申し訳なくて苦笑いで伝えるが、「お願い!すぐだから!」と懇願されてしまった。
上では既に花京院くんのハイエロファントを使って、船内を捜索しているだろう。その上で何も知らせがないということは、この避難先に指定された船室はきっと安全なのだろう。
「仕方ないな。ちょっとだけ、だよ。」というと「やった!ありがとう!」と喜んだ。かわいい。
船員たちに改めて「少しの間席を外しますが、絶対にここから1歩も出ないでください。なにかあれば大声で私を呼んでください。すぐ来ますから。」と厳重に言い聞かせてから船室を出た。
この際、私も一緒に浴びてしまおうか。海へ入ってはいないが、頭に消毒液をかけられてそのままなのだ。
ちょっと髪がキシキシしている。
シャワーを捻ると、きちんとお湯が出た。やっぱり、船は正常に作動しているようだ。
「なまえさんもシャワー浴びるの?」
そういうアンちゃんは既に服を脱ぎ始めている。
「うん。海に入ってはいないけど、ちょっと、ね。」
と髪の毛を触れば「あぁ。」と納得していた。
そういえば、アンちゃんもあの時あの場で騒ぎを眺めていたのだった。
私も服を脱ぎ終わり、2人でカーテンの奥へと入り、シャワーを浴びた。
「なまえさんって、綺麗だよね。」
シャワーを浴びていると、アンちゃんが何の気なしにそう言った。女の子特有の、女子トークだ。
「そうかな?アンちゃんもかわいいよ。」
と返すと、美人に言われても...と口を尖らせている。そういうところがかわいいのに。
「ねぇ、承太郎と花京院さん、どっちが好きなの?」
と唐突に恋バナに話がすり変わった。承太郎と花京院くん?どっちが好き、とは?
なぜどちらかを好きという事になっているのか、そもそもそこが気になって言葉に詰まる。今まで誰かと恋バナなんてしたことがないから、なんと返せばいいのか分からなかった。
「なまえさん、承太郎と仲が良いでしょ?花京院さんはなまえさんにとても優しいし…。それに2人と話してるなまえさん、すごくかわいいから。」
驚いた。この短時間で、私が承太郎と仲がいい事も花京院くんが優しいということも分かっているなんて。女の子って、人の事よく見ているんだな、と変なところを感心してしまった。
「で、どっちなの?」というアンちゃんはニヤニヤしている。や、だからなんで二択にするの...?
「承太郎はお兄ちゃんみたいなものだし、花京院くんは知り合ったばっかりだよ。」と面白味のない答えを返したが、アンちゃんはより一層ニヤニヤしている。
「って事は、花京院さんは好きになる可能性があるって事なのね。」
なんでこんなに楽しそうなのか。でも、確かにそうだ。
先程ポルナレフにも言ったが、この先私が花京院くんを好きになる事は充分に有り得るだろう。
そもそも、よくよく考えれば、彼は私の理想のタイプそのものなのではないか?
私は王子様のような男性と恋をしたい。
だから、そんな男性が現れるのをずっと待っていた。
花京院くんはとても綺麗な顔で柔らかい笑顔を浮かべる人で、所作も美しく、言葉遣いも丁寧だ。
なにより、私に対して通常と変わらずに女の子扱いしてくれる珍しい人。
そんなの、私にとっての王子様と言っても過言じゃないじゃないか。
考えがそこに行き着いて、思わず胸が高鳴った。
なんだ、私、王子様に出会えていたのか...。
自覚するとドキドキしてきて、思わず頬を抑えた。
「からかわないでよ、アンちゃん。はい、シャワー終わり。」
大人気ないが、ツンとした態度でシャワーを止め、髪を絞る。
「えぇ〜〜!!」と抗議しているが、からかった罰だ。
問答無用で終了!というようにカーテンを開けて、私とアンちゃんは固まった。そんな、なぜ。なぜあのオランウータンが…!
「アンちゃん!!早く着て!!」
素早く傍にあるバスタオルと服をアンちゃんに投げる。
私も服を着たいが、そんな時間はない。アンちゃんを守らなくては!と仕方なくバスタオルを巻いた。
オランウータン越しに扉を見ると、さらに奥で全員達が息絶えているのが目に入った。
そんな...!私のせいで...!ちゃんと見てなかったから...!!
ギリ、と自分の詰めの甘さに拳を握る手に力が入る。
オランウータンはゆっくりと近づいてきて、こちらに手を伸ばしてきた。
ガシッ!
オランウータンの手を掴み、めいっぱい力を込めた。
「情けない…自分が情けない…!!」
私が離れなければ、守れたかもしれないのに…!
「お前…人間を…、女を舐めるなよ!」
そのまま腕の力で扉の方へぶん投げた。
大きな音を立てて壁にぶつかって落ちたが、痛いだけで大したダメージにはなっていないようだ。
「なまえ!いるか!?」
と音を聞いて駆けつけた承太郎が入ってきて私を見、オランウータンを見た。
「テメー…!」
承太郎は状況を察して持っていた錠前でオランウータンを殴りつけた。
「なまえさん!…えっ?」
承太郎に続いて、花京院くんが部屋に飛び込んできたが、状況が理解できなくて部屋を見回して困惑している。
「なまえさん、その格好は…!あぁ、それどころじゃあないな。これ、着るといい。」
花京院くんはこちらを見ないように、脱いだ学ランを渡してきた。1枚1枚、服を着ている時間はないので助かった。
オランウータンの相手は、承太郎がしてくれている。
「ありがとう!」
私はシャワーカーテンをもう一度引いて、ありがたく花京院くんの制服を着た。
ちょっと大きいが、これで何とか動けそうだ。
シャッ、とカーテンを開け外に出ると承太郎とオランウータンの姿はなく、どうやら廊下で戦っているらしかった。
「なまえさん、こっちへ!」
花京院くんの誘導で廊下に出る。
見ると承太郎は肩に怪我を負っているし、アンちゃんは既に服を着て、何故か承太郎のそばにいる。
「アンちゃん!こっちへ……ッ!」
言い終わるよりも先に、足元に違和感を覚えた。
「なまえさん!」
花京院くんが肩に手を置いて支えようとしてくれるが、足元がぐらつく。いや、ぐらついているのではない。これは…!
「船に体が埋まっている!」
気づくのが遅すぎた。もう動けない!
「なまえ、花京院!コイツは俺がやる。隙があったら上へ逃げろ。このガキも、仕方ねえから守ってやる。」
そう言ってアンちゃんの肩を抱き寄せた。
「分かった。アンちゃん、承太郎から離れないでね!」
私がそう言うと、アンちゃんが承太郎へくっついた。
私の指示には素直に従ってくれるらしい。かわいいな。
「しかしこれ…隙なんて…!」
船のスタンドなんて今まで想像してなかったが、今の状況を見るとそういう事になる。それもものすごいパワーで私達を締め付けてくる。触れるものも触れないものも、相手の自由自在のようだ。
目の前の花京院くんは締め付けられて苦しそうだ。
だが、触れる、触れないのを選ぶのは、私のスタンドにも言える事だ。
「クイーン!」
私は久しぶりに、自分のスタンドを出した。