1部 DIOとの出会いから出立まで
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朝、部屋着のまま階段を降りると制服姿に着替えた承太郎と鉢合わせた。
「おはよー承太郎。」いつもの癖で挨拶したが、そういえば昨日の肉の芽の件で喧嘩してたんだった。
それを思い出して今更だがツンとした顔で視線を逸らすと、承太郎は溜息をつき「行ってくる。」と玄関へと向かって行った。
私はそれを横目で見送ってから、改めて洗面所へと足を向けた。
歯磨きと洗顔を済ませ、いつものように台所へと向かう。
聖子さんと、大男2人と花京院くんの朝食の準備のためだ。
台所の近くへ行くと、いつもはパタパタとスリッパの音がするのに今日はしていない事に気がついた。
まさか、聖子さんが寝坊?それとも、昨日寝るのが遅かったから私が寝坊したのだろうか?
何はともあれ、時計を見るにもここからだと台所が1番近い。
「聖子さん?」と台所へ顔を覗かせると、アブドゥルさんの背中が見えた。
「アブドゥルさん、おはようございます。台所にご用事ですか?聖子さんは…」
言いかけて息を呑んだ。
アブドゥルさんの向こう側に、聖子さんが倒れているじゃあないか!
「聖子さん!!」
聖子さんの元へ駆け寄り、優しく抱き起こす。
熱があるようで、息が苦しそうだ。
承太郎…承太郎を呼ばなくては!
もう一度聖子さんを床へ寝かせ、玄関へと走った。
するとなぜか、先程学校へ向かったはずの承太郎が外から帰ってきたところだった。
「承太郎!聖子さんが!!」
それだけ言うと承太郎は乱雑に靴を脱ぎ、台所へと走っていった。
私も後を追うと、台所の入口に既に承太郎とジョセフさんが立っていた。
中にいるアブドゥルさんによると、聖子さんが倒れたのは聖子さんにもスタンドが発現したせいらしい。
抵抗力がなければいずれ死んでしまう、とも。
ジョセフさんが取り乱している。当たり前だ。かわいいかわいい自分の娘が死んでしまうかもしれないのだから。
私は、あまりに現実味がなくて思考が停止してしまっていた。
だって、昨日は元気に笑っていたじゃあないか。
いや、聖子さんの事だ。心配かけたくなくて無理をして立っていたのだ。
それに気づけなかった私に腹が立つ。情けない。
この場の誰もが悲観的になっていたしかし、承太郎だけは違った。
「言え。対策を。」と、ジョセフさんの腕を取り、そう言ったのだ。
そうだ。聖子さんは生きている。まだ死んでいない。死ぬと決まったわけでもない。
私達に何かできるなら、どんなに困難な事だとしても、それをやってみるしかないのだ。
しかし、その後返ってきた返答に、私は目眩がした。
その対策というのは至極単純。DIOを倒す。殺す、というものだったのだ。
あの後目眩が酷く部屋へ下がったためあとから聞いた話だが、みな、聖子さんを救うためにエジプトへ行くのだという。
50日という短い期間で、DIOを倒すのだと。
その話をしにきた承太郎は険しい顔つきをしている。
この顔は、私がこの後なんと言うか分かっていての事だろう。
「私も行く。」
「駄目だ。」
想像通りの即答。でも私は譲らない。
「承太郎。私も、聖子さんを救いたい。」
「戦場で戦うだけが救う事にはならねえだろう。」
「DIOは恐らく、私を気に入ってる。役に立つと思わない?」
「思わねえな。テメーがDIOの前に出たって死ぬだけだ。」
「自分の身は自分で守れる。」
「ダメなもんはダメだ。」
この男は…!ああ言えばこう言う……!!
わからず屋に分からせるよう、言い返す言葉に熱が入る。
「承太郎!っ私は!もう失いたくない!!」
「私、承太郎にエジプトでの話、したよね!?目の前で両親も弟も殺されて、私は見ているだけだった!何もできなかった!!」
「もう見ているだけなんて嫌なの!無力な私でいたくない!後悔したくないの!!」
大声で一気に捲し立てた。息が上がって、ハァ、ハァ、と私の呼吸音だけが聞こえる。
「もう一度言う!私も聖子さんを救いたい!!」
これで終わりだとでも言うように張り上げた声に、喉が悲鳴を上げている。息もまだ整わない。
長い沈黙の後、承太郎は深く長いため息を吐いた。
「やれやれ…テメーは本当に頑固だな。」
これは延長戦の合図だろうか?と身構えていると、承太郎が右手を差し出してきた。
その手の意図が分からず承太郎を見つめていると、
「行かねえのか?もう行くぞ。」と。
これは、承太郎達について行っていいと言うことだ。
承太郎は背を向けて歩き出している。
私は慌てて荷造りを済ませると、一度聖子さんの眠っている部屋へ行き、聖子さんの頬へキスを落とした。
「聖子さん。みんなで聖子さんを守るからね。帰ってきたら、たくさん話聞いてね。」
涙がこぼれないように瞼を閉じて、おでこをくっつける。
「いってきます!」
私は聖子さんへの誓いを決意し、部屋を後にした。
入れ違いで部屋に入ってきたSPW財団の方々にお辞儀をし、門を潜る。
この旅で誰かが命を落とすかもしれない。
私も無傷では済まないかもしれない。
でも、聖子さんを守るためなら、みんなでDIOを倒す。絶対に!
「遅い!」
承太郎に小言を言われたがなんてことはない。
花京院くんもいて驚いた。が、向こうもこちらを見て驚いていた。みな心配そうに私を見るが、もう覚悟を決めたのだ。
「なまえ。なまえもタロットカードを選ぶんだ。」
アブドゥルさんは唐突に、私にタロットカードを向けてきた。占い師であるアブドゥルさんが、タロットカードでスタンドの名前を決めてくれるのだという。
占い師が決めるのだ。縁起が良い気がする。
承太郎のスタンド名はスタープラチナ。かっこよくていい名前だ。……だが、
「この中にはこれだと言えるものは…。他のカードを見せてもらっても?」
そう言うと小アルカナ、というカードの束を取り出し、「この中には?」と。
「これ。」と今度は迷いなく1枚のカードを掴んだ。
こういうのは、迷わず引くのが良い。
「これは、聖杯のクイーン!確かに、これは君にピッタリだ!名付けよう!君のスタンドは、クイーン オブ カップ!」
「クイーン…。」
スタンドを出して顔を見る。確かに、クイーンと呼ぶに相応しい出で立ちだ。
心の中で(よろしくね、クイーン。)と名前を呼ぶ。返事はないが、嫌な感じはしない。
「さぁ、行きましょう!」
クイーンを引っ込めて、みんなの顔を見る。
やはり心配されているようだが、安心させる意図も込めて精一杯の笑顔を見せる。
私が諦める事を諦めたのか、一同はジョセフさんの声に合わせて歩き出す。
待っててね、聖子さん。ちゃんと帰ってくるから。
最後にもう一度、空条家を見て、すぐに前を向く。
私は必ず、生きて帰ってくる。
「行くぞ!」