1部 DIOとの出会いから出立まで
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花京院さんも食べるのなら花京院さんの部屋でゆっくり食べようと、お盆いっぱいに乗せて部屋まで運んだ。
部屋にあったテーブルは埋め尽くされている。
「さ、食べましょうか。」
そう言い席に着くと「みょうじさん。」と名前を呼ばれた。改まってなんだろうか?
花京院さんに向き直ると、意外な事を話し始めた。
「もし良ければ、なんだが。名前で呼んでも構わないだろうか?」
「えっ。」
意外な問いかけに、思わず声が出てしまった。これでは、嫌だと言っているようではないか。
「全然、いいよ。むしろ嬉しいかも。仲良くなれたみたいで。」
出会って数時間で仲良くもなにもないだろうが、畏まった呼び方よりは好きだ。
「良かった。ありがとう、なまえさん。」
慣れない呼び方だ。少しだけ擽ったい。
「それで、私も名前で呼んだらいい?」
テーブルに頬杖をついて、からかうように、挑発的に聞いてみた。つい承太郎と話すように言ってしまった。
「うん。典明って呼んでくれると嬉しい。」
おっと。予想外だ。承太郎と違って素直。そしてストレート。この顔は…私が彼を「典明」と呼ぶのを期待している。
「のりあき…さん。…や、ごめん。まだ無理…!」
良く考えれば今まで、承太郎以外、男の人を名前で呼んだことがない。
呼び捨てで呼ぶのは、私にはハードルが高い!
「ふふ。冗談だよ。なまえさん、今僕をからかおうとしただろう。」
そう言っていたずらっぽく笑う彼は、意外とお茶目な性格なのかもしれない。
「もぅ!…私は花京院くん、って呼ぶからね。」
私が少しむくれた顔をするとごめんごめん、と笑っていて、なんだが楽しそう。
真面目そうな人かと思っていたが、話してみるとかわいらしい人だった。
「いいよ。けど、いつかは典明って呼んでほしいな。」
「……いつか、ね。」
なんだかペースを乱されて悔しい。承太郎と話す時のように上手くいかないな。
「約束ね。」と彼がが小指を差し出してきたので無言で小指を絡ませた。この歳になって指切りげんまんなんてちょっと恥ずかしい気もするが、花京院くんが楽しそうなのでいいか。
「さぁ、食べよう。」と花京院くんは満足そうな笑みを浮かべて、先程の私と同じセリフを言って席に着いた。
「なまえさんは、たくさん食べるんだね。」
彼は一足先に満腹になったようで、テーブルに頬杖をついてそう言った。
私はその言葉で固まって俯いてしまい、花京院くんは首を傾げる。
「ひいた…?」おそるおそる視線だけ上げて花京院くんを見るが、彼はきょとんとした顔をしている。
「どうして?」という彼に、私も驚いて目を開いた。
「だって、普通の女の子って、こんなに食べないじゃない?」
テーブルの上を見れば、私が空にしたお皿が積み重なっている。その上まだ食べている途中だ。
「普通の女の子って?なまえさんも普通の女の子じゃあないか。」
そう話す花京院くんは気を遣ってそう言っている訳ではなく、本心でそう思っているようだ。
でも。でもだ。
「花京院くん、ちょっと立ってくれる?」
「?うん。」
テーブルの横に、向かい合って立つ。
「あのね、私、ただお腹がすいてたくさん食べてる訳じゃないの。」
花京院くんを見上げる。彼は、なんの話しをしているのか分からないというような顔をしている。
「えっ、待ってなまえさん。何を…!」
私は花京院くんを抱き上げた。私よりも10数センチ大きい彼を。
驚いたように私の肩に手を置き、上から見下ろしている。
そして手で顔を隠して「待って。降ろしてくれ、なまえさん。」と先程よりも低い声で言った。
怪我が悪化しないように、落とさないように、ゆっくりと降ろすと、彼は顔を隠したままテーブルに肘をついて座った。
「花京院くん…。」
これはさすがに引かれただろうか。
無理もない。承太郎や聖子さんのような人の方が珍しいのだ。
小さくため息が出た。食事が終わったら、直ぐに出ていこう。そう寂しい気持ちでいると、
「待ってくれ。違う。違うんだ。」と花京院くんが片手を前に突き出した。待てという事なのだろう。だが何を?
「違うんだ。君にひいた訳じゃない。僕の問題だ。…情けない…。」
花京院くんの?情けない?言っていることがよく分からない。
「君は女の子なのにこんなに力持ちだって教えてくれたんだろう?」
指の隙間から彼の瞳が覗いている。表情は分からないが、私は一度頷いた。
「それはいいんだ。素晴らしい、君の長所じゃあないか。」
「!」
長所。長所か。そういう言われ方をしたのは初めてだ。
でも長所だと言うのなら、今の花京院くんの状況はなんだというのだ。
「女の子が力持ちでもいいじゃあないか。ただ、自分が情けなくて……。」
さっきも言っていた。情けない、と。なぜそう思うのか。
「女の子に、こんなに軽々と抱き上げられるなんて……。」
「!」
やってしまった。今までこういう事例がなかったから、全然気が回らなかった!
「あ、あの。ごめんね…!」
「いや、いいんだ。その力は君の長所だから、謝らなくていい。」
いい、なんて嘘だ。
「違う。私が軽率に…花京院くんの事を考えてなかったから。配慮が足りなかった。ごめん。」
男のプライド、というものだろうか。それを私は、自分勝手に、無遠慮に折ってしまったのだ。
「ふ…。君は…素直でいい子だね。」
花京院くんは手を少し下げて、ふにゃ、と笑顔を浮かべた。
「そんな事ない。…ごめんね。」
もう一度謝ると、今度こそ彼は顔を隠していた手をよけて柔らかい笑顔を浮かべた。
「自分の過ちに自分で気付いて直ぐに謝れる。それって簡単なように思えて、意外と難しいものだよ。なまえさんはそれができているじゃあないか。大丈夫。僕はもう気にしていないよ。」
優しい笑みで、テーブル越しに私の頭を撫でた。慰めてくれている。慰められるべきは彼の方なのに。
「花京院くんは優しいね。とても。」
「僕が優しい、か。それは、どうだろうね。」
そう言った彼はどこかミステリアスな雰囲気を醸し出しており、なんだか色っぽかった。
「さぁ、あと少しだから、食べて。」
この話題は終わり、というように、花京院くんは私に食事の続きを促す。
私がモソモソと食べているのを、なぜか楽しそうに眺めていて、完食後は一緒に食器を洗いに行き、部屋まで送ってくれたのだった。
「おやすみ、なまえさん。」
そう言い残し去っていく彼の背中を見送りながら、もっと花京院くんと話してみたい、仲良くなりたい、と思ったのだった。