1部 DIOとの出会いから出立まで
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「やっと出られた〜〜!」
ぐぐ、と伸びをして太陽を仰ぎ見る。
あの後聖子さんと聖子さんの父、承太郎の祖父のジョセフさん、そしてアブドゥルさんが来て承太郎と私を檻から出してくれた。そもそも、警察の人達は私達に出て行ってほしかったようだけど。
聖子さんに心配をかけたことを謝罪し、2人で抱き合った。鼻先に香る聖子さんの匂いは優しくて甘い匂いがする。聖子さん、好き。
途中で承太郎も一緒に抱きしめてあげると「うっとおしい!離れろ!」と大声で拒絶された。牢屋で丸一日一緒に過ごした仲なのに。ひどい。
しばらくして承太郎、聖子さんと離れると、ジョセフさんと目が合った。しまった、自己紹介がまだだった。
「あ、初めまして!みょうじ なまえです!えーと、少し前から、空条家にお世話になってます。」
英語で話すなんて咄嗟に思いつかなくて、バリバリ日本語で喋ってしまった。
もう一度、今度は英語で話そうか、と思ったが、ジョセフさんは日本語を話せるらしい。良かった。
「おしゃべりしたいのは山々じゃが、立ち話もなんじゃ。近くの喫茶店で話そうかの。」
確かに。警察署の前で長話するのもおかしな話だ。
ジョセフさんの一言で移動する空気になり、聖子さんの案内で近くの喫茶店へと入った。
「それにしてもなまえ〜!かわいいのぉ〜。若かりしホリィのようじゃ!」
聖子さんから私の保護の話を聞いた時からずっと会いたかったのだというジョセフさんは、まるで自分の孫のように私を愛でてくれた。
聖子さんが私の事を「自分の娘」だと思ってくれているように、ジョセフさんも「自分の孫」のように思ってくれているのだろうか。会ったのは初めてだというのに。なんだかこそばゆい。
「おい、本題を話しやがれ。」
雰囲気を壊すように言う承太郎に視線が集まる。
私が照れくさくてなにも言えず固まってしまったのを見て助けてくれたのだろう。本当に不器用な男だ。
「本題...本題か...。」
少し言いづらそうに、ジョセフさんはこちらを見た。
私に聞かれると困る話でもするのだろうか?
「私、席を外しましょうか?」そう言って立ち上がろうとするも、腕をしっかりと承太郎に掴まれた。
「いい。座れ。恐らくこれから話す内容は、なまえ、テメーにも関係がある事だ。」
そうだ、きっと今から"悪霊"、もといスタンドの話をするのだ。
ストン、と静かに席に座ると、「なまえ、お主…。まさかスタンドが…!」とジョセフさんが声を震わせた。
「はい…。なぜなのかはまだ、分からないんですが…。」眉を下げて答えると、「なまえちゃん…。」と聖子さんが心配した視線をこちらに向けていた。
「大丈夫です。私には承太郎がついてますから。」とよく分からない理由を述べると「それもそうね。」と笑顔を見せた。聖子さんのそういうところ、好き。
「そう…そうか……。うむ、ならば話すしかあるまい。」
覚悟を決めたジョセフさんは話し出す。私は聞いているだけ。しかし、最初はジョースター家の血が〜という話だったのに、なんだか不穏な展開になってきている。しかも、聞き間違いでなければ、今、ジョセフさんは…「DIO」と口にしなかっただろうか?
嫌な汗が全身から吹き出してくる。手も震えている。
目の前で繰り広げられているトークが断片的にしか頭に入ってこない。
「いい加減に、なにが写っているのか見せやがれ!」と承太郎がジョセフさんの手から写真を取り上げた。
その写真に写っているものを見て、私は勢いよく立ち上がった。
「DIOッ…!!!」
「なまえ!!」
目眩がする。息も苦しい。立てない。気持ち悪い…!
承太郎が支えてくれたおかげで倒れなかったが、今はそんな事より…!
「ご、ごめんなさい。ちょっとトイレ……!」
言い終わるよりも早く、承太郎の手をすり抜けトイレへと駆け込んだ。
DIO。ジョースター一族。因縁。スタンド。そのどれもが今は不快で仕方なく、胃の中にあるものを全て吐き出した。この嫌な感情も全て吐き出してしまいたい。DIOの記憶も。
やっぱり私のこの能力、スタンドは、DIOが原因だった。
何をしようとしているのかは知らないが、どんな理由であれ、私の家族を殺した男。非力な、無抵抗な私の家族を。
憎い。憎い!胃の中の物は全て吐き出し、もう私の腹の中には憎しみの感情だけが残った。
聖子さんや承太郎が家族のように接してくれているが、私は、私の家族が大好きだったのだ。愛していた。それを奪った男。DIO。
忙しさと聖子さんや承太郎の優しさで忘れかけていた憎しみの記憶が、ジョセフさんの話を聞いて思い出された。呼び覚まされた。まだ、気持ち悪い。鏡に映った自分の顔色は、自分でも心配するくらい酷いものだった。
「なまえ。」
扉の外から承太郎の声がする。
薄く扉を開けると水が入ったコップを差し出された。
「ありがとう…。」
軽くうがいをして、承太郎へコップを返した。
どうやら聖子さん達は先に自宅へ帰ったらしい。
「承太郎も、先に帰ってくれていいよ。」
酷い顔を見られたくなくてそう言ったが、すぐに「駄目だ。」と圧のある声が帰ってきた。
「一人にすると倒れる。絶対にだ。引きずってでも俺が連れて帰る。」
そう言った承太郎に少し笑ってしまった。
扉が閉まっているから顔を見られなくて良かった。
ともあれ今の酷い顔を承太郎に見られる訳にはいかない。
目をつぶってゆっくりと息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。何度も繰り返していると、いくらか体が楽になってきた気がする。
目を開けると、やばり先程よりはいくらかマシになった顔色だ。
固くなった首や肩の力を抜き、首をぐるりと回す。もう大丈夫だろう。
意を決して扉を開けると、承太郎が側の壁に寄りかかって腕を組んでいた。そして予想外にも、女の子数人に囲まれている。
この男…私が苦しんでいる間にナンパされてるだと…!とジト目で見てやると視線を感じたのか承太郎は女の子達には目もくれず近づいてきて、左手を差し出してきた。
「大丈夫か?帰るぞ。」
その言葉に絶望の悲鳴が上がるも「やかましい!」と一喝して、ギャラリーは散り散りになった。
久々に見た。承太郎が女の子に囲まれてるとこ。
でも、そんな女の子達には目もくれず、私の所に来てくれて、ちょっと嬉しい。
先程までDIOのせいで最低な気分だったが、承太郎のおかげで少しだけ和らいだ。顔色も多少良くなったのではないだろうか。
そっと承太郎の手に触れると温かかった。
私の手が冷たいので一瞬驚いて、ぎゅ、と包んでくれた。
「ありがとう。」
そう言って笑顔を見せたつもりだが、上手く笑えているだろうか?
数秒見つめたあと私の肩に手を添えて「帰るぞ。」ともう一度言って歩き出した。
うーん。これはなかなかにお姫さま待遇。
左手と左手を重ねて、肩に手を添える。(理想は腰だがこの際肩でもいい。)
そうだ、私、王子様みたいな人が理想の恋人像だった。
この状況に、中学までよく話していた事を思い出した。
周りが彼氏ができたとかキスしただとか話している時にこの話をして「そんな人現実にいないって〜!」とからかわれたのを覚えている。
でも私は、力が強いから。それもかなり。
だから女の子扱いなんてされたことなくて。ずっと憧れている。
承太郎は今こうして甲斐甲斐しくしてくれてるけど、普段は「コイツは自分の事は自分でなんとかするだろう」と余程の事がない限り手を貸さない男だから。それが承太郎のいい所だからそれでいいんだけど。
そうじゃなくて、もっと紳士的な、全ての女性に優しい人が現れるのを、私は待っている。
家族が亡くなってからこんな話してこなかったから忘れかけていたけど、承太郎に珍しく女の子として扱われて、今のこのお姫さま扱いを受けて思い出した。
私だって恋愛をしたいのだ。普通の女の子のように。
DIOの写真の事など頭の片隅に追いやってポワポワした気持ちでいると、信号で止まったタイミングで「もう大丈夫そうだな。」と承太郎に手を離された。
「え〜!家までじゃないの?」
と拗ねた表情を見せても、既に承太郎は背を向けて歩き出している。
ちぇ、と頬に手を当てると温かかった。顔色ももう戻っているだろう。
「置いていくぞ。」と振り返る承太郎。待ってくれているらしい。かわいいヤツめ!
「待ってよ承太郎〜!」
走って承太郎へ近づき「おい!急に走るんじゃ、」と言いかけた承太郎へと飛び込んだ。
「承太郎。」
そして自分の心を安心させるように、承太郎の匂いを吸い込んだ。
「私、DIOが憎い。」
思いのほか低い声が出て、肩に置かれた承太郎の手に僅かに力が籠る。
「でも、私、DIOが怖い。」
あの、何を考えているか分からない目。笑顔。振る舞い。纏う空気。全てが怖くて仕方がない。
「ねぇ、承太郎がDIOをやっつけてくれない?」
情けない顔を上に上げると、承太郎が眉間に皺を寄せ、切なげな表情で見下ろしている。
「当たり前だ。俺が必ず。必ず、DIOをぶっ飛ばしてやる。」
承太郎の目は真剣そのものだ。DIOへの恐怖心が、少し薄らいだ気がする。私は承太郎の胸に、耳をくっつける。承太郎の心臓の音が、私をより安心させた。
「あーあ。承太郎が、私の王子様だったらよかったのに。」
「は?」
おっと。気を抜いて思わず声に出してしまった。
「なんでもない。帰ろう。」
聖子さんもきっと心配している。私は承太郎から離れ、先に歩き出す。
「やれやれだぜ…。」
そう言って帽子を被りなおす承太郎。
本当に、承太郎が私の王子様だったらよかった。けど、違うのだ。きっと。
「承太郎、ありがとう!」
ありがとう。DIOを倒すと言ってくれて。それだけで、私は嬉しい。
言いたい事は言ったと、私は再び、前を向いて歩き出す。お家に帰ったら、ゆっくりお風呂に入ろう。そして聖子さんが作ってくれたご飯を、お腹いっぱい食べるのだ。