1部 DIOとの出会いから出立まで
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一頻り承太郎とじゃれたあと、承太郎の"悪霊"にスケッチブックなどを持ってきてもらい絵を描いていたが、それも飽きてしまい、手持ち無沙汰になった。
牢に入ったのは間違いだっただろうかと承太郎を見ると、例の"悪霊"を器用に使いこなしている。
「ねぇ承太郎、それ。」
私が承太郎、紫色の"悪霊"を指さす。
「それ、承太郎の意思で動いてるの?」
その"悪霊"は、食べ物や飲み物を持ってきたり、雑誌を持ってきたり、承太郎のために動いている。
「...分からねぇ。俺の意思で動かす事はできるが、俺の意思じゃねぇ動きをすることもある。」
もしかして、それは"悪霊"なんかではなくて、なにか特別な能力みたいなもの、なのではないだろうか?
突然現れたそれを、まだ私達が制御できていないだけなのではないだろうか?
顎に手を添えて考え込んでいると、承太郎がベッドから足を下ろして座り直した。
「なまえ、テメーのは。」
「私?」
私の体の異常の事だろうか?
「私は...ピアスを拾った時と、ここに入る時以外は、なにも。」
そう、なにもないのだ。
しかし承太郎のは人型で、少しだが承太郎から離れられるようだ。
対して私の方は、どちらの場合も貫通している箇所が白くぼやけるだけ。
もしかすると、私の"悪霊"と承太郎の"悪霊"では、能力のようなものが違うのではないか?使い方が違うのではないだろうか?
自分の右手を見る。
傷一つない、いつも通りの普通の手だ。
左手でピアスを触った。
このピアスを拾った時、どんな状況だっただろうか?
「なまえ。」
承太郎の声に、思考の海から意識が浮上した。
「一人で完結させようとするんじゃねえ。一緒に考えるぜ。」
私が2ヶ月あまりの間色々と抱えていたので、また抱え込むのではと心配したのだろう。
私は一度頷き、承太郎に向き合うように座り直した。
「ピアスを拾った時のことを思い出してたの。」
「あぁ、排水溝に落としたんだったか。」
そう、排水溝。下には水が流れていて、水の中に沈んだピアスが見えていた。そして上には金属製の網がかかっていた。
「ピアスを拾おうと思ったけど、その前に網を避けなくちゃいけなくて...その網を掴もうとしたんだけど...。」
「手が網をすり抜けたと。」
そうだ。私は網を掴もうとしたのだ。自分の意思で。
だが私の意思とは関係なく、網を掴めなかった。
では、承太郎の腕を掴んだ時はどうだろうか?
「承太郎の腕を掴んだ時は、どうしても今、承太郎と話さなくちゃ!って、承太郎の腕を絶対に掴もうと思って。」
「掴む...か。」
そうだ、掴む。
掴めた、掴めなかったは重要ではない。
何かを掴もうとした時にこの現象は起こっている。
「承太郎、帽子貸して。」
バッと顔を向けると、承太郎の少し嫌そうな顔。
「俺は帽子を脱ぐのが嫌いなんだ。早く返せよ。」
嫌々ながらもすぐに貸してくれた。
「ありがとう。」と礼を述べ、帽子を受け取る。
そして自分のピアスを外してベッドへ置き、上から帽子を被せた。
承太郎は何をするのか分かったのか、じっと私の手元を見ている。
帽子に右手を翳した。私の予想が正しければ、この右手は.....。帽子に触れることなく、ピアスを掴めるはず!
「やっぱり...。」
「なるほどな。」
実験は済んだな、というように承太郎は帽子を拾い、被り直した。
私もピアスを元の位置に付け直す。
「おい、なまえ。」
実験の結果に満足してゆっくりとキャッチを付けていると、承太郎が私の後ろを見ながら私を呼んだ。
なにかいるのか?もしかしてGか!?と勢いよく振り返ると、
「綺麗.....。」と思わず声が漏れた。
振り返ると、とても綺麗な出で立ちをした白い人型の何かが、そこに佇んでいた。
顔らしき所は、こちらを向いている。
今までは白いモヤだったが、姿を見せた。見せてくれた。
なんだか嬉しくなった。承太郎の"悪霊"さんも承太郎に危害を加える存在ではなさそうだし、きっとこの子は、私の力になってくれるだろうと思ったからだ。
「承太郎!」
嬉しくて承太郎の手を取って飛び跳ねた。私に、私達にとって悪い存在でないならば、なんだっていい。
気がついたら姿が見えなくなっていたけど、近くにいるような気配のようなものを感じる。居なくなったりはしないようだ。
承太郎は、なにかよく分からないが、なまえが喜んでいるなら、不安の種が一つ消えたのならなんでもいいか、と静かに、安堵の表情を浮かべた。