1部 DIOとの出会いから出立まで
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「やれやれ…無茶しやがって。」
ベッドへ腰掛けた承太郎は帽子を被り直しながら、いつもの決まり文句を零した。
先程右ストレートを食らわせた警官は大丈夫だろうか。
私も手加減していたし、きっと大した怪我ではない。と、いいな。
少し警官の心配をし、ベッドへ腰掛けた。
「だって承太郎、昨日帰ってこなかったから。」
そんな事より、本題を話したい。
やっと全てを話す覚悟を決めたのに、帰ってこなかった承太郎が悪い。
「なんかあったか。」
少しだけ、承太郎の声が固くなった。
私の真剣な顔から、大事な話をするのだと感じたのだろうか。
数回、軽く深呼吸をし、意を決して口を開いた。
「前に話した、エジプトでの出来事…。聞いてくれる?」
あの、見るも無惨なエジプトでの事件。帰国後に矢で怪我をした時の事。昨日自分の体に異変が起きていると気がついた事。承太郎の悪霊も、エジプトで出会った男と関係あるかもしれない事。事実と推測、そして個人的な意見。その全てを承太郎を話した。
何時間話しただろうか。話終えると、涙が出ていた事に気がついた。それもそうか。やっと吐き出せたのだから。それまで黙っていた承太郎の方を見ると、真剣な顔で、でも優しい瞳でこちらを見ていた。
そして目が合うと、「よく一人で耐えたな。」と優しく頭をポンポンと撫でてくれた。
あの承太郎が。女の子を「アマ」とか呼んじゃうような承太郎が。いつも「女なんてうっとおしい」と言っている承太郎が。今、私の事を慰めようとしている。
先程までの涙はどこへやら。驚きで、涙は引っ込んでしまった。
涙で濡れた瞳で承太郎を見ると、少し眉間に皺が寄っている。
余程、DIOの話をしている私の顔が酷かったのだろう。
撫でていた右手にグ、と力を込め、今度は片手で私の頭を引き寄せた。目の前に承太郎の胸板がある。
「あの、承太郎?」
承太郎にこんな事をされたのは初めてだ。どうしたらいいか分からず、抱きしめ返す事も、ましてや突き放す事もできない。承太郎の腕の中で固まっていると、
「無理をするんじゃねえ。」
承太郎は、それだけしか言わなかった。
泣きたければ泣け、という事だろうか。
その気遣いが優しくて、優しすぎて、胸がくすぐったい。さっき止まったはずの涙がまた、静かに瞳に溜まってきた。
「……っお父さんもお母さんも弟も、死んで欲しくなかったッ…!一緒に、帰ってきたかった……まだ、家族でいたかったッ……!!」
もう止まらない。止められない。
承太郎のシャツを掴んで、シワになることも涙で濡れることも気にする余裕はなく、私は承太郎の胸にしがみついた。離しても承太郎はここにいてくれるのは分かっているが、捕まえておかないと不安だったのだ。
承太郎は何も言わず、私の涙と叫びを受け止めていた。涙も声も枯れるほど泣いた。
「承太郎は、いなくならないで。絶対。」
いいだけ泣いてもう涙も出なくなった頃、私は顔を上げて承太郎を見た。承太郎も泣きそうな顔をしている。
「いなくならねえ。絶対に。」
そう言って今度は強く抱き締めてくれた。背中が軋むくらいに。
また涙が出そうになるが、もう流す涙はない。私は目を閉じ、承太郎に負けないくらい強く、強く背中を抱き締め返した。