生存IF
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早いもので、典明は今日、この学校を卒業する。
承太郎が去年、卒業してしまった時も寂しかったが、それでも、私には典明がいた。
だが、その典明も卒業してしまうとなると、どうしても悲しい。
承太郎は卒業後、アメリカの大学へ行ってしまったし、典明も4月から、SPW財団へ行ってしまう。
簡単には、会えなくなる。距離が、遠すぎるのだ。
私もSPW財団へ行くつもりで返事はしているが、典明のいない1年は、きっと、とても長いだろう。
出会ってからそんなに長い期間離れていた事がないので、不安でいっぱいだ。
「!」
誰もいない教室で、机に突っ伏していたのだが、足から上に向かってスルスル、と何かに触れられる感覚がある。この感覚は、
「ハイエロファント…。」
彼の、典明のスタンドだ。そろそろ、ここへやってくるのだろう。
ガラッ
「なまえ。」
「典明。」
思っていたよりも早いな、と思った。典明の事だから、たくさんの人に囲まれただろうと思うのだが…。
「学ランのボタンは全部ある?」
私は立ち上がって、典明の学ランをチェックした。
「ふ…。大丈夫。あるよ。君が、学ランごと欲しいって言うから、死守したよ。」
その言葉は本当のようだ。前面のボタンはおろか、袖のボタンでさえ揃っている。その事を確認して、私は安堵した。
「典明の物を、他の人に渡すわけにはいかないもの。」
独占欲丸出しでそう言うと「本人がここにいるのに?」と典明は笑った。
「だって……。典明、アメリカへ行っちゃうじゃない…。」
こんな事言いたくないのに、つい口から出てしまって、気まずくて、典明の腰に腕を回してくっついた。
「なまえ…。」
典明はきっと、申し訳なく思っているだろう。私を1人、残していくことを。
典明の腕が私の背中に回って、背中をさすってくれる。温かい…。
「僕も、寂しいよ…なまえ…。」
そう言った典明の声が、私の涙を誘う。典明も、寂しいんだ、と、伝わってきたからだ。
「でも、私、ちゃんと分かってるの。分かってるんだよ。」
典明が、アメリカ行きを決めた事を、私はちゃんと、理解はして受け入れている。感情が追いついていないのだ。
「うん。分かってる。…ありがとう、なまえ。」
典明の優しい声が、私を包む。好き。やっぱり、私はこの人が好き。離したくない。ずっと。
「典明。来年まで、待っててね。私、典明のところに行くから。」
ギュッと腕に力が籠る。痛いかもしれない。けど、力を緩めることは、できなかった。
「うん。待ってるよ、ずっと。」
典明のその言葉を聞いて、私は1年前の旅でのことを思い出す。あの時も典明は、同じ言葉を言っていた。そして、ちゃんと待ってくれていた。なんだ。じゃあもう、心配する事は何もないじゃないか。
「よそ見しないで、私の事だけ考えててよ。」
顔を上げて典明を見上げると、彼の瞳と目が合った。途端に、彼が笑顔になるものだから思わず見とれてしまった。
「僕は君以外に興味はないよ。」
「確かに。」
2人、顔を見合わせて笑いあった。私達は、お互いしか見えていないし、お互いにしか興味がなかったと思い出したからだ。その事を思い出したから、もう大丈夫だ。
「典明。」
キスして、と言うよりも早く、彼の唇が私の唇を塞いだ。彼は私が言葉を発さなくても、何をしたいか理解してくれる。いつもそう。この人は、私の事を1番、理解しているのだ。
長いキスのあと、ようやく唇が離れると「なまえ。」と彼が私を呼ぶ。
「君が卒業する時は、迎えにくるよ。伝えたい事があるんだ。」
1年後に、伝えたい事。それは、もしかして、そういう意味だろうか?
1つの可能性が思い浮かび、思わず両手を赤くなっている頬に当てると、片方を典明の手に捉えられ、
「楽しみにしてて。」
と、挑発的な笑顔で、チュ、と手首にキスをひとつ。
「て、典明……かっこよすぎるよ〜〜!!」
キャパオーバーの彼のかっこよさに、思わず声に出てしまう。王子様は、やっぱり王子様だ。
「ふふ、ありがとう。」
そう言って笑う典明は、やっぱりどこからどう見ても王子様だ。かっこよすぎる!
「さ、帰ろう。ホリィさんが待ってる。」
そう言って彼は、私の鞄を持って歩き出す。
「あ、学ラン…。」
渡すのを忘れていたと、鞄を置いて脱ごうとするのを慌てて止めた。
「待って脱がないで!典明、学ラン脱いだら脱いだで色気が出ちゃうからダメ!体の線が出ちゃうから!」
私があんまり必死に止めるものだから、理解はしてないが「わ、分かった。」と、彼はボタンにかけていた手を離した。
何度も彼の学ランを脱がせたから分かる。彼のワイシャツ姿は色気がたっぷりなのだ。その姿で外に出て、またファンが増えてしまったらたまったもんじゃない。安堵のため息をついて、改めて、私達は教室をあとにした。