生存IF
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あれから早数日。私は学校へ行くようになった。
家族の死を乗り越えたというのもあるが、承太郎と典明がいてくれるからである。
それぞれ学年が違うが、毎朝一緒に登校し、昼休みには屋上で弁当を食べ、帰りは一緒に下校する。
この当たり前の日常が、楽しくて、幸せなのである。
しかし、承太郎はともかく典明がモテているのが問題である。気持ちは理解できるが、私の典明に近寄らないで!と、思ってしまうのだ。
今日も、ただ3人で登校しているだけなのにまた、囲まれてしまっている。
3日は我慢できたが、もう、我慢できそうにない。
「おはよう、花京院くん!怪我は大丈夫?」
そう言って典明の腕に手を乗せようとしたのを私は見逃さず、怪我をさせないぐらいの力で掴んで止めた。
「先輩?彼に触れていいのは私だけです。この意味、分かりますよね?」
イラついているとはいえ相手は先輩。この先面倒な事にならないよう、できる限りの笑顔で言ったのだが…。
「なによ!アンタ1年?この手、離しなさいよ!」
それが良くなかったらしく、全く伝わっていなかった。今ので伝わらなかったら、どう伝えれば分かって貰えるのだろうか。とりあえず、一旦手を離した。
「今ここで、キスでもしたら理解してもらえますか?」
「は!?」
私の言葉に、辺りは騒然とした。典明も驚いていたし、承太郎は眉間に皺を寄せている。
「もちろん口にじゃありません。そうだ!キスした時の彼の顔を見たら、分かってもらえると思います!」
名案だと手を合わせたが、周りの反応は微妙なものだった。
「なまえ、人前でそれはちょっと…。……帰ったら、たくさんしてあげる。」
典明のその一言で、辺りには悲鳴が響き渡った。
なんだ、典明が一言言うだけで済む話だったのか。
「おいテメーら、置いてくぜ。」
承太郎が私達を呼び、2人で追いかけた。
もう彼女達はついてくる様子はなく、道端で呆然としているようだった。
「典明、帰ったら、本当にしてくれるの?」
「ふふ、もちろん。」
「テメーら、そういう会話は俺がいねえ時にしな。」
うんざり、と言った顔で言う承太郎に、私達は「はーい。」と声を揃えた。
今日は解決したからよかったが、彼女らは日替わりでやってくるので明日もまた、結局囲まれるだろう。
それに、ただ街を歩いているだけでも声をかけられているのだ。この、花京院典明という男は。
これでよく、今まで顔がいい事に気がつかなかったな、と不思議でならない。
そうだ!と、妙案が1つ浮かんで、それしかないと考えた。
そうと決まれば話は早い。善は急げだ。
「典明。今日用事ある?」
「うん。なまえにたくさんキスをしなきゃ。忘れちゃったの?」
そう言って目を細める典明は、とてもかっこよくて思わずときめいてしまった。この顔は、他の女の子にはとてもじゃないが見せたくない。
「オイ。」
先程の忠告を無視した事に、承太郎は眉間に皺を寄せている。典明も、承太郎をからかうのが上手になってきているのが面白くて、嬉しい。
「その後なんだけど、私とデートしない?買い物に行きたいの。」
本題の、デートのお誘いだ。
「いいよ。帰りに一度、僕の家に寄ろう。着替えを取りに行かないと。」
典明は、今まで私の誘いを断った試しがない。と、この時ふと思った。恐らく、私もないのだが。
「承太郎はどうする?典明の家、一緒に行く?」
「行かねえ。1人で帰る。…じゃあな。」
ちょうど学校の玄関口へ着き、承太郎は先に行ってしまった。学年が違うから、ここでいつも分かれるのだ。
「じゃあね、なまえ。また昼休みに。」
典明も、優しい笑みで別れの言葉を告げて去っていった。
私も、行かなければ。と、未だ入るのに緊張する教室へと、足を動かした。
「えっと、なまえ。ここで合ってる?」
「合ってるよ。行こう。」
放課後、私達がやってきたのは、まだ高校生の私達には少々不釣り合いな、ジュエリー専門店だった。ここはSPW財団の経営している店舗の1つで、既に予約もしてある。
「予約してたみょうじです。」
と名前を告げると、奥に通されたので安心した。
店内に高校生が2人でいては目立ってしまうだろうと思っていたからだ。SPW財団の心遣いに、心の中で感謝した。
「今日は、彼のために指輪を購入したくて。」
「えっ?」
僕?と典明は目を開いて驚く。そう、典明の、女避けの指輪だ。
「典明みたいにサプライズできたらよかったんだけど、指のサイズが分からなくて、一緒に来てもらったの。」
典明は一体、どうやって私の指のサイズを測ったのだろうか?私にピッタリだったのだ。
「いや、そうじゃなくて…。なんで、僕の指輪を?」
典明の問いに、経緯を一から説明すると彼は僅かに頬を染めて片手で顔を隠してしまった。
「そういうのは、先に説明してくれるかい?すみません、お待たせしました。お願いします。」
典明がサイズを測ってもらっている間、私はカタログを見せてもらい、男性用のデザインの中で典明の手が一番綺麗に見えるデザインはどれだろうと、真剣に目を走らせた。
「決まったかい?」
ポン、と肩に手を置かれて顔を上げると、典明も後ろからカタログを覗き込んでいた。この角度から見上げる典明もかっこいい…と一瞬見とれてしまいそうになるが、慌てて視線をカタログへと戻した。
「うん…。これとこれとこれ、典明はどれが好き?」
目星をつけていた3つを典明に見せ、反応を待つ。何度かページを行ったり来たりしたのち、「これかな。」と典明はひとつの指輪を指さした。なるほど、こういうデザインが好きなのね。確かに、とても彼に似合う。
「じゃあこれで。ここの宝石は、エメラルドでお願いします。」
サイズは左手の薬指で、と忘れずに伝え、席を立った。
「かしこまりました。本日中にご自宅までお持ちいたします。ありがとうございました。」
店員さんはお店の入口まで案内してくれ、丁寧にお辞儀をしてくれた。私達もペコ、と頭を下げ、お店をあとにした。
「ねぇ、お代は誰が払ってくれたの?」
典明が、ご尤もな疑問を口にする。
「んー。SPW財団。」
「えっ!?」
私も驚いたのだが、今日の休み時間、以前頂いた名刺の番号に学校の公衆電話から電話をかけたのだ。経緯を話すとそういうことならば、と、このお店を紹介され、お代もSPW財団が持つと言ってくれたのだ。もちろん旅ももう終わっているのだし、何より私的な相談だったので断ったのだが、DIOを倒し、世界を救った我々に感謝しているのだと言われ、それ以上断る事ができなかった。
「気軽に相談する相手じゃなかったな…。」
と、少し反省した。典明の入院中、仲良くなった方だったから気軽に連絡してしまったが、次からは余程の事がない限り連絡は控えよう、と心に誓った。
「花京院くん!今日も素敵〜!」
来た。女子生徒達だ。毎日ほぼ同じ道で、一気に集まってくる承太郎ファンと花京院ファン。この時を待っていたのだ。
「花京院くん、足痛むでしょ?鞄、持ってあげる。」
そう言って典明の手に触れようとしている女子生徒の手を、昨日と同じく掴んで制止した。
「ちょっと!何すんのよ!」と怒り出すが、今日の私は昨日とは違う。最強アイテムを持っているのだ。
「すみません、先輩。大事な時間なので邪魔しないで頂けますか?」
そのままパッと手を離すと、戸惑いつつ一歩後ろへと下がって行った。
「典明。これ、届いたの。」
そう言ってポケットから指輪のケースを取り出し、蓋を開いて見せた。キラキラと光を反射させる緑色が、とても綺麗な指輪だ。それを落とさないように掴み、「私からの愛、受け取ってくれる?」と典明の左手の薬指に嵌めると、辺りには昨日と同じように悲鳴が上がった。
おまけに典明はその指輪を数秒眺めたのちにチュ、と指輪にキスをし「うん。受け取ったよ。」と微笑むものだから再度悲鳴が響いた。数名、倒れている人もいる。私も倒れそうだ。
「やかましい!俺は先に行くぜ。」
あまりの騒ぎに、承太郎は本当に先に行ってしまった。歩くのが早い。あれでは走らなければ追いつけないだろう。
「さ、僕達も行こう、なまえ。」
既に周りなんて見えていないかのように、典明は歩き始めるので、私も慌てて典明についていく。
「これで、典明ファンが減ってくれると嬉しいんだけど…。」
私がそう零すと「ん?あぁ、うん。」と典明からは空返事が返ってきた。見ると、嬉しそうな顔で指輪を眺めている。その姿がとても愛おしくて、朝だというのに、外だというのに、典明にキスしたくなってしまって、家に帰るまで、我慢するのにとても苦労した。