生存IF
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「聖子さん!」
空港でポルナレフと別れ、私達は空条家へと帰宅した。典明も一緒に。
「なまえちゃん!」
最初に走り出した私と、聖子さんが抱擁を交わす。生きている。元気に、なっている。温かい。いい匂い。その全てが私を安心させ、涙が流れてくる。
「おかえりなさい、なまえちゃん。無事でよかったわ。」
聖子さんがハンカチで私の涙を拭い、頭を撫でてくれる。それがとても温かくて、胸がいっぱいになった。
「承太郎、パパ、それから花京院くんも。おかえりなさい。」
聖子さんが3人を見てそう言うと、「ただいま。」とみんな声を揃えた。
聖子さんは生きているし、みんな、帰ってこられた。
アブドゥルさんだけは、帰ってこられなかったが⋯。
「アラ?ワンちゃん?」
聖子さんが、私の足元を見る。見ると、イギーが聖子さんを黙って見上げている。
「イギーっていうんです。とっても獰猛で、私にしか懐かなくて。」
イギーを抱き上げて目線を高くしてやると、やはり聖子さんを見つめている。気になるようだ。
「触ったら怒っちゃうかしら?」
聖子さんは、触りたいが怒らせるのはよくないと、頬に手を当てている。ビビっている様子は全くない。
「多分、大丈夫ですよ。ゆっくり、鼻の前に手を出してみてください。」
そう言うと聖子さんは、言葉通りゆっくりと、イギーの鼻へと手を差し出した。
クンクン、クンクン。みんなが固唾を飲んで見守っている。聖子さんが噛まれやしないか、余程心配なようだ。
やがてイギーはクンクンするのをやめて、自分から聖子さんの手へ自分の頭を押し付けた。
これには私も驚いた。私の時は確か、鼻だったのに。頭へは、私から触れたのに。
「まぁ〜!かわいいわ〜!」
聖子さんは嬉しそうに撫でているが、私は密かにショックを受けていた。私が一番、イギーに懐かれていると思っていたのに…と。
しかし、聖子さんは全てを受け入れてくれる聖母。イギーもそれが分かったのだろうと、自分自身を納得させた。
「あっ。」
もう充分触らせてやっただろうと、イギーが私の腕から飛び出して行った。
やはり、触れられるのはあまり好きではないのだ。
イギーが庭へ歩いていくのを見送って、私達はようやく、空条家へと足を踏み入れた。
「典明。」
一旦各々の荷物を整理してから居間に集合しようと、各自解散して自分の部屋へと戻った。
典明は聖子さんの手伝いをするかな、と思っていたが、自然な流れで私に着いてきて、今、私の部屋にいる。
「そこのハンガー取ってくれる?」
典明にハンガーを取ってもらい、バッグの中の服を掛けていく。いつか、典明に選んでもらった服だ。
「それ…懐かしいね。」
バッグにしまっていたのでシワになっているが、丁寧に手入れをすれば、また綺麗になるだろう。この服は、私の宝物なのだ。できるだけ、長く着たい。
「典明には、色々貰っちゃったなぁ…。」
服、ピアス、髪留め、指輪。私は高々、眼鏡をデザインして贈っただけだというのに。
「これからたくさんプレゼントするから、覚悟しておいてよね、典明。」
そう言って笑顔を向けると、典明はなぜか口をグッ、と引き結んで、私を手招きした。
立ち上がって典明の前まで行くと、グ、と顔を近づけ、そのままキスされた。
「え?なん」
「今の君、かわいかったから。」
小さい声でそう言われ、思わず顔に熱が集まった。
人の家で気を遣っているのだろうが、私は彼の囁き声に弱いのだ。
「オイ、終わったか。」
突然承太郎がノックもなしに襖を開けたことで、私達のイチャイチャタイムは終わりを告げた。
私達の近い距離感を見て何かを察したらしい承太郎はため息を着いてから「先に行ってるぜ。」と、背を向けて部屋を出ていった。
「また見られちゃったね。」
そう言う典明は、楽しそうに笑っている。
彼には、恥ずかしさとかそういう感情はないのだろうか。
「…私達も早く行かなきゃ。」
恥ずかしさを隠すように、私は荷解きに戻った。
楽しそうに笑っている彼を見ると、全てどうでもよくなってしまい、許してしまう。
これが、惚れた弱み、というやつなのだろう…。
「で、2人はそういう関係なのよね?ね?」
居間へ降りて席に着くと、開口一番に聖子さんが口にしたのはそれだった。
最初に聞く事がそれ?と思っていると「はい。」と、すかさず典明が素直に返事をした。
「きゃーーー!やっぱりそうよね?そうだと思ったわ〜〜!!」
頬を染めて喜ぶ姿は本当にかわいらしい。見ているとこちらまで、嬉しいような、楽しいような、そんな気持ちになってしまう。
「典明、本当に素敵な人なんです。私には勿体ないくらい。」
聖子さんに笑顔でそう言うと、典明が横から「なんだか照れるな…。」と顔を赤らめて微笑んでいる。
が、小さい声だったが隣に座る承太郎の「違ぇねえな。」という声を聞き逃さなかった。ギロ、と睨むとかち合った視線を逸らし、距離を取った。
「僕の方こそ…。なまえがかわいくてかわいくて仕方なくて、僕には勿体ないくらいだ。」
そう言って笑う典明の笑顔は、この世の何よりも美しく見えた。輝いている。私は重症かもしれない。
「結婚したら花京院くんの籍に入るのよね?寂しくなるわぁ。ドレスは一緒に選ばせてくれる?」
「結婚!!!??」
聖子さんが発した結婚、というワードに、みんな驚いて腰を浮かせた。ジョセフさんと承太郎は、飲んでいたお茶を吹き出していた。
「アラ、違うの?指輪をしてたからてっきり…。」
聖子さんは悪びれもなく言いながら、そばにあった布巾でテーブルを拭いている。
「あの、これはそういうつもりではなくて…。いや、そういうつもりはあるんですが…。僕の誓いというか、願いと言いますか…。」
珍しく典明がしどろもどろに弁明を始めるが、私以外の人にはなんの事だか分からないだろう。
「要は結婚したいくらい私の事が好きって事です。ね、典明。」
それだけ伝わればいいと、私は笑顔で答えて、典明を見た。そしたら典明はみるみるうちに目に涙を溜めるものだから、今度はみんな、典明を見て驚いた。
「そうですっ…僕の想いが、ちゃんと伝わっていて…よかった…ッ!」
そう言って涙を流す典明の姿が、以前スタンド攻撃で子供になってしまった彼の姿を思い出させて、心臓がきゅ、となった。思わず抱きしめて頭を撫でると、彼は一瞬腕で払い除けようとしたが、大人しく受け入れた。本当に、かわいい人。
「花京院くん、なまえちゃんの前だとそんな、かわいい顔もするのね。」
聖子さんにかわいい、と言われて、典明は僅かに体を固くした。聖子さんのようなかわいらしい人に言われて、余程ショックだったのだろう。
「違うんです聖子さん…!典明は、かっこいい顔もいっぱいあるんです!というか、いつもかっこいいんです!」
私が話題を変えようと言うと「そうなのね!もっとお話、聞かせてくれる?」とノリノリで聞いてきたので、私は典明の魅力を語り始めた。もちろん、私だけが知っておきたい事は話さなかったが。
「あの、もういいです。やめてください。」
典明が赤い顔でそう発言するまで、私と聖子さんの女子トークは終わらなかった。
ふと辺りを見ると、ジョセフさんは音楽を聴いているし、承太郎は横になって雑誌を眺めている。そんなに長い間話していただろうか。
「そうね、じゃあ、今度はエジプト旅行の話、聞かせてちょうだい。」
聖子さんがお茶を入れ仕切り直すと、2人は席につき、エジプトでの思い出話に花を咲かせた。
それは夜まで続き、それでもまだまだ話し足りなかった。続きは、また明日にしよう。私達にはもう、急ぐ理由はないのだから。