5部 DIOの館
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やっと、辿り着いた。時計塔の近くの、給水塔。
その給水塔のすぐ下に、彼は静かに眠っていた。
トン、と足をつけて着地すると、支えきれずに膝をついた。
「はは⋯もう、立ってるのもやっとだ⋯。」
思わず独り言が出た。彼は何も言わない。目覚めることはないのにだ。
彼の遺体は給水塔から流れる水によって、冷たくなってしまっている。とにかく、濡れていない場所へ移動させると、彼の体が軽くなっている事に気がついた。
「典明⋯⋯。」
思わず、彼を呼ぶ声が震えた。
「⋯ッ!」
背中に不思議な感覚がして顔を上げると、典明の魂がいた。今まで、姿を隠していた彼の魂。
「なまえ。」
その、彼の魂が、私の名前を呼んだ。まるでスタンド越しに会話しているような感覚。もしかして、魂越しに会話をしているのだろうか。
「典明。」
私も魂越しに声をかけると、少し驚いた顔を見せた。
「典明⋯承太郎が、DIOを倒したよ。」
彼も私と共に見ていたかもしれないが、言葉にして伝えると彼は「うん。」と優しい笑顔を浮かべた。
「ごめんね、典明。引き留めちゃって⋯。天国に、行くんだよね⋯?」
震える声でそう言うと、典明は戸惑ったような顔を浮かべて「それなんだけど⋯。」と言いづらそうに話し出した。
「⋯もう君のクイーンの手は、僕を離しているんじゃあないか?」
そう言われてクイーンを出すと、確かに、両の手は開かれている。
え?それはつまり、もしかして、私。
「典明、もしかして⋯私、典明の魂を⋯この世に引き留めちゃったって事⋯!?」
あの世とかこの世とか天国だとか、非現実的な言葉なのだが、しかし今現に、彼はここにいる。
「そのようだね。」
彼は困ったような笑顔でこちらを見るが、私、なんて事を⋯!
「ごめんなさい、典明。でも私、貴方がそばに居てくれて、嬉しいって⋯思っちゃってる⋯。」
顔を両手で覆って謝罪をする。合わせる顔がない。
「うん、僕もだよ。⋯君に触れられないのは、残念だけど⋯。」
そうは言うが、典明が触れているところは、仄かに温かい。安心する。
「あのね、典明。お願いがあるの。」
色々な事が起こって混乱する頭を働かせて、私は当初の目的を思い出し、口を開く。
「典明の学ランと、ピアス。貰ってもいい⋯?」
SPW財団よりも先に来たかったのは、これが理由だった。ピアスはまだしも、学ランは脱がされて捨てられてしまうかもしれなかったからだ。
「ピアスは構わないけど⋯学ランも⋯?血塗れだよ⋯?」
典明は自分の遺体を見る。腹部の穴は痛々しいが、顔を見ると、安らかな顔をしている。
「典明は死んでもなお、綺麗な顔してるのね⋯。」
思わず、口をついた言葉。だって本当に、眠っているように綺麗だ。
「この眼鏡も、貰ってもいい?」
完成したばかりの眼鏡は、ヒビが入りそばに落ちていたので、拾って折りたたんだ。SPW財団に頼めば、きっと直してくれるだろう。
「うん⋯いいよ。全部あげるよ。」
そう言って微笑んだ典明は、いつもの優しい笑顔で、思わず抱きしめたくなった。
私は体にクイーンを纏わせて、彼を優しく抱きしめた。典明は驚きはしたが、大人しく身を委ねてくれた。彼からは触れられないが、彼が触れているところはやはり温かくて、涙が出た。
やがてゆっくりと体を離し、私は彼の遺品を貰おうと、遺体へ近づいた。スッとピアスを一つ外し、胸ポケットへとしまい込む。そして次に、学ランのボタンへ手をかけた。
「⋯君に何回、学ランを脱がされたかな⋯。」
典明は懐かしむようにそう言ったが、その言い方だとやっぱり、私を変態か何かだと思っているように聞こえる。
「さぁ、帰ろう。みんなのところに。」
典明の遺体を連れて帰ろうと屈み込むと、懐から何か落ちた。
「あ。」
「君⋯それ、持ってきたのかい?」
テレンスの作った人形だ。これを懐に入れて戦っていたのに、特に汚れてはいないようだった。
典明はあからさまに引いている。
「典明、これに魂入れられる?」
思いついたように口にすると、彼は心底嫌そうな顔をした。
「だって⋯そのままだと説明が面倒だから⋯私、多分この後入院することになるだろうし、その間、見える人に説明するの大変だもの。」
1回や2回では済まないだろうそれは、想像しただけで気が重い。私が思わずため息を吐くと、彼もため息をついて人形に近づいて、フッ、と消えた。
人形を覗き込むと、なんとなくだが、彼がいるのがわかった。
「さ、今度こそ帰ろう。」
学ランを腕にかけ、眼鏡も胸ポケットへ入れた。
人形をもう一度落ちないように懐へ入れ、今度こそ彼を抱き上げた。
サラ、と頬に当たる髪の毛。漂ってくる彼の匂いに、私は顔を埋めた。彼の匂いを、忘れてしまわないように。
スタンド能力を使って、ゆっくりと、地上へと降りる。大事に大事に、ゆっくり運んだ。彼の肉体との、お別れなのだ。なるべくゆっくりと、彼との最後の時間を過ごしたかった。
「典明、好きよ。愛してる。」
チュ、と額にキスをした。彼からの反応は、なかった。
「なまえ!」
角を曲がると、SPW財団の車と、外に出ている承太郎が見えた。なかなか帰ってこない私を心配して、車を回したのだと、彼は言った。
「承太郎⋯典明を、お願い⋯。」
承太郎の顔を見たら、安心からか、目がチカチカしてきて体の限界を感じた。震える手で典明の体を承太郎へと受け渡すと、私の視界はそのまま、暗くなってしまった。
「なまえ!しっかりしろ!」という承太郎の声が、段々遠くなっていき、やがてそれすらも、聞こえなくなった。私はついに、意識を手放した。