5部 DIOの館
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「なまえ。上だ、上に逃げよう。」
息を整えた2人は、既に建物の屋上にスタンドを伸ばしていた。
私、私は……。
「…ごめん、典明。また、後でね。」
「…!!なまえ!!?」
私は後ろに一歩下がり、すぐそばの空間を掴んでハイエロファントの触手が触れられないようにした。
典明の顔は驚きと、疑念と、悔しさと、色々な感情が混ざっているのが分かる。
ジョセフさんを見上げると、彼も驚いた顔をしていたが、すぐにこの場を離れなければ3人ともやられてしまうと判断し、典明の名前だけを呼んだ。
「典明。大丈夫…私は生きて、典明と会えるから。絶対に。」
いつも典明が言うようにそう言い含めると、彼は私に背中を向けた。早く、行ってくれ。そろそろ、煙が晴れてしまう。
「また後で。必ず。」
典明はそれだけ言い、上へ上がって行った。
ありがとう、典明。…ごめんね。この決断は辛かっただろうと、私は心の中で、典明に何度も謝罪したし、同時に感謝もした。
さぁ、ここからだ。ここからの、私の動きにかかっている。私はDIOの方を見据え、この先の作戦を考えた。
「…なまえ。」
車を確認しに来たDIOが、車の中に一人残された、血塗れの私を見て、辺りを警戒した。
「なまえ、花京院とジョセフ・ジョースターはどうした。」
車体上部に手をかけ、視線は辺りを見回しながら私に問うた。この聞き方、私が生きているのを分かって聞いている。
「…逃げ、た……。」
絶望と悲しみを含ませて、私は声を絞り出す。DIOは、私を信じるだろうか…?
私の言葉に上を見上げたDIOは、私のいる車をベリッと上下に割いた。コイツ…私よりも力が…!
優しく私を抱き上げるDIOの手。それを私は、心を無にして受け入れた。私は、薬のせいで左腕しか動かない。おまけに怪我をしてすぐには動けない。だから仲間に見捨てられ、絶望しているのだと、必死に脳内で思い込もうとした。
「可哀想に、なまえ…。花京院に見捨てられたか。」
子供を抱き上げるように、片腕で私を抱くDIOは、優しく私の背中を撫でる。心を無に。心を無に。
「典明……。」
思わず彼を呼ぶ声が漏れたが、彼はその私の声を聞いて、私が典明に裏切られ、絶望から彼を呼んだのだと思ったらしい。
「もうあんな男、忘れてしまえ、なまえ。これからは、私と共に生きよう。」
誰が、お前なんかと。
DIOは、彼らを追いかけようと空へ飛び上がる。屋根の上をものすごいスピードで、移動している。遠くの時計台に、彼の、典明の姿が見えた。
「DIO……。」
私は左手を、DIOの胸に当てた。彼の心臓は、この辺りだろうかと。手を当てても、筋肉の壁が分厚すぎて何も分からなかったが。彼はその私の左腕を、右手で掴んだ。
「どうした?なまえ。」
DIOは私の声を聞こうと立ち止まり、私の口元へ耳を近づけ、建物の屋上へ着地した。
「ここで死んで。DIO。」
お願い、と続いた声は、彼に届いただろうか?
私の左腕は、彼の胸の中へと入っていき、心臓を掴んだ。辺りには、エメラルドスプラッシュのように、エメラルドが舞っていて綺麗だ。
「!!心臓が…ッ!動いてない…!!?」
人間の急所は、喉、心臓、鳩尾。そのひとつを掴んだのに、彼の心臓は、既に動いていないのだ。
DIOは法皇の結界を踏み抜き、エメラルドを避け続けている。
「俺の心臓か?この体は、死んだジョナサン・ジョースターの体。既に死んでいるのだ。ジョセフ・ジョースターに聞かなかったか?」
まずい。失敗した!!早く、次の攻撃を考えなくては!
「山吹色の波紋疾走!!」
今の状況では最善の選択と思われる、ジョナサンの技、山吹色の波紋疾走を心臓から流し込んだ。
威力は弱いが、苦痛があるらしい。DIOが怯んだ隙に、私は近くの空間を掴んで射程圏外まで距離を取った。
「DIO。貴方は、私と戦う?」
策を思いつくまでの時間稼ぎにと、私は彼に問う。
彼は飛び交うエメラルドを避けたり、弾いたりしながら、顎に手を当てて考えている。
「戦うつもりはない。だがこれ以上逃げると言うのなら、ウッカリ自分のモノにしてしまうやもしれんなぁ。」
そう言って彼はニヤリと笑い、牙を見せた。なるほど、逃げれば、私の血を戴くと。
「そんな事はさせない。」
突然聞こえた彼の声に振り向くと、鉄塔の上に、彼が立っていた。その真剣な顔に、私は心から安心して、彼の胸までひとっ飛びした。
「ね、典明。ちゃんと会えたでしょ?」
彼の腰に腕を回して見上げると、彼は私を見下ろしてため息を一つついた。
「本当に、無茶をする…。心臓がいくつあっても足りないぞ。」
そう言って彼は、私に口付けをした。
今まさに、後ろにDIOがいるというのに、だ。一瞬、空気が柔らかくなった気がした。
「花京院…!!貴様、俺のなまえに…!!」
振り返って見たDIOの表情は、怒りの感情が隠しきれずに溢れている。
「貴様、まさか…!まさか、なまえの純潔を…ッ…!!!純潔を、奪ったなッ…!!!」
そんなに大声で、私の純潔の話をするのはやめてほしいのだが。
「だからどうした。」
きっぱりと、典明が言い切った事で、離れた所にいるジョセフさんの驚く声がここまで聞こえてくるし、何より、DIOの血管が切れる音が聞こえた気がした。
「DIO。これで分かった?私が何度言っても理解できなかったみたいだけど…。貴方は絶対、典明には敵わないの。最初から、ずっと。」
私が笑顔でそう言い切ると、DIOは頭に手を当ててよろめいた。いい気味だ。これで、自分の伴侶にしようだなんてバカな考えは改めただろう。
「花京院…貴様は殺すッ…!絶対に殺す…!!!なまえ、お前もだ!!!」
激昂したDIOは、私達に向かって高らかに宣言した。
ここからだ。本当にしんどいのはここからなのだ。
私達は静かに、対峙した。