5部 DIOの館
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「か、かわいい…。」
テレンスが徐に取り出したのは、典明の人形。他の人形はかわいさの欠片もないが、典明の姿をしているというだけでかわいい。…欲しい。
承太郎やジョセフさんは「…正気か…?」と言わんばかりの目で私を見ているが、目と口をちょっと直せば、きっともっとかわいくなるだろう。やっぱり欲しい。
「すごい…。」
典明のプレイングは、素人の目から見ても分かるくらい、すごく上手だ。とてもじゃないが、私達には真似できないだろう。何より…画面を見つめるその真剣な眼差しが、私をドキドキさせた。初めて見る顔をしている。
「気に入りました、花京院。魂を賭けているというのに少しもビビらない。恐怖を乗り越えたゲーム操作。貴方のように手応えのある相手じゃあないと、私の人形コレクションに加える価値がない。」
敵であるテレンスが言った言葉だったが、私は共感していた。魂を賭けているのにも関わらず、少しも怖がっていない。いつものプレイングは知らないが、これが彼の通常なのだろう、というのが彼の表情を見れば分かる。彼は、今このゲームを真剣に楽しんでいる。
「気づいてないようですね、花京院。私に押し勝つつもりですか。」
テレンスの声に全員、ゲーム画面を見ると、28番の車のパワー残量が減っている事に気がついた。だが典明は冷静に考え、対処し、同時にトンネル内へ入っていった。
「わ、すごい!」
あまり騒ぐと集中できないだろうと思って今まで黙って見ていたが、思わずはしゃいでしまった。典明は画面を見つめながらだが、ふ…と優しい笑みを浮かべている。かわいい、とか思っているんだろう。どうせ。
そんな事を考えていたら、突如画面が闇に包まれた。
「ここからは闇のトンネルを突き進まなくてはならない。」
8箇所のカーブ、地雷源が1箇所、キャノン砲が1箇所。闇を抜けるとトンネルを出る。ミスをすると壁に激突する。そんな難関なコースだが、これだけ上手にプレイし、コースも覚えているのだ。ミスの心配はないだろう。しかし、それは向こうも同じ。
あまりの緊迫した雰囲気に、こちらも目が離せない。黙って画面を見つめていると、2人同時にカウントダウンを始めた。
「キャノン砲!」
その後すぐ、トンネルの出口を飛び出た2台の車。
僅かに、テレンスの方が、前を走っているようだったが、典明は再び車をスピンさせて、テレンスの車を吹き飛ばしたのだ。典明…かっこいい…。
一同完全に勝利ムードだった。だが、吹き飛ばしたテレンスの車の着地した先は…なんと、典明の走るコースの遥か先だった。
「典明…!!」
「敗北を認めるんじゃあない!花京院!」
承太郎の呼び掛けも虚しく、テレンスのスタンドは典明に手をかけた。
「典明!!」
咄嗟にスタンドを出し、典明の魂を掴む。掴めた。だが、あちらのスタンドも掴んで離さない。
「いいのか?花京院の魂がちぎれるぞ。」
テレンスが嫌な笑みを浮かべて私に言う。確かに…典明の魂が苦しそうな表情を浮かべている。
「手を離せ!なまえ!」
「ッ…!」
承太郎の必死の形相に、私は苦渋の決断で、手を離した。離さざるを得なかった…!
「典明…!!」
典明の体はテーブルへ倒れ、魂は先程の人形へと入っていく。
典明の体を起こすも、既に抜け殻。生気が感じられない。私は途端に怖くなった。せっかく、掴んだのに。あの時、何もできなくてただ泣いているだけだったのを、私は、後悔していたのではなかったのか…!家族の手を掴めなかったのを、悔やんでいたはずなのに…!
「うわぁぁぁああ!!!!」
あの時の光景が、フラッシュバックする。父、母、弟、そしてDIO。そういえば、あの時一瞬、コイツの姿も見た気がする。頭が痛い。ジョセフさんと承太郎が何か私に言っているが、何も聞こえない。耳鳴りがする。頭が痛い。痛くて堪らない。目眩がする。
「なまえ!」
バチンッ!
痛い。頬が痛い。承太郎。承太郎が叩いたのか。目がチカチカする。
「冷静になれ!なまえ!」
承太郎の顔を見ると、いつかの典明を思い出した。飛行機が墜落した時、私と至近距離で目を合わせて落ち着かせてくれた、典明を。
「じょ…たろ……。」
承太郎はグッと自分の胸に私を抱き込み、再度「冷静になれ。なまえ。」と暗示をかけるように落ち着いた声で言った。
承太郎の心臓の音がする。その音を聞いて初めて、自分が上手く呼吸ができていなかった事に気づいた。息が乱れている。
「はッ…!…ハ…ッ!ゲホッ…!」
ジョセフさんも背中を摩ってくれて、少しずつ、呼吸を戻していく。
「…そうだ。その調子だ。落ち着け。」
2人は、優しく、私の呼吸を戻すのを手助けしてくれた。おかげで、苦しさは徐々に紛れていった。
「ごめん、なさい…。私、なんの役にも…」
なんの役にも立てなくて、と言おうとしたが、それは承太郎が否定した。
「花京院は、テメーがいたから、ここまでやれたんだぜ。バカ言ってんじゃあねえ。」
その承太郎の言葉に、呼吸が一気に楽になった。承太郎…ありがとう、承太郎。
私は承太郎がいてくれないと、ダメな人間だな。
「座ってな、なまえ。コイツは、俺がぶちのめす!」
私と典明を椅子に座らせ、承太郎は立ち上がる。
何か策があるのか分からないが、承太郎は、きっと、コイツを倒してくれるだろう。
「…うんっ……!!」
私は、承太郎を信じる!典明だって、きっとそうするだろうから!