ここに




悠仁は任務から帰ると重い足取りで着替えをもって大浴場へと向かう。

今日も呪霊じゃない、肉体を殺してしまった。

恵と野薔薇にもあまり考えるなと言われたがそうもいかない。

大きなため息をついてぶくぶくと大きな大浴場の湯に浸かる。

恵も入ってきたが、気を使ってか離れた場所に入り、早々と出て行った。

「やっぱ…うーん」

悠仁は考えながら頭に乗せたタオルを手に取り、浴場からゆっくり出ると着替えて部屋へと戻った。




夢は隣の部屋の音に気付き、悠仁の部屋のドアをノックする。

いつもなら帰ってくると真っ先に顔を出してくるのに今日はこなかった。

こういう日はいつも悠仁は自分を責めて落ち込んている。

「悠仁くん？　入っていい？」

「あ、夢…ごめん気づかなかった」

ドアのノックにも気づかないぐらいの落ち込み具合なんだと夢は部屋に入りドアを閉めた。

「おかえり悠仁くん」

「ただいま夢」

目線が合うものの悠仁はベッドに腰かけたまま、また床に視線を落とした。

夢は何も言わず悠仁の隣に座り悠仁の大きな背中をゆっくりと優しくなでる。

しばらくして悠仁が顔を上げた。部屋の壁をみつめ夢と視線を合わさない。

「夢…ごめん」

「なんで謝るの？」

「俺また……」

言いたいことがわかった夢は悠仁の背中に両腕を回し、強く抱きしめる。

「悠仁くん私ここにいるから　どこにもいかないから」

悠仁は夢に答えるように自分も夢の背中に腕を回した。

「夢…ありがとう　いつもありがとう…」

夢は首を横にふり、悠仁の短い髪をそっとなでる。

「悠仁くん今日はゆっくり休んで、明日に備えよう」

悠仁は夢の肩に顔をうずめてささやく。

「夢…ここにいてほしい　隣にいてほしい　夢抱きしめて寝たい」

「うん　一緒にいるから大丈夫だよ」

悠仁は腕を解くとベッドにもぐりこんだ。

きっと泣いているんだろうと夢は部屋の明かりを消して、隣に横になる。

「夢、もっとこっちきて」

暗闇の中悠仁は夢を包み込むと肩が震えているのがわかる。

「夢…」

顔を上げると、カーテンの隙間から差し込む月明りが悠仁の瞳に光をさす。

「ん？」

「…泣いたのバレてる？」

夢は悠仁の濡れた頬を指でなぞる。

「バレてたか」

悠仁は大きな手で夢の顔の輪郭をなぞりそっと唇を重ねる。

「夢、ありがと」

また強く抱きしめられ、悠仁が小さな声で　おやすみ　と言うと落ち着いたゆっくりとした呼吸を感じる。



ここに　－　END