NOCバレした先輩と信頼関係?を築く話
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※諸伏景光の偽名を緑川唯としています
第五話
「振られた」
カウンターの向こうで濃紺の着物に身を包む緑川唯にそう低く吐き捨てる。ぎろりと睨みつけてやった。
今日は暑いからか長い襟足を一つにまとめて、眩しいうなじをさらしている。だから、要素をそれ以上詰め込むなと…!!
店内には珍しくマダム達がいない。この緑川唯には恋人(偽装)がいるんだぞとアピールを兼ねて来店したというのに、とんだ無駄足である。
マスターも客足を見て緑川唯に後を任せて帰ってしまった。バイト歴一年近くなった緑川唯は、その有能さと人柄をもってマスターからの信頼を勝ち得ているのだ。
「環、この忙しい中彼氏を作ってたのか。感心する」
「公私ともに充実させてこそだって、何かで読みました」
「一理ある。…で、なんでオレを睨んでるんだ?」
「なんで振られたと思います?」
「さあ?」
緑川唯がわざとらしく首をかしげて、着物の衿の内側からネックレスを引っ張り出す。バイト中はできないからとそこにかけられた指輪に、こちらに見せつけるようにキスを落としている。
はったおしたろうか。何故だろう。黒髪じゃないときの諸伏先輩には割と本気でいらっとくる。
緑川唯の唇が寄せられたその指輪と同デザインの女性ものが、私の右手の薬指にはまっている。これが、振られた原因の一つである。この指輪は先輩の発案ではない。店に通いつめるマダム達が、私の将来を案じてくれた…親切心なのである。
顔は良いもののバンドマン、アルバイターで27歳。一年以上付き合っている恋人(偽装)に、せめて指輪一つ贈るべきではと声を上げてくれたのだ結構です大丈夫です不要です。その人は尊敬できる職場の先輩であり将来の相棒(私はそのつもり)であり、決して恋人にしたいタイプではありません。
言えるわけもなく「わぁい、指輪うれちぃ…」と脳死で答えるしかなかった。
「これぐらい理解できないような男には環の相手は務まらない」
「ぐぬ……」
「傷が浅いうちで良かったな。コーヒーでいいか?」
「今日は甘いのが欲しいです」
「……珍しい。キャラメルラテにでもする?」
「お願いします」
たすき掛けをした緑川唯が手際よく動くのをカウンター越しに見つめる。
彼氏になりそうだった男には仕事の上で男性と付き合っているフリをしていると、やんわりと告げてあったのに。…向こうも警察官だし、理解はあったはず。
緑川唯の顔面が良すぎたのが悪い。外でカップルを演じている私たちを見かけて、完全に腰が引けたのだと言われた。あの顔を見慣れている女とやっていける気がしないと、そう言われた。
おい緑川唯、責任と……ってくれなくていいや今日の飲食代は君が負担してくれ!諸伏先輩の口調を真似て脳内でそう叫んだ。
「もちろん。後輩を慰めるために今日はオレの奢り」
甘いキャラメルの香りと共に差し出されたカップを両手で持って口に運ぶ。熱いぞって注意が遅かった。
火傷したせいだけじゃなく涙目になった私の頭をぽんぽんと緑川唯が優しく撫でてくれる。
「もしかして私、男を見る目がないんでしょうか」
「…………………ううん」
過去最長の間をとった後、私から目をそらす緑川唯。その反応が答えだったので、カップを少し離れたところに置いてカウンターに突っ伏した。
そうか、ないのか。また逆セクハラだと怒られるかもしれないけど、相談してみよう。突っ伏したまま唸るように声を出す。
「男を見る目を養うのってどうしたらいいですか」
「実地で学んだことがあるだろ。こういうところがダメだなって思った要素は避ければいいんじゃないか?」
「……暴力をふるうとか?」
「そこからかあ…」
呆れた声が頭上から降ってきて、慌てて顔を上げる。このままでは私の評価が下がってしまう。否定しておかないと。
「ちゃんと締め上げて二度と女に手を上げないように矯正してから別れましたよ!野放しになんてしてません!」
「問題はそこじゃないけど…なんで矯正したのに別れたんだ?」
「一度でも暴力ふるってきた男を好きでいられます?」
「ごめん、今のは愚問だった」
合わせた両手を顔の前に出して謝ってくる緑川唯を、ふと改めて見つめてみる。バンドマン、アルバイター。だが顔は良いし暴力もふるわない。
偽装ではあるが恋人に対して恐ろしく甘く、時折「よそ見しないで(偽装に集中しろ)」などと愛らしい…?独占欲も示してくれる。
「ないな」
「環お前今先輩の顔をまじまじ見つめた後「ないな」って言った?」
「おっとキャラメルラテがさめちゃーう。唯さんが私のためにいれてくれたのにぃ」
「可愛い恋人のためならいくらでも淹れ直してやるからこっち向こうか」
「唯さんここお店だよぉ…!」
「分かってるよ、ちゃんと我慢する」
つまり家に帰ったら怒られるやつってことですね。ちょっと口が滑っただけなのに。
ごつん、と結構勢いよくぶつかってきた額の痛みにちょっとだけ脳が揺れて視界がくらくらする。石頭だなこの人。額を合わせたまま、緑川唯が意地悪く笑うのが至近距離で見える。
眼鏡のフレームが目にぶつかってちょっと痛い。
「警視庁公安部」
「はい」
「離脱はしたけど潜入捜査も務めてた」
「はあ…」
「料理もできるし暴力もふるわない」
「今頭突きかました自覚ないんすか」
「おまけに環と話していても疲れない」
「初めて会った時と言ってること違いますけど」
「評価の訂正を要求してるんだ」
「―――ないな」
「お前やっぱり男見る目ないよ」
さっき言いよどんで明確な肯定を避けてくれた筈なのに、緑川唯がそう言い切って私から顔を離した。
どうせ外にマダムでもいていちゃいちゃ偽装がしたかったんだろう。改めてカップを持ち上げて口に運ぶ。少し冷めたそれをこくりと喉に通す。
「諸伏先輩を私の彼氏にするなんてもったいない」
「釣り合わないとか言うタイプだったか?」
「は?違いますよ。別れたりしたくないんです。先輩と相棒になってずっと一緒に仕事をするのが目標なんで、付き合って別れたりしたら気まずくなりそうですし」
「じゃあ彼氏作る暇あったらその時間も俺に割いて仕事覚えてくれ」
「…それも、そうですね…!?」
緑川唯が私の反応に嬉しそうにほほ笑む。後輩の奮起を喜んでくれているようだ。彼氏を作る暇と言われはしたが、今回は向こうの方から声をかけてきたので誤解のような気もする。
…いやでも、ちょっとの休憩時間にメッセージのやりとりはしてたからな…。ああいう時間も先輩に教えを請おうと思えばできたわけで…う、もったいないことしてたかも。
はい、と緑川唯が手を差し出してくる。何を要求されたのかはすぐに分かって、ポケットからスマホを取り出してその手に乗せた。躊躇なく他人のスマホを操作する緑川唯を見つめながらカップの中身を飲み干す。
「あー、なるほどこいつか。消すけどいいよな?」
「どうぞ。消し忘れてただけなんで」
慣れた手つきで連絡先一件とトーク画面が消去されていくのを見る。私の成長の妨げになると判断されるような人物だったようだ。付き合えなくて結果オーライ。
「そうだ、ちなみにゼロはどうなんだ?」
「憧れが強すぎて男として見れません」
「そうか。オススメしたかったんだけどな」
一つの本音も乗っていない声でそう緑川唯が呟くのを聞いた。安心してください、尊敬する諸伏先輩の、大事なご友人に手を出すような真似はいたしません!
続く
第五話
「振られた」
カウンターの向こうで濃紺の着物に身を包む緑川唯にそう低く吐き捨てる。ぎろりと睨みつけてやった。
今日は暑いからか長い襟足を一つにまとめて、眩しいうなじをさらしている。だから、要素をそれ以上詰め込むなと…!!
店内には珍しくマダム達がいない。この緑川唯には恋人(偽装)がいるんだぞとアピールを兼ねて来店したというのに、とんだ無駄足である。
マスターも客足を見て緑川唯に後を任せて帰ってしまった。バイト歴一年近くなった緑川唯は、その有能さと人柄をもってマスターからの信頼を勝ち得ているのだ。
「環、この忙しい中彼氏を作ってたのか。感心する」
「公私ともに充実させてこそだって、何かで読みました」
「一理ある。…で、なんでオレを睨んでるんだ?」
「なんで振られたと思います?」
「さあ?」
緑川唯がわざとらしく首をかしげて、着物の衿の内側からネックレスを引っ張り出す。バイト中はできないからとそこにかけられた指輪に、こちらに見せつけるようにキスを落としている。
はったおしたろうか。何故だろう。黒髪じゃないときの諸伏先輩には割と本気でいらっとくる。
緑川唯の唇が寄せられたその指輪と同デザインの女性ものが、私の右手の薬指にはまっている。これが、振られた原因の一つである。この指輪は先輩の発案ではない。店に通いつめるマダム達が、私の将来を案じてくれた…親切心なのである。
顔は良いもののバンドマン、アルバイターで27歳。一年以上付き合っている恋人(偽装)に、せめて指輪一つ贈るべきではと声を上げてくれたのだ結構です大丈夫です不要です。その人は尊敬できる職場の先輩であり将来の相棒(私はそのつもり)であり、決して恋人にしたいタイプではありません。
言えるわけもなく「わぁい、指輪うれちぃ…」と脳死で答えるしかなかった。
「これぐらい理解できないような男には環の相手は務まらない」
「ぐぬ……」
「傷が浅いうちで良かったな。コーヒーでいいか?」
「今日は甘いのが欲しいです」
「……珍しい。キャラメルラテにでもする?」
「お願いします」
たすき掛けをした緑川唯が手際よく動くのをカウンター越しに見つめる。
彼氏になりそうだった男には仕事の上で男性と付き合っているフリをしていると、やんわりと告げてあったのに。…向こうも警察官だし、理解はあったはず。
緑川唯の顔面が良すぎたのが悪い。外でカップルを演じている私たちを見かけて、完全に腰が引けたのだと言われた。あの顔を見慣れている女とやっていける気がしないと、そう言われた。
おい緑川唯、責任と……ってくれなくていいや今日の飲食代は君が負担してくれ!諸伏先輩の口調を真似て脳内でそう叫んだ。
「もちろん。後輩を慰めるために今日はオレの奢り」
甘いキャラメルの香りと共に差し出されたカップを両手で持って口に運ぶ。熱いぞって注意が遅かった。
火傷したせいだけじゃなく涙目になった私の頭をぽんぽんと緑川唯が優しく撫でてくれる。
「もしかして私、男を見る目がないんでしょうか」
「…………………ううん」
過去最長の間をとった後、私から目をそらす緑川唯。その反応が答えだったので、カップを少し離れたところに置いてカウンターに突っ伏した。
そうか、ないのか。また逆セクハラだと怒られるかもしれないけど、相談してみよう。突っ伏したまま唸るように声を出す。
「男を見る目を養うのってどうしたらいいですか」
「実地で学んだことがあるだろ。こういうところがダメだなって思った要素は避ければいいんじゃないか?」
「……暴力をふるうとか?」
「そこからかあ…」
呆れた声が頭上から降ってきて、慌てて顔を上げる。このままでは私の評価が下がってしまう。否定しておかないと。
「ちゃんと締め上げて二度と女に手を上げないように矯正してから別れましたよ!野放しになんてしてません!」
「問題はそこじゃないけど…なんで矯正したのに別れたんだ?」
「一度でも暴力ふるってきた男を好きでいられます?」
「ごめん、今のは愚問だった」
合わせた両手を顔の前に出して謝ってくる緑川唯を、ふと改めて見つめてみる。バンドマン、アルバイター。だが顔は良いし暴力もふるわない。
偽装ではあるが恋人に対して恐ろしく甘く、時折「よそ見しないで(偽装に集中しろ)」などと愛らしい…?独占欲も示してくれる。
「ないな」
「環お前今先輩の顔をまじまじ見つめた後「ないな」って言った?」
「おっとキャラメルラテがさめちゃーう。唯さんが私のためにいれてくれたのにぃ」
「可愛い恋人のためならいくらでも淹れ直してやるからこっち向こうか」
「唯さんここお店だよぉ…!」
「分かってるよ、ちゃんと我慢する」
つまり家に帰ったら怒られるやつってことですね。ちょっと口が滑っただけなのに。
ごつん、と結構勢いよくぶつかってきた額の痛みにちょっとだけ脳が揺れて視界がくらくらする。石頭だなこの人。額を合わせたまま、緑川唯が意地悪く笑うのが至近距離で見える。
眼鏡のフレームが目にぶつかってちょっと痛い。
「警視庁公安部」
「はい」
「離脱はしたけど潜入捜査も務めてた」
「はあ…」
「料理もできるし暴力もふるわない」
「今頭突きかました自覚ないんすか」
「おまけに環と話していても疲れない」
「初めて会った時と言ってること違いますけど」
「評価の訂正を要求してるんだ」
「―――ないな」
「お前やっぱり男見る目ないよ」
さっき言いよどんで明確な肯定を避けてくれた筈なのに、緑川唯がそう言い切って私から顔を離した。
どうせ外にマダムでもいていちゃいちゃ偽装がしたかったんだろう。改めてカップを持ち上げて口に運ぶ。少し冷めたそれをこくりと喉に通す。
「諸伏先輩を私の彼氏にするなんてもったいない」
「釣り合わないとか言うタイプだったか?」
「は?違いますよ。別れたりしたくないんです。先輩と相棒になってずっと一緒に仕事をするのが目標なんで、付き合って別れたりしたら気まずくなりそうですし」
「じゃあ彼氏作る暇あったらその時間も俺に割いて仕事覚えてくれ」
「…それも、そうですね…!?」
緑川唯が私の反応に嬉しそうにほほ笑む。後輩の奮起を喜んでくれているようだ。彼氏を作る暇と言われはしたが、今回は向こうの方から声をかけてきたので誤解のような気もする。
…いやでも、ちょっとの休憩時間にメッセージのやりとりはしてたからな…。ああいう時間も先輩に教えを請おうと思えばできたわけで…う、もったいないことしてたかも。
はい、と緑川唯が手を差し出してくる。何を要求されたのかはすぐに分かって、ポケットからスマホを取り出してその手に乗せた。躊躇なく他人のスマホを操作する緑川唯を見つめながらカップの中身を飲み干す。
「あー、なるほどこいつか。消すけどいいよな?」
「どうぞ。消し忘れてただけなんで」
慣れた手つきで連絡先一件とトーク画面が消去されていくのを見る。私の成長の妨げになると判断されるような人物だったようだ。付き合えなくて結果オーライ。
「そうだ、ちなみにゼロはどうなんだ?」
「憧れが強すぎて男として見れません」
「そうか。オススメしたかったんだけどな」
一つの本音も乗っていない声でそう緑川唯が呟くのを聞いた。安心してください、尊敬する諸伏先輩の、大事なご友人に手を出すような真似はいたしません!
続く