NOCバレした先輩と信頼関係?を築く話
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※諸伏景光の偽名を緑川唯としています
軽微なモブ×夢主の表現と暴力描写がありますのでご注意ください。
第四話
しくじったなあ。
マスクの下、切れた口の中と唇の端の痛みに顔をしかめる。スマホを取り出してバイト中だろう先輩に連絡を入れた。
予定通りなら今から喫茶店に顔を出して仲睦まじいカップルを装い、先輩目当てに通い始めたマダムたちへこれ以上行き過ぎた応援に走らないように牽制するつもりだったのに。こんな顔で行ったらDVカップルだと思われてしまうだろう。
幸い今日は偽装のために先輩のセーフハウスに泊まる予定だった。定期報告はそちらで行えば良い。休憩中だったのか割とすぐに了解と返事が来たので、私は行き先を変更した。
セーフハウスに到着して、持っている鍵で中に入る。洗面所に直行して途中で買ってきた冷却シートをぞんざいに頬に貼り付ける。
先輩が帰ってくるまでに少しでも腫れが収まりますように。こんなみっともない顔見られたら、丁寧に仕事を教えてくれているのにまたミスをしてしまった己の立つ瀬がない。…報連相は大事だと教えてくれた先輩に報告をあげないという選択肢がないので、言わないわけにはいかないのが嫌だけど…。
鎮痛剤を取り出して口に放り込んで洗面台で水を汲んで飲み干した。口の中の傷がしみて顔を歪める。気分が重い。こういう時はふて寝だ。先輩が戻ってくるまでふて寝しよう。リビングに戻って私が泊まる時用の布団を広げてごろりと横になる。
しくじった。ターゲットのグラスに仕込んだ睡眠薬は無事飲ませたはずだが、耐性でもあるのかぎらぎらとした目をした男は眠る気配がない。
押し倒されて、服の裾から這い上がる手を受け入れるそぶりをする。覚悟はしている。犬に嚙まれたと思ってやり過ごせばいい。
犬。思わず連想ゲームで諸伏先輩を思い出す。男が胸に顔をうずめたのをいいことに唇の端を上げる。そうだ無事に欲しいデータは回収し終えているんだし、これが終わったら目いっぱい褒めてもらって、あの毛並みを撫でさせてもらおう!
男の手が早々に下腹部へと伸びる。そうしてまだ湿り気のないそこを確認して、激昂した。
濡れにくいのだと言ってあったのに。俺ならできると思っていたんだろうな。数度激しく頬と腹部を殴られて、男は舌打ちした後唾を吐き捨てて部屋を去っていった。
さよなら、こちらにももう用はありません。来週にはきっとその手首に手錠をかけられると思うよ。
ギター?いやベースだと教えてもらったんだった。その弦を爪弾く音がする。薬のせいなのか目覚めが悪いが痛みは鈍くなっているので助かった。
目を開けると緑川唯の変装を解除した諸伏先輩が壁にもたれて座りベースを抱えていた。目が合って、先輩がベースを壁に立てかける。
「ずいぶん女っぷりが上がってるな、環」
「しくじりました。ターゲットに睡眠薬への耐性があったみたいで」
「口開けて」
先輩が上半身を起こした私の前に座りなおす。言われるがままにぱかりと口を開けたら、中の傷をしげしげと確認された。
歯は折れてないな、と呟く声を聞く。先輩の手が触れるか触れないかのところで唇の端と、頬と、首筋に残ったいくつかの鬱血痕を辿っていく。
「そういう性癖のやつだったのか?避妊は?病院に行くなら付き添う」
「避妊?ああ、違うんです」
うん?と首を傾げる先輩にちょっと言いよどむ。これ、また逆セクハラだって言われる案件かなあ。でも私は先輩のおかげで学んだのだ。報告連絡相談、とても大事。
「濡れにくいんです。それはちゃんと言ってあったんですけど…お気に召さなかったみたいで」
「――――ああ、そういう」
「今度からは前もって中に潤滑ゼリーとか仕込んでおこうと思います」
夜のお姉さんも御用達のアイテムがあるらしいので、今度いくつか購入して試してみよう。似たような任務が入った時のために備えておかなければ。そこまで考えてはっとする。このままではミスの報告だけで終わってしまう。
「でもデータは回収できたんです!ここに来る前にちゃんと提出してきました」
「偉い偉い。次からはデータ回収したんならベッドに入る前に撤収だな。できるな?」
できるか?ではなくできるな?だった。その言葉にこの半年ほどで諸伏先輩から少しずつ評価を得ていることを実感して、嬉しくなって勢いよく頷いた。
ホテルの部屋に連れ込まれて相手がシャワーを浴びてる間にデータを回収したのに、そこからどうやって撤収すれば良かったのかはまだ分からない。相手が出てくる前にとんずらしたかったけど、手間取って回収もぎりぎりだったしなあ…。ううん、どこを詰めたらよかったのかな…。あ、そうか。
「えっと、部屋に入る前にカバンとか着ている洋服に飲み物でもこぼして最初にどこを確認するか、前もって調べます」
「よしよし」
大事なものが濡れなかったかは一番に確認したいだろう。それを確かめておけば今日はこんな目に遭わなかったはずだ。うーん、さすが先輩。私に考える時間をとってくれる優しく、人を導くのがうまい人だ。
私の頭を軽く撫でた先輩が立ち上がる。キッチンへと向かう背中を見送った。料理好きらしく、泊まる時はいつも手料理を振舞ってくれる。
「リゾットにでもしようか」
「わーい!!」
おそらく口の傷を労わってのことだったのに、両手を挙げて喜んで大きく口を開けたらぴりっと痛みが走って悶絶した。口の端のかさぶたが破れて再度出血するのを感じる。作ってる間に風呂入ってきな、と言われたのでお言葉に甘えることにする。
データを回収できたことと、たぶんちゃんと次回のために対策を練ったご褒美でリゾットの後には時短レシピだけどって言いながらプリンが出てきた。
この人できないこととかないんか??
もちろん美味しくいただいた。お風呂とリゾットとプリン、心も体も満たされて私は早々に布団に横になった。まだ早い時間なのに先輩が気を遣って寝室へと消えていくのを見送った。
▽▽▽▽▽▽
少し記憶力に難がある、でもとても素直な可愛い後輩の腫れた頬を思い出す。抵抗できる力があるのに、データを持ち出すまではと耐えたのだろう。
二人で盛り上がったと思い込んでいただろう男が、彼女が濡れていないと知った時の肩透かし感はやや分からないでもない。え、あれ、オレ下手?ってなる。自信を喪失する。
濡れにくいのだと申告したと言っていたし、相手はよほど場数を踏んでいてそれを覆す自信があったのだろう。プライドが傷つけられたのだろうと、そう予想はつくが。
「殴っていいわけないだろう」
公安を辞めたい、能力が足りてないと泣き言を並べることもある環はそう言う割には簡単に体を張る。おそらくオレに銃口が向けばあっさりと盾になるだろうし、今回のような任務も本心はともかくうまく吞み込んで見せる。そういう女なのだ。
そういう環が、抵抗もせずに殴られている場面を想像すると苦い思いがこみ上げる。自分がもしサポートとして同じ場所にいたのなら。
考えても無駄なたらればの空想に浸ろうとして、はっとする。扉の向こう、リビングからすすり泣く気配がする。みっちゃん、と繰り返し呼ぶ声がする。
今日の仕事の夢でも見たのかと思ったが、実家で飼っていた黒柴の夢でも見ているようだ。なら起こさなくてもいいだろうとそう思った。
ばたばたと部屋を走る音がする。寝ぼけたな、と思っていたら部屋の扉が開いて、まだ腫れの引き切らない頬を涙で濡らした環が中に入ってくる。これは、思ったより盛大に寝ぼけている。
「おい、」
「みっちゃん!」
見つけた。そう言ってオレが座るベッドに上がり込む環をどうやって正気に戻してやろうかと考える。
にしても、最初に裏路地でオレと合流した時と同じような表情だ。そういえば、演技とか腹芸が苦手な彼女にしてはあの時はやけにリアルだったなと環の人柄を知った今不思議に思う。
「ごめん…ごめんね、もう大丈夫だからね。もうリード外れないようにするからね」
環が震える手を伸ばしてくるのを見つめて、数秒迷って受け入れた。ぎゅうぎゅうにかき抱かれて、愛犬に似ているらしい髪の毛を撫でる手を見つめる。ごめんね、痛かったね、そうすすり泣く環の声に愛犬の最期を知った。
あの裏路地で助けたのは、まさしく愛犬だったわけだ。きっと何度も何度も後悔して、リードが外れて見失った兄にも等しいという愛犬を、オレに重ねてーーーだからあんなに安堵してオレを、愛犬を抱きしめたわけだ。
可愛いよ、カッコイイよ、愛してるよ、また明日も遊べるよ。
愛情深い声が耳奥に蘇る。最期は悲しいものだったようだが、おそらく愛犬は幸せだっただろう。あの日と同じように環の首筋に鼻先を摺り寄せる。安心したのだろう、彼女から力が抜けてこちらに体を預けたかと思ったら静かな寝息が聞こえてきた。
眠りを邪魔しないように注意しながら腕を外させて…こいつ本当に腕力すごいななかなか外れなかった。小柄な割にやや重い体を抱え上げる。ゼロにゴリラだと言われるだけあって筋肉量がすごい。
最初に会った時に見た環の体を思い出し…そうになって頭を振る。なんとなく今これ以上思い出すと危ない気がした。
リビングに敷かれた布団に環を転がして布団をかけてやり、ちょっと迷った後で濡れタオルで顔を拭いてやった。ただでさえ怪我で腫れた顔がもっと腫れるのは嫌だろう。
血のにじむ唇の端を見て、なんとはなしに指の先で触れる。続けて首の鬱血痕に触れようとしてーーー慌てて手を引く。
環にああやって頭を撫でられて、どうもおかしくなったらしい。足早に部屋に戻った。
続く
軽微なモブ×夢主の表現と暴力描写がありますのでご注意ください。
第四話
しくじったなあ。
マスクの下、切れた口の中と唇の端の痛みに顔をしかめる。スマホを取り出してバイト中だろう先輩に連絡を入れた。
予定通りなら今から喫茶店に顔を出して仲睦まじいカップルを装い、先輩目当てに通い始めたマダムたちへこれ以上行き過ぎた応援に走らないように牽制するつもりだったのに。こんな顔で行ったらDVカップルだと思われてしまうだろう。
幸い今日は偽装のために先輩のセーフハウスに泊まる予定だった。定期報告はそちらで行えば良い。休憩中だったのか割とすぐに了解と返事が来たので、私は行き先を変更した。
セーフハウスに到着して、持っている鍵で中に入る。洗面所に直行して途中で買ってきた冷却シートをぞんざいに頬に貼り付ける。
先輩が帰ってくるまでに少しでも腫れが収まりますように。こんなみっともない顔見られたら、丁寧に仕事を教えてくれているのにまたミスをしてしまった己の立つ瀬がない。…報連相は大事だと教えてくれた先輩に報告をあげないという選択肢がないので、言わないわけにはいかないのが嫌だけど…。
鎮痛剤を取り出して口に放り込んで洗面台で水を汲んで飲み干した。口の中の傷がしみて顔を歪める。気分が重い。こういう時はふて寝だ。先輩が戻ってくるまでふて寝しよう。リビングに戻って私が泊まる時用の布団を広げてごろりと横になる。
しくじった。ターゲットのグラスに仕込んだ睡眠薬は無事飲ませたはずだが、耐性でもあるのかぎらぎらとした目をした男は眠る気配がない。
押し倒されて、服の裾から這い上がる手を受け入れるそぶりをする。覚悟はしている。犬に嚙まれたと思ってやり過ごせばいい。
犬。思わず連想ゲームで諸伏先輩を思い出す。男が胸に顔をうずめたのをいいことに唇の端を上げる。そうだ無事に欲しいデータは回収し終えているんだし、これが終わったら目いっぱい褒めてもらって、あの毛並みを撫でさせてもらおう!
男の手が早々に下腹部へと伸びる。そうしてまだ湿り気のないそこを確認して、激昂した。
濡れにくいのだと言ってあったのに。俺ならできると思っていたんだろうな。数度激しく頬と腹部を殴られて、男は舌打ちした後唾を吐き捨てて部屋を去っていった。
さよなら、こちらにももう用はありません。来週にはきっとその手首に手錠をかけられると思うよ。
ギター?いやベースだと教えてもらったんだった。その弦を爪弾く音がする。薬のせいなのか目覚めが悪いが痛みは鈍くなっているので助かった。
目を開けると緑川唯の変装を解除した諸伏先輩が壁にもたれて座りベースを抱えていた。目が合って、先輩がベースを壁に立てかける。
「ずいぶん女っぷりが上がってるな、環」
「しくじりました。ターゲットに睡眠薬への耐性があったみたいで」
「口開けて」
先輩が上半身を起こした私の前に座りなおす。言われるがままにぱかりと口を開けたら、中の傷をしげしげと確認された。
歯は折れてないな、と呟く声を聞く。先輩の手が触れるか触れないかのところで唇の端と、頬と、首筋に残ったいくつかの鬱血痕を辿っていく。
「そういう性癖のやつだったのか?避妊は?病院に行くなら付き添う」
「避妊?ああ、違うんです」
うん?と首を傾げる先輩にちょっと言いよどむ。これ、また逆セクハラだって言われる案件かなあ。でも私は先輩のおかげで学んだのだ。報告連絡相談、とても大事。
「濡れにくいんです。それはちゃんと言ってあったんですけど…お気に召さなかったみたいで」
「――――ああ、そういう」
「今度からは前もって中に潤滑ゼリーとか仕込んでおこうと思います」
夜のお姉さんも御用達のアイテムがあるらしいので、今度いくつか購入して試してみよう。似たような任務が入った時のために備えておかなければ。そこまで考えてはっとする。このままではミスの報告だけで終わってしまう。
「でもデータは回収できたんです!ここに来る前にちゃんと提出してきました」
「偉い偉い。次からはデータ回収したんならベッドに入る前に撤収だな。できるな?」
できるか?ではなくできるな?だった。その言葉にこの半年ほどで諸伏先輩から少しずつ評価を得ていることを実感して、嬉しくなって勢いよく頷いた。
ホテルの部屋に連れ込まれて相手がシャワーを浴びてる間にデータを回収したのに、そこからどうやって撤収すれば良かったのかはまだ分からない。相手が出てくる前にとんずらしたかったけど、手間取って回収もぎりぎりだったしなあ…。ううん、どこを詰めたらよかったのかな…。あ、そうか。
「えっと、部屋に入る前にカバンとか着ている洋服に飲み物でもこぼして最初にどこを確認するか、前もって調べます」
「よしよし」
大事なものが濡れなかったかは一番に確認したいだろう。それを確かめておけば今日はこんな目に遭わなかったはずだ。うーん、さすが先輩。私に考える時間をとってくれる優しく、人を導くのがうまい人だ。
私の頭を軽く撫でた先輩が立ち上がる。キッチンへと向かう背中を見送った。料理好きらしく、泊まる時はいつも手料理を振舞ってくれる。
「リゾットにでもしようか」
「わーい!!」
おそらく口の傷を労わってのことだったのに、両手を挙げて喜んで大きく口を開けたらぴりっと痛みが走って悶絶した。口の端のかさぶたが破れて再度出血するのを感じる。作ってる間に風呂入ってきな、と言われたのでお言葉に甘えることにする。
データを回収できたことと、たぶんちゃんと次回のために対策を練ったご褒美でリゾットの後には時短レシピだけどって言いながらプリンが出てきた。
この人できないこととかないんか??
もちろん美味しくいただいた。お風呂とリゾットとプリン、心も体も満たされて私は早々に布団に横になった。まだ早い時間なのに先輩が気を遣って寝室へと消えていくのを見送った。
▽▽▽▽▽▽
少し記憶力に難がある、でもとても素直な可愛い後輩の腫れた頬を思い出す。抵抗できる力があるのに、データを持ち出すまではと耐えたのだろう。
二人で盛り上がったと思い込んでいただろう男が、彼女が濡れていないと知った時の肩透かし感はやや分からないでもない。え、あれ、オレ下手?ってなる。自信を喪失する。
濡れにくいのだと申告したと言っていたし、相手はよほど場数を踏んでいてそれを覆す自信があったのだろう。プライドが傷つけられたのだろうと、そう予想はつくが。
「殴っていいわけないだろう」
公安を辞めたい、能力が足りてないと泣き言を並べることもある環はそう言う割には簡単に体を張る。おそらくオレに銃口が向けばあっさりと盾になるだろうし、今回のような任務も本心はともかくうまく吞み込んで見せる。そういう女なのだ。
そういう環が、抵抗もせずに殴られている場面を想像すると苦い思いがこみ上げる。自分がもしサポートとして同じ場所にいたのなら。
考えても無駄なたらればの空想に浸ろうとして、はっとする。扉の向こう、リビングからすすり泣く気配がする。みっちゃん、と繰り返し呼ぶ声がする。
今日の仕事の夢でも見たのかと思ったが、実家で飼っていた黒柴の夢でも見ているようだ。なら起こさなくてもいいだろうとそう思った。
ばたばたと部屋を走る音がする。寝ぼけたな、と思っていたら部屋の扉が開いて、まだ腫れの引き切らない頬を涙で濡らした環が中に入ってくる。これは、思ったより盛大に寝ぼけている。
「おい、」
「みっちゃん!」
見つけた。そう言ってオレが座るベッドに上がり込む環をどうやって正気に戻してやろうかと考える。
にしても、最初に裏路地でオレと合流した時と同じような表情だ。そういえば、演技とか腹芸が苦手な彼女にしてはあの時はやけにリアルだったなと環の人柄を知った今不思議に思う。
「ごめん…ごめんね、もう大丈夫だからね。もうリード外れないようにするからね」
環が震える手を伸ばしてくるのを見つめて、数秒迷って受け入れた。ぎゅうぎゅうにかき抱かれて、愛犬に似ているらしい髪の毛を撫でる手を見つめる。ごめんね、痛かったね、そうすすり泣く環の声に愛犬の最期を知った。
あの裏路地で助けたのは、まさしく愛犬だったわけだ。きっと何度も何度も後悔して、リードが外れて見失った兄にも等しいという愛犬を、オレに重ねてーーーだからあんなに安堵してオレを、愛犬を抱きしめたわけだ。
可愛いよ、カッコイイよ、愛してるよ、また明日も遊べるよ。
愛情深い声が耳奥に蘇る。最期は悲しいものだったようだが、おそらく愛犬は幸せだっただろう。あの日と同じように環の首筋に鼻先を摺り寄せる。安心したのだろう、彼女から力が抜けてこちらに体を預けたかと思ったら静かな寝息が聞こえてきた。
眠りを邪魔しないように注意しながら腕を外させて…こいつ本当に腕力すごいななかなか外れなかった。小柄な割にやや重い体を抱え上げる。ゼロにゴリラだと言われるだけあって筋肉量がすごい。
最初に会った時に見た環の体を思い出し…そうになって頭を振る。なんとなく今これ以上思い出すと危ない気がした。
リビングに敷かれた布団に環を転がして布団をかけてやり、ちょっと迷った後で濡れタオルで顔を拭いてやった。ただでさえ怪我で腫れた顔がもっと腫れるのは嫌だろう。
血のにじむ唇の端を見て、なんとはなしに指の先で触れる。続けて首の鬱血痕に触れようとしてーーー慌てて手を引く。
環にああやって頭を撫でられて、どうもおかしくなったらしい。足早に部屋に戻った。
続く