NOCバレした先輩と信頼関係?を築く話
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第十二話
「質問があります」
教えを請う生徒のようにそう言って、諸伏先輩が右手を上げた。挙手。似合わないなと思いながら、はい諸伏くん、と指名してあげたら楽しそうに笑っている。
もしかしたら先輩呼びじゃなかったから喜んでいるのかもしれない。上げていた手を下ろした先輩が、にこにこととても愛らしい笑顔を浮かべて、とんでもねぇことを言いやがりました。ごめんなさい先輩ちょっと口が悪くなっちゃったけど許してねっ、えへっ! 心の内でも棒読みでそう謝っておく。
「恋人予定にはどこまでなら許されますか?」
「どこまでも許しません」
「えっ?」
お前は何を言ってるんだ? そういう副音声が聞こえたし、宇宙人でも見るような目で見てくる諸伏先輩を無視して、今日はもう帰ろうと立ち上がる。
今日は泊まる予定だったが、なんかこの人不穏だ。手首を掴まれて強く引かれて、諦めてもう一度着座する。
「恋人じゃなくてセフレにするつもりですかご存じの通り体がアレなんで他をあたってください」
「環のその発言に過去が透けて見えるようで胸が痛い。誤解だ、何も抱こうってわけじゃない」
「…………」
「その目を、やめてくれないか……」
「……そういえばこの目は以前命令で禁止されていましたっけ? このヤリチン」
「誤解だ! というかその時も思ったけどなんでそんな発想になるんだ!?」
「その顔面凶器で、あんな手慣れた感じでホテルに連れ込まれたら誰だってそう思うわ!!」
「が、顔面凶器って、確認するけど褒めてるんだよな!?」
「そこじゃなくない??」
私としてはホテルに連れ込まれた時のあの手慣れた感じが怖かったって、そういう話をしているつもりだったんだけどな。
数々の美女を連れ込んだんだろうなって思ったのを思い出して、不快感に眉が寄るのを止められない。ここはセーフハウスだし、我慢しなきゃいけない理由がない。
「任務でホテルに女を連れ込んだことはある。否定はしない」
「任務以外の話をしてるんですけど。話をそらさないで下さい」
「任務以外? そんな暇あると思うのか?」
「……ふざけてんすか?」
「その言葉を、そっくりそのまま、返してやりたい」
公安としての仕事、スコッチとしての任務、その任務のために行った諜報活動。とてもじゃないが女を漁る暇はなかったと、諸伏先輩がそう言う。
「任務だって眠らせてはいさよならが基本だ。環にもそう教えた筈だろ」
「……男の人ってそういうの、据え膳食わぬは男の恥とかなんとか言って食べちゃうもんじゃないんですか?」
「――お前はまた……どうしてそう、偏りのある男を……」
顔を片手で覆ってなんだかひどく痛ましそうな空気を出す先輩に、どうやら据え膳云々はこの人には適用されないらしいと悟った。
へえ、そんな人も、いるんだ…。
え。じゃあこの人、ここ3年って思ってたけど、それ以上に彼女がいないし女を抱いてないってこと? それはそれで……怖いな。
「どっちにしろ怖がるんじゃないか!」
「勝手に脳内読まないで!」
「……彼女はいなかったけど…公安の把握してる店には世話になってたよ」
「…………」
「オレにどうしろって言うんだ…!」
「ちが、違うんです。今のは、うん、さすがに私が悪いです!」
「……お前が好きだって自覚してからは、女は抱いてない」
「…………うん」
お店のお姉さん。顔も見たことのないお姉さんにちょっとイラッとくる。イラッとくるってなにが??
あ、でも絶対綺麗だしおっぱい大きいし足もすらっと長いし……ちょっと見たくなってきちゃったな。先輩って何を重視してお姉さんを選ぶんだろう?
不快感より俄然興味が湧いてきた。過去の彼女とか聞いたら教えてくれるのかな。
……え?先輩の、元彼女? なにそれめちゃくちゃ聞きたい……面白そう。
「なんで面白そう、になるんだ? 途中までいい感じに嫉妬してただろ? そのまま嫉妬してろ」
「……先輩の彼女ってどんな人が多かったです?」
「開き直って聞いてくるんじゃない」
「お店のお姉さんはどこを重視ですか? 胸? お尻? 脚? 顔……ではないですよねきっと」
だって私を選んだぐらいだし、って続けたら先輩が私の頬をぐっと抓ってきた。
「環は可愛い。顔で選んだわけじゃないけど、そういう風に言われて腹が立った」
「いででで」
「真っ直ぐな気性とか、強い正義感とか、多分オレのためならあっさり盾になるんだろうなって覚悟の強いところ」
「手を、はなして……いでで」
「そういうところが、好きだよ。ああ、あと忘れちゃいけない。愛犬を大事に思ってるところ」
「……そ、ですか…」
離された頬を、そっと手で撫でる。諸伏先輩は私が自分を低く評価するとすぐに怒る。それを知っててつい言ってしまった私が悪いけど、ちょっと痛かった。
でも多分、痛い思いをしたのは先輩の方なんだなって、そう思う。そういう目をしている。
私をとても大事に思っているから、たとえ私自身にも貶められたくないのだと、そういう目をしている。
じわり、涙が浮かんでしまうのを止められなかった。そんな風に見つめられて、大事に思われたことなんてない。こわい、とちらりと思った瞬間、先輩がさっと身を引いた。
「ごめん、怖かったか」
怒ったことか、それとも頬に触れたことをか、どちらだろうとそう考えているのが分かる。多分、私にも分かりやすいように顔に出してくれている。
慌てて首を横に振って否定した。
「諸伏先輩が私を大事に思ってくれるのが、怖い」
「それは……失ったときを思うと、ってことで、いいんだよな?」
「ん」
「ふっ…偉いぞ、ちゃんと理解したんだな?」
「……はい?」
触るぞ、って一言予告してから諸伏先輩が私の頭を優しく撫でてくれる。一撫でして私が怖がっていないかどうか確認して、もう一度。
後輩として褒められて頭をぽんとされるとか、恋人偽装の時の慣れたような手つきではなくて。
「そうだよ、オレはお前を大事に思ってる。理解してくれて嬉しい」
甘やかして褒めて伸ばす。これか……。
恐る恐るっていう表現が似合うような手つきで頭を撫でられて、にじんだ涙がほろりとこぼれた。嫌な涙じゃ、ない。この人が私を大事に思ってくれるのを喜んでいいんだって、そういう涙に変わった。
しばらく頭を撫でてもらって、涙も落ち着いたころ。諸伏先輩がとてもとても言いにくそうに声を絞り出した。
「それで、どこまでなら許してもらえますか?」
「まだその話する??」
「頭を撫でるのは、大丈夫そうだなって思ってる」
「……え?」
「えっ、ダメ?」
「いえそうじゃなくて。……そのレベルの話をしてたんですか…?」
「だから最初に誤解だって言ったじゃないか」
「え。だって唯さんの時に手も繋ぐしおでここつんもしますよね…?」
「あれは任務だから。というか最近はしてないだろ」
この人今まで恋人偽装を名目に遠慮なく触っておいて……。
思わず笑いがこぼれるけど、我慢はしなかった。だって普通、最低でもキスぐらいはしたいって言うのかなって思うでしょう。この間キスされそうになったし、そう思うよね、うん。
「オレはまだお前の恋人じゃないし気軽に触れられない」
「あの、前から言おうと思ってたんですけど」
「ん?」
「恋人 ”予定” とか、 “まだ” 恋人じゃないとか。なんか、慎重な先輩らしくないですね…?」
「――ああ、そうだろ? 環の真似をしてるんだ。なあ、相棒」
未来の話をしないあの慎重な先輩が、私との関係の未来を語っている。それが彼から将来の相棒宣言を勝ち取った私の影響なのだと笑うのが、ちょっとどころじゃなく可愛い。
「頭を撫でるのが大丈夫そうだから、手をつなぐのから始めてもいい?」
「て。……手?」
「怖い?」
「いやいやいや、手でいいんだなって……思って」
「うん」
一分、いや五分でどうだろう?
真面目な顔をしてそう聞いてくるので、私はとても不思議な気持ちになりながら、頷いた。手でいいんだ? せめてハグぐらい要求するんじゃないんだ……??
「じゃあ早速。ほら、手を出して」
「は、はい」
向かい合って座る先輩が、左手をこちらに差し出してくるのでつい反射的に右手をそこに乗せてしまう。
ゆるく指先をまとめて握られて、この人ほんとに手を握るだけなんだな?とびっくりした。そうは言いつついやらしい手つきで掌つつーっとかやるんでしょ、と思ったのを反省する。
諸伏先輩が、私の右手の薬指にはまった指輪に左手の親指で触れるのが見える。半年ほどの間に細かい傷がついてしまっているそれを、そうっと指の腹で撫でている。私の手元に視線を落とした彼の口元が、緩んでいるのも見えている。
離れていった手に、もう五分たったのかとびっくりしてしまった。手を包んでいた体温がなくなって、ひどく指先が冷えたような気になる。
諸伏先輩はありがとう、と言ってコーヒーを淹れに立ち上がった。反射的に、その手を取っていた。
「も、もう五分……」
どうやら私の情緒は、順調に育まれ始めたようである。
続く
「質問があります」
教えを請う生徒のようにそう言って、諸伏先輩が右手を上げた。挙手。似合わないなと思いながら、はい諸伏くん、と指名してあげたら楽しそうに笑っている。
もしかしたら先輩呼びじゃなかったから喜んでいるのかもしれない。上げていた手を下ろした先輩が、にこにこととても愛らしい笑顔を浮かべて、とんでもねぇことを言いやがりました。ごめんなさい先輩ちょっと口が悪くなっちゃったけど許してねっ、えへっ! 心の内でも棒読みでそう謝っておく。
「恋人予定にはどこまでなら許されますか?」
「どこまでも許しません」
「えっ?」
お前は何を言ってるんだ? そういう副音声が聞こえたし、宇宙人でも見るような目で見てくる諸伏先輩を無視して、今日はもう帰ろうと立ち上がる。
今日は泊まる予定だったが、なんかこの人不穏だ。手首を掴まれて強く引かれて、諦めてもう一度着座する。
「恋人じゃなくてセフレにするつもりですかご存じの通り体がアレなんで他をあたってください」
「環のその発言に過去が透けて見えるようで胸が痛い。誤解だ、何も抱こうってわけじゃない」
「…………」
「その目を、やめてくれないか……」
「……そういえばこの目は以前命令で禁止されていましたっけ? このヤリチン」
「誤解だ! というかその時も思ったけどなんでそんな発想になるんだ!?」
「その顔面凶器で、あんな手慣れた感じでホテルに連れ込まれたら誰だってそう思うわ!!」
「が、顔面凶器って、確認するけど褒めてるんだよな!?」
「そこじゃなくない??」
私としてはホテルに連れ込まれた時のあの手慣れた感じが怖かったって、そういう話をしているつもりだったんだけどな。
数々の美女を連れ込んだんだろうなって思ったのを思い出して、不快感に眉が寄るのを止められない。ここはセーフハウスだし、我慢しなきゃいけない理由がない。
「任務でホテルに女を連れ込んだことはある。否定はしない」
「任務以外の話をしてるんですけど。話をそらさないで下さい」
「任務以外? そんな暇あると思うのか?」
「……ふざけてんすか?」
「その言葉を、そっくりそのまま、返してやりたい」
公安としての仕事、スコッチとしての任務、その任務のために行った諜報活動。とてもじゃないが女を漁る暇はなかったと、諸伏先輩がそう言う。
「任務だって眠らせてはいさよならが基本だ。環にもそう教えた筈だろ」
「……男の人ってそういうの、据え膳食わぬは男の恥とかなんとか言って食べちゃうもんじゃないんですか?」
「――お前はまた……どうしてそう、偏りのある男を……」
顔を片手で覆ってなんだかひどく痛ましそうな空気を出す先輩に、どうやら据え膳云々はこの人には適用されないらしいと悟った。
へえ、そんな人も、いるんだ…。
え。じゃあこの人、ここ3年って思ってたけど、それ以上に彼女がいないし女を抱いてないってこと? それはそれで……怖いな。
「どっちにしろ怖がるんじゃないか!」
「勝手に脳内読まないで!」
「……彼女はいなかったけど…公安の把握してる店には世話になってたよ」
「…………」
「オレにどうしろって言うんだ…!」
「ちが、違うんです。今のは、うん、さすがに私が悪いです!」
「……お前が好きだって自覚してからは、女は抱いてない」
「…………うん」
お店のお姉さん。顔も見たことのないお姉さんにちょっとイラッとくる。イラッとくるってなにが??
あ、でも絶対綺麗だしおっぱい大きいし足もすらっと長いし……ちょっと見たくなってきちゃったな。先輩って何を重視してお姉さんを選ぶんだろう?
不快感より俄然興味が湧いてきた。過去の彼女とか聞いたら教えてくれるのかな。
……え?先輩の、元彼女? なにそれめちゃくちゃ聞きたい……面白そう。
「なんで面白そう、になるんだ? 途中までいい感じに嫉妬してただろ? そのまま嫉妬してろ」
「……先輩の彼女ってどんな人が多かったです?」
「開き直って聞いてくるんじゃない」
「お店のお姉さんはどこを重視ですか? 胸? お尻? 脚? 顔……ではないですよねきっと」
だって私を選んだぐらいだし、って続けたら先輩が私の頬をぐっと抓ってきた。
「環は可愛い。顔で選んだわけじゃないけど、そういう風に言われて腹が立った」
「いででで」
「真っ直ぐな気性とか、強い正義感とか、多分オレのためならあっさり盾になるんだろうなって覚悟の強いところ」
「手を、はなして……いでで」
「そういうところが、好きだよ。ああ、あと忘れちゃいけない。愛犬を大事に思ってるところ」
「……そ、ですか…」
離された頬を、そっと手で撫でる。諸伏先輩は私が自分を低く評価するとすぐに怒る。それを知っててつい言ってしまった私が悪いけど、ちょっと痛かった。
でも多分、痛い思いをしたのは先輩の方なんだなって、そう思う。そういう目をしている。
私をとても大事に思っているから、たとえ私自身にも貶められたくないのだと、そういう目をしている。
じわり、涙が浮かんでしまうのを止められなかった。そんな風に見つめられて、大事に思われたことなんてない。こわい、とちらりと思った瞬間、先輩がさっと身を引いた。
「ごめん、怖かったか」
怒ったことか、それとも頬に触れたことをか、どちらだろうとそう考えているのが分かる。多分、私にも分かりやすいように顔に出してくれている。
慌てて首を横に振って否定した。
「諸伏先輩が私を大事に思ってくれるのが、怖い」
「それは……失ったときを思うと、ってことで、いいんだよな?」
「ん」
「ふっ…偉いぞ、ちゃんと理解したんだな?」
「……はい?」
触るぞ、って一言予告してから諸伏先輩が私の頭を優しく撫でてくれる。一撫でして私が怖がっていないかどうか確認して、もう一度。
後輩として褒められて頭をぽんとされるとか、恋人偽装の時の慣れたような手つきではなくて。
「そうだよ、オレはお前を大事に思ってる。理解してくれて嬉しい」
甘やかして褒めて伸ばす。これか……。
恐る恐るっていう表現が似合うような手つきで頭を撫でられて、にじんだ涙がほろりとこぼれた。嫌な涙じゃ、ない。この人が私を大事に思ってくれるのを喜んでいいんだって、そういう涙に変わった。
しばらく頭を撫でてもらって、涙も落ち着いたころ。諸伏先輩がとてもとても言いにくそうに声を絞り出した。
「それで、どこまでなら許してもらえますか?」
「まだその話する??」
「頭を撫でるのは、大丈夫そうだなって思ってる」
「……え?」
「えっ、ダメ?」
「いえそうじゃなくて。……そのレベルの話をしてたんですか…?」
「だから最初に誤解だって言ったじゃないか」
「え。だって唯さんの時に手も繋ぐしおでここつんもしますよね…?」
「あれは任務だから。というか最近はしてないだろ」
この人今まで恋人偽装を名目に遠慮なく触っておいて……。
思わず笑いがこぼれるけど、我慢はしなかった。だって普通、最低でもキスぐらいはしたいって言うのかなって思うでしょう。この間キスされそうになったし、そう思うよね、うん。
「オレはまだお前の恋人じゃないし気軽に触れられない」
「あの、前から言おうと思ってたんですけど」
「ん?」
「恋人 ”予定” とか、 “まだ” 恋人じゃないとか。なんか、慎重な先輩らしくないですね…?」
「――ああ、そうだろ? 環の真似をしてるんだ。なあ、相棒」
未来の話をしないあの慎重な先輩が、私との関係の未来を語っている。それが彼から将来の相棒宣言を勝ち取った私の影響なのだと笑うのが、ちょっとどころじゃなく可愛い。
「頭を撫でるのが大丈夫そうだから、手をつなぐのから始めてもいい?」
「て。……手?」
「怖い?」
「いやいやいや、手でいいんだなって……思って」
「うん」
一分、いや五分でどうだろう?
真面目な顔をしてそう聞いてくるので、私はとても不思議な気持ちになりながら、頷いた。手でいいんだ? せめてハグぐらい要求するんじゃないんだ……??
「じゃあ早速。ほら、手を出して」
「は、はい」
向かい合って座る先輩が、左手をこちらに差し出してくるのでつい反射的に右手をそこに乗せてしまう。
ゆるく指先をまとめて握られて、この人ほんとに手を握るだけなんだな?とびっくりした。そうは言いつついやらしい手つきで掌つつーっとかやるんでしょ、と思ったのを反省する。
諸伏先輩が、私の右手の薬指にはまった指輪に左手の親指で触れるのが見える。半年ほどの間に細かい傷がついてしまっているそれを、そうっと指の腹で撫でている。私の手元に視線を落とした彼の口元が、緩んでいるのも見えている。
離れていった手に、もう五分たったのかとびっくりしてしまった。手を包んでいた体温がなくなって、ひどく指先が冷えたような気になる。
諸伏先輩はありがとう、と言ってコーヒーを淹れに立ち上がった。反射的に、その手を取っていた。
「も、もう五分……」
どうやら私の情緒は、順調に育まれ始めたようである。
続く