国家と国民に奉仕します!【俳優パロ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
休憩室、昼食のカップラーメンをすすっていたら熊先輩がやってきて私の前に座る。手の中には同じようにカップ麺、さらに熊のガタイを維持するためなのだろうおにぎりが二つ。ポケットから取り出した板チョコを私の前に置いてくれる。
「諸伏景光」
ぼそ、と告げられたその名前に、私は目の前に置かれたチョコに拳を叩きこんでいた。ばきんっ!小気味のいい音がして粉砕されたそれを先輩が回収して、ポケットに戻す。
どうやらくれるのではないらしい。くるみ割り人形ならぬ、板チョコ割り機にされたようだ。
3分だか5分だかが経ったらしい。先輩がカップ麺の蓋をめくり、割り箸を口に軽く咥えてぱきんと割る。
「…なるほど。人は見かけに寄らないのは、職務上知ってるつもりだったがな」
「―――なんのことですか」
「諸伏景光」
もう一度告げられた名前に、私は先輩が持っている割り箸に向かって手刀を放つ。思ったより柔らかいそれは、綺麗に割れることはなく、ぐにゃりと折れ曲がるだけにとどまった。
諸伏…景光…お前をこうしてやろうか…。
警察官としてというより人として完全にアウトな考えが一瞬だけ頭をよぎる。本当に一瞬だったのか?それは聞かないで欲しい。
私の反応が答えなのだとは、分かっている。だが相手が仲の良い熊先輩であったことと、あの撮影現場で諸伏景光を実際に見たことのある人間だと言う事実が…どうも縋りたくさせたらしい。
折れ曲がったままの割り箸でラーメンをすすり始めた先輩に、小声で話しかける。
「どういう人間に見えました?」
「…謹厳実直」
「それ以外で」
「…温厚質実」
「もっと下衆なやつをお願いします」
「それは環しか知らんだろう」
撮影現場で見ていた時だけならば、先輩の意見には同意しかない。だが私の部屋を訪れたあの彼には、絶対にあてはめたくない。そもそもーーーそもそもだ。何故彼は私のアパートを知っていたのか。
それすら分からないうちに、今度は勝手に家に侵入されていた。後で確認したが玄関の鍵穴にはどこにも傷などなく、ピッキングではなく奴が合鍵を持っていることを示唆していた。引き出しを確認したら確かに合鍵が消えていたので、おそらく初めての訪問時にちょろまかしていったのだろう。
「バスジャック発生!現場へ急行せよ!」
聞こえてきたその声に二人して急いで立ち上がる。食べかけのカップラーメンを二つ並べて机の上に残したまま、駆けだした。
「もうちょい幅寄せできますか!」
「ぎりぎりだっ!飛べっ!猿だろ環は!!」
「どちくしょう!!」
助手席の窓を全開にして身を乗り出し、苛立ち紛れに跳躍する。バスの車体につけられたミラーの根元を握り、わずかな凹凸に足をかけて、ずるりと滑る。ひゅっと喉が鳴り心臓が跳ねる。
落ちる…?落ちたら、死ぬよな…。後方の車両に引かれて。…死ぬ。……は??まだ諸伏景光を殴ってないのに??
開けてくれていた窓のわずかな隙間に手を突っ込んで、がむしゃらにバスにはりついた。
お前を!殴るまで!私は!死ねない!!お前一回だけでは飽き足らず二回目もしっかりヤっていきやがってこの野郎!!抵抗?できると思うかあのイケメン相手に!!
そうだよこんだけ腹を立てておいてなんだけどしっかり合意だよ一回目は流されちゃったけど二回目は嬉しかったんだよ!ヤリ捨てじゃなかったんだ!二回目もあるんだ!ってな!
腹を立ててるのは、二回目も朝起きたらいなかったことと連絡先一つ聞かれないし教えてもらえないことだよ!お前のあの温厚質実な顔はどこへ消えたんだ。私がそんな…軽い女に見えたっていうのか「どちくしょう!!」
その時自分がどんな顔をしていたのかは、私は知らない。だが窓越しに私を見たバスジャック犯が腰を抜かし、その隙に私が窓から侵入を果たして盛大に八つ当たりして軽くボコ…………手錠を後ろ手にかけたことだけは、記述せねばなるまい。
鍵もさしこまずに家の玄関のノブを捻る。がちゃ、と鍵がかかって開かないそれに、思いきり拳を叩き込む。少しぐらいへこんだところでどうせボロ…一歩手前のアパートである。大家だって気付かないだろう。
「いないのかよ!!」
よく考えたらいつもいつもいるわけではないのだが。
なんとなく、今日はいる気がしたんだけどな。振り回される己と、何も語らない諸伏景光に怒りが募る。なんのつもりでここへ来たのか、次会った時こそは問い詰めねば。
続く