暁の声





 宣戦布告を終えたファダニエルが姿を消すと、ゼノスの魂も抜けていったのかキャメロンの体が人形のように脱力してその場に倒れた。それと同時に帝国兵の体からも力が抜けきったので、カムイルはそっと帝国兵の体を横たえ、すぐ隣のキャメロンの体を抱えて腰を上げた。意識こそないが、すうすうと穏やかな呼吸が聞こえてきてほっと息を吐く。間違いなく、姉の魂は無事に彼女自身の肉体に戻ったようだった。
「大丈夫なの…っ⁉」
 カムイルが立ち上がると同時に、アリゼーが跳ねるように駆け寄ってきてキャメロンを抱えている腕を見上げてくる。アリゼーの身長でも見やすいようにカムイルが抱える腕の位置を下げると、覗き込んだアリゼーと、後から来たグ・ラハも安堵の表情を浮かべた。
「よかった…ちゃんと、元の体に戻ったのね…」
「うん、もう大丈夫そう。体あっためた方がいいと思うから、キャンプの方に運んでもいいかな?」
「もちろんよ」
 早く早く、と先導するアリゼーに従ってカムイルがキャンプへ向かって歩き出す。
 タッカーもそれに続いて歩き出したが、その途中ですれ違いかけたヤ・シュトラからいやに鋭い視線を感じ、身に覚えもあったので素直に足を止めて彼女へと振り向く。視線が合ったヤ・シュトラは、腕組みしてじっとタッカーを睨み続けていた。
「……どういうことか、説明していただけて?」
 織り込み済みの詰問だったので、タッカーも動じることなく用意していた返答をする。
「説明は可能ですが、貴女達よりもまず、目が覚めたお嬢様と若様へお伝えさせていただきたい。貴女達の疑問は、お嬢様ご自身ですら把握していないことなのです」
「なら、あの子達へ説明する場に私達も立ち会わせてもらえないかしら」
「できかねます。ご説明差し上げた上でそのことを貴女達に公表するか否かは、お嬢様が決めることですので。そもそも、他者の御家の事情にそうお節介に口を挟むものでもありませんよ。お嬢様達にとっては仕事のパートナーかもしれませんが、私にとっては、皆様は赤の他人でしかありませんので」
「……あの子達が随分と面倒な家の生まれだということだけは理解できたわ」
 これ以上言ったところで聞き入れてもらえないだろうと悟り、ヤ・シュトラは呆れたように肩を竦めてキャンプへと戻っていく。そんな彼女の背中に続いて、タッカーもキャンプ・ブロークングラスへ足を踏み入れた。

 キャンプの中では一般的な治療と並行してテンパード化してしまった者達への治療も続いており、キャメロンからの報告では聞いていたものの実際にテンパード化が解除されていく様子を目の当たりにしたタッカーは「ほう…」と感心した声を漏らした。
「あら、何か貴方の興味を引くようなものがあったかしら?」
「テンパード化した者の治療について、お嬢様から大まかな仕組みなどは聞いていたのですが…実際に目の当たりにして、感心しております」
「貴方こそその筋の有識者なのかと思っていたけれど、そうでもないのかしら」
「私はしがない執事ですよ」
 ヤ・シュトラの軽いジャブをひらりと躱してみせると、彼女がまた少し眦をつり上げたので気付かないふりをしてカムイル達の方へと合流する。皆が取り囲むようにしている中心を覗き込めば、コンテナに背を預けて座るカムイルの腕の中でキャメロンがちょうど目を開いたところだった。
 安堵の笑みを浮かべる一同の顔を一通り確認し、キャメロンはぱちぱちと翠玉の眸を瞬きさせた。カムイルの膝の上から勢いよく飛び降りて自身の体を確認し、次いで、つい先程まで抱えられていたカムイルと当たり前の顔でヤ・シュトラ達の隣に並んでいるタッカーを見て表情を硬くする。
「……当たり前だけど、お兄様の許可はもらって出てきてるんだよね?」
 キャメロンの言葉に、タッカーが深々と頭を下げた。
「そのことにつきましても、いくつかご説明させていただきたいことが……他の皆様はこれからバブイルの塔攻略へ向けた準備に入るとのことですので、その間、お嬢様と若様のお時間をいただけないでしょうか」
 キャメロンが振り返ると、カムイルも頷き返してくれた。キャメロンはもう一度だけ暁の賢人達の顔を見回し、最後にアルフィノとアリゼーを交互に見てから一つ頷いた。
「急に驚かせてごめんね。ちょっと、家の人と話してくる」
「構わないよ。その代わりに、落ちついたら私達にも話せる範囲で聞かせてほしいな」
 アルフィノへ首を縦に振って答え、キャメロンはカムイルとタッカーを連れてマキシマが個室代わりにと宛がってくれた倉庫へ向けて歩き出した。


   ◆◇◆


 一方、クガネ―東アルデナード商会ウルダハ商館にて。
「…………これはまた、随分と、思い切ったご決断をしましたネ」
 扉が締め切られた最奥の特別応接室。対面で応対する顧客こそその場にはいないが、例えリンクパールの通信であっても他者には決して聞かせるわけにはいかない特別な商談。
 孤独な応接室で、ハンコックは平時の彼には珍しいくらいにシリアスな声色を通信先の相手へ返す。取引相手はハンコックが専属で担当している上客の中でも殊更に訳ありの男――ジャヌバラーム家四代目当主にして、霊災後に台頭した新進気鋭の錬金術材専門商社ガルシア錬金商の社長。言わずもがな、ケイロン本人である。
 ハンコックとケイロンのビジネスパートナーとしての交友歴はけして浅くはないが、当家の事情が事情なだけに、普段は代理人のタッカーや実際に商材の製作を担当しているカメリアと取引をすることが多い。こうしてケイロンと直接言葉を交わすのは数年ぶりのことで、それだけに、彼から依頼された仕事内容もかつてない程に重要なものだった。

 ――ジャヌバラーム家現当主であることと当家の総資産額を世間へ公表するにあたり、先立ってロロリト会長とナナモ陛下へ内々にその旨を伝えて相談したいため、三者のみで会合できる席を設けてほしい。
 ケイロンが彼の出自を公表することとそれに付随する経済効果はハンコックにとっても喜ばしいことではあるが、同時に、同じくらい頭の痛い問題でもあった。何しろハンコックは、あのロロリトを差し置いてケイロンの正体を把握したまま長いこと取引を続けており、すべて織り込み済みでクガネ支店の営業利益を生み出してきていたのだ。知らなかったと白を切ることは簡単だが、育ての親であり商人としての師でもあるロロリトにはすべて見透かされてしまうだろう。
 だがこれは、それらの懸念を呑み込んででも成功させなければならない商談だ。腹を決めたハンコックは、赤いレンズの奥に隠した紫色の瞳をぎらつかせた。
「承りました。御当家のお名前を出せば、ロロリトは必ず応じるでしょう。会合の場所にご希望はございますカ?」
「その点は、陛下のご足労を最優先に考えてもらって構わない。お目通りが許されるのならどこへでも馳せ参じると伝えてほしい」
「……デスが、お体の具合はよろしいのデ?」
 体質のことも承知しているハンコックは心配になり、念押しするようにケイロンに確認する。その細やかな心遣いに敏腕商人の気質を感じ、ケイロンは思わず通信の向こう側で小さく笑いを溢した。
「ああ、大丈夫だ。私の厄介な体でもある程度は自由に出歩ける装束がようやく完成したのでな。それもあって、今回の運びになったのだ」
「それはそれは…御当家特製の装束ともなれば、効果も確かなものなのでしょう。それでは、ロロリトとの話がつき次第、またこちらから連絡いたします」


 ハンコックとの通信を終えたケイロンは、リンクパールを耳から外して机の上に置くとようやく一息吐けたような心地になった。
 処は、ウルダハ都市内でも高級店が並ぶ富裕層向けの立地に面した高級宿。その最上階にある最高ランクの部屋を数ヶ月押さえたいとフロントに伝えると最初は邪険な目で見られたが、ガルシア錬金商の名前を出すと、今度は一気に顔を青ざめさせて深々と頭を下げられた。すぐに複数名のベルボーイがどこからともなく現われ、チョコボキャリッジから下ろしきれずにいた大荷物(そのほとんどはカメリアの仕事道具なのだが)をいそいそと館内へ運び始めた。そのままベルボーイ達に手伝わせて寝室のうちの一つを出張型の錬金工房へ魔改造したカメリアがリビングルームへ顔を出し、ケイロンと机を挟むようにして相向かいのソファにどっしりと腰を下ろす。
「こんな、金に物言わせるような慣れないことしちゃって……今まで豪遊らしい豪遊もしてこなかったのに、どういう心境の変化?」
 生活水準を上げることもなく資産のほとんどをライフワークの文献収集に充ててきていたのに珍しい、と膝の上で頬杖をついたカメリアがじっとケイロンを見つめる。見つめられたケイロンといえば、いつものポーカーフェイスを少し崩して片眉を上げてみせた。
「別に、浪費がしたかったわけじゃないさ。ここは東アルデナード商会傘下のホテルの中でも比較的新しくオープンしたばかりで、調度品や提供される食材の調達に商会内の組織が優遇されていることはもちろん、アラミゴ難民の中でもウルダハへの移住を希望する者達の雇用機会を増やすために彼らを積極的に採用している。商いによって国益に貢献するロロリト会長と、難民政策に心を砕いてきたナナモ陛下どちらにとっても肝煎りの宿なんだ。となれば、次は資産を持つ者が経済を回す番だろう」
「なるほど。旦那なりの二人への誠意の証、ってことだね」
 話が落ちついたところで、来訪者を知らせるベルが室内に上品に響いた。カメリアが腰を上げて小さくルームドアを開けると、身なりのようさそうな従業員と目が合って深々と頭を下げられる。
「お寛ぎ中のところ、大変申し訳ございません。当ホテルの重役が是非、お客様にご挨拶させていただきたいとのことでございますが…ご都合はいかがでしょうか」
 カメリアは一度扉を閉じると、ドアから伸びる廊下を歩いて再び居室に顔だけ覗かせる。従業員の声が届いていたケイロンは、黙ってカメリアに頷いて見せた。
「大丈夫です、どうぞ入って下さい」
「ありがとうございます」
 再び、今度は客人を招くためにしっかりとドアを開いたカメリアは、従業員とドアの影になって見えなかった重役の姿を見て目を丸くした。
 驚くカメリアを横目に重役の男は勝手知ったる部屋の廊下を進み、居室へ一歩足を踏み入れると、その場で素顔を覆う仮面を外して見せた。それを見たケイロンも一度ソファから降り、男へ深く一礼する。
「素顔の貴方とお話させていただけるとは。光栄です、ロロリト会長」
「いや、なに…あのジャヌバラーム家の御子息殿が、こうして姿を見せてお出でなのです。こちらとしても、顔を隠したままでは不義理になりましょうぞ」
 東アルデナード商会会長――ロロリト・ナナリト。
 ウルダハ政財界の重鎮中の重鎮と呼んでも過言ではない男を前に、ケイロンは久々に緊張で胸が震えた。

 ソファにかけるように手で促し、ロロリトが腰かけたのを確認してからケイロンも再び腰を下ろす。ちょうどそのタイミングで客室備え付けの茶器一式を持ったカメリアが戻り、ロロリトの面前で茶葉と湯の用意を始める。それを見たロロリトは顎鬚を撫でながら「ほう」と感心したように声を漏らした。
「あえて我が宿の茶器と茶葉を使って見せることで、害意はないと示すか……これで一服盛れるものなら大したものだ。そのときは、完敗だと白旗を上げるしかありますまい」
「手厳しいご冗談だ。これから懇意にさせていただきたい大切な客人に、そのような無礼をはたらく側近ではありません。どうかご安心を」
 ロロリトに言い当てられた通り、カメリアがあえてこの場でもてなしの用意をしているのは、薬剤商である自分達にそのつもりはないのだとロロリトへアピールすることが目的だった。自分の浅知恵ではこの老獪な男は簡単に出し抜けないのだと思い知らされ、カメリアは胸の内だけで舌を打った。
「時にそちらの錬金術師殿は、随分と先代当主殿の名代に似ておられる。よもや、彼女の御子息ですかな?」
「名代、とは…やはり、当家の外商の仕組みには気付いておいででしたか」
「貴殿とお会いするまでは半信半疑といったところ。ですが、お二人の顔を拝見して納得がいきました」
「お察しの通りですよ。この者は家族も同然に育った、生涯の友です。我々が市場に流している商品は、すべて彼が製作をしております」
 カメリアはロロリトとケイロンそれぞれに紅茶を出すと腰を上げ、ケイロンのすぐ後ろに直立で控える。その誠意を受け取ったロロリトは疑うことなく紅茶を口元へ運んだ。
「……あのガルシア錬金商の若き才能がジャヌバラーム家の御子息殿だと聞いたときは、久々に腰を抜かすかと思ったが…霊災復興後から今日までの短い歳月でここまでの一大商社へ上り詰めた手腕は、確かに彼の家の血を引いておられる何よりの証拠。しかし何故、すでに名の通っていた先代殿の看板を下ろし、そしてまた、今度はその家名を世に公表しようと考えたのですかな?」
 当然突きつけられると思っていた質疑だったので、ケイロンはロロリトを真正面に見据えたまま、自らの胸の内に抱いてきた想いを包み隠さずすべて話した。

 ジャヌバラーム島の現状から始まり、そもそも父の代までの当家の在り方に、内部的にも対外的も疑問を抱き続けていたこと。
 第七霊災は予期せぬ不幸ではあったが、家名が存在ごとリセットされたことが自分にとっては最大の商機だと捉えてあえて利用したこと。
 ガルシア錬金商としての経営が軌道に乗り始めてからも自身の出生を明かさなかったのは、妹が暁の血盟に冒険者として所属しており、当家との関係が明るみに出ることで、中立組織である彼らに金銭面での根も葉もない噂が立つのではないかと懸念しての判断だったこと。
 だがテロフォロイの脅威によってエオルゼア全土が混迷を極めようとしている今、財力と技術力を持つ自分達が知らぬ存ぜぬを突き通すわけにはいかないという固い意志。

 自身と比べればまだまだ青臭さが拭えないケイロンの思いの丈を黙してすべて受け取ったロロリトは、腕組み目を伏せてしばし思案し、「うむ」と低い声を響かせて唸った。
「貴殿の提案には概ね賛同いたしましょう。おそらく、ナナモ様もご納得されるかと。ですが……」
「…………」
 いくつか注文をつけたそうに言葉尻を上げたロロリトを前に、ケイロンは緊張で膝の上に置いたままの拳をぎゅっと握り込んだ。
「御当家の資産の一部を無事に抱え込んだままだという情報は、伏せた方がよろしいかと。あくまで貴殿の商社が利益を上げてきた結果であり、霊災後の逆境から家業を立て直して新生させたという見せ方のほうが、今のウルダハの政治情勢や、妹君への影響を鑑みても好ましい」
「……不躾ながら、そのお心は?」
 根拠が知りたい、とケイロンはわずかに身を乗り出した。その反応が、自身の考え方にケチをつけられたことに対する反発ではなく、「百億ギルの男」の考えを直に学ばせてもらいたいという貪欲な姿勢だとわかっているロロリトは、少し機嫌がよくなって口元をほころばせた。
「今の時世、民衆からの関心と支持を得られるのは、持つ者から与えられる施しではなく、自分達と同じように持たざる者だった…或いは、逆境に立たされた者が前を向いて立ち上がり、その先で自分達と共に明日の成功を掴もうとする姿。莫大な生前分与を元手に成功されたことはもちろんご立派ではありますが、商機を見極め操ることの難しさを知らぬ者達にとっては見れば、それは財を持つ者ならばできて当然の結果に映る」
 手厳しい指摘にケイロンは思わず視線を下げ、だが、逃げるまいと再びロロリトを見る。その気概によしと頷き、ロロリトは話を続けた。
「それから、御当家の総資産額を素直に公表するのもよろしくない。砂蠍衆の一角に食い込める財力であることはもちろん、そんな貴殿の妹君は、有り余る陛下への忠誠心が良くも悪くも我が国の政財界では有名だ」
「それはまた、お恥ずかしい限りで…愚妹が申し訳ございません」
 報告で把握している以上にキャメロンがウルダハ上層部の眼下で暴れまわっていたのだと改めて思い知らされ、ケイロンは妹に代わって頭を下げた。
「彼女の所属組織のトップは中立派ではあるが、同時に、立法を担う礼拝堂の大司教でもある。法を司る組織に莫大な資産を抱え込んだ名家の令嬢が席を置いているとなれば、否応なくそこを突いてくる者が現れましょう。あくまで、貴殿は商人として、そして妹君は冒険者として、一切の後ろ盾を失った逆境から立ち上がったことにした方がよい。暁への風評はもちろんのことではあるが、ウルダハ国内での立ち回りを考えても、ジャヌバラームの黄金は失われたままだと世間に思わせておくべきでしょう」
 ロロリトに指摘された内容は尤もなものばかりで、そんなつもりは毛頭なかったが、ケイロンからは異議も反論もできなかった。年長者であり大商人としても先達であるロロリトの言葉をしっかりと胸に刻み、ケイロンは頷いた。
「ご意見いただき、本当にありがとうございます。ぜひロロリト会長の案でナナモ陛下へもお話を通していただきたいのですが、陛下へのお伺いはお任せしてもよろしいか」
「ええ。大至急、取り計らいましょうぞ。あくまでジャヌバラーム家存続の真実は、陛下とワシと貴殿らの胸の内だけの話…今の世に求められる大資産家に相応しい姿に仕立て上げ、貴殿を世に送り出そうではありませんか」
 ケイロンとロロリトは互いにソファから降りて歩み寄ると、カメリアが見守る目の前で固い握手を交わした。


   ◆◇◆


 キャメロン達が話をする間、暁の賢人達もまた内々に現状の確認や今後の方針について話し合うために宛がわれた個室の中に集まっていた。とはいえサンクレッドだけはこっそりとキャメロン達が入った倉庫の裏へ潜入しており、少しでも聞き耳が立てられないかと得意の諜報活動の真っ最中だった。
 粗方の課題については意見を出し終えたところでちょうど扉が開き、雪を払いながらサンクレッドが中へと入ってくる。首尾はどうだと身構える一同を前に、頭を振るって髪についた雪を払ったサンクレッドがおもむろに口を開いた。
「とんでもない話になったぞ…――あいつら、あのジャヌバラーム家の生き残りだ」
「なんですって?」
 サンクレッドの言葉にいち早く反応したのはヤ・シュトラだった。賢人であるウリエンジェとグ・ラハも驚きで口を開き、彼らほどの反応ではないが、聞き覚えのある家名にアルフィノとアリゼーも顔を見合わせた。その方面に詳しくないエスティニアンは腕組みした姿勢を崩さず、そのまま他の者達の意見を聞こうと瞳を閉じる。
「駄目押しでパパシャン殿からも連絡をもらった。今、あいつの兄……現ジャヌバラーム家の当主がロロリトとナナモ様との三者会合の場を設けてようとしていて、その旨を二人へ直々に告白したとな。ナナモ様のご厚意で、俺達だけは事情を把握しておいた方がいいからと、パパシャン殿を通じて知らせてくれたらしい。それから…」
 まだ何かあるのか、と一同が話の続きを待つ。その焦れるような視線を一身に浴びて、サンクレッドは重々しい表情をさらに険しくして話を続けた。

「あの二人…双子なんて生易しい関係じゃない。互いの魂を構成するエーテルを無理矢理に結びつけられた、文字通り一蓮托生の魂の片割れ同士だったんだよ」

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