暁の声





 生涯の友を得た、と思った。

 空中庭園で神龍を目にしたあの時、お前の翠玉の眸の奥で燃え上がった炎を確かに見た。
 あれは戦いに魂を燃やす焔だ。狩るべき獲物を定めた高揚だ。だからこそ、俺の生涯の友に相応しいと思った。
 神すら殺すお前の殺意を喉笛に感じた。お前が俺に牙を剥くのであれば、例えそれが憎悪の感情でも構わない。何でもいい。お前が俺を獲物と見定め、身の内のエーテルを焦がしている。神々を焼き払ってきた劫火をこの身で受けるのは至上の喜びだ。醜く泥のような生の中で、初めて見た光がこんなにも、赤く燃え盛っている。
「嗚呼……愉しいぞ…!」
 燃え尽きた。神の力さえ御した俺が、全身全霊で相対し、そしてお前の劫火に焼き尽くされた。なんと熱く、荒々しく、眩い光だったであろう。この先など、これ以上の悦びなど、存在しない。この先などあり得ない。故に俺は、泥のような生の中で唯一感じられた悦びを永遠にすると決めたのだ。
 そうして永遠となるはずだった俺の悦びに、ふと、一粒の露が落ちた。
 落ちた露は俺の悦びに触れ、弾け、小さな波紋を描いて広がっていく。閉じたはずの俺の瞼に煩わしい朝陽が差し込んだのは、その波紋が広がりきって消えたその時だった。

「――お目覚めですか、殿下?」

 閉じた瞼の裏側で、何度もお前との戦いを夢に見た。何百、何千、何万回と刃を交え、この身を焦がされている内に、見えてきたものがある。
 あの戦いの最中ではお前の焔の眩さに目が眩んでいた。あまりの悦びにそれ以外の何も見えなくなっていた。だから気が付かなかったのだ。
「…………お前は終ぞ、俺を獲物とも仇とも思っていなかったのだな」
 お前は最初から最後まで、帝国への復讐に囚われたあの男を見ていたのだ。神龍を見て目の色を変えたのは、俺がその力を得たからではない。あの神話なき神が、お前が狩り損ねた男の妄執が生み落とした『獲物』そのものだったからだ。
 嗚呼、なんと悔しく、憎いものか。
 俺が生涯唯一と感じた悦びの瞬間、お前は俺を見てすらいなかった。俺に向けられたと思っていた怒りも、憎しみも、すべて俺をすり抜けてあの男へと向かっていたとは。
 ならば今度こそ、お前のその焔を俺に向かせてみせよう。
それが憎悪でも、憤怒でも、何でも構わない。あの男と同じようにお前の大切なものを奪えば、傷つければ、お前の劫火をこの身に向けてくれるのか。そのために必要ならば、俺は幾つでも奪い、踏みにじり、屠ろうではないか。
俺が死に損なった理由など、それ以外には何もないのだから――


「――――…今度こそ、殺したいほど、俺を憎めよ」

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