赤い糸
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アオイ先輩のお家は定食屋さんだ。
名前は【あおぞら】。
おおぞらは定食屋だけど、定食以外にも何でも出てくる。最早定食屋の域を超えているのでははないだろうか。
これは、そんな定食屋あおぞらにお邪魔したある日の話。
その日はお父さんもお母さんも仕事で、家には私しかいなかった。
休みの日を1人で家で過ごすのは珍しいことではないけど、ぽつりとひとりぼっちでご飯を食べるのはなんだか寂しい。
だから、誰かがいる空間でご飯を食べたくて、家から近いあおぞらに向かった。
アオイ先輩のご両親とはもう何度も顔を合わせているし、あおぞらは金額的にも財布に優しいから、高校生の私が1人で入っても安心できる。
お店は比較的空いていて、私と片手で数える程しかお客さんはいなかった。アオイ先輩にも会えるかなって思ったけど、どこかに出かけているみたいでいないみたいだ。
そして、お客さんの中に1人、目を引く人がいた。
ピンクと黄緑色が混じった髪の毛の女の人だった。
こんな髪の毛の人なんて初めてみたし、まるで桜餅みたいだ。
パッチリとした瞳に艶のある唇。美人、美女、そんな言葉では足りないほど綺麗な人だ。それに、胸も大きい。何カップあるんだろうと邪推してまうほどだ。
美味しそうに牛丼を頬張っているけど、牛丼はメニューに載っていないから、彼女のために特別に作られたものだろう。テーブルの上には空になった丼がいくつも重ねられている。
ジロジロと見るのも野暮なので、あまり気にとめないようにして席に着いた。メニューを見て、注文をしようと店内を見回したとき、その牛丼の美女と目が合った。
彼女の手から、ポロリと箸ごと机の上にお肉が落ちる。
口の端にご飯粒をつけたままかたまる彼女と見つめ合うこと数秒。
耐えきれなくなった私は思わず口を開いた。
「あの…落としましたよ?箸とお肉…机の上に…」
「え…」
「大丈夫ですか…?」
「あ、ああ!ごめんなさいね!どうもありがとう!」
「いえ…あと、口の端にご飯粒ついてます」
「え!?やだ、恥ずかしいわ!」
そう言って牛丼の美女はご飯粒を探すかのように、口元をぺたぺたと触りはじめた。無事に見つけてもらえたご飯粒は、牛丼の美女の口の中に入っていった。
「本当にありがとう!ご飯粒をつけたままなんて、笑いものになってしまうところだったわ……」
牛丼の美女はそう言って恥ずかしそうに笑ったあと、私をじっと見つめた。
そんなキラキラした綺麗な目で見つめられると、なんだか困ってしまう。
何か言ったほうがいいのかと悩んでいると、牛丼の美女が口を開いた。
「あなた……」
「な、なんでしょうか?」
「あっ……ごめんなさい。その、知り合いによく似ていたものだから」
「知り合い?」
世の中には自分と同じ顔の人が3人いるって言うからなあ。
牛丼の美女が言う知り合いは、多分そのうちの1人なのかもしれない。
「ねえ、そっちの席に行ってもいいかしら?」
「あっ、どうぞ」
空いた席に促すと、牛丼の美女は「ありがとう」と言いながら私の向かい側に腰を下ろした。
「私、甘露寺蜜璃っていうの。あなたのお名前は?」
「みょうじなまえです」
「まあ!名前まで一緒!こんな偶然あるのね!」
「えっ、そうなんですか?」
同姓同名で、顔も一緒。なにその奇跡。凄いな。
そのお知り合いさんとやらに会ってみたいものだ。
「なまえちゃんってもしかして、キメツ学園の生徒さん?」
「はい」
「私もそこの学校出身なの!」
「甘露寺さんも?へえ、そうなんですね…!」
「甘露寺さんだなんて水臭いわ!昔みたいに蜜璃って呼んで?」
「え……?」
私この人に会ったことあるっけ?
もしかしたら記憶がないくらい小さいときにあってるのかな。
全然思い出せないや。
「蜜璃、って」
「は、はい……」
「昔みたい」という言葉に戸惑いながら「蜜璃さん」と呼ぶと、蜜璃さんは嬉しそうににっこりと笑った。
「ねえねえ、なまえちゃんは恋をしている?」
「こ、恋……?」
「好きな人とかいないの?」
「好きな人ですか?」
「うん、そう!」
好きな人って。
随分と切り込んだことを訊いてくる人だな。
でもこのキラキラとした瞳を前に嘘なんてつけそうにない。
それに、私の記憶では初対面のはずなのに、なんだか懐かしい感じがする。
「まあ……一応、います……」
「どんな人?」
「どんな人って、えっと…背がすごく高くて、優しくて、涙脆くて……あと、猫が好きです」
「その人はなまえちゃんより歳上?」
「そうですね、結構歳上です…」
「そっかあ……ねえ、なまえちゃんは、運命の赤い糸って信じる?」
信じるも何も、私には赤い糸が見えているし、蜜璃さんの指にも繋がっている。
お店の外に向かってのびてるけど、蜜璃さんも誰かと繋がっているんだ。
「信じてます。その、赤い糸のこと……」
「そう……私も信じているわ」
蜜璃さんはそう言って、何かを懐かしむような優しい瞳で、私の手元をしばらく見つめていた。
そして帰り際、蜜璃さんは私の手をぎゅっと優しく包むように握って、「また会えて嬉しいわ」と小さな声で呟いて、お店を出ていった。
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