番外編
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お互いの気持ちを確かめ合うことができた伊之助となまえ。
あの日からも今までと変わらず伊之助がなまえに会いにいく日々が続いていた。
本当に今までと何も変わらなかった。唯一の変わったことを挙げるならば、お互いに「好き」と言い合う気持ちを伝え合うだけだった。
初めての恋をしている2人にはハードルが高いのか。
それとも初めて故に無知なのか。
抱き合ったりキスをしたり、もちろんその先のことも、恋仲らしいことはまだ何ひとつとして済ませていない。
好きだという気持ちをもっと伝えたい。
どうしたら伝わるのだろうか。
いつも隣で微笑む彼女を見つめながら、伊之助はそんなことを考えていた。
「なあ、健太郎。好きだってこと、どうやったらもっとたくさん伝えられるんだ?」
修練終わりに蝶屋敷の一室で寝転んでいた伊之助が、同じように隣で休んでいる炭治郎に聞いた。
「えーっと…どうしたらいいんだろう…言葉じゃなくて態度でも示してみたらどうだ?」
「態度?」
「うーん…そうだな、善逸はどうしたらいいと思う?」
「はあ……なんで俺にふるんだよ」
2人の傍でみたらし団子を貪っていた善逸がため息混じりに答えた。
ちなみにこの団子は、蝶屋敷の台所からくすねてきたものではなく、善逸が自分のお給金で買ってきたものだ。
「善逸は女の人が好きだから、そういうこともわかるんじゃないかって」
「今遠回しに失礼なこと言ったよな?知るかよ。俺が聞きてえよ」
善逸が炭治郎を睨みながら捲し立てた。
「そっか…」
「凡逸もわからねえのか?」
「え…なんかごめん…?いや、そうじゃなくて…なんで謝ってんの、俺…」
「わかるのか?」
「あー……えー……強いて言うなら…そうだ、お前口づけはもう済ませたのか?」
「クチヅケ?」
初めて耳にするその言葉に伊之助が首を傾げた。
「え、してないの?」
「してねえ。なんだそれ」
「何って、口と口をくっつけるんだよ」
「こうやって」と善逸は自分のひとさし指を擦り合わせた。
「くっつけたらどうなんだ?」
「どうって…そうしたらもっと好きってこと、伝わるんじゃないの?まあ俺もしたことないからわかんないけどね!?」
「なんだ、したことねえのか」
「ねえよ!!なんでそんな哀れみの目で俺を見んの!?お前もしたことないだろうが!!」
「そう落ち込むなって。凡逸もいつかできるはずだ」
「だから心配すんなよ」と、伊之助が寝っ転がった。
「そういう問題じゃないんだけど」と善逸は伊之助を恨めしそうな目で見つめていたが、伊之助にはなまえのことしか頭にないようだった。
その日も伊之助となまえは、彼女の家の縁側に仲良く並んで座っていた。
善逸が教えてくれたことを早速やってみようと思った伊之助がなまえのほうに向き直る。
「なまえ」
「はい」
「好きだ」
「わ、私も、伊之助様のことが好きです…」
真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる伊之助に、なまえの頬が紅く染まる。
どちらかともなく膝を寄せ合い、2人の間に甘い雰囲気が漂いはじめた。
「凡逸に、なまえに好きだってこと、もっと伝えられる方法聞いてきた」
「方法?なんでしょう…?」
「動くなよ」
「わ、わかりました…」
猪頭をとった伊之助がなまえの両肩を掴み顔を寄せる。
2人の距離が徐々に近づき、なまえは静かに目を閉じた。
伊之助の唇が、薄く紅が引かれたなまえの唇に優しく重ねられる。
「んっ……」
初めての口づけになまえが声を漏らした。
全身がブワッと燃えるように熱い。
頭がふわふわする。
伊之助も同じだった。
触れあったところからなまえの熱を感じる。
その熱でそのまま溶けてしまうのではないかと思った。
唇が重なってから数秒後、名残惜しそうに伊之助の唇が離れていった。
「…っはあ……なまえ…」
「はい…」
「伝わったか……?なまえが好きだってこと、ちゃんと伝わったか?」
伊之助が額をコツンと合わせてなまえを見つめる。
「じゅ、十分伝わりました…」
「本当か?」
言葉ではなく態度で「好き」と伝えてくれたことが、なまえは嬉しかった。
だけど、熱を知ってしまった唇は正直で、もう一度してほしいと思ってしまう。
「あの、伊之助様…やっぱりもう一度…んぅっ」
なまえの言葉を聞き終える前に、伊之助が噛みつくような勢いでキスをした。
肩を掴んでいた伊之助の手がなまえの手に移り、2人の指が絡み合う。
唇が少し離れてはまた重なり、それが何度も繰り返される。
呼吸が段々乱れはじめ、互いの息遣いと漏れた声だけが聞こえる。
重ねるだけだった口づけが、啄むようなものに変わり可愛らしいリップ音が響いた。それに応えるかのように、なまえは絡めた指に力を込めた。
どのくらいそうしていたのだろうか。
ここが、誰がいつ通ってもおかしくない、なまえの家の縁側だということも忘れて、2人は初めてのキスに夢中になっていた。