ただのありふれた恋
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ぴかぴかでつやつやのどんぐりを見つけて伊之助様に差し上げようと思ったのに。
探しているうちに山の奥に進みすぎてしまったのか、帰り道がわからなくなってしまいました。
日も落ちてあたりも真っ暗。
それだけならよかったのですが、どんぐりを探すのに夢中になって、どこかに藤の香袋を落としてきてしまったようです。
落としたことに気付けばと、今更後悔しても遅いのです。
生まれて初めて鬼というものを目にしました。この世のものとは思えない異形の姿をしています。
本当に鬼というものは存在していたのですね。
伊之助様はこんな恐ろしいものと戦っていらっしゃる。
走っても走っても適度な距離を保ちながら追いかけてくる。
きっと私の脚では逃げ切るのは無理でしょう。
私はここで死んでしまうのでしょうか。
いやだ。死にたくない。
こんなところで、まだ死にたくない。
もっといろんなことをして、いろんなものを見て、いろんなところに行きたい。
死ぬとわかった途端にやりたいと思うことが山ほど浮かんでくる。
それに、また今度と言われて、お待ちしておりますと言いましたのに。これでは約束を守れません。
お慕い申し上げておりますなどと、そんなことを言われて迷惑だったかもしれません。
せめて返事だけでも聞きたかった。
だけど、もう足が、身体が思うように動かない。
息を吸って吐く。
それさえも苦しい。
***
なまえは逃げることに必死だった。
鬼はそんななまえを面白がるかのように、すぐに捕まえようとはせず、一定の距離を保って追い回した。
呼吸を乱しながら走るなまえに鬼が近づく。力尽きたなまえが膝から地面に崩れ落ちた。
鬼の手がなまえに向かってのびる。
なまえが振り向くと鬼の手が目の前にあった。
もう死ぬのだ。
このまま、母と兄のように、骨も残らないまま喰われて死んでしまうのだ。
なまえが諦めたように静かに目を閉じた。
その瞬間、何かがゴトリと落ちる音がした。
思わず目を開けると、足元に鬼の首が落ちている。
「ひっ…!」
鬼の身体も首も消えかけているが、間近で見るとより恐怖が増す。これが先程まで自分を追いかけてきていたのかと思うと恐ろしくて震えが止まらない。
何が起きているのか理解できなかった。
「なまえ!」
その声を聞くまでは。
「なまえ?…おい!大丈夫か!?」
「あ……い、伊之助様…」
気づけば伊之助が目線を合わせるようになまえの目の前にしゃがみこんでいた。
「どこも、怪我してねえか!?」
「え…怪我?えっと、あの…」
「どっか痛えとことか…あっ!おい!」
伊之助がなまえの腕を掴む。傷口から溢れる血が止まらない。
「血出てんじゃねえか!」
「さっき、逃げるときに、何度か転んでしまって…恐らく、それで」
なまえの身体をよく見ると、所々に小さなかすり傷や血の滲んだ傷があった。
「傷だらけじゃねえかよ……権八郎に、好きなやつは守らないとダメって言われたのに…!」
「え…炭治郎様…?」
混乱するなまえをよそに、伊之助が猪頭を取り血が溢れる傷口に唇を寄せる。
「伊之助様!?何をなさっているのですか!?汚いですから、お止め下さい!」
なまえが止めようとするも、伊之助は血と一緒に傷口についた汚れを吸い上げ吐き出す。
「血、なかなか止まらねえ……そうだ!」
「あっ!?」
伊之助がなまえの肌蹴た襦袢の端を引き裂き、傷口に巻き付けた。
「今はこれで我慢しろ。父ちゃんにまた新しい服買ってもらえ」
「あ、あの…」
「立てるか?」
「申しわけありません…こ、腰が抜けて…立てません」
「しょうがねえな…しっかりつかまってろよ!」
「きゃあ!?」
伊之助がなまえを抱きかかえ走り出した。
「すぐにお前ん家に連れて帰ってやるからな!」
伊之助がそう叫ぶと同時に、なまえは意識を手放した。
探しているうちに山の奥に進みすぎてしまったのか、帰り道がわからなくなってしまいました。
日も落ちてあたりも真っ暗。
それだけならよかったのですが、どんぐりを探すのに夢中になって、どこかに藤の香袋を落としてきてしまったようです。
落としたことに気付けばと、今更後悔しても遅いのです。
生まれて初めて鬼というものを目にしました。この世のものとは思えない異形の姿をしています。
本当に鬼というものは存在していたのですね。
伊之助様はこんな恐ろしいものと戦っていらっしゃる。
走っても走っても適度な距離を保ちながら追いかけてくる。
きっと私の脚では逃げ切るのは無理でしょう。
私はここで死んでしまうのでしょうか。
いやだ。死にたくない。
こんなところで、まだ死にたくない。
もっといろんなことをして、いろんなものを見て、いろんなところに行きたい。
死ぬとわかった途端にやりたいと思うことが山ほど浮かんでくる。
それに、また今度と言われて、お待ちしておりますと言いましたのに。これでは約束を守れません。
お慕い申し上げておりますなどと、そんなことを言われて迷惑だったかもしれません。
せめて返事だけでも聞きたかった。
だけど、もう足が、身体が思うように動かない。
息を吸って吐く。
それさえも苦しい。
***
なまえは逃げることに必死だった。
鬼はそんななまえを面白がるかのように、すぐに捕まえようとはせず、一定の距離を保って追い回した。
呼吸を乱しながら走るなまえに鬼が近づく。力尽きたなまえが膝から地面に崩れ落ちた。
鬼の手がなまえに向かってのびる。
なまえが振り向くと鬼の手が目の前にあった。
もう死ぬのだ。
このまま、母と兄のように、骨も残らないまま喰われて死んでしまうのだ。
なまえが諦めたように静かに目を閉じた。
その瞬間、何かがゴトリと落ちる音がした。
思わず目を開けると、足元に鬼の首が落ちている。
「ひっ…!」
鬼の身体も首も消えかけているが、間近で見るとより恐怖が増す。これが先程まで自分を追いかけてきていたのかと思うと恐ろしくて震えが止まらない。
何が起きているのか理解できなかった。
「なまえ!」
その声を聞くまでは。
「なまえ?…おい!大丈夫か!?」
「あ……い、伊之助様…」
気づけば伊之助が目線を合わせるようになまえの目の前にしゃがみこんでいた。
「どこも、怪我してねえか!?」
「え…怪我?えっと、あの…」
「どっか痛えとことか…あっ!おい!」
伊之助がなまえの腕を掴む。傷口から溢れる血が止まらない。
「血出てんじゃねえか!」
「さっき、逃げるときに、何度か転んでしまって…恐らく、それで」
なまえの身体をよく見ると、所々に小さなかすり傷や血の滲んだ傷があった。
「傷だらけじゃねえかよ……権八郎に、好きなやつは守らないとダメって言われたのに…!」
「え…炭治郎様…?」
混乱するなまえをよそに、伊之助が猪頭を取り血が溢れる傷口に唇を寄せる。
「伊之助様!?何をなさっているのですか!?汚いですから、お止め下さい!」
なまえが止めようとするも、伊之助は血と一緒に傷口についた汚れを吸い上げ吐き出す。
「血、なかなか止まらねえ……そうだ!」
「あっ!?」
伊之助がなまえの肌蹴た襦袢の端を引き裂き、傷口に巻き付けた。
「今はこれで我慢しろ。父ちゃんにまた新しい服買ってもらえ」
「あ、あの…」
「立てるか?」
「申しわけありません…こ、腰が抜けて…立てません」
「しょうがねえな…しっかりつかまってろよ!」
「きゃあ!?」
伊之助がなまえを抱きかかえ走り出した。
「すぐにお前ん家に連れて帰ってやるからな!」
伊之助がそう叫ぶと同時に、なまえは意識を手放した。