ただのありふれた恋
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上弦の陸と死闘を繰り広げた約2ヶ月後。
伊之助は蝶屋敷の寝台の上で目を覚ました。
アオイや善逸から、2ヶ月もの間意識を失ったままだったということを聞いた。善逸はあの戦いの2日後にはもうすでに意識を取り戻して、伊之助が目を覚ました4日後には任務に復帰したという。
伊之助が目を覚ましてから7日後、寝台の上で寝ていた炭治郎も意識を取り戻した。
2ヶ月も寝ていたということは、伊之助は2ヶ月以上なまえに合っていないということになる。
なまえは元気だろうか。最後に会ったときは、風邪のせいか随分弱っていた。
伊之助は布団の上で苦しそうに息をしていたなまえのことを思い出した。
そういえば、なまえが風邪をひく前に言われたことがあったと、伊之助は疑問に思っていたことを任務から帰ってきた善逸に訊ねた。
「紋逸、オシタイモウシアゲテオリマスってなんだ?」
「ハ?」
「なまえに言われた」
善逸がぽかんとした顔で伊之助を見つめる。
「おい、もんい」
「はぁあああ!?誰それ!?女の子!?おま、あっ、はあ!?え、なんて返事してきたんだよ!?」
「返事っていうか、言ってることよくわかんなかったから、また今度って…どうせなまえん家に遊びに行くし」
「いやお前、それはないわ…女の子の一世一代の告白をさあ……それはないわ!」
「だめなのか?」
「だめよ!だめに決まってるだろ!お前なあ…お慕い申し上げておりますっていうのは、貴方のことが好きですって言う意味だよ!」
「俺は寿司じゃねえ!」
「違うわ、ちゃんと聞け!好きって言ったの!」
「お前の耳は飾りか!?」と声を荒らげた善逸が、ひと呼吸置いて続ける。
「俺が言っていいのかわかんないけどさ、その、誰だっけ…なまえちゃんって子がお前のことを好きなんだよ」
「なまえは俺のことが好きなのか…?でも俺は天ぷらが好きだ」
「バカー!そういう好きじゃないよ!」
「アァ!?誰が馬鹿だ!?」
「お前だよ!今俺の目の前にいるお前!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ2人に、ちょうど傍を通りがかった炭治郎が「どうしたんだ?」と声をかけた。
「炭治郎~!この馬鹿に好きの意味を教えてやってくれよ~!」
「だから馬鹿じゃねえって!」
馬鹿と言われたことに腹を立てた伊之助が善逸に掴みかかろうとする。そんな伊之助を抑えながら炭治郎が訊ねる。
「好きの意味を教えろって…どういうことだ?」
「告白されたんだってさ!お慕い申し上げております、なんて言われちゃって…キィーー!!恨めしい…恨めしい!!やっぱり顔か!?世の中顔なのか!?」
半ば発狂する勢いで恨み言を言う善逸をよそに、炭治郎が口を開いた。
「伊之助、好きっていうのはさ…」
***
伊之助様と最後にお会いしたのはいつだったでしょうか。もう2ヶ月以上、伊之助様と言葉を交わしておりません。
最期にお会いしたあの日。
お慕い申し上げておりますと言ったあの日。
伊之助様に「よくわからない」と言われました。私にはこの気持ちが何なのかハッキリとわかります。
好きなのです。伊之助様のことが好き。
初めてお会いしたときから好きなのです。その御姿に一目惚れをしたのです。
伊之助様が会いに来てくれるようになってから毎日が楽しい。今までの生活が退屈なものだったというわけではありません。お父様も使用人の方々も私のことを大切にしてくださいます。ただただ代わり映えのない生活でも不自由はありませんでした。
だけど、伊之助様と出会って、そんな代わり映えのない毎日に、まるで大きな風が吹いた。そんな気がするのです。
伊之助様は山で育ったと仰っていました。失礼ながら、市井の人間の常識が通じる方ではありません。
私が何か教えると難しそうな顔をされます。だけど、それができるようになったとき、あどけない顔で目を輝かせ、ときには自慢げに笑うのです。飲み込みも早いので、元来地頭が良い方なのかも知れません。
伊之助様は嘘など一切つかず、思ったことを素直に仰います。その中には私にとって嬉しい言葉がたくさんありました。
だから、私は伊之助様も私と同じような気持ちでいると、どこかで勘違いしてしまっていたようです。
伊之助様には鬼を狩るという大事なお役目があります。きっと、私のような一端の娘に好意を寄せている暇などないのです。
会いに来てくれるのも、任務の合間の気分転換のようなものかもしれません。
考えれば考えるほど、伊之助様のことを思えば思うほど、頭の中も心の奥も落ち着かない。ざわざわする。
私が風邪をひいて寝込んでしまっていた間、一度だけ伊之助様がお見舞いに来てくださったようですが、それっきりです。どんぐりとお花のお礼もまだお伝えできていない。
そういえば、伊之助様はぴかぴかでツヤツヤのどんぐりを集めていらっしゃった。伊之助様と遊びに行ったあの山に、どんぐりでも探しに行こうかしら。綺麗などんぐりを差し上げれば、きっと喜んでくださるはず。
また今度と仰っていたのですから、伊之助は必ず会いに来てくださるでしょう。
***
伊之助は後悔した。
聞けばよかったのだ。なまえはなんでも知っている。伊之助のわからないこと、できないことをいつだって教えてくれる。
あのとき、なまえが言った言葉の意味を教えて貰えばよかった。
伊之助はなまえに謝りたいとも思った。何も知らずに適当なこと言ってすまなかったと。
それに、優しいなまえのことだ。2ヶ月以上も姿を見せない自分を心配しているだろう。鬼に喰われたと思われているかもしれない。
早く会いに行って安心させてやろうと、伊之助はなまえの屋敷に向かった。
日が暮れ月明かりだけが街を照らしはじめた頃、伊之助がいつものように塀の上からなまえの屋敷を覗くと、なまえの父と使用人が話しているのが見えた。
「なまえの父ちゃん!」
「あっ…嘴平様…!お久しぶりでございます」
伊之助が声をかけると、それに気づいたなまえの父が頭を下げた。
「なまえはいねえのか…?なまえに謝んねえといけねえことがあって来たんだ」
よく見ると、なまえの父は青ざめた顔をしていた。
妻と息子を失った彼にとって、なまえは大切なひとり娘だ。そのなまえが少し出かけると言ったっきり帰ってこないのだと言う。
「裏の山に散歩に行くと…明るいうちに戻るようと言ったのですが…もし鬼にでも襲われたら……」
なまえの父の話を聞き終える前に、伊之助は走り出していた。
(伊之助、好きっていうのはさ…)
好きってのはなんだ?
(その人に会いたいなあとか、ずっと一緒にいたいなあとか)
カゼだから会うなって言われたけど、なまえに会いたかった。だから誰にもバレねえようになまえの部屋に行ったんだ。
塀よじ登って会いに行ってんのも一緒にいたいからだ。
(いつも笑っててほしいとか)
なまえに笑ってほしいからどんぐりもあげたし、花も見せに連れてってやった。なまえが泣きそうな顔してんのは、なんか嫌だ。なまえは笑ってるほうがいい。
(何があっても守ってあげたいとか)
知らねえやつに殴られそうになってたのを見て、身体が勝手に動いた。それに、親分が子分を守るのは当たり前じゃないのか?
でも、なまえは本当に俺の子分なのか?
(あとは、抱きしめたり手を繋いだり…?その、なんだろ……触りたい、とか…そんなふうに思うことじゃないかなあって俺は思うよ)
少し照れくさそうに言った炭治郎の言葉が、伊之助の頭の中をぐるぐる巡っていた。
伊之助は蝶屋敷の寝台の上で目を覚ました。
アオイや善逸から、2ヶ月もの間意識を失ったままだったということを聞いた。善逸はあの戦いの2日後にはもうすでに意識を取り戻して、伊之助が目を覚ました4日後には任務に復帰したという。
伊之助が目を覚ましてから7日後、寝台の上で寝ていた炭治郎も意識を取り戻した。
2ヶ月も寝ていたということは、伊之助は2ヶ月以上なまえに合っていないということになる。
なまえは元気だろうか。最後に会ったときは、風邪のせいか随分弱っていた。
伊之助は布団の上で苦しそうに息をしていたなまえのことを思い出した。
そういえば、なまえが風邪をひく前に言われたことがあったと、伊之助は疑問に思っていたことを任務から帰ってきた善逸に訊ねた。
「紋逸、オシタイモウシアゲテオリマスってなんだ?」
「ハ?」
「なまえに言われた」
善逸がぽかんとした顔で伊之助を見つめる。
「おい、もんい」
「はぁあああ!?誰それ!?女の子!?おま、あっ、はあ!?え、なんて返事してきたんだよ!?」
「返事っていうか、言ってることよくわかんなかったから、また今度って…どうせなまえん家に遊びに行くし」
「いやお前、それはないわ…女の子の一世一代の告白をさあ……それはないわ!」
「だめなのか?」
「だめよ!だめに決まってるだろ!お前なあ…お慕い申し上げておりますっていうのは、貴方のことが好きですって言う意味だよ!」
「俺は寿司じゃねえ!」
「違うわ、ちゃんと聞け!好きって言ったの!」
「お前の耳は飾りか!?」と声を荒らげた善逸が、ひと呼吸置いて続ける。
「俺が言っていいのかわかんないけどさ、その、誰だっけ…なまえちゃんって子がお前のことを好きなんだよ」
「なまえは俺のことが好きなのか…?でも俺は天ぷらが好きだ」
「バカー!そういう好きじゃないよ!」
「アァ!?誰が馬鹿だ!?」
「お前だよ!今俺の目の前にいるお前!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ2人に、ちょうど傍を通りがかった炭治郎が「どうしたんだ?」と声をかけた。
「炭治郎~!この馬鹿に好きの意味を教えてやってくれよ~!」
「だから馬鹿じゃねえって!」
馬鹿と言われたことに腹を立てた伊之助が善逸に掴みかかろうとする。そんな伊之助を抑えながら炭治郎が訊ねる。
「好きの意味を教えろって…どういうことだ?」
「告白されたんだってさ!お慕い申し上げております、なんて言われちゃって…キィーー!!恨めしい…恨めしい!!やっぱり顔か!?世の中顔なのか!?」
半ば発狂する勢いで恨み言を言う善逸をよそに、炭治郎が口を開いた。
「伊之助、好きっていうのはさ…」
***
伊之助様と最後にお会いしたのはいつだったでしょうか。もう2ヶ月以上、伊之助様と言葉を交わしておりません。
最期にお会いしたあの日。
お慕い申し上げておりますと言ったあの日。
伊之助様に「よくわからない」と言われました。私にはこの気持ちが何なのかハッキリとわかります。
好きなのです。伊之助様のことが好き。
初めてお会いしたときから好きなのです。その御姿に一目惚れをしたのです。
伊之助様が会いに来てくれるようになってから毎日が楽しい。今までの生活が退屈なものだったというわけではありません。お父様も使用人の方々も私のことを大切にしてくださいます。ただただ代わり映えのない生活でも不自由はありませんでした。
だけど、伊之助様と出会って、そんな代わり映えのない毎日に、まるで大きな風が吹いた。そんな気がするのです。
伊之助様は山で育ったと仰っていました。失礼ながら、市井の人間の常識が通じる方ではありません。
私が何か教えると難しそうな顔をされます。だけど、それができるようになったとき、あどけない顔で目を輝かせ、ときには自慢げに笑うのです。飲み込みも早いので、元来地頭が良い方なのかも知れません。
伊之助様は嘘など一切つかず、思ったことを素直に仰います。その中には私にとって嬉しい言葉がたくさんありました。
だから、私は伊之助様も私と同じような気持ちでいると、どこかで勘違いしてしまっていたようです。
伊之助様には鬼を狩るという大事なお役目があります。きっと、私のような一端の娘に好意を寄せている暇などないのです。
会いに来てくれるのも、任務の合間の気分転換のようなものかもしれません。
考えれば考えるほど、伊之助様のことを思えば思うほど、頭の中も心の奥も落ち着かない。ざわざわする。
私が風邪をひいて寝込んでしまっていた間、一度だけ伊之助様がお見舞いに来てくださったようですが、それっきりです。どんぐりとお花のお礼もまだお伝えできていない。
そういえば、伊之助様はぴかぴかでツヤツヤのどんぐりを集めていらっしゃった。伊之助様と遊びに行ったあの山に、どんぐりでも探しに行こうかしら。綺麗などんぐりを差し上げれば、きっと喜んでくださるはず。
また今度と仰っていたのですから、伊之助は必ず会いに来てくださるでしょう。
***
伊之助は後悔した。
聞けばよかったのだ。なまえはなんでも知っている。伊之助のわからないこと、できないことをいつだって教えてくれる。
あのとき、なまえが言った言葉の意味を教えて貰えばよかった。
伊之助はなまえに謝りたいとも思った。何も知らずに適当なこと言ってすまなかったと。
それに、優しいなまえのことだ。2ヶ月以上も姿を見せない自分を心配しているだろう。鬼に喰われたと思われているかもしれない。
早く会いに行って安心させてやろうと、伊之助はなまえの屋敷に向かった。
日が暮れ月明かりだけが街を照らしはじめた頃、伊之助がいつものように塀の上からなまえの屋敷を覗くと、なまえの父と使用人が話しているのが見えた。
「なまえの父ちゃん!」
「あっ…嘴平様…!お久しぶりでございます」
伊之助が声をかけると、それに気づいたなまえの父が頭を下げた。
「なまえはいねえのか…?なまえに謝んねえといけねえことがあって来たんだ」
よく見ると、なまえの父は青ざめた顔をしていた。
妻と息子を失った彼にとって、なまえは大切なひとり娘だ。そのなまえが少し出かけると言ったっきり帰ってこないのだと言う。
「裏の山に散歩に行くと…明るいうちに戻るようと言ったのですが…もし鬼にでも襲われたら……」
なまえの父の話を聞き終える前に、伊之助は走り出していた。
(伊之助、好きっていうのはさ…)
好きってのはなんだ?
(その人に会いたいなあとか、ずっと一緒にいたいなあとか)
カゼだから会うなって言われたけど、なまえに会いたかった。だから誰にもバレねえようになまえの部屋に行ったんだ。
塀よじ登って会いに行ってんのも一緒にいたいからだ。
(いつも笑っててほしいとか)
なまえに笑ってほしいからどんぐりもあげたし、花も見せに連れてってやった。なまえが泣きそうな顔してんのは、なんか嫌だ。なまえは笑ってるほうがいい。
(何があっても守ってあげたいとか)
知らねえやつに殴られそうになってたのを見て、身体が勝手に動いた。それに、親分が子分を守るのは当たり前じゃないのか?
でも、なまえは本当に俺の子分なのか?
(あとは、抱きしめたり手を繋いだり…?その、なんだろ……触りたい、とか…そんなふうに思うことじゃないかなあって俺は思うよ)
少し照れくさそうに言った炭治郎の言葉が、伊之助の頭の中をぐるぐる巡っていた。