ただのありふれた恋
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私、一目惚れをしました。
ギロリとこちらを睨む瞳、自信に満ちた野太い声、引き締まった身体、凛々しく逞しい御姿に。
***
「休息!!休息!!次ノ指令ガ下リルマデ休息セヨ!!」
炭治郎の鎹鴉・天王寺松右衛門がそう告げた。
その日、炭治郎と伊之助は任務で鬼を狩りに出かけていた。大きな怪我もなく無事に鬼の首を落としてきた2人であったが、空腹や日々の訓練の疲れもあってか、鎹鴉の「休息」という言葉に少しほっとした。
鎹鴉が近くにある藤の花の家紋の家まで案内してくれるようだ。道中、日も落ち辺りは真っ暗になった。
藤の花の家紋の家にたどり着くと、屋敷の住人と思しき男性が2人を迎え入れてくれた。
「鬼狩り様、ようこそいらっしゃいました。ごゆっくり休んでいってくださいませ」
「ありがとうございます!お邪魔します!俺、竈門炭治郎といいます!こっちは嘴平伊之助、俺の同期です!」
「竈門様と嘴平様ですね…よければ背中のお荷物、お部屋までお持ち致しましょうか?」
「いえ!これは俺の大切なものなので!大丈夫です!」
炭治郎と伊之助は男性に案内され屋敷の中に足を踏み入れた。この屋敷、建物自体はたいそう古く見られるが、風格が滲んだ広い家であると、長く続く廊下が物語っていた。途中、使用人と思われる人間とも数名だがすれ違った。
長い廊下を渡り、この屋敷にいるあいだ自由に使っていいと言われた部屋に2人は通された。荷物を下ろし、しばらく休んでいると襖の向こうから声がかかった。
「失礼致します。鬼狩り様、お食事のご用意ができましたので、お部屋まで御案内致します」
若い女性の声だ。腹を空かせていた伊之助は待ってましたと言わんばかりに勢いよく襖を開けた。
「飯だ!!!!!………んあ?」
「あっ……」
そこにいたのはこの家の娘、なまえだった。なまえは背筋をぴんと伸ばし正座をしたまま伊之助をじっと見つめていた。
***
驚きました。
鬼狩り様がお越しになってようなので、お部屋に伺ったら…額に痣のある御方は、私とたいして年の変わらない、見た目はごく普通の少年ではありませんか。この方からはなにやら優しそうな雰囲気が感じられます。
大きな背負い箱には何が入っているのでしょうか?きっと鬼を狩るための道具かなにかが入っているのでしょう。
こんなに年若くして、その御命をかけて鬼と戦っていらっしゃるなんて、頭が下がります。
もう御一方は、猪の皮でしょうか…お顔を拝見できない限り、大凡の年齢の想像もつきません。失礼ですが、奇妙な御姿をされております。
しかし、ギロりと私を睨む瞳、鍛え上げられたお身体…何か惹きつけられるものがあります。
ああ、だめです…いけません…あまりジロジロと見てしまっては…。
でもどうして?何故このようなお姿をされていらっしゃるの?猪の皮の下はどのようなお顔をされているのですか?お名前は?
この方のことが知りたい。もっと知りたい。この方から目が離せない。
これは一体何なのでしょう。
これが所謂ひとめぼれというものなのでしょうか。
いやいや、そんなことは…ひとめぼれなんて、そんなまさか。
でも、どうしましょう。
心臓がバクバクと音を立ててなんだか苦しい。息をするのもままなりません。
***
「なんだお前、じーっと人のこと見やがって」
「こら、そんな言い方はよくないぞ。きっと、伊之助を見て驚いてるんだよ」
「はあ?なんでだよ」
「そんなの被ってるのなんて、きっと伊之助くらいだからな」
「まあな!俺様は山の王だからな!」
そんなやりとりを2人がしている間も、なまえは伊之助を見つめたままだった。なまえの様子を不思議に思った伊之助は、彼女の目線に合うようにしゃがみんで、顔の前で自身の手をひらひらと振った。
「なんだ、こいつ固まってんぞ。おーい、魂でも抜けたか?」
そう問いかけながら顔を近づけると、なまえはハッと我に返った。
「も、申しわけありません!夕餉の準備ができ、あっ、できておりますので、あの、こちらへどうぞ!」
なまえは捲し立てるようにそう告げ、食事が用意された部屋に2人を通すと「失礼致します!」と脱兎の如く去っていった。
夕食を済ませ、特にすることもなかった伊之助は、縁側でぼうっと庭を眺めていた。
実のところ、することがなかったわけではない。夕食のあと、使用人と思しき女性に風呂に入るよう促されたが、伊之助はその誘いを断った。炭治郎が「せっかく用意してくれたんだし、任務で汚れただろうから」と引き止めたが、山育ちで湯船に浸かるという習慣のない伊之助は「お前1人で入ってこい」とその場を離れたのだ。
そんな伊之助になまえが声をかけた。
「あ、あの、鬼狩り様…!」
「あ?」
「そのような格好でこんな所にいてはお身体が冷えてしまいますよ」
相も変わらず上裸のままの伊之助をなまえは心配した。
「そのへんの弱味噌と一緒にすんな。それに俺の名前は鬼狩り様じゃねえ」
「あっ………では、な、なんと、お呼びすれば…あの、貴方様のお名前は?」
「伊之助だ。嘴平伊之助。ふんどしにそう書いてあった」
「嘴平伊之助…伊之助様と仰るのですね」
「いのすけさま…伊之助様」となまえは小さな声で数度繰り返した。
「お前は?お前の名前はなんて言うんだ」
「へ…!?私ですか!?私の名前!?」
「はあ?お前と喋ってんだからそうに決まってんだろ」
「なまえと申します…」
「ふーん、なまえか。普通の名前だな」
「……そうですね、普通の名前ですね」
興味なさげな顔の伊之助とは対象的になまえはクスクスと笑っていた。
「なにがおかしいんだよ」
「いえ、普通の名前だなんて初めて言われたので…さ、伊之助様、中にお入りください。お茶を入れますので」
なまえは部屋に入るよう伊之助を促した。
伊之助は慣れた手つきでお茶を入れるなまえを無言で見つめていた。
「い、伊之助様、そんなに見つめられては、緊張してしまいます」
恥ずかしそうにそう告げながらなまえは、おずおずと湯呑みを伊之助に渡した。
伊之助は湯呑みに口をつけるため、猪頭を脱いだ。なまえが伊之助の素顔を見るのはこのときが初めてだった。
彼の素顔を見た人間はこう称すだろう。『紅顔の美少年』と。
もちろんなまえもその人間のうちの1人だった。
なまえの胸は高鳴った。猪の皮の下に隠れていた素顔が、これほどまでに美しいとは思いもしなかった。整った顔とは対象的な野太い声、逞しい身体、粗雑な言動に堪らないギャップを感じた。
そして、その美しさに思わず見入ってしまった。
「お前、それ癖なのか?人の顔じーっと見んの」
「ええ!?あ、あの、あまり見ないでください!照れてしまいます…!」
そう頬を染めながら言うなまえに伊之助は怪訝そうな顔をした。
「照れる要素がどこにあんだよ」
「そんなことより、お茶が冷めてしまいます!早くお飲みになってください!」
「ん?ああ…って、あっづ!!熱いわ!!!!食道が焼けただれるわ!!」
「申しわけありません!淹れたばかりでしたのに…!」
照れを隠すかのように湯呑みを押しつけたものの、あまりの熱さに悶絶する伊之助になまえは全力で謝った。
そんな茶番のようなやりとりをしていると風呂から上がった炭治郎が部屋に戻ってきた。
炭治郎も混じえて談笑していたが、伊之助が「眠い」とひと欠伸をしたところで、なまえは2人に「おやすみなさい」と挨拶をし、部屋をあとにした。
ギロリとこちらを睨む瞳、自信に満ちた野太い声、引き締まった身体、凛々しく逞しい御姿に。
***
「休息!!休息!!次ノ指令ガ下リルマデ休息セヨ!!」
炭治郎の鎹鴉・天王寺松右衛門がそう告げた。
その日、炭治郎と伊之助は任務で鬼を狩りに出かけていた。大きな怪我もなく無事に鬼の首を落としてきた2人であったが、空腹や日々の訓練の疲れもあってか、鎹鴉の「休息」という言葉に少しほっとした。
鎹鴉が近くにある藤の花の家紋の家まで案内してくれるようだ。道中、日も落ち辺りは真っ暗になった。
藤の花の家紋の家にたどり着くと、屋敷の住人と思しき男性が2人を迎え入れてくれた。
「鬼狩り様、ようこそいらっしゃいました。ごゆっくり休んでいってくださいませ」
「ありがとうございます!お邪魔します!俺、竈門炭治郎といいます!こっちは嘴平伊之助、俺の同期です!」
「竈門様と嘴平様ですね…よければ背中のお荷物、お部屋までお持ち致しましょうか?」
「いえ!これは俺の大切なものなので!大丈夫です!」
炭治郎と伊之助は男性に案内され屋敷の中に足を踏み入れた。この屋敷、建物自体はたいそう古く見られるが、風格が滲んだ広い家であると、長く続く廊下が物語っていた。途中、使用人と思われる人間とも数名だがすれ違った。
長い廊下を渡り、この屋敷にいるあいだ自由に使っていいと言われた部屋に2人は通された。荷物を下ろし、しばらく休んでいると襖の向こうから声がかかった。
「失礼致します。鬼狩り様、お食事のご用意ができましたので、お部屋まで御案内致します」
若い女性の声だ。腹を空かせていた伊之助は待ってましたと言わんばかりに勢いよく襖を開けた。
「飯だ!!!!!………んあ?」
「あっ……」
そこにいたのはこの家の娘、なまえだった。なまえは背筋をぴんと伸ばし正座をしたまま伊之助をじっと見つめていた。
***
驚きました。
鬼狩り様がお越しになってようなので、お部屋に伺ったら…額に痣のある御方は、私とたいして年の変わらない、見た目はごく普通の少年ではありませんか。この方からはなにやら優しそうな雰囲気が感じられます。
大きな背負い箱には何が入っているのでしょうか?きっと鬼を狩るための道具かなにかが入っているのでしょう。
こんなに年若くして、その御命をかけて鬼と戦っていらっしゃるなんて、頭が下がります。
もう御一方は、猪の皮でしょうか…お顔を拝見できない限り、大凡の年齢の想像もつきません。失礼ですが、奇妙な御姿をされております。
しかし、ギロりと私を睨む瞳、鍛え上げられたお身体…何か惹きつけられるものがあります。
ああ、だめです…いけません…あまりジロジロと見てしまっては…。
でもどうして?何故このようなお姿をされていらっしゃるの?猪の皮の下はどのようなお顔をされているのですか?お名前は?
この方のことが知りたい。もっと知りたい。この方から目が離せない。
これは一体何なのでしょう。
これが所謂ひとめぼれというものなのでしょうか。
いやいや、そんなことは…ひとめぼれなんて、そんなまさか。
でも、どうしましょう。
心臓がバクバクと音を立ててなんだか苦しい。息をするのもままなりません。
***
「なんだお前、じーっと人のこと見やがって」
「こら、そんな言い方はよくないぞ。きっと、伊之助を見て驚いてるんだよ」
「はあ?なんでだよ」
「そんなの被ってるのなんて、きっと伊之助くらいだからな」
「まあな!俺様は山の王だからな!」
そんなやりとりを2人がしている間も、なまえは伊之助を見つめたままだった。なまえの様子を不思議に思った伊之助は、彼女の目線に合うようにしゃがみんで、顔の前で自身の手をひらひらと振った。
「なんだ、こいつ固まってんぞ。おーい、魂でも抜けたか?」
そう問いかけながら顔を近づけると、なまえはハッと我に返った。
「も、申しわけありません!夕餉の準備ができ、あっ、できておりますので、あの、こちらへどうぞ!」
なまえは捲し立てるようにそう告げ、食事が用意された部屋に2人を通すと「失礼致します!」と脱兎の如く去っていった。
夕食を済ませ、特にすることもなかった伊之助は、縁側でぼうっと庭を眺めていた。
実のところ、することがなかったわけではない。夕食のあと、使用人と思しき女性に風呂に入るよう促されたが、伊之助はその誘いを断った。炭治郎が「せっかく用意してくれたんだし、任務で汚れただろうから」と引き止めたが、山育ちで湯船に浸かるという習慣のない伊之助は「お前1人で入ってこい」とその場を離れたのだ。
そんな伊之助になまえが声をかけた。
「あ、あの、鬼狩り様…!」
「あ?」
「そのような格好でこんな所にいてはお身体が冷えてしまいますよ」
相も変わらず上裸のままの伊之助をなまえは心配した。
「そのへんの弱味噌と一緒にすんな。それに俺の名前は鬼狩り様じゃねえ」
「あっ………では、な、なんと、お呼びすれば…あの、貴方様のお名前は?」
「伊之助だ。嘴平伊之助。ふんどしにそう書いてあった」
「嘴平伊之助…伊之助様と仰るのですね」
「いのすけさま…伊之助様」となまえは小さな声で数度繰り返した。
「お前は?お前の名前はなんて言うんだ」
「へ…!?私ですか!?私の名前!?」
「はあ?お前と喋ってんだからそうに決まってんだろ」
「なまえと申します…」
「ふーん、なまえか。普通の名前だな」
「……そうですね、普通の名前ですね」
興味なさげな顔の伊之助とは対象的になまえはクスクスと笑っていた。
「なにがおかしいんだよ」
「いえ、普通の名前だなんて初めて言われたので…さ、伊之助様、中にお入りください。お茶を入れますので」
なまえは部屋に入るよう伊之助を促した。
伊之助は慣れた手つきでお茶を入れるなまえを無言で見つめていた。
「い、伊之助様、そんなに見つめられては、緊張してしまいます」
恥ずかしそうにそう告げながらなまえは、おずおずと湯呑みを伊之助に渡した。
伊之助は湯呑みに口をつけるため、猪頭を脱いだ。なまえが伊之助の素顔を見るのはこのときが初めてだった。
彼の素顔を見た人間はこう称すだろう。『紅顔の美少年』と。
もちろんなまえもその人間のうちの1人だった。
なまえの胸は高鳴った。猪の皮の下に隠れていた素顔が、これほどまでに美しいとは思いもしなかった。整った顔とは対象的な野太い声、逞しい身体、粗雑な言動に堪らないギャップを感じた。
そして、その美しさに思わず見入ってしまった。
「お前、それ癖なのか?人の顔じーっと見んの」
「ええ!?あ、あの、あまり見ないでください!照れてしまいます…!」
そう頬を染めながら言うなまえに伊之助は怪訝そうな顔をした。
「照れる要素がどこにあんだよ」
「そんなことより、お茶が冷めてしまいます!早くお飲みになってください!」
「ん?ああ…って、あっづ!!熱いわ!!!!食道が焼けただれるわ!!」
「申しわけありません!淹れたばかりでしたのに…!」
照れを隠すかのように湯呑みを押しつけたものの、あまりの熱さに悶絶する伊之助になまえは全力で謝った。
そんな茶番のようなやりとりをしていると風呂から上がった炭治郎が部屋に戻ってきた。
炭治郎も混じえて談笑していたが、伊之助が「眠い」とひと欠伸をしたところで、なまえは2人に「おやすみなさい」と挨拶をし、部屋をあとにした。
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