短編
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玄関の戸を開くと、いつも俺を出迎えてくれる愛おしい人の姿がそこにはなかった。
何か手が外せないことをしているのか。
そう思って草履を脱いだ。
彼女の姿を求めて廊下を進むと、客間から聞き慣れた声がした。
「おっ!伊黒、邪魔しているぞ!」
「煉獄か…何か用か?」
「なに、近くによったものでな!」
襖を開けると声の主である煉獄がなまえが何やら楽しそうに話していた。
遠縁と言えども、なまえと煉獄は親戚同士。煉獄が家に来るのは珍しいことではない。
「小芭内さん、おかえりなさい」
煉獄に向けていた笑顔が俺に向く。
ここに煉獄がいなかったら、思わず抱きしめていただろう。可愛らしく微笑むその姿が酷く愛おしい。
「伊黒も帰ってきたところだし、そろそろ帰るとするか」
「もうお帰りに?」
「夫婦の時間を邪魔するわけにもいかんからな!」
「おい…」と顔を顰めた俺とは対照的に、「あら…」となまえは頬を染めた。
「ではまた!」
そう言って煉獄は颯爽と帰っていった。
「小芭内さん、お出迎えもできず申し訳ありませんでした」
静かになった部屋の中で、なまえが申し訳なさそうな顔でぽつりと謝った。
「かまわない」
やっと2人きりになれたんだ。
俺だけが彼女の声を聞いている。
俺だけが彼女の瞳に映っている。
こんなに幸せなことはない。
なまえに触れようと手をのばした瞬間、なまえが「そういえば」と呟いた。
手をひっこめ、「なんだ?」と問いかける。
「杏寿郎さんがお土産に…」
まただ。
なまえの口から俺以外のやつの名前が出る度に、心に何かが沈みこんでいく。
子供だろうが女だろうが、例えそれが仲間だとしても関係ない。
鉛のような暗い色をした重い感情が、心の奥底についた。
なまえが楽しそうに話している姿が見られれば。
はじめはそう思っていた。
だけど、彼女の口から出てくるのは俺ではない他の人間の話ばかりだ。俺が目の前にいるのに、わざわざ俺の話をするわけがない。
頭ではわかっている。
それに、
「小芭内さん?」
柱の妻なのだから。
隊員と接するのも仕方がない。
「ねえ、小芭内さん?」
「あっ…いや、なんでもない。続けてくれ」
「はい…それで、不死川さんがすすめてくださったお店で買ったんですって。おはぎの他にも…」
俺の知らないところでそんな話をしていたのか。
彼女のことで俺が知らないことがあるなんて。
「先日胡蝶さんからいただいたものが残っておりますので、今日のお風呂は薬湯ですよ」
そう思うと、
「胡蝶さんにお礼を言わないと」
気に食わない。
「小芭内さん?」
妬ましい。
「小芭内さん、どこか具合でも…」
もう、限界だ。
「……から…出るな」
「え?」
「この家から出るな」
これは束縛なんかじゃない。
「必要なものは俺が買ってくる。どうしても外に用があるときは、俺がいるときにしてくれ。一緒に行く」
俺の目が届く範囲にいてほしいだけだ。
俺が傍にいれば何かあっても彼女を守ることができる。
周りの奴らへの牽制にもなるだろう。
「それと」
「あっ…」
細い腕を引き抱き寄せる。抱きしめる腕に力を籠めると彼女が小さく呻いた。
その小さな声すら俺の耳にしか入れたくない。
ましてや、笑顔や笑い声なんて以ての外だ。
「俺以外の人間と必要以上の会話をするな」
「どうして…」
「変な虫でもついたらどうする?」
「変な虫?」
「君の身に何か起きてからでは遅いだろ」
「何か起きてからって…そんなこと」
「わからないだろう。人間、心の奥底では何を考えているのかなど、知れたものではない」
現になまえは驚いている。
まさか俺がこんなことを口にするなんて、思ってなかっただろう。
「俺はただ、君のことが心配なんだ。それに、君の問題は、夫である俺の問題でもある」
「妻…」
「そうだ。俺たちは夫婦なんだから」
彼女は家父長制の強い家で育ったらしい。
父親の言うことには、夫の言うことには逆らってはいけない。
そう思っているのだろうか。
「わかってくれるか…?」
「…はい」
【夫】や【妻】といった言葉を出すと、なまえは途端に大人しくなる。
「わかりました」
「ありがとう…君にそう言ってもらえてよかった」
身体を少し離して彼女を見る。
何か言いたげな瞳が俺を見つめていた。
何か手が外せないことをしているのか。
そう思って草履を脱いだ。
彼女の姿を求めて廊下を進むと、客間から聞き慣れた声がした。
「おっ!伊黒、邪魔しているぞ!」
「煉獄か…何か用か?」
「なに、近くによったものでな!」
襖を開けると声の主である煉獄がなまえが何やら楽しそうに話していた。
遠縁と言えども、なまえと煉獄は親戚同士。煉獄が家に来るのは珍しいことではない。
「小芭内さん、おかえりなさい」
煉獄に向けていた笑顔が俺に向く。
ここに煉獄がいなかったら、思わず抱きしめていただろう。可愛らしく微笑むその姿が酷く愛おしい。
「伊黒も帰ってきたところだし、そろそろ帰るとするか」
「もうお帰りに?」
「夫婦の時間を邪魔するわけにもいかんからな!」
「おい…」と顔を顰めた俺とは対照的に、「あら…」となまえは頬を染めた。
「ではまた!」
そう言って煉獄は颯爽と帰っていった。
「小芭内さん、お出迎えもできず申し訳ありませんでした」
静かになった部屋の中で、なまえが申し訳なさそうな顔でぽつりと謝った。
「かまわない」
やっと2人きりになれたんだ。
俺だけが彼女の声を聞いている。
俺だけが彼女の瞳に映っている。
こんなに幸せなことはない。
なまえに触れようと手をのばした瞬間、なまえが「そういえば」と呟いた。
手をひっこめ、「なんだ?」と問いかける。
「杏寿郎さんがお土産に…」
まただ。
なまえの口から俺以外のやつの名前が出る度に、心に何かが沈みこんでいく。
子供だろうが女だろうが、例えそれが仲間だとしても関係ない。
鉛のような暗い色をした重い感情が、心の奥底についた。
なまえが楽しそうに話している姿が見られれば。
はじめはそう思っていた。
だけど、彼女の口から出てくるのは俺ではない他の人間の話ばかりだ。俺が目の前にいるのに、わざわざ俺の話をするわけがない。
頭ではわかっている。
それに、
「小芭内さん?」
柱の妻なのだから。
隊員と接するのも仕方がない。
「ねえ、小芭内さん?」
「あっ…いや、なんでもない。続けてくれ」
「はい…それで、不死川さんがすすめてくださったお店で買ったんですって。おはぎの他にも…」
俺の知らないところでそんな話をしていたのか。
彼女のことで俺が知らないことがあるなんて。
「先日胡蝶さんからいただいたものが残っておりますので、今日のお風呂は薬湯ですよ」
そう思うと、
「胡蝶さんにお礼を言わないと」
気に食わない。
「小芭内さん?」
妬ましい。
「小芭内さん、どこか具合でも…」
もう、限界だ。
「……から…出るな」
「え?」
「この家から出るな」
これは束縛なんかじゃない。
「必要なものは俺が買ってくる。どうしても外に用があるときは、俺がいるときにしてくれ。一緒に行く」
俺の目が届く範囲にいてほしいだけだ。
俺が傍にいれば何かあっても彼女を守ることができる。
周りの奴らへの牽制にもなるだろう。
「それと」
「あっ…」
細い腕を引き抱き寄せる。抱きしめる腕に力を籠めると彼女が小さく呻いた。
その小さな声すら俺の耳にしか入れたくない。
ましてや、笑顔や笑い声なんて以ての外だ。
「俺以外の人間と必要以上の会話をするな」
「どうして…」
「変な虫でもついたらどうする?」
「変な虫?」
「君の身に何か起きてからでは遅いだろ」
「何か起きてからって…そんなこと」
「わからないだろう。人間、心の奥底では何を考えているのかなど、知れたものではない」
現になまえは驚いている。
まさか俺がこんなことを口にするなんて、思ってなかっただろう。
「俺はただ、君のことが心配なんだ。それに、君の問題は、夫である俺の問題でもある」
「妻…」
「そうだ。俺たちは夫婦なんだから」
彼女は家父長制の強い家で育ったらしい。
父親の言うことには、夫の言うことには逆らってはいけない。
そう思っているのだろうか。
「わかってくれるか…?」
「…はい」
【夫】や【妻】といった言葉を出すと、なまえは途端に大人しくなる。
「わかりました」
「ありがとう…君にそう言ってもらえてよかった」
身体を少し離して彼女を見る。
何か言いたげな瞳が俺を見つめていた。