10000hitリクエスト企画
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(5000hitリクエスト企画で書いた『明日も』の翌朝の話です)
差し込んだ陽の光で目が覚めた。
外から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
嬉し涙の痕が残る寝顔を見つめているうちに、俺も眠ってしまったのか。気づけばもう朝だった。
愛しい人は腕の中でまだ寝息を小さな立てている。握られたままの手から伝わる温もりが、酷く心地いい。
「なまえ」
名前を呼んでも返事はない。
寝巻きの隙間から見える白い肌には、昨晩つけた痕がくっきりと残っている。その紅い印に、心も身体も、全て俺のものになったのだと気づかされる。
それだけではない。
こうして誰にも邪魔されることなく寝顔を見つめることのできる時間も、これから目を覚ますであろう彼女の声も、俺だけのものだ。
今だけは、何もかも独り占めすることができる。
そっと手を握り直すと、なまえが身じろいだ。
どんな夢を見ているのだろうか。
家族が生きていたときの夢か。
蝶屋敷で隊士の世話をする夢か。
それとも、
「ん……」
閉じられていた瞼がゆっくりと開いていく。
「なまえ」
昨日、寝る前に約束をした。
朝起きたら君の目の前にいる。
手を繋いだまま、「おはよう」と言おう、と。
「なまえ、おはよう」
約束を守ることのできた俺に、なまえがやわらかな笑みを浮かべた。
しかし、小さな笑い声を零すだけで返事はない。
もう一度名前を呼ぶと、手を握り返され、寝間着越しに胸元をぎゅっと掴まれた。
「……なまえ?」
まだはっきりと目が覚めているわけではないのだろうか。一度開いた瞳が再び閉じてしまった。
確かに、起きるにしてはまだ早い時間だ。
もう少しだけ愛しい寝顔を堪能しようと、短く切りそろえられた髪を撫でていたときだった。
なまえが突然飛び上がるようにして起きた。
そのせいで解かれてしまった手で胸を押さえ、はあはあと苦しそうに息をしている。
よく見ると、胸を押えるその手はかたかたと震えていた。
「なまえ?どうした?」
何事かと恐る恐る声をかけると、彼女の視線がゆっくりと俺の方に向いた。
「大丈夫か?」
「……ぼ、坊やたちが……」
「……?」
「小芭内さんが、いないときに……」
身体を起こして、震える手を握る。しばらくすると落ち着いたのか、なまえが身体を預けるようにもたれかかってきた。
「よかった……本当によかった……」
「さっきから一体何を……」
「夢を、見て……怖い、夢を見ました……」
「夢?」
「いい夢と、悪い夢」
どんな夢を見たというのか。
なまえの目には涙の膜が薄らと張っていた。
「いい夢は、家族が増える夢でした」
「……っ!?」
「男の子と女の子、双子の赤ちゃんが生まれる夢です。私と小芭内さんで赤ちゃんを挟んで、4人で並んで眠るんです。朝、先に起きていた小芭内さんが、私たちのことを優しい目で見てくれていました」
予想もしていなかった夢の内容に、驚いて言葉も出ない。
「小芭内さん、赤ちゃんをあやすのが苦手なのか、赤ちゃんを抱っこしながら困った顔で私のことを見るんです。でも私も手が離せなくって。そしたら、鏑丸さんが小芭内さんのかわりにあやしてくれて……なんだか面倒見のいいお兄さんみたいでした」
家族が増えるのか。
俺の、家族が。
いや、夢の中の話だ。現実ではない。
「悪い夢は、鬼がその子たちを食べてしまう夢です。小芭内さんが、任務で家を空けているときに……」
「もういい」
子どもが鬼に食われるなんて。
何という酷い悪夢だ。
「悪い夢は思い出さないほうがいい。君には、幸せな、いい夢だけを見ていてほしい」
夢の中だけじゃない。
現実の世界でも、俺は君が、俺の隣で笑ってくれてさえいればそれでいいんだ。
「そんな悪夢、さっさと忘れてしまおう」
もたれかかる身体を抱きしめながら布団の上に寝転ぶと、なまえは小さな声で「はい」と返事をした。
悪夢に怯える心を落ち着かせるように、髪を撫で、額合わせる。平常心に戻った途端、恥ずかしさが込み上げてきたのか、頬を赤く染め、俯くようにして目を逸らされた。
素肌を晒し身体を重ねたというのに。目を合わせようとするだけで、これほど恥ずかしがるなんて。そのいじらしい姿に気持ちを抑えることができなくなって、思わず口づけた。
触れた場所から伝わる温もりが、彼女の存在を示してくれているようで、泣きたくなるほどの幸せを感じる。
「そうだ。まだ君から聞いていない言葉がある」
「こ、言葉?」
「昨日約束したことだ。なまえからも聞きたい」
そう言うと、なまえはあっと何かに気づいた顔をして、頬を赤く染めたまま微笑んだ。
「小芭内さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
ずっと聞きたかった、言いたかった言葉だ。
必ずくるという保証のなかった今日がやってきて、見つめあって「おはよう」と言う。
それがどれほど尊いことか。
彼女の声を聞いて、改めて、尊く幸せな日々が、これからも続くようにと願わずにはいられない。
それに、
「なまえ」
「はい」
「俺は赤子を抱いたことがない。今のうちに練習しておいたほうがいいのだろうか……?」
「えっ……上手にあやすことができなくても、小芭内さんならきっと、優しくて、どんなときでも味方になって、守ってくれる父親になれるはずです」
そんな日々の中に、愛しいと思う人が増えたなら。今既にある幸せは、どれほど大きくなるのだろうか。
彼女の見たいい夢が、いつか正夢になりますように。
俺は密かにそう願った。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
リクエスト内容について、『明日も』の続き且つ前回よりも甘々になった夢主さんと伊黒さんのお話ということでした。
柚様からは、もうひとつリクエストをいただいているのですが、そちらのリクエストへの伏線を的なものを張ろうとしたばかりに、そこまで甘々にならなかったです。リクエストをいただいたとき、「砂糖吐きそうなくらいゲロ甘い朝チュン書いてみせるわ!」と意気込んでいたのですが…申しわけありません…。
そして、こちらのお話のそのまた続きのお話が『いつかの夢』になっておりますので、そちらも合わせて読んでいただけると幸いです。
リクエスト、ありがとうございました!
差し込んだ陽の光で目が覚めた。
外から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
嬉し涙の痕が残る寝顔を見つめているうちに、俺も眠ってしまったのか。気づけばもう朝だった。
愛しい人は腕の中でまだ寝息を小さな立てている。握られたままの手から伝わる温もりが、酷く心地いい。
「なまえ」
名前を呼んでも返事はない。
寝巻きの隙間から見える白い肌には、昨晩つけた痕がくっきりと残っている。その紅い印に、心も身体も、全て俺のものになったのだと気づかされる。
それだけではない。
こうして誰にも邪魔されることなく寝顔を見つめることのできる時間も、これから目を覚ますであろう彼女の声も、俺だけのものだ。
今だけは、何もかも独り占めすることができる。
そっと手を握り直すと、なまえが身じろいだ。
どんな夢を見ているのだろうか。
家族が生きていたときの夢か。
蝶屋敷で隊士の世話をする夢か。
それとも、
「ん……」
閉じられていた瞼がゆっくりと開いていく。
「なまえ」
昨日、寝る前に約束をした。
朝起きたら君の目の前にいる。
手を繋いだまま、「おはよう」と言おう、と。
「なまえ、おはよう」
約束を守ることのできた俺に、なまえがやわらかな笑みを浮かべた。
しかし、小さな笑い声を零すだけで返事はない。
もう一度名前を呼ぶと、手を握り返され、寝間着越しに胸元をぎゅっと掴まれた。
「……なまえ?」
まだはっきりと目が覚めているわけではないのだろうか。一度開いた瞳が再び閉じてしまった。
確かに、起きるにしてはまだ早い時間だ。
もう少しだけ愛しい寝顔を堪能しようと、短く切りそろえられた髪を撫でていたときだった。
なまえが突然飛び上がるようにして起きた。
そのせいで解かれてしまった手で胸を押さえ、はあはあと苦しそうに息をしている。
よく見ると、胸を押えるその手はかたかたと震えていた。
「なまえ?どうした?」
何事かと恐る恐る声をかけると、彼女の視線がゆっくりと俺の方に向いた。
「大丈夫か?」
「……ぼ、坊やたちが……」
「……?」
「小芭内さんが、いないときに……」
身体を起こして、震える手を握る。しばらくすると落ち着いたのか、なまえが身体を預けるようにもたれかかってきた。
「よかった……本当によかった……」
「さっきから一体何を……」
「夢を、見て……怖い、夢を見ました……」
「夢?」
「いい夢と、悪い夢」
どんな夢を見たというのか。
なまえの目には涙の膜が薄らと張っていた。
「いい夢は、家族が増える夢でした」
「……っ!?」
「男の子と女の子、双子の赤ちゃんが生まれる夢です。私と小芭内さんで赤ちゃんを挟んで、4人で並んで眠るんです。朝、先に起きていた小芭内さんが、私たちのことを優しい目で見てくれていました」
予想もしていなかった夢の内容に、驚いて言葉も出ない。
「小芭内さん、赤ちゃんをあやすのが苦手なのか、赤ちゃんを抱っこしながら困った顔で私のことを見るんです。でも私も手が離せなくって。そしたら、鏑丸さんが小芭内さんのかわりにあやしてくれて……なんだか面倒見のいいお兄さんみたいでした」
家族が増えるのか。
俺の、家族が。
いや、夢の中の話だ。現実ではない。
「悪い夢は、鬼がその子たちを食べてしまう夢です。小芭内さんが、任務で家を空けているときに……」
「もういい」
子どもが鬼に食われるなんて。
何という酷い悪夢だ。
「悪い夢は思い出さないほうがいい。君には、幸せな、いい夢だけを見ていてほしい」
夢の中だけじゃない。
現実の世界でも、俺は君が、俺の隣で笑ってくれてさえいればそれでいいんだ。
「そんな悪夢、さっさと忘れてしまおう」
もたれかかる身体を抱きしめながら布団の上に寝転ぶと、なまえは小さな声で「はい」と返事をした。
悪夢に怯える心を落ち着かせるように、髪を撫で、額合わせる。平常心に戻った途端、恥ずかしさが込み上げてきたのか、頬を赤く染め、俯くようにして目を逸らされた。
素肌を晒し身体を重ねたというのに。目を合わせようとするだけで、これほど恥ずかしがるなんて。そのいじらしい姿に気持ちを抑えることができなくなって、思わず口づけた。
触れた場所から伝わる温もりが、彼女の存在を示してくれているようで、泣きたくなるほどの幸せを感じる。
「そうだ。まだ君から聞いていない言葉がある」
「こ、言葉?」
「昨日約束したことだ。なまえからも聞きたい」
そう言うと、なまえはあっと何かに気づいた顔をして、頬を赤く染めたまま微笑んだ。
「小芭内さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
ずっと聞きたかった、言いたかった言葉だ。
必ずくるという保証のなかった今日がやってきて、見つめあって「おはよう」と言う。
それがどれほど尊いことか。
彼女の声を聞いて、改めて、尊く幸せな日々が、これからも続くようにと願わずにはいられない。
それに、
「なまえ」
「はい」
「俺は赤子を抱いたことがない。今のうちに練習しておいたほうがいいのだろうか……?」
「えっ……上手にあやすことができなくても、小芭内さんならきっと、優しくて、どんなときでも味方になって、守ってくれる父親になれるはずです」
そんな日々の中に、愛しいと思う人が増えたなら。今既にある幸せは、どれほど大きくなるのだろうか。
彼女の見たいい夢が、いつか正夢になりますように。
俺は密かにそう願った。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
リクエスト内容について、『明日も』の続き且つ前回よりも甘々になった夢主さんと伊黒さんのお話ということでした。
柚様からは、もうひとつリクエストをいただいているのですが、そちらのリクエストへの伏線を的なものを張ろうとしたばかりに、そこまで甘々にならなかったです。リクエストをいただいたとき、「砂糖吐きそうなくらいゲロ甘い朝チュン書いてみせるわ!」と意気込んでいたのですが…申しわけありません…。
そして、こちらのお話のそのまた続きのお話が『いつかの夢』になっておりますので、そちらも合わせて読んでいただけると幸いです。
リクエスト、ありがとうございました!