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逃げなきゃ。
鬼狩りからも、太陽からも。
じゃないと、死んじゃう。
「待て!」
来ないで。
死にたくない。
「水の呼吸、壱ノ型……」
「……っあ」
私、このまま首斬られて死んじゃうのかな。
嫌だなあ。
鬼になってしまったけど、また生きていくことができるって思ってたのに。
誰か、
「助け……うわあっ!?」
突然、身体が宙に浮いた。
私を追いかけてきていた鬼狩りは地面に倒れていて、その姿がどんどん遠ざかっていく。
「おい」
「……」
「聞こえているのか?」
「……え」
「ぼーっとするな。そろそろ自分で走れ」
「あっ……」
身体を放り投げられ、顔から地面にぶつかった。つうっと鼻血が垂れて、ぽたりと数滴落ちていく。
「ぅ……痛い……」
「お前、弱いな。弱いし、鈍臭い。足も遅い。鬼狩りから逃げる気があるのか?」
「ぁ、あの、あなたは……っ!?」
顔を上げて驚愕した。
瞳に「上弦」「参」と刻まれたその人。
紛れもない。
十二鬼月。
上弦の参。
「あ、猗窩座、様……そんな、なんで十二鬼月が、私のことを助けて……」
「お前じゃない。お前を斬ろうとした人間のほうに興味があった。だが、あいつもさほど強くは……」
「好きです」
「は?」
「あなたのことが好きです!」
「お前は何を言ってるんだ?」
「私、猗窩座様のことが好きなんです!」
「死にかけて気でも狂ったのか?」
「たった今、一目惚れしてしまいました!身を呈して、私のことを助けてくださったなんて、嬉しくて……」
「力だけじゃなくて頭も弱いのか、お前は?俺がいつ自分の身を呈してお前を助けた?」
「つい先程助けてくださったではありませんか。強くて、かっこいいあなた様のことを好きになってしまいました」
「悪いが弱者の戯言に付き合っている暇なんてない」
「え、付き合う!?まさか、猗窩座様も私と同じお気持ちだなんて」
「お前の耳は飾り物か?誰がそんなことを……」
「耳飾り?私に贈ってくださるんですか!?」
「おい」
「嬉しい、嬉しい……!猗窩座様が私に……」
「時間を無駄にした。俺はもう行く」
「猗窩座様、お待ちくださ……あっ!」
目にも留まらぬ速さで猗窩座様は私の前から姿を消してしまわれた。
先程まで猗窩座様が立っておられた場所を見つめる。
左胸の当たりが、まだドクドクと忙しなく音を立てている。
人間だったときは出来なかった恋。
まさか鬼になってから誰かを好きになるなんて。
「猗窩座様、好きです。猗窩座様のことが好き」
届くはずがないその言葉を、私は小さな声で呟いた。
「猗窩座様、こんばんわ」
「……」
「猗窩座様?」
折角猗窩座様のお姿を探して、見つけることができたのに、声をかけても返事をしてくださらない。
「猗窩座様、ねえ、猗窩座様」
「……」
「まさか、私のことを覚えていらっしゃらないのですか?あんなに熱い夜を過ごしたのに」
「鼻血を垂らして戯言を言っていたやつとそんな夜を過ごした覚えはない」
「やっぱり!私のことを覚えてくださっていたのですね!」
嬉しい。
嬉しくて自然と頬が緩む。
「何だその緩んだ顔は。気持ちが悪い。向こうに行け」
「嫌です!」
「はあ?」
「猗窩座様のお傍にいたいのでここにいます!」
「……話にならない」
はあ、とため息をついた猗窩座様は、またどこかに行ってしまわれた。
次は逃げられないようにしなきゃ。
「猗窩座様、こんばんは。今日はお月様が綺麗ですね」
「またお前か」
「お前ではありません。私の名前は……」
「名前なんてどうでもいい」
「あっ……お待ちになって」
「おい、離せ。腕を掴むな」
「嫌です。離しません。またどこかに行かれてしまっては困ります」
「手を離してくれないと俺が困るということがわからないのか?」
「どうして困るのですか?猗窩座様のことが好きだからお傍にいたいのに、この手を離すことなんてできませ、ひいっ!?」
掴んでいた猗窩座様の左腕が突然千切れ、私は驚きのあまり腰を抜かした。
「あ、あか、猗窩座様、腕、腕が……!私そんな強く引っ張ってしまったでしょうか!?もうしわけありません!」
千切れた腕を抱きしめながら地面に頭を擦りつける。
「本当にもうしわけありませんでした!猗窩座様、どうか……あれ?」
地面から顔を上げると猗窩座様のお姿はなく、抱きしめていたはずの腕も消えていた。
あの左腕、持ち帰って宝物にしようと思ったのに。
「猗窩座様、こんばんは」
「……」
「先日はその……もうしわけありませんでした。腕はもう大丈夫ですか?」
「……」
「あの……」
「見てわからないか?」
「あっ……」
猗窩座様が左腕を私の手の前に差し出された。
よかった。ちゃんと元に戻ってる。
「腕が千切れたくらいでなんだ?そのくらい直ぐに再生する」
「だって、急に千切れるものだから、私吃驚して」
あのとき、どれほど驚いたか。
腰を抜かしてしまうほど、私は驚いたのですよ。
「ふっ……」
「え……?」
猗窩座様が小さく笑みを零された。
「猗窩座様、今……」
「腰を抜かしたときのお前の顔があまりにも間抜けだったからな。思い出して笑ってしまった」
思い出し笑い?
猗窩座様がお笑いになるなんて。
「嬉しい……」
いつもつまらなさそうな顔ばかりの猗窩座様様が、私のことで笑ってくださった。
「嬉しいです」
「……それはよかったな」
「猗窩座様」
腕だとまた千切れてしまうかもしれないから、お召しになっている服の裾を掴む。
「何をしている?」
「こうでもしないと、またどこかに行ってしまわれると思って」
「何故俺がお前のために時間を割く必要がある。弱者に構っている暇はない。早く離せ」
「弱者って……きゃあっ!?」
突然降ってきた猗窩座様の手刀が、私の首を撥ねた。
「うぅ……」
首が転がり目が回る。
転がった首を自分で拾ってくっつけたときには、もう猗窩座様のお姿は消えていた
「はあ……猗窩座様……」
私が弱いから、猗窩座様は私がお傍にいることをお許しにならないのでしょうか。
だったら、強くならないと。
「うっ……ぅ……」
私は鬼なのに人間を食べれない。というより、食べたくない。
だから、いつまで経っても弱いまま。
人の肉を口に入れると吐き気がする。気持ち悪くて、こんなの食べれたものじゃない。
でも、人間をいっぱい食べて、もっともっと強くならなきゃ。
強くなって猗窩座様のお傍にいても恥ずかしくない鬼にならなきゃ。
「ふう……うぇっ……」
今日も嗚咽しながら、人間を1人食べた。
一晩に1人食べるのが精一杯。
食べ終わる頃にはもう太陽が登ろうとしていて、私は太陽と人間の血で汚れた地面から逃げるようにして、その場を去った。
「猗窩座様、どうですか?私、前より少しは強くなりましたでしょうか?」
「どこをどう見たら強くなっていると言えるんだ?鏡を見たことがないのか?」
「強くなっているはずです。私、たくさん人間を食べましたから」
気持ち悪かったけど、いっぱい、いっぱい人間を食べた。
殺して食べての繰り返しを、この数日一生懸命頑張ったんだから。
猗窩座様も少しはお認めになってくださるはずだ。
「お前は何のために強くなろうとしているんだ?」
「…何の、ために?」
何のためにって、そんなの、
「猗窩座様のお傍にいるためです。弱者のままでは猗窩座様のお傍にいることが出来ませんから」
だから、本当は嫌だけど、私はそのために人間を食べてきたんですよ?
猗窩座様だって強者のほうがお好きでしょう?
それなのにどうしてそんなに浮かない顔をされているのですか?
もしかして、一晩に1人じゃ足りないのかな。
きっと、もっともっと、もっと、たくさん人間を食べないとだめなんだ。
今日は2人。
殺した人間の数。
夜道を歩いていた、恋仲らしき男女を殺した。
男のほうは女を守ろうとしていた。
だけど、私も強くならないといけないから、男も女も、2人とも殺して食べた。
今日は4人殺した。
子ども1人と大人2人、そして老人1人。
老人のほうは皮ばかりであまり美味しくなさそうだったから食べなかった。
子どもは、食べる気が起きなかった。
だから食べたのは2人。
猗窩座様に会いに行く間も惜しんで、私は人間を殺して食べ続けた。
次にお会いしたとき、「強くなったな」と言っていただけるように。
今日は3人。
殺して食べるはずだった。
殺して食べて、猗窩座様に会いにいく。「強くなったな」と言っていただくために。
また逃げられるかもしれないし、首を吹き飛ばされたり、「向こうに行け」って言われたり、相手にされないかもしれないけど。
今夜もう一度「好き」とお伝えして、何も変わらなかったら、潔く諦めよう。
そう決意して、私は今日も闇夜に飛び出した。
でも、2人目を殺して食べていたとき、もう1人人間がやってきた。幸か不幸か、その人間は鬼狩りだった。
鬼狩りも殺して食べよう。今の私なら前より強くなっていて、鬼狩りなんてすぐに殺せる。
そう思った。
だけど、現実はそんなに甘くなかった。
人間を何人食べたって私は弱いまま。
今度こそ鬼狩りに首を斬られて死ぬんだ。
嫌だなあ。
死ぬまでにもう一度、あの方にお会いしたい。あしらわれてもいい。「好き」とお伝えしたい。
「猗窩座様……」
「毎晩人間を食べていたわりには、さほど強くなっていないな」
「あっ……!うえっ……」
びしゃり。
目の前で鬼狩りの首が飛び、噴き出した鬼狩りの血が顔にかかって思わず目を閉じた。
「おい、いつまでそうしているつもりだ」
恐る恐る目を開けると、恋焦がれていたあの人が目の前にいた。
「あ、猗窩座様……どうして……」
「お前が斬られそうになるから……気づいたら咄嗟に身体が動いていた」
「そんな……」
首を斬られるという死の恐怖から解放されたせいか、私は赤子のように声を上げて泣いた。
「猗窩座様、ぅ……ぐすっ……あがざ、ざば……」
「煩い。泣くな」
「だって、死んじゃうかと思って……でもまた、猗窩座様が、私のことを助けて下さったから……」
「だから泣いているのか?嬉しくて?」
「ぅ……え……?」
「嬉しい、嬉しいといつも言っているだろう」
顔にかかった鬼狩りの血を、猗窩座様が手で拭おうとされる。
手つきが少々荒いのでは。
「ぃ、痛いです、猗窩座様。もっと優しく拭い、んぅ……」
「鬼狩りから助けた上に、血まみれの顔を拭いてやっているのに、礼も言えないのか?その顔じゃみっともないだろ」
「はひぃ、ありがと、んむ……ございまふ。大好きな猗窩座様に助けていただけで、光栄です」
「わかったならさっさと帰るぞ」
「帰るって、どこに……」
「俺の傍にいたいんじゃなかったのか?」
そりゃあ、お傍におかせいただきたいですけども。
私には無理でしょう?
弱いですし。
あなた様がお嫌いな、弱者に該当しますから。
「私は……」
「質問を変えよう。お前は何故俺の傍にいたがる?」
「えっ……?だって、その……猗窩座様のことが好き、だから……です……」
改めて、面と向かって言うと、急に恥ずかしくなって。言葉が尻すぼみになってしまう。
「だったら俺も一緒だ。だから早く帰るぞ」
「一緒って、え、うわっ」
腕の中に閉じ込めるようにして抱きしめられたかと思えば、初めて会ったあのときと同じように身体がまた宙に浮いた。遠ざかっていく首のない鬼狩りの身体に、猗窩座様が私を抱えて走り出したのだと気づく。
「猗窩座様、一緒って、それ遠回しに」
「好きになって何か問題があるのか?」
「え!?……ないです!全然ないです、問題なんて!」
「だったらいいだろう、なまえ」
「なっ、名前、私の、名前」
「好きなやつを名前で呼んで悪いか?」
「それは……」
全くもって悪くないです、猗窩座様。
夜風にかき消されないようにそう叫ぶと、猗窩座様は私を見つめながら満足そうに笑った。
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リクエスト内容、原作設定の猗窩座で甘いお話でした。
詳しいリクエスト内容はこちらです。
『鬼殺隊に切られそうになった鬼のヒロインをたまたま猗窩座が助けたことで、猗窩座に一目惚れし、もうアタックするが冷たくあしらわれる。何度、冷たくあしらわれても告白し続けるが、撃沈し最後にもう一度告白しようと意気込んだ際に鬼殺隊に見つかり、攻撃するもやられそうになった時にまた助けられお礼を言った際に、ヒロインの無事を確認した猗窩座から自分も好きだと言われて、結ばれるお話』
『何度も告白してくるヒロインに冷たくあしらってた猗窩座だが、ヒロインへの好きという気持ちに気づいた瞬間、鬼殺隊にやられそうになっている所を発見し助ける猗窩座』
鬼のお話を書くのは初めてだったのですが、リクエストにお応えすることができましたでしょうか?
甘っていうか最後のほうなんかただのSみたいになってしまった……顔くらい優しく拭いてあげてよ……お気に召さなかったら、もうしわけありません……。
「裏を入れるかはお任せします」とのことでしたが、気持ちを確かめあったところで終わりに致しました。きっとこのあと、もっともっと愛を深めあった末、身体を重ねることでしょう。
人間を食べるために猗窩座に会いに行くのをぱったりやめた夢主でしたが、猗窩座は「最近あいつ、最近姿を見せなくなったな」と日に日に彼女のことが気になるようになりました。
ある晩、吐きそうになりながら人間を食べている夢主を見つけて、「こいつはきっと強くなれない」と思いました。
強くはなれないけど、強くなろうとする夢主を放ってはおけなかったのか、それからは、夢主が首を斬られそうになっても助けてあげられるように、夜な夜な人間を食べに行く夢主のことをこっそり見守っていました。夢主の名前を知っていたのは、夢主が人間に自分の名前を言っていたのを聞いていたからです。
そして以下、生前の夢主についてのエピソードです。長いです。
彼女は生まれつき身体が弱くはありましたが、好奇心が旺盛で、空を飛んでいる鳥や窓から入ってきた虫を捕まえようてしては「動くと身体に障るからやめなさい」と家族に咎められていました。また、同じ年齢の子どもたちと外で遊ぶことも許してもらえませんでした。そのため、両親が買い与えてくれた本でしか外の世界を知ることができませんでした。例えば、桃太郎や浦島太郎など、おとぎ話の内容も本当にあったことだと思っています。
異国を旅してみたい。たくさん友達をつくってみたい。動物と話ができるようになりたい。恋というものをしてみたい。そう思いながら生きてきました。
ある日、家族が寝ているすきに外に遊びに行ってみようと思った夢主は、真夜中に家を抜け出します。そこで運悪く鬼に出会ってしまったのです。生まれてからずっと一日の大半を寝て過ごしていた夢主は、鬼から逃げるために「走る」という考えが思いつかず、あっさり鬼に捕まって食べられそうになってしまいます。鬼になってから「鈍臭い」と言われたのも、足が遅いのもそれが原因です。鬼の身体を手に入れても、人間だったころあまり身体を動かすことがなかったので、元気な身体で何をしていいのかわからないのです。
おとぎ話の中で知った鬼が目の前にいることに夢主は興奮すら覚えてしまったようでした。夢主を捕まえた鬼は、夢主が逃げようしなかったこと、「本物の鬼だ」と自分のことをキラキラとした目で見つめる夢主のことを面白がって、夢主を自分と同じ鬼にしました。
身体こそ弱かったものの、とにかく生きて、もっといろんなことがしたいという気持ちが人一倍強かった夢主は、鬼の血を注がれたときの苦しみにもなんとか耐えることができたようです。
私、死んでない。なんで?まあいいか。生きてるんだしもっといろんなことがしたいなあ。
鬼になっても、そう思う程度でした。むしろ鬼になったあとの人生のほうが、夢主としては楽しいのかもしれません。
リクエスト、ありがとうございました。