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恋人の帰りが遅い。
遅いだけならまだしも、帰ってきてもずっと気難しい顔で何かを考えている。
私には言えない悩み事でもあるのだろうか。
それとも隠し事?
浮気を疑っているわけではないけれど、とにかく様子が変なのだ。
何かあるのなら話してほしい。でも、彼の性格上、何かあったとしても私には頼ってくれないだろう。
そんなもやもやした気持ちを抱えたまま、久しぶり2人でゆっくり過ごすことができるであろう、週末を迎えた。
「おい……起きろ」
声をかけられ、身体を揺すられて目を覚ます。
時計を見るとまだ朝の8時前だった。
私を起こした彼は髪も服もきっちりと整えて、これからどこかに出かけるみたいな格好をしていた。
「……おはよう」
「少し出かけてくる」
寝起きの、まだぼうっとしている頭で、彼の言葉を必死に処理する。
出かける?
こんな朝早くから?
私を置いて、1人で?
「……私も行く」
準備にどれくらいかかるかわからないけど、どこかに行くというのなら着いていきたい。
でもなあ、せっかく出かけるんだったら服もちゃんと選びたいし、髪を巻く時間もほしい。準備にかなり時間がかかるかもしれない。
「待ってて。私も準備するから……」
「お前はまだ寝ていろ。私ひとりで行ってくる」
「……えっ」
起こしておきながら自分ひとりで出かけるって、なにそれ。
久しぶりに一緒にいられると思ったのに。
冷たいなあ。
とはいえ、一緒に出かけるとなると彼を待たせてもらうのは事実だ。それに本当にひとりで済ませたい用事があるのなら、私はいないほうがいい。
「……わかった」
どこに行くかも訊かないで、「気をつけて」と一言添えて、ベッドの上から彼を見送った。
寝室にぽつんと取り残された私。
休日に折角早起きしたのだから何かやるべきなのかもしれない。しかしまあ、これといって特に何も思いつかないわけで。二度寝。いや、不貞寝をしようとマットレスに再び身体を沈める。
しんと静かな部屋に時計の針の音が響く。その音が私の気持ちを不安にさせる。
どこで何をしているんだろう。
本当にひとりで済ませたい用事って?
もしかしたらひとりじゃないかもしれない。誰かと会ってるのかな。
女の人、とか?最近、帰ってくるのが遅かったのもそのせい?
〝浮気〟という考えたくもない2文字が脳裏にちらつく。
彼に限ってそんなことは。なんて、呑気に構えている場合じゃないのかもしれない。
それはそれは見目も麗しく、頭もよく、仕事もできる彼は、たいそうおモテになるだろう。そんな彼が、どうして私なんかと一緒にいてくれのか、不思議なくらいだ。
帰ってきたら、あくまで、冗談半分で、「浮気?」とか聞いてみようかな。
でも否定されなかったら?
開き直って「そうだ」と言われたら。私は一体どうしたらいいのだろうか。
嫌な方向にばかり考えてしまう。気づけばぽろぽろと涙まで流れてきた。
どうして私、休みの日に、朝からひとりで泣いてるんだろう。
ぐすりと鼻をすすると、部屋の外から物音がした。彼が帰ってきたのだ。
泣いてることを知られたくなくて、思わず布団を頭まで被った。
寝室のドアが開き、「まだ寝てるのか」と声がかかる。
布団からを出すことなく、涙で震える声のまま「おかえり」と返事をした。
「どうした?具合が悪いのか?」
「……別に、元気だけど」
「嘘をつくな」
「あっ、ちょっと!」
いつの間にかベッドのすぐ側にいた彼に、布団を剥ぎ取られた。
ガッツリと目が合う。
涙と鼻水で汚れた私の顔を見て、彼の綺麗な顔が不快そうに歪んだ。
「泣くほど身体が辛いのか?」
「……辛くない。大丈夫」
「無理をするな。休みの日でも診てくれる医者に--」
「だから大丈夫って言ってるでしょ!」
大きな声でそう言って、やってしまったなあと後悔する。
外で何してたのか知らないけど、それでも彼は私のことを心配してくれているのだ。
それなのに突き放すようなことを言って、我ながら自分のことを酷い女だと思う。
「叫ぶほどの気力はあるようだな」
「私の気遣いなど無用だったか」と呟いて、彼は寝室を出ていこうとした。
布団の中からのびた手が、「怒鳴ってごめんなさい」とか「心配してくれてありがとう」のかわりに、彼の腕を掴んでいた。
「何だ?」
「えっと……私、あのね……その……」
「はっきりしろ。ちゃんと言え」
「ど、どこ行ってたの……?私には言えないようなところ?本当にひとりだった?」
どんな返事が返ってくるのか。恐る恐る訊ねたけれど、紅の瞳は私のことをじっと見るだけで何も答えてくれない。
そうか。私には言えないようなところで、誰かと一緒にいたんだ。
もう終わりだと、諦めて彼の腕を離した。
かと思えば、離した腕が私の腕を掴んで、「来い」と布団から引きずり出された。
寝巻きのままの私と小綺麗な恰好した彼。
ちぐはぐなまま寝室を出てリビングに向かう。彼は私の腕をぱっと離すとテーブルを挟んだ向かい側に腰掛けた。
「おい、いつまで突っ立っているつもりだ」
とうとう別れ話でもはじまるのかと、立ち尽くしている私に、彼は「早く座れ」と促した。
言われた通り腰をおろすと、彼がカバンの中から何かを取り出した。
「これに名前を書け」
「名前……?えっ、これ……え?」
私の目の前に掲げられたのは、〝婚姻届〟と書かれた紙だった。
「見てわからないのか?」と彼が続ける。
「ここにお前の名前を書けと言っている。それと、ハンコはどこにしまってある?証人も誰かに書いてもらうよう頼んでおけ」
これは夢か?
もしかして、泣いているうちに寝てしまったのか?
そうに違いない。
頬を抓りでもすれば、直ぐに夢から覚めるだろう。
そう思って自分の頬を思い切り叩いた。
「痛い!めちゃくちゃ痛い!」
頬の痛みに悶絶する私を見て、彼が怪訝そうな顔した。
「急にどうした?頭でもおかしくなったのか?それとも、自分で自分を痛めつけるような趣味があったのか?」
頭はおかしくないし、そんな趣味もない。
おかしいのは、今目の前で起きていることだけだ。
「そういえば、先程どこに行っていたのかと訊いたな?」
「訊いたけど……」
「これをもらいに行っていた。平日は行けないからな」
「あ……」
なるほど。仕事が終わって家に帰ってくる頃にはもう役所は閉まっている。休日に開庁している今日を見計らって貰いに行ったということか。
「それと、指輪のことだが」
「指輪?」
「何件か店をまわってみたが、私ひとりで決めるのはおもしろくない。お前の意見も聞かせろ」
「……は?」
「一緒に指輪を選べと言っているのがわからないのか?」
「ねえ……指輪見に行ったのって、いつ……」
「ここのところ毎日だ」
「ってことは……」
帰ってくるのが遅かったのはお店を見てまわっていたからだったんだ。
全部私の勘違いだったのかと、安堵のため息が口から漏れる。
「何故ため息を着く?まさか、書けないとでも言うつもりか?」
「か、書く!書きます!」
はっと我に返って紙に手をのばすと、紙を高く持ち上げられた。
「紙が汚れるだろう。泣き止んでからにしろ」
「ええ……無理……嬉しくて、涙がとまらない……」
べそべそと泣きやまない私に、彼もため息をついた。そして、婚姻届をテーブルの端に置くと、指で私の涙を拭った。
「お前は、私が与える幸せが、この程度のものだと思っているのか?」
「この程度って、どの程度まであるのよ……」
好きな人にプロポーズをされたのだ。
こんなにも幸せなことはない。
それにもかかわらず、まだこの上の〝幸せ〟があるのか。
「もう十分幸せなのですが……」
「いや、まだだ。そうだな……お前が涙で溺れ死んでしまうほどの幸せをくれてやろう」
彼はそう言って自信ありげに微笑んだ。
「そんな最高な死に方ある?」
「私がそういうのだから、お前は信じてさえいればいい」
「そ、そうですか……」
「わかったなら早く着替えろ」
「え……?なんで?」
「お前の意見も聞かせろと言っただろう」
寝癖はついたまま、パジャマのままの私に、彼は「もう忘れたのか」と言って眉間に皺を寄せた。
そうだ、指輪。
一緒に選ぶんだった。
「わ、わかった!すぐに着替えてくる!」
「寝癖もきちんと直してこい」
「それもわかってるってば!」
「待ってて」と言って、慌ただしくリビングを抜け出す。
何を着ようかな。
カバンは?靴は?
髪も巻きたいな。
こんな最高の日に、オシャレをしないなんて勿体ない。
嬉しくて、幸せで、口元は緩んでしまうし、変な笑い声も出てくる。有名なウェディングソングだって、鼻歌で歌っちゃう。
準備にかなり時間がかかるかもしれないけれど、今日ばかりは許してね。
心の中で謝って、私はとびきりのオシャレをするべくクローゼットのドアを開けた。
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匿名希望様からのリクエストでお相手無残様、現パロの切甘でした。
書いた私が言うのもアレですが、これは切甘なのか…?夢主さんのことを突き落として持ち上げただけな感じがする…切甘、難しいなあ……
夢主さんが無惨様のことを何と呼んでいるのかが悩みどころだったのですが、現パロだし「様」はつけないのかなあ、でも呼び捨てになんてできないしなあと思い、夢主さんが無惨様の名前を呼ぶシーンは書きませんでした。
無惨様初めて書きました。だめだあ…無惨様の特徴が全然掴めない…原作を読み返して、彼はどんなふう夢主さんに愛を注ぐのだろうと考えてはみたのですが…もっと頑張ります…
リクエストありがとうございました!