短編・中編
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今日もグランドラインのとある航路をポーラタング号は進んでいた。グランドラインの天候とは不思議なもので、突然の嵐は勿論、ついさっきまで雪の降る様な寒さに襲われて居たはずなのに気付けば常夏の熱風が押し寄せる、そんな海域だ。
今このポーラタング号では正にその状況で、ほとんどの船員がその暑さに項垂れていた。
「あぁ〜あチィ〜暑すぎる…」
「ホントにな…次の島は夏島らしいしな…」
「へへ…水着美女いるかな…」
へへっとダラしない声をあげる船員をチラッと見ると名前は、はぁと溜息を落とした
シャチはそんな名前を見つけるとがたっと椅子から腰を上げて指を指した
「おいおい、お前なんだよ!そんな暑苦しい格好してさ!!イッカクを見習って少しはビキ…いや、涼しい格好しろよ!!」
「そーだそーだ!!ビキニ!ビキニ!!」
「なっ…バカじゃないの!?!?」
チェーっと言うと、再び暑い暑いと暑がる男達に名前は心底嫌気がさした
名前は自分の体型に自信がある訳ではないし、船内に2人しかいない女性クルーであるイッカクはそれはもう素晴らしい体で、余計に体のラインの出る様な服装は避けたかった。
この船では長い事陸を見ていなかったせいか、船員達もそろそろ女の子が見たいのだろう
「だからってクルーの私にまで言わないでよ…!!」
ぷくっと頬を膨らませながら名前は、コックから貰った冷えたお茶を片手に自室へ引きこもった
「へへ…出来た!」
両手で広げた物は、シアー生地で作ったパーカーだ。どうしてもそのまま肌を露出する事に抵抗のある名前は以前購入していた生地を使い夏島へ向けての服を作っていた。
というのも、名前は船員達の衣服を作ったり直す事がこの船での仕事だった。
一瞬船員達の夏服も作ろうか…と考えたが、その必要は無いな…と思い返し苦笑いをする。
この船の船員はほとんど男が乗っており、何故か基本的に皆同じツナギを着るのだがこのような気候の時には半袖半ズボンといった格好をする事が多い。まぁ大半はタンクトップや上半身裸の人もいるのだが…
そんな男達が集まると、なんとも暑苦しいむさ苦しい空間が出来上がる。とくにズボンから出るあの黒い足。そうすね毛だ。何を話しているのかと思われればそうなのだが、何しろ汚いのだ。いや、汚いと言うのは失礼なのか…なんて頭を悩ませるものの、うんやっぱ無理。と結論づいた
「えーっと、あったあった。」
以前イッカクとショッピングをした際に、これぐらいなら…と妥協をして購入したへそ出しのタンクトップだ。ちゃっかりハートの海賊旗も刺繍済みで、やっと気にせず着れることが少し嬉しかった。それにショートパンツを履けば、普段露出の少ない名前にとってはかなり冒険した服装になった。
「うーん、ちょっと恥ずかしい…でも暑いし…あぁ…でもキャプテンに見られたらどうしよう…」
鏡の前に立ち、大好きなキャプテンの事を考えるとキャッと両手で顔を隠した。
名前がキャプテンの事が好きな事はもうこの船にいる人物なら皆気づいている事だし、なんならキャプテンにすらバレている始末だ。
「きゃ、キャプテンに…か、可愛いとか言われたらど、どうしよう…あっ…でもキャプテンスタイルのいい人が好きなんだった…」
どんよりと一気に暗くなった名前は以前キャプテンにどんな女の人が好きなんですか?という質問をした時の事を思い出したのだ
「まァ、ああいう女だな。」
いかにも面倒くさそうにあしらうキャプテンの指さす方向には、ダイナマイトボディの艶やかな女性がいた
余りにも自分とはかけ離れたキャプテンの理想にとてつもないショックを受けた
それからというもの名前は肌を露出する事が余計に嫌になり、今のスタイルになったと言える
「はぁ…あんなことも忘れて私ったら…あーやっぱ着替えようかな…でも死ぬほど暑い…」
あーだこーだ悩んだ後、どうせ次の夏島では暑さに我慢できないだろうし、なるべくキャプテンに会わないようにしよう!そう思いドアノブを握ると名前が力を入れる間もなく扉はグイッと開かれた。
勢い良く開かれた扉に、名前の体はバランスを崩しポスッと筋肉と刺青、そう筋肉と刺青が視界いっぱいに広がった。
「えっあっあっえっきゃキャプテン…!?」
「なんだ、元気そうじゃねェか。シャチの奴騒ぎやがって…。」
キャプテンは気ダルそうな声を出すと、グイッと名前の腕を引っ張り顔を近づけた
突然の漫画のようなシュチュエーションに名前の心臓はバクバクと高鳴っていた
「おい、熱中症になるからマトリョーシカみたいな服は着るな、いいな。」
「ま、マトリョーシカ…???」
「いつも馬鹿みてェに着込んでるだろ。それぐらいの服を着ろ。わかったな。」
「マトリョーシカ…マトリョーシカ…はい。アイアイキャプテン…」
キャプテンに体型を見られたくないが故に肌を隠していた服装が、まさかマトリョーシカだと思われていたなんて、名前は軽くショックを受けた
しょぼんと顔を下に向けると、以前キャプテンに作って履いて貰えなかった半ズボンを履いていた。
「えっ!!きゃ、キャプテン!!ズ、ズボン!!はいてくれたんですかぁあ!?」
普段長ズボンばかりはいているキャプテンの膝を拝む事は初めてだった上に、更に初めて拝むスネには毛が生えていなかった。
やっぱりキャプテン程の素敵な人だと足も綺麗なのかとまじまじ見詰めてしまい、しまいには先程のテンションを忘れ、私は興奮気味にキャプテンを見上げた
「キャプテン!キャプテン!キャプテンってすね毛も生えてないんですね!!どうしてですか!?他の人はみんな生えてるのに…」
ジトッとキャプテンを見上げれば、ぷいっと顔を逸らしキャプテンは私の腕から手を離した
「馬鹿か。俺だって毛ぐらい生える。」
「えっ、それってキャプテンすね毛剃ってるって事ですか?」
私はパタパタと歩幅の違うキャプテンについて行くために忙しなく歩くと突然止まったキャプテンに顔をぶつけた
「ふべっキャ…キャプテン…?」
「大体、お前はすね毛の生えてる男は嫌いだと言っていただろ。」
「えっ…私キャプテンにそんな事言いましたっけ…」
「っテメェ…!!」
今にも鬼哭を抜いてしまいそうなキャプテンにアワアワとするが、私はうーんと考えた
確か前回夏島へ行った時、むさくるしいクルー達を見て、うわーと言った記憶はあった。しかしそれをキャプテンに話しただろうか…?
深く考え、私は全て思い出した
ーー
それは先程思い出した嫌な思い出とも繋がっているものだった。
あの日、夏島へ着いた途端クルーたちは海水浴を始めた。そこそこ有名な観光スポットでもあったそこでは可愛い女の子たちも沢山居た。鼻を伸ばすだらしないクルーに私は呆れつつも、イッカクと一緒に買ったビキニに着替えようかな〜なんて考えていた。
そんな時、大好きなキャプテンが目に入った。勿論なんの迷いもなくキャプテ〜ンと駆け寄ると、どうした?といつもの調子で私の話を聞く体勢を取ってくれた。
「みんな楽しそうですね!キャプテンもみんなと一緒に遊ばないんですか?」
「俺がああいうのに興味を持つと思うのか。そんな事より、名前お前はあいつらの所へ行かなくていいのか。」
「みんな女の子と楽しそうにしてるので、私はイッカクと遊ぶんです!それにむさ苦しいのから少し解放されたいし…」
「むさ苦しい…?」
キャプテンが不思議そうに眉を寄せたので、私は慌てて手のひらをブンブンと振った。違う違うのだ、むさ苦しいとは言ったがキャプテンの事ではないし、むしろ今もキャプテンと一緒にいたいんだ。
「あっ、違うんです!!キャプテンは違くて、ほら!!みんな暑い暑いって裸とかで生活してたから…なんかこう余計暑くなったっていうか!!すね毛とかみんな沢山生えてるからなんかちょっと汚…いや、ビックリするなみたいな!!」
アハハアハと乾いた笑いで、ペラペラと言い訳を並べ、キャプテンを見ると、キャプテンは少し考えた顔をしていた
「あ、あの…キャプテン…?」
「あ?」
「あっ、いやっその…ハッ!そういえばキャプテンはどういう女の子が好きですか!?!?」
我ながら突拍子もないが、兎に角話題を変えたくて何となくそんなことを聞いてしまった。何時もは適当にはぐらかされる為、今日もそうだろうと私は思っていた
「まァ、ああいう女だな。」
「うんうん。そうですよね、私ですよ…えっ!?」
いつもの様にはぐらかされるそう思っていたのに、面倒くさそうにキャプテンが指を指したのはダイナマイトボディの女の人だった。
えっ嘘でしょ…?本当にあの人がタイプなの?そんなことを聞く間もなく、キャプテンは女の人の所へむかってしまったのだ。
今からビキニに着替えてキャプテンと一緒に遊ぶなんて考えていた自分を愚かだと思った上に、少しはキャプテンに振り向いてもらえるかもしれないなんて自惚れに頭をガンっと打たれた気持ちになった。因みにその出来事が起きてから1ヶ月ほど私は屍のような生活をしていた。
ーー
「あっ!!思い出した!!キャプテンキャプテン!思い出しました!!あっでも私キャプテンのすね毛は見たいですー!!だってキャプテンがどんな人だろうと私はキャプテンの事が大好きなので、すね毛如きで嫌いにはなりません!!!」
「テメェな…!!」
「そんな事より、キャプテン!!私がすね毛嫌いだと思ったから剃ったんですか!?私の為ですか??もしかしてキャプテンも私の事…きゃっ!」
何も言わず足を進めるキャプテンをデレデレと追いかけた
だってさっきのキャプテンの言い方だと、まるで私がすね毛が嫌いだから無くしたと言うふうに聴こえた。都合のいい話かもしれないが、都合良く考えてしまうのが私だ。
が、しかしそれは今までの話、つい先程思い出した嫌な記憶がスポーンと脳に横入りし、私は再びテンションを下げた。
「キャプテン…私部屋に戻りますね…」
私はクルッとキャプテンに背を向け部屋へ戻ろうとした
はァというキャプテンの溜息が聞こえると、気付けば私の体は宙に浮いていた
「具合いが悪いならそういえ。」
「えっいやあのキャ、キャプテン!?」
キャプテンは軽々と俵のように私を担いだのだ
「うるせぇ。診察するから大人しくしてろ。」
「待って待って下さい!私何処も悪くありません!!それに診察って…」
診察をすると言う事は、キャプテンにまじまじと体を見られてしまうではないか。キャプテンに私の体型なんてバレてる事は分かりきっていたのだが、それとこれは別。まじまじと見られ、余計に幻滅されるのは嫌なんだ。
「私本当に大丈夫です!!降ろして下さい〜!!!」
キャプテンに手を上げる事など出来ない私は、体は大人しくしつつも降ろしてと必死に訴えた。その訴えも虚しく、あっという間にキャプテンの部屋の椅子に降ろされた。
慌てて立ち上がろうとするも、ガシッと捕まれ、大人しくしろと言われ、私は威嚇された小動物の様に大人しく椅子に座り丸くなった。
椅子の上で足を折り所謂体育座りの様な体制をとり、両腕はしっかりと足にまわした。
「…おい、何をしてる。足を降ろせ。」
「い、嫌です…」
「テメェ…何を隠してやがる、いい加減にしろ。」
「い、嫌だぁぁあ!!キャプテンには見せれないんですぅうう!!」
「ほぅ…。俺には見せれない…ねェ…」
ピキっと青筋を立てるキャプテンに私はサーっと血の気が引いたように真っ青になった
「ち、ちがそういう訳じゃ…」
決してキャプテンを拒絶するとかそういう訳ではないのだと、そんな言い訳をする間もなく、私の手足はあっさりとキャプテンに抑えられた
「うぅっ…あんまりです…」
「うるせぇ。初めから大人しくしとけ。」
これ以上キャプテンの手を煩わせる訳にも行かず、私はそのまま診察を受けた
私にはさっぱり分からない紙にキャプテンがなにやら書くのを待っているとキャプテンが口を開いた
「どこも異常はねぇな。」
「だからそう言ったじゃないですか!!あ、あのもう戻っても良いですか?」
「で?何を見られたくなかったんだ。」
足早にキャプテンの部屋を去ろうとすると、鋭い視線が刺さった
うぐっと変な声を出せば、キャプテンは再び気難しい顔をする。さっさと言わないとバラすと言われ私は再び足を組み、頭もすっぽりと下を向き蹲り丸くなりながらゆっくり口を開いた
「だって…キャプテンが…キャプテンに嫌われたくなくて…」
「は?一体何の話をしている。」
「キャプテンはボンキュッボンな女の人が好きだから…だから…」
その先の言葉が紡げずにいると、キャプテンが口を開いた
「俺がいつそんな事を言った。大体お前がそうじゃない事ぐらい見ればわかる。」
キャプテンの言葉に私はガバッと顔を上げると、キャプテンはぎょっとした顔で私を見た
「おい…名前…」
「だってキャプテン言ったじゃないですか!!!ボンキュッボンの人指さしてああいう女が良いって!!わた、わたし…キャプテンのこと好きだから…」
まるで意味が分からないと言う顔をするキャプテンに対し、私の顔はグチャグチャだった。キャプテンと一緒に居るだけでいいと思い満足していた筈なのに、やっぱり心のどこかでは隣に並びたくて、いつかは振り向いて同じ気持ちになって欲しいって思っていたから、だからこそ幻滅されたくなかった
「名前落ち着け。大体俺は女の体型なんかに興味はない。」
「でもあの時、あの女の人がいいって…それにあの後すぐその人の所へ行ったじゃないですか…」
ぐずっと鼻をすする私はキャプテンをじとっと見つめた。
キャプテンは少し考える素振りを見せると、あァあの島の話か…と話の内容をすっかり思い出し私の目を見た
「いいか、あの女は医者だ。いくつか本も出している。船の医療設備と知識を増やすためにあの女に会いに行った。」
「じゃ、じゃあキャプテンはお医者様が好きなんですか?」
「馬鹿言うな。医者は俺一人で充分だ。」
「じゃあなんであの時…」
どうしてあんな意地悪な事を…そう言おうとした私の頭に大好きなキャプテンのゴツゴツとした大きな手が乗った
「悪かった。どうせお前の事だからすぐ忘れると思っていた。」
「…えっ…キャプテン…」
「…なんだ。」
あのキャプテンからの突然の謝罪に私は目を丸くした
だってだって、あのキャプテンが、私に意地悪をした事を誤っているのだ。それに、キャプテンと私は付き合っている訳でも好き同士でもない、そんな嘘をついた所でキャプテンが謝る必要は無いのに。
そんな事を色々考えていたら、言いたい事は沢山あった筈なのに、なんだか嬉しくて私はへにゃっと笑った
「えへへ。やっぱり私はキャプテンが大好きです!!キャプテンぎゅーしてもいいですか!!!やっぱり具合悪いみたいです!!キャプテ〜ン!」
「おい、馬鹿離せ…!」
「えへへ〜」
ぎゅっと久しぶりに自らキャプテンの身体に腕を回すと、なんだか以前よりキャプテンは抵抗していない、そんな気がした。
結局キャプテンの意地悪の原因はわからなかったけど、これからも気にせずキャプテンに引っ付いて生きていこう。
今このポーラタング号では正にその状況で、ほとんどの船員がその暑さに項垂れていた。
「あぁ〜あチィ〜暑すぎる…」
「ホントにな…次の島は夏島らしいしな…」
「へへ…水着美女いるかな…」
へへっとダラしない声をあげる船員をチラッと見ると名前は、はぁと溜息を落とした
シャチはそんな名前を見つけるとがたっと椅子から腰を上げて指を指した
「おいおい、お前なんだよ!そんな暑苦しい格好してさ!!イッカクを見習って少しはビキ…いや、涼しい格好しろよ!!」
「そーだそーだ!!ビキニ!ビキニ!!」
「なっ…バカじゃないの!?!?」
チェーっと言うと、再び暑い暑いと暑がる男達に名前は心底嫌気がさした
名前は自分の体型に自信がある訳ではないし、船内に2人しかいない女性クルーであるイッカクはそれはもう素晴らしい体で、余計に体のラインの出る様な服装は避けたかった。
この船では長い事陸を見ていなかったせいか、船員達もそろそろ女の子が見たいのだろう
「だからってクルーの私にまで言わないでよ…!!」
ぷくっと頬を膨らませながら名前は、コックから貰った冷えたお茶を片手に自室へ引きこもった
「へへ…出来た!」
両手で広げた物は、シアー生地で作ったパーカーだ。どうしてもそのまま肌を露出する事に抵抗のある名前は以前購入していた生地を使い夏島へ向けての服を作っていた。
というのも、名前は船員達の衣服を作ったり直す事がこの船での仕事だった。
一瞬船員達の夏服も作ろうか…と考えたが、その必要は無いな…と思い返し苦笑いをする。
この船の船員はほとんど男が乗っており、何故か基本的に皆同じツナギを着るのだがこのような気候の時には半袖半ズボンといった格好をする事が多い。まぁ大半はタンクトップや上半身裸の人もいるのだが…
そんな男達が集まると、なんとも暑苦しいむさ苦しい空間が出来上がる。とくにズボンから出るあの黒い足。そうすね毛だ。何を話しているのかと思われればそうなのだが、何しろ汚いのだ。いや、汚いと言うのは失礼なのか…なんて頭を悩ませるものの、うんやっぱ無理。と結論づいた
「えーっと、あったあった。」
以前イッカクとショッピングをした際に、これぐらいなら…と妥協をして購入したへそ出しのタンクトップだ。ちゃっかりハートの海賊旗も刺繍済みで、やっと気にせず着れることが少し嬉しかった。それにショートパンツを履けば、普段露出の少ない名前にとってはかなり冒険した服装になった。
「うーん、ちょっと恥ずかしい…でも暑いし…あぁ…でもキャプテンに見られたらどうしよう…」
鏡の前に立ち、大好きなキャプテンの事を考えるとキャッと両手で顔を隠した。
名前がキャプテンの事が好きな事はもうこの船にいる人物なら皆気づいている事だし、なんならキャプテンにすらバレている始末だ。
「きゃ、キャプテンに…か、可愛いとか言われたらど、どうしよう…あっ…でもキャプテンスタイルのいい人が好きなんだった…」
どんよりと一気に暗くなった名前は以前キャプテンにどんな女の人が好きなんですか?という質問をした時の事を思い出したのだ
「まァ、ああいう女だな。」
いかにも面倒くさそうにあしらうキャプテンの指さす方向には、ダイナマイトボディの艶やかな女性がいた
余りにも自分とはかけ離れたキャプテンの理想にとてつもないショックを受けた
それからというもの名前は肌を露出する事が余計に嫌になり、今のスタイルになったと言える
「はぁ…あんなことも忘れて私ったら…あーやっぱ着替えようかな…でも死ぬほど暑い…」
あーだこーだ悩んだ後、どうせ次の夏島では暑さに我慢できないだろうし、なるべくキャプテンに会わないようにしよう!そう思いドアノブを握ると名前が力を入れる間もなく扉はグイッと開かれた。
勢い良く開かれた扉に、名前の体はバランスを崩しポスッと筋肉と刺青、そう筋肉と刺青が視界いっぱいに広がった。
「えっあっあっえっきゃキャプテン…!?」
「なんだ、元気そうじゃねェか。シャチの奴騒ぎやがって…。」
キャプテンは気ダルそうな声を出すと、グイッと名前の腕を引っ張り顔を近づけた
突然の漫画のようなシュチュエーションに名前の心臓はバクバクと高鳴っていた
「おい、熱中症になるからマトリョーシカみたいな服は着るな、いいな。」
「ま、マトリョーシカ…???」
「いつも馬鹿みてェに着込んでるだろ。それぐらいの服を着ろ。わかったな。」
「マトリョーシカ…マトリョーシカ…はい。アイアイキャプテン…」
キャプテンに体型を見られたくないが故に肌を隠していた服装が、まさかマトリョーシカだと思われていたなんて、名前は軽くショックを受けた
しょぼんと顔を下に向けると、以前キャプテンに作って履いて貰えなかった半ズボンを履いていた。
「えっ!!きゃ、キャプテン!!ズ、ズボン!!はいてくれたんですかぁあ!?」
普段長ズボンばかりはいているキャプテンの膝を拝む事は初めてだった上に、更に初めて拝むスネには毛が生えていなかった。
やっぱりキャプテン程の素敵な人だと足も綺麗なのかとまじまじ見詰めてしまい、しまいには先程のテンションを忘れ、私は興奮気味にキャプテンを見上げた
「キャプテン!キャプテン!キャプテンってすね毛も生えてないんですね!!どうしてですか!?他の人はみんな生えてるのに…」
ジトッとキャプテンを見上げれば、ぷいっと顔を逸らしキャプテンは私の腕から手を離した
「馬鹿か。俺だって毛ぐらい生える。」
「えっ、それってキャプテンすね毛剃ってるって事ですか?」
私はパタパタと歩幅の違うキャプテンについて行くために忙しなく歩くと突然止まったキャプテンに顔をぶつけた
「ふべっキャ…キャプテン…?」
「大体、お前はすね毛の生えてる男は嫌いだと言っていただろ。」
「えっ…私キャプテンにそんな事言いましたっけ…」
「っテメェ…!!」
今にも鬼哭を抜いてしまいそうなキャプテンにアワアワとするが、私はうーんと考えた
確か前回夏島へ行った時、むさくるしいクルー達を見て、うわーと言った記憶はあった。しかしそれをキャプテンに話しただろうか…?
深く考え、私は全て思い出した
ーー
それは先程思い出した嫌な思い出とも繋がっているものだった。
あの日、夏島へ着いた途端クルーたちは海水浴を始めた。そこそこ有名な観光スポットでもあったそこでは可愛い女の子たちも沢山居た。鼻を伸ばすだらしないクルーに私は呆れつつも、イッカクと一緒に買ったビキニに着替えようかな〜なんて考えていた。
そんな時、大好きなキャプテンが目に入った。勿論なんの迷いもなくキャプテ〜ンと駆け寄ると、どうした?といつもの調子で私の話を聞く体勢を取ってくれた。
「みんな楽しそうですね!キャプテンもみんなと一緒に遊ばないんですか?」
「俺がああいうのに興味を持つと思うのか。そんな事より、名前お前はあいつらの所へ行かなくていいのか。」
「みんな女の子と楽しそうにしてるので、私はイッカクと遊ぶんです!それにむさ苦しいのから少し解放されたいし…」
「むさ苦しい…?」
キャプテンが不思議そうに眉を寄せたので、私は慌てて手のひらをブンブンと振った。違う違うのだ、むさ苦しいとは言ったがキャプテンの事ではないし、むしろ今もキャプテンと一緒にいたいんだ。
「あっ、違うんです!!キャプテンは違くて、ほら!!みんな暑い暑いって裸とかで生活してたから…なんかこう余計暑くなったっていうか!!すね毛とかみんな沢山生えてるからなんかちょっと汚…いや、ビックリするなみたいな!!」
アハハアハと乾いた笑いで、ペラペラと言い訳を並べ、キャプテンを見ると、キャプテンは少し考えた顔をしていた
「あ、あの…キャプテン…?」
「あ?」
「あっ、いやっその…ハッ!そういえばキャプテンはどういう女の子が好きですか!?!?」
我ながら突拍子もないが、兎に角話題を変えたくて何となくそんなことを聞いてしまった。何時もは適当にはぐらかされる為、今日もそうだろうと私は思っていた
「まァ、ああいう女だな。」
「うんうん。そうですよね、私ですよ…えっ!?」
いつもの様にはぐらかされるそう思っていたのに、面倒くさそうにキャプテンが指を指したのはダイナマイトボディの女の人だった。
えっ嘘でしょ…?本当にあの人がタイプなの?そんなことを聞く間もなく、キャプテンは女の人の所へむかってしまったのだ。
今からビキニに着替えてキャプテンと一緒に遊ぶなんて考えていた自分を愚かだと思った上に、少しはキャプテンに振り向いてもらえるかもしれないなんて自惚れに頭をガンっと打たれた気持ちになった。因みにその出来事が起きてから1ヶ月ほど私は屍のような生活をしていた。
ーー
「あっ!!思い出した!!キャプテンキャプテン!思い出しました!!あっでも私キャプテンのすね毛は見たいですー!!だってキャプテンがどんな人だろうと私はキャプテンの事が大好きなので、すね毛如きで嫌いにはなりません!!!」
「テメェな…!!」
「そんな事より、キャプテン!!私がすね毛嫌いだと思ったから剃ったんですか!?私の為ですか??もしかしてキャプテンも私の事…きゃっ!」
何も言わず足を進めるキャプテンをデレデレと追いかけた
だってさっきのキャプテンの言い方だと、まるで私がすね毛が嫌いだから無くしたと言うふうに聴こえた。都合のいい話かもしれないが、都合良く考えてしまうのが私だ。
が、しかしそれは今までの話、つい先程思い出した嫌な記憶がスポーンと脳に横入りし、私は再びテンションを下げた。
「キャプテン…私部屋に戻りますね…」
私はクルッとキャプテンに背を向け部屋へ戻ろうとした
はァというキャプテンの溜息が聞こえると、気付けば私の体は宙に浮いていた
「具合いが悪いならそういえ。」
「えっいやあのキャ、キャプテン!?」
キャプテンは軽々と俵のように私を担いだのだ
「うるせぇ。診察するから大人しくしてろ。」
「待って待って下さい!私何処も悪くありません!!それに診察って…」
診察をすると言う事は、キャプテンにまじまじと体を見られてしまうではないか。キャプテンに私の体型なんてバレてる事は分かりきっていたのだが、それとこれは別。まじまじと見られ、余計に幻滅されるのは嫌なんだ。
「私本当に大丈夫です!!降ろして下さい〜!!!」
キャプテンに手を上げる事など出来ない私は、体は大人しくしつつも降ろしてと必死に訴えた。その訴えも虚しく、あっという間にキャプテンの部屋の椅子に降ろされた。
慌てて立ち上がろうとするも、ガシッと捕まれ、大人しくしろと言われ、私は威嚇された小動物の様に大人しく椅子に座り丸くなった。
椅子の上で足を折り所謂体育座りの様な体制をとり、両腕はしっかりと足にまわした。
「…おい、何をしてる。足を降ろせ。」
「い、嫌です…」
「テメェ…何を隠してやがる、いい加減にしろ。」
「い、嫌だぁぁあ!!キャプテンには見せれないんですぅうう!!」
「ほぅ…。俺には見せれない…ねェ…」
ピキっと青筋を立てるキャプテンに私はサーっと血の気が引いたように真っ青になった
「ち、ちがそういう訳じゃ…」
決してキャプテンを拒絶するとかそういう訳ではないのだと、そんな言い訳をする間もなく、私の手足はあっさりとキャプテンに抑えられた
「うぅっ…あんまりです…」
「うるせぇ。初めから大人しくしとけ。」
これ以上キャプテンの手を煩わせる訳にも行かず、私はそのまま診察を受けた
私にはさっぱり分からない紙にキャプテンがなにやら書くのを待っているとキャプテンが口を開いた
「どこも異常はねぇな。」
「だからそう言ったじゃないですか!!あ、あのもう戻っても良いですか?」
「で?何を見られたくなかったんだ。」
足早にキャプテンの部屋を去ろうとすると、鋭い視線が刺さった
うぐっと変な声を出せば、キャプテンは再び気難しい顔をする。さっさと言わないとバラすと言われ私は再び足を組み、頭もすっぽりと下を向き蹲り丸くなりながらゆっくり口を開いた
「だって…キャプテンが…キャプテンに嫌われたくなくて…」
「は?一体何の話をしている。」
「キャプテンはボンキュッボンな女の人が好きだから…だから…」
その先の言葉が紡げずにいると、キャプテンが口を開いた
「俺がいつそんな事を言った。大体お前がそうじゃない事ぐらい見ればわかる。」
キャプテンの言葉に私はガバッと顔を上げると、キャプテンはぎょっとした顔で私を見た
「おい…名前…」
「だってキャプテン言ったじゃないですか!!!ボンキュッボンの人指さしてああいう女が良いって!!わた、わたし…キャプテンのこと好きだから…」
まるで意味が分からないと言う顔をするキャプテンに対し、私の顔はグチャグチャだった。キャプテンと一緒に居るだけでいいと思い満足していた筈なのに、やっぱり心のどこかでは隣に並びたくて、いつかは振り向いて同じ気持ちになって欲しいって思っていたから、だからこそ幻滅されたくなかった
「名前落ち着け。大体俺は女の体型なんかに興味はない。」
「でもあの時、あの女の人がいいって…それにあの後すぐその人の所へ行ったじゃないですか…」
ぐずっと鼻をすする私はキャプテンをじとっと見つめた。
キャプテンは少し考える素振りを見せると、あァあの島の話か…と話の内容をすっかり思い出し私の目を見た
「いいか、あの女は医者だ。いくつか本も出している。船の医療設備と知識を増やすためにあの女に会いに行った。」
「じゃ、じゃあキャプテンはお医者様が好きなんですか?」
「馬鹿言うな。医者は俺一人で充分だ。」
「じゃあなんであの時…」
どうしてあんな意地悪な事を…そう言おうとした私の頭に大好きなキャプテンのゴツゴツとした大きな手が乗った
「悪かった。どうせお前の事だからすぐ忘れると思っていた。」
「…えっ…キャプテン…」
「…なんだ。」
あのキャプテンからの突然の謝罪に私は目を丸くした
だってだって、あのキャプテンが、私に意地悪をした事を誤っているのだ。それに、キャプテンと私は付き合っている訳でも好き同士でもない、そんな嘘をついた所でキャプテンが謝る必要は無いのに。
そんな事を色々考えていたら、言いたい事は沢山あった筈なのに、なんだか嬉しくて私はへにゃっと笑った
「えへへ。やっぱり私はキャプテンが大好きです!!キャプテンぎゅーしてもいいですか!!!やっぱり具合悪いみたいです!!キャプテ〜ン!」
「おい、馬鹿離せ…!」
「えへへ〜」
ぎゅっと久しぶりに自らキャプテンの身体に腕を回すと、なんだか以前よりキャプテンは抵抗していない、そんな気がした。
結局キャプテンの意地悪の原因はわからなかったけど、これからも気にせずキャプテンに引っ付いて生きていこう。
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