ペンギン
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ザザーっと波が押寄せる
海は見飽きていた、だけどそれが私の仕事の1部だからそんな事も言ってられない。双眼鏡の先に映るのは帆にドクロのマークを掲げた海賊船。この島の商売の相手であり、1歩間違えば危険を伴う可能性もある危険な取引相手だ。
「話のわかる人だといいんだけどなぁ。」
クンと鼻に付く匂いはこの島独特の気候からくるもの。今夜は嵐が来るだろう。私の役目は船を嵐から守る安全な船着場へ案内する事で、もし言う事を聞かない船乗りがいるのならその船はもれなく海の藻屑となるだろう。まぁ、話を聞かない相手の船なんてどうなろうが知ったことじゃないけど。船を見つければ見張り番は交代、引き継ぎをして私は船着場でプラプラと足を放りだす。
大きな船体からは下品な笑い声が聴こえてくる。人を第1印象で判断するのは良くないのかもしれないが、相手は海賊だ。この海賊団はあまり言う事を聞いてくれそうにないと判断をし私は直ぐに電伝虫に連絡を入れた。
降りてきた大男に向けて、RPGに出てくる街の紹介をするNPCの如く「ようこそ」と街の名前を紹介する。予想通りの野蛮な海賊は荒い声をあげ、今にも胸ぐらに掴みかかってきそうな勢いだ。
「この島の夜は危険なんです。安全に船を停泊出来る場所へご案内致します!」
「ハッ!そんなチンケな嘘には騙されねぇ。知ってるぞ、この島の出航率を。お前ら船の解体屋なんて呼ばれてる海賊を出汁にして商売をしてる馬鹿どもじゃねぇか。」
ゾロゾロと船から降りてくる海賊達に掴まれた体。言う事を聞かなかった海賊達から広められた嘘の情報で既に大ピンチ。うーんどうしようかな、なんて呑気に考えていれば、海がゴポゴポと音を立て始めた。初めて見る光景に私はぽかんとしていたけど、海賊達は焦り始める。だから私達は何もしないって言ってるのに。
ザパンと大きな音を立てて現れたのは黄色い潜水艦。よく見れば海賊旗が描かれている。海賊同士が鉢合わせるなんてやっぱり今日は大変な一日だ。
「お頭、は、ハートの海賊団です!!」
「な、なに…!?」
「おー着いた着いた。あれー?女のコ?」
「こんにちはー!」
焦り始める海賊団を他所に呑気に島の挨拶をすれば、ハートの海賊団の人達はすげーガッツだな〜なんて言いながらこちらへ近付いてきた。甲板にはゾロゾロと人が集まり、一際目立つ長身の大刀を携えた男がでてきた瞬間、私の胸ぐらを掴んでいた海賊船の船長は慌てて島の中へ消えた。
「ゲホッゲホッ。あー苦しかった。」
「おネーサン大丈夫?あー、跡ついちゃってんね。」
「大丈夫です!ありがとうございます!私この島の案内人やってます!この島は夜になると酷い嵐が来るんです!安全に船を停泊できる場所へご案内致します!」
「んー?別にここに停めててもいいんじゃねぇの?」
「私はそれでも構いませんが、恐らく海王類の餌食になりますが、それでも良ければ…」
降りてきた船員達は皆同じツナギを着ていた。私が話していたのはペンギンを頭に乗せたペンギン帽子の男。トラファルガー・ローだ!!と叫ばれていた長身の男がきっとこの船の船長なのだろう。ゆっくりと近付いてきた男に向けてペンギン帽子の男がキャプテンどうします?なんて聞いている。
「わーお兄さんイケメンですね!お兄さんの顔好きです〜!」
「…は?」
「うわ〜やっぱキミスゴいね〜。」
「ありがとうございます〜!あ、船長さんですよね!安心してください!船を盗んだり解体するような事は無いですよ!あっちに洞窟があるんです!必要なら人質にでもなりますよーお兄さん達いい人そうだし。」
ニコニコと人当たりの良い笑顔を向ける女にハートのクルーはキョトンと顔を見合わせる。海賊相手に商売をしているから心臓の強さもピカイチのようだ。
「案内しろ。」
「はーい!あ、夜の予定はお決まりですか?今夜は嵐が来るので外出はオススメしませんよ〜。ご希望は宿屋と酒場ですかね?あ、勿論女の子もいますよ!ご希望でしたら男性も!」
「ぶっ!!わかった!わかったから!取り敢えず案内して!!」
どうやら少々喋り過ぎたらしい。島の地図と通行証を人数分渡し、船へ行く人と街へ行く人でハートの海賊団は二手に別れた。船内に残るのはたった2人、ペンギン帽子の男と謎のシロクマだ。私は気付いた時には心臓にぽっかりと四角い穴が開き、知らぬ間に人質状態。
「潜水艦って初めて見ました!楽しいですね。」
「だろー?かっこいいでしょ。」
「カッコイイです。ところで、お2人も街へ行かないんですか?船なら私が見てますよ。ハッ!!私の見張りか…」
「んー、ベポは寝てるし、俺はおネーサンと話してた方が楽しいかな〜。あ、さっき掴まれてたとこ大丈夫?」
「わー優しい嬉しい。ペンギンさんもカッコイイですね!」
「ん。そりゃどうも。」
スマートに船内へ案内され、ギーっと椅子を引き「どうぞ」なんて声を掛けられる。私はただの人質なのに、お客様になった気分だ。潜水艦の中に入るのは初めてだから、座りながらキョロキョロと辺りを見渡せば、「寒いでしょ、どうぞ」と言いながらブランケットが膝に置かれる。余りの出来事にポカンと口を開けていたら、そのままテーブルの上にはケーキと珈琲が置かれる。
「確か珈琲が好きって言ってたよね?」
「言った…っけ?全然覚えてない…。ありがとうございます!」
「いえいえ。いやーちょうど味見してくれる人探してたんだよね。お口に合うといいけど。」
「えっ!?これペンギンさんが作ったんですか!?コックさん?」
正面に座るペンギンさんは違うけど?と首を傾げながら笑っている。パクリと口に含めば手作りとは思えない味が口の中に広がる。「どう?美味い?」なんて聞くペンギンさんにドキッとした。深く被った帽子から覗く瞳は優しくて、良く見たら顔もタイプかもしれない。さっき見た船長さんとは違ったタイプのイケメン。それに溶けてしまいそうな程優しい。うん!どう考えてもタイプだ!
「ペンギンさん好きです!」
「えぇ〜?急だね。そんなに美味しかった?」
クスッと笑うペンギンさん。好意をサラッと受け流す様は女慣れしている人のそれのような気がするけど、駆け引きなんてしらない。ここは島で、相手は海賊。恋の駆け引きをしている時間なんて無駄でしかない。
「ケーキは美味しいし、ペンギンさんは優しいし、良く見たら顔もタイプなので好きになりました。お付き合いしてる女性はいますか?」
「いないよ〜。俺海賊だしね。」
「いないならお付き合いして下さい!付き合ってみたら、意外と相性がいいかもしれませんよ?」
「ふは、そうかも?ね?ログが溜まるまで、お兄さんと遊んでみる?」
制限付きの遊び、所謂ワンナイトと呼ばれる関係だろう。ペンギンさんはニコニコしているけど、私が望むのはそんな関係ではないし、そんな回りくどい関係になるほど時間を無駄にしたくはない。
「遊びじゃなくて彼女になりたいんですけど…。あとログが溜まるまでじゃなくて真剣な交際!」
「本気で言ってんの?俺がどう言う人間かも知らないのに?」
「優しくてカッコイイ。内面はこれから知れば良いんじゃないですか?あ、私こう見えて戦えますし、航海術も少し齧ってるので、船に乗っても迷惑はおかけしません!もし別れるような事になれば直ぐに船をおりますんで!!」
「いやいやいや!!ちょっとちょっと待って!え!?本気で言ってんの!?」
やっと状況を飲み込んだのか、先程まで落ち着いていたペンギンさんはやっと焦りの表情を見せる。慌ててる所も可愛いかもしれない。本気である事を伝えれば、んーとか、そっかーとか考え始め、海賊なのに意外と慎重な性格らしい。
「ごめんね。嬉しいけど、やっぱり君の事よく知らないし。」
「理由はよく知らないから?それならこれから知っていけば良くないですか?」
「んー。まぁ積極的な子は好きだけどね〜。はい、この話終わり!」
「そっかぁ。ペンギンさんの事結構本気で好きなのになぁ残念。」
あっさりと振られてしまった。最後のケーキをパクリと平らげ心做しか少し落胆した。でも悲しむのは少しだけ、彼の言うとおり私はペンギンさんの事をまだ殆ど知らないし。
暇潰しに船内を見学させてもらい、初めて見る設備に興奮していれば知らぬ間に時間は過ぎていった。気付けば外は喧しい音を立て始め嵐の訪れを知らせている。
「あれ?キャプテン戻ってたんですか?」
「あぁ。喧しいのは嫌いだからな。おい、返す。」
知らぬ間にダイニングへ現れた船長さんはポイッと四角い箱を私に向けて放り投げた。慌ててキャッチしたらドクンドクンと動く箱は知らぬ間に抜かれていた私の心臓だったようで、流石の私も驚いて悲鳴をあげた。
「返してくれてありがとうございます!船長さん優しいんですね!」
「優しい…のか?勝手に心臓抜かれてたんだぞ?」
「でも返してくれましたし!あ!船長さん私船長さんの顔好きなんですけど!今お付き合いしている女性はいますか!?」
「あ?」「えっ!?」
面倒くさそうに眉を顰める船長さんと驚き声を上げるペンギンさん。船長さんへ歩み寄ろうと1歩足を進めれば「ストップストップ!!」と言うペンギンさんの静止に私は眉を顰めた。
「え、まさかキャプテンに告白しようとしてる?」
「駄目なんですか?時間は有限なんですよ!船長さん!!」
「あーーーダメダメ!!キャプテン!ちょっとこの子連れてきますね!!」
抑えられた口元に必死に抵抗するけど、海賊の男って力が強い。ビクともしないまま、ペンギンさんの部屋のドアがバタンと閉まる。
「…なんで止めたんですか?」
「いやーまさかキャプテンにまで行くとは思わなくて…。俺、結構本気にしてたんだけどなァ〜」
「え?本気でしたよ?でもペンギンさんは断ったじゃないですか。」
少し困った顔をするペンギンさんにこっちまで眉を寄せる。だって時間は有限だし出会いも有限だ。出会った人の内面まで知って相性がいいか悪いか考えている間にこの島へ来た船乗りはまたすぐ別の場所へ行ってしまう。駆け引きをする暇があるなら、外見から入って付き合ってみる事の何が悪いのか。ブスっと頬を膨らませながら思いの丈を伝えればペンギンさんは真剣な表情でうんうんと頷いている。
「ん〜確かにね。君の言うことも一理あるかも。」
「ですよね!?じゃあ、船長さんの所へ行ってきます!」
「それはだ〜め。」
「…ぐっ。じゃ、じゃあ他の船員さんは!?」
「それも駄目」
グイッと引き寄せられた身体は縫い付けられるように壁にトンと背中がくっつく。私よりも背が高くガタイの良いペンギンさんに私の体はスッポリと埋まっている。上を向けばまじまじと見ることのなかったペンギンさんの瞳が怪しく光る。
「ち、近いです…!」
「うんうん。でもさっきまでは俺の事好きって言ってたよね?」
「そう…だけど!!断ったのはペンギンさんで…!」
幼子をあやすような彼の言葉が耳に響いて羞恥を煽る。ペンギンさんの顔がちょっとした気遣いが好きだった。出会って短時間だけど、それは紛れもない事実。だけどそれが本気の好きかどうか聞かれれば素直にうんと頷く事は出来ない。だって、内面を知って時間を掛けて打ち解けて、そんな中告白して断られてしまったら、傷付いてしまうじゃないか。それなのに、ペンギンさんの視線から目が逸らせない。こんな所で無駄な時間を使わずに清く次の恋を探したいのに。
「いや…だ!時間の無駄…!」
「だから他の人のとこへ行くの?本当は傷付くのが怖いんでしょ。」
「…それの何が悪いんですか?時間は有限で、この世界にかっこいい男の人なんて沢山いるのに、わざわざ傷付く手段を選ぶ必要なんてないじゃないですか。」
ムキになって出た言葉にハッと我に返る。彼は客人で私は案内人。その関係性を思い出せばすみませんと謝罪を告げる。そろそろこの空間にいるのも限界だ、部屋から出ようと身体を動かそうとするが掴まれた腕はピクリとも動かない。
「気が変わった。俺と恋愛してみない?あんたの顔結構タイプなんだよね。」
「…はい?それ本気で言ってます?」
「うん。顔から入るのもありかな〜なんて。内面はこれから知っていけば良いし…ね?」
怪しく弧を描く口元に身の危険を感じた。逃げ出そうにも身体は動かないし、ペンギンさんの顔はさっきよりも近い。
「…拒否権は?」
「お好きにドーゾ。」
「その割には逃げ道塞がれてるんですが…」
「あれ?バレた?あ、好きなコはとびきり甘やかすんだけど、気付いてた?」
耳に吹きかかる息にボッと体温が上がる。じゃあさっきまでの優しさって…なんて気が付く間もなく絡み取られた指に額に触れた唇とリップ音に思考はショートした。
「これからよろしくね。あ、浮気はなしで出来れば俺の事だけ見て欲しいな。…返事は?」
有無を言わさぬ笑顔にこくりと頷く他なかった。駆け引きなんて時間の無駄、そう思っていたのに駆け引きの渦に呑まれていたのはどうやら私だったらしい。これから知る本気の恋に時計の針はゆっくりと動き出した。
海は見飽きていた、だけどそれが私の仕事の1部だからそんな事も言ってられない。双眼鏡の先に映るのは帆にドクロのマークを掲げた海賊船。この島の商売の相手であり、1歩間違えば危険を伴う可能性もある危険な取引相手だ。
「話のわかる人だといいんだけどなぁ。」
クンと鼻に付く匂いはこの島独特の気候からくるもの。今夜は嵐が来るだろう。私の役目は船を嵐から守る安全な船着場へ案内する事で、もし言う事を聞かない船乗りがいるのならその船はもれなく海の藻屑となるだろう。まぁ、話を聞かない相手の船なんてどうなろうが知ったことじゃないけど。船を見つければ見張り番は交代、引き継ぎをして私は船着場でプラプラと足を放りだす。
大きな船体からは下品な笑い声が聴こえてくる。人を第1印象で判断するのは良くないのかもしれないが、相手は海賊だ。この海賊団はあまり言う事を聞いてくれそうにないと判断をし私は直ぐに電伝虫に連絡を入れた。
降りてきた大男に向けて、RPGに出てくる街の紹介をするNPCの如く「ようこそ」と街の名前を紹介する。予想通りの野蛮な海賊は荒い声をあげ、今にも胸ぐらに掴みかかってきそうな勢いだ。
「この島の夜は危険なんです。安全に船を停泊出来る場所へご案内致します!」
「ハッ!そんなチンケな嘘には騙されねぇ。知ってるぞ、この島の出航率を。お前ら船の解体屋なんて呼ばれてる海賊を出汁にして商売をしてる馬鹿どもじゃねぇか。」
ゾロゾロと船から降りてくる海賊達に掴まれた体。言う事を聞かなかった海賊達から広められた嘘の情報で既に大ピンチ。うーんどうしようかな、なんて呑気に考えていれば、海がゴポゴポと音を立て始めた。初めて見る光景に私はぽかんとしていたけど、海賊達は焦り始める。だから私達は何もしないって言ってるのに。
ザパンと大きな音を立てて現れたのは黄色い潜水艦。よく見れば海賊旗が描かれている。海賊同士が鉢合わせるなんてやっぱり今日は大変な一日だ。
「お頭、は、ハートの海賊団です!!」
「な、なに…!?」
「おー着いた着いた。あれー?女のコ?」
「こんにちはー!」
焦り始める海賊団を他所に呑気に島の挨拶をすれば、ハートの海賊団の人達はすげーガッツだな〜なんて言いながらこちらへ近付いてきた。甲板にはゾロゾロと人が集まり、一際目立つ長身の大刀を携えた男がでてきた瞬間、私の胸ぐらを掴んでいた海賊船の船長は慌てて島の中へ消えた。
「ゲホッゲホッ。あー苦しかった。」
「おネーサン大丈夫?あー、跡ついちゃってんね。」
「大丈夫です!ありがとうございます!私この島の案内人やってます!この島は夜になると酷い嵐が来るんです!安全に船を停泊できる場所へご案内致します!」
「んー?別にここに停めててもいいんじゃねぇの?」
「私はそれでも構いませんが、恐らく海王類の餌食になりますが、それでも良ければ…」
降りてきた船員達は皆同じツナギを着ていた。私が話していたのはペンギンを頭に乗せたペンギン帽子の男。トラファルガー・ローだ!!と叫ばれていた長身の男がきっとこの船の船長なのだろう。ゆっくりと近付いてきた男に向けてペンギン帽子の男がキャプテンどうします?なんて聞いている。
「わーお兄さんイケメンですね!お兄さんの顔好きです〜!」
「…は?」
「うわ〜やっぱキミスゴいね〜。」
「ありがとうございます〜!あ、船長さんですよね!安心してください!船を盗んだり解体するような事は無いですよ!あっちに洞窟があるんです!必要なら人質にでもなりますよーお兄さん達いい人そうだし。」
ニコニコと人当たりの良い笑顔を向ける女にハートのクルーはキョトンと顔を見合わせる。海賊相手に商売をしているから心臓の強さもピカイチのようだ。
「案内しろ。」
「はーい!あ、夜の予定はお決まりですか?今夜は嵐が来るので外出はオススメしませんよ〜。ご希望は宿屋と酒場ですかね?あ、勿論女の子もいますよ!ご希望でしたら男性も!」
「ぶっ!!わかった!わかったから!取り敢えず案内して!!」
どうやら少々喋り過ぎたらしい。島の地図と通行証を人数分渡し、船へ行く人と街へ行く人でハートの海賊団は二手に別れた。船内に残るのはたった2人、ペンギン帽子の男と謎のシロクマだ。私は気付いた時には心臓にぽっかりと四角い穴が開き、知らぬ間に人質状態。
「潜水艦って初めて見ました!楽しいですね。」
「だろー?かっこいいでしょ。」
「カッコイイです。ところで、お2人も街へ行かないんですか?船なら私が見てますよ。ハッ!!私の見張りか…」
「んー、ベポは寝てるし、俺はおネーサンと話してた方が楽しいかな〜。あ、さっき掴まれてたとこ大丈夫?」
「わー優しい嬉しい。ペンギンさんもカッコイイですね!」
「ん。そりゃどうも。」
スマートに船内へ案内され、ギーっと椅子を引き「どうぞ」なんて声を掛けられる。私はただの人質なのに、お客様になった気分だ。潜水艦の中に入るのは初めてだから、座りながらキョロキョロと辺りを見渡せば、「寒いでしょ、どうぞ」と言いながらブランケットが膝に置かれる。余りの出来事にポカンと口を開けていたら、そのままテーブルの上にはケーキと珈琲が置かれる。
「確か珈琲が好きって言ってたよね?」
「言った…っけ?全然覚えてない…。ありがとうございます!」
「いえいえ。いやーちょうど味見してくれる人探してたんだよね。お口に合うといいけど。」
「えっ!?これペンギンさんが作ったんですか!?コックさん?」
正面に座るペンギンさんは違うけど?と首を傾げながら笑っている。パクリと口に含めば手作りとは思えない味が口の中に広がる。「どう?美味い?」なんて聞くペンギンさんにドキッとした。深く被った帽子から覗く瞳は優しくて、良く見たら顔もタイプかもしれない。さっき見た船長さんとは違ったタイプのイケメン。それに溶けてしまいそうな程優しい。うん!どう考えてもタイプだ!
「ペンギンさん好きです!」
「えぇ〜?急だね。そんなに美味しかった?」
クスッと笑うペンギンさん。好意をサラッと受け流す様は女慣れしている人のそれのような気がするけど、駆け引きなんてしらない。ここは島で、相手は海賊。恋の駆け引きをしている時間なんて無駄でしかない。
「ケーキは美味しいし、ペンギンさんは優しいし、良く見たら顔もタイプなので好きになりました。お付き合いしてる女性はいますか?」
「いないよ〜。俺海賊だしね。」
「いないならお付き合いして下さい!付き合ってみたら、意外と相性がいいかもしれませんよ?」
「ふは、そうかも?ね?ログが溜まるまで、お兄さんと遊んでみる?」
制限付きの遊び、所謂ワンナイトと呼ばれる関係だろう。ペンギンさんはニコニコしているけど、私が望むのはそんな関係ではないし、そんな回りくどい関係になるほど時間を無駄にしたくはない。
「遊びじゃなくて彼女になりたいんですけど…。あとログが溜まるまでじゃなくて真剣な交際!」
「本気で言ってんの?俺がどう言う人間かも知らないのに?」
「優しくてカッコイイ。内面はこれから知れば良いんじゃないですか?あ、私こう見えて戦えますし、航海術も少し齧ってるので、船に乗っても迷惑はおかけしません!もし別れるような事になれば直ぐに船をおりますんで!!」
「いやいやいや!!ちょっとちょっと待って!え!?本気で言ってんの!?」
やっと状況を飲み込んだのか、先程まで落ち着いていたペンギンさんはやっと焦りの表情を見せる。慌ててる所も可愛いかもしれない。本気である事を伝えれば、んーとか、そっかーとか考え始め、海賊なのに意外と慎重な性格らしい。
「ごめんね。嬉しいけど、やっぱり君の事よく知らないし。」
「理由はよく知らないから?それならこれから知っていけば良くないですか?」
「んー。まぁ積極的な子は好きだけどね〜。はい、この話終わり!」
「そっかぁ。ペンギンさんの事結構本気で好きなのになぁ残念。」
あっさりと振られてしまった。最後のケーキをパクリと平らげ心做しか少し落胆した。でも悲しむのは少しだけ、彼の言うとおり私はペンギンさんの事をまだ殆ど知らないし。
暇潰しに船内を見学させてもらい、初めて見る設備に興奮していれば知らぬ間に時間は過ぎていった。気付けば外は喧しい音を立て始め嵐の訪れを知らせている。
「あれ?キャプテン戻ってたんですか?」
「あぁ。喧しいのは嫌いだからな。おい、返す。」
知らぬ間にダイニングへ現れた船長さんはポイッと四角い箱を私に向けて放り投げた。慌ててキャッチしたらドクンドクンと動く箱は知らぬ間に抜かれていた私の心臓だったようで、流石の私も驚いて悲鳴をあげた。
「返してくれてありがとうございます!船長さん優しいんですね!」
「優しい…のか?勝手に心臓抜かれてたんだぞ?」
「でも返してくれましたし!あ!船長さん私船長さんの顔好きなんですけど!今お付き合いしている女性はいますか!?」
「あ?」「えっ!?」
面倒くさそうに眉を顰める船長さんと驚き声を上げるペンギンさん。船長さんへ歩み寄ろうと1歩足を進めれば「ストップストップ!!」と言うペンギンさんの静止に私は眉を顰めた。
「え、まさかキャプテンに告白しようとしてる?」
「駄目なんですか?時間は有限なんですよ!船長さん!!」
「あーーーダメダメ!!キャプテン!ちょっとこの子連れてきますね!!」
抑えられた口元に必死に抵抗するけど、海賊の男って力が強い。ビクともしないまま、ペンギンさんの部屋のドアがバタンと閉まる。
「…なんで止めたんですか?」
「いやーまさかキャプテンにまで行くとは思わなくて…。俺、結構本気にしてたんだけどなァ〜」
「え?本気でしたよ?でもペンギンさんは断ったじゃないですか。」
少し困った顔をするペンギンさんにこっちまで眉を寄せる。だって時間は有限だし出会いも有限だ。出会った人の内面まで知って相性がいいか悪いか考えている間にこの島へ来た船乗りはまたすぐ別の場所へ行ってしまう。駆け引きをする暇があるなら、外見から入って付き合ってみる事の何が悪いのか。ブスっと頬を膨らませながら思いの丈を伝えればペンギンさんは真剣な表情でうんうんと頷いている。
「ん〜確かにね。君の言うことも一理あるかも。」
「ですよね!?じゃあ、船長さんの所へ行ってきます!」
「それはだ〜め。」
「…ぐっ。じゃ、じゃあ他の船員さんは!?」
「それも駄目」
グイッと引き寄せられた身体は縫い付けられるように壁にトンと背中がくっつく。私よりも背が高くガタイの良いペンギンさんに私の体はスッポリと埋まっている。上を向けばまじまじと見ることのなかったペンギンさんの瞳が怪しく光る。
「ち、近いです…!」
「うんうん。でもさっきまでは俺の事好きって言ってたよね?」
「そう…だけど!!断ったのはペンギンさんで…!」
幼子をあやすような彼の言葉が耳に響いて羞恥を煽る。ペンギンさんの顔がちょっとした気遣いが好きだった。出会って短時間だけど、それは紛れもない事実。だけどそれが本気の好きかどうか聞かれれば素直にうんと頷く事は出来ない。だって、内面を知って時間を掛けて打ち解けて、そんな中告白して断られてしまったら、傷付いてしまうじゃないか。それなのに、ペンギンさんの視線から目が逸らせない。こんな所で無駄な時間を使わずに清く次の恋を探したいのに。
「いや…だ!時間の無駄…!」
「だから他の人のとこへ行くの?本当は傷付くのが怖いんでしょ。」
「…それの何が悪いんですか?時間は有限で、この世界にかっこいい男の人なんて沢山いるのに、わざわざ傷付く手段を選ぶ必要なんてないじゃないですか。」
ムキになって出た言葉にハッと我に返る。彼は客人で私は案内人。その関係性を思い出せばすみませんと謝罪を告げる。そろそろこの空間にいるのも限界だ、部屋から出ようと身体を動かそうとするが掴まれた腕はピクリとも動かない。
「気が変わった。俺と恋愛してみない?あんたの顔結構タイプなんだよね。」
「…はい?それ本気で言ってます?」
「うん。顔から入るのもありかな〜なんて。内面はこれから知っていけば良いし…ね?」
怪しく弧を描く口元に身の危険を感じた。逃げ出そうにも身体は動かないし、ペンギンさんの顔はさっきよりも近い。
「…拒否権は?」
「お好きにドーゾ。」
「その割には逃げ道塞がれてるんですが…」
「あれ?バレた?あ、好きなコはとびきり甘やかすんだけど、気付いてた?」
耳に吹きかかる息にボッと体温が上がる。じゃあさっきまでの優しさって…なんて気が付く間もなく絡み取られた指に額に触れた唇とリップ音に思考はショートした。
「これからよろしくね。あ、浮気はなしで出来れば俺の事だけ見て欲しいな。…返事は?」
有無を言わさぬ笑顔にこくりと頷く他なかった。駆け引きなんて時間の無駄、そう思っていたのに駆け引きの渦に呑まれていたのはどうやら私だったらしい。これから知る本気の恋に時計の針はゆっくりと動き出した。
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