素直になるまで1cm
name
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大きな扉の前で名前は深く呼吸をした。潜水艦の扉は重く厚い。この扉の前に立つことに緊張感を抱くのは初めてこの船に乗った日以来だった。中に居る人物に聞こえる程の大きさで扉を叩き、扉を開けた。
ソファに座り、本を読む男の額には白いガーゼが乗っている。自分のせいでさせた怪我だというのに、珍しい彼の怪我とその位置に思わず笑みがこぼれた。
「何笑ってやがる。誰のせいだと思ってんだ。」
「でも頭突きしたのはローじゃん。」
「先に手を出してきたのはお前だ。」
「先に手を払い除けたのはローだけど?」
ローの眉間に皺が寄る。こんな言い合いをする為に来た訳では無いのに、気恥しさからつい憎まれ口を落としてしまう。
「ごめんなさい。」
「俺が悪いんだろ。」
「違う、あとこれは返す。」
ローの前に心臓を差し出せば、彼は呆れたと言いたげな表情を見せる。多分彼は気付いている、“心臓を握られているから逃げない“、と自問自答し続けている安心感を。裏切られたとしても、心臓を握られていたから逃げられなかっただけ、という保険を掛けている事を。
「…何も理解してねぇな。」
「違う。それは一旦ローにあげる。だから話を聞いて。」
強引に彼に四角いそれを押し付けた。彼の手の上から感じる鼓動の音から私が緊張しているのは筒抜けだろう。
「また裏切られるのが怖かった。誰も信じないって決めてた。だけど、また信じたくなった。心が揺さぶられた。保険を掛けて裏切られても良いように都合のいい状況を作ってた。でも、もう辞める。ロー…いや船長、私を正式にハートの海賊団のクルーにして下さい。もう迷わない。もう悩まない。ソレをこの船の為に使わせて。…要らないならそのまま捨てて。」
「馬鹿だろお前。先に機嫌を損ねたのは俺だ。」
「原因を作ったのは私でしょ。…応えてくれないの?」
ローが立ち上がると名前の視線は彼の手を捉えた。ドクンドクンと鳴り響くのは自身の心臓だ。四角い箱のようなそれは、名前の胸の前に向けるとスっと音も立てずに彼女の体にピッタリとハマった。自分の音に違和感を感じるのは心臓がない月日があまりにも長過ぎたのだろう。そっと自身の胸に手を当てても実感が湧かないのだから。
「俺はとっくに仲間にしたつもりだった。」
「うん。わかってたよ。ごめんね。だけど組織の事は言えない。」
「何故だ。まだ俺らの事を疑ってんのか。」
「違うよ!!違う…。ただ、先に話を付けたい。自分の手で。」
ローはゆっくりと瞳を細めた。彼女の言葉に嘘は無いだろう。だとしてもモヤモヤと苛立つこの感情は抑えられない。自身も全てを語っている訳では無い過去を、名前にだけ語らせる事も違うと分かってはいるのに。
「あの男は…お前のなんだ…」
「元船長で恩人で…初恋の…人…」
「…やっぱナシだ。俺が話をつけに行く。」
「ま、待ってよ!ロー!だからもうなんの未練もないんだって…それに…」
湧き上がってきた負の感情は名前の顔を見れば消え落ちた。過去を全て手にする事は出来なくとも、未来は奪う事が出来ると確信したから。見たことも無い女の顔をする彼女にニヤリと微笑んだ。
「今はローが好き…だから。お願い…信じて…」
「へェ…てっきり俺の事は眼中に無いのかと思っていた。」
「無かったよ!!今までは。ローとは年が離れてるし、何考えてるのか分からないし、また人を好きになるのは怖かった。それにローって、遊び人っぽいし。」
「は?どこがだよ。テメェこそあの噂は本当だったなんて言わねぇよな。」
「ち、違うよ!能力使って幻覚見せてただけで、本当にそういう事はしてない。信じてよ…」
ジッと視線を合わせた。名前より背の高いローの瞳を見るのは首が痛む。背丈も身体付きも自分よりも大きい彼を必死に好きにならないと意識していた自分がアホらしくなる程に、名前の鼓動は高鳴っていた。こんなに感情が揺さぶられるのはローが初めてだった。
「これからは能力でも、男に肌は見せるなよ。」
「うん。」
「お前を縛るつもりは無いが、もう手放すつもりもない。過去は埋められねぇが、これからの未来は俺が埋めてやる。好きだ名前、俺の女になれ。」
「ふふ、うん。」
「で?場所を教えろ。」
ジッと視線を向けるローにははっと乾いた笑いを落とす。彼の目的は分からないが、ローはどうしてもこの情報が欲しいらしい。
「正直に言うと、分からない。が正しい。私が依頼を受けたのはもう1年も前だし、この船に乗って半年、その辺りの情報は知らないから。」
「…依頼主と武器の密輸を行っていた組織の名前は?」
「んー、戦争が起きる場所に寄るかな。武器売買の為にわざと国同士で戦争を起こさせたり、内紛を起こしたりその時によって状況が違うから。武器を運んでくるブローカーもその時によって違う。正直特定出来ない。」
真剣に思考し机へ向かい資料を手にするローに名前の動きは止まった。彼が何故ここまで裏社会の事に興味を抱いているのか、単純な興味が湧いていた。が、彼の表情、管理された資料の数、丁寧に纏められた新聞や地図に至るまで並大抵の覚悟で足を踏み入れようとしている訳では無い事実。何故そこまで彼を動かすのか。気にはなっても聞き出すことは出来なかった。
「そうか。そろそろ船を出そうと思う。お前には悪いが、先にこっちの用事を終わらたい。偉大なる航路 へ行くのはその後だ。」
「うん。構わないよ。皆凄い強くなったしね。進路は決まっているの?」
「いや…宛が外れた。取り敢えず戦地へ向かう。」
彼の言う宛とは私の情報の事なのだろう。きっと組織のトップを探しているであろう彼に自分が出来る事が何か思考した時、私が出来るのは何だろうか。
「この国へ行くのが良いと思う。船をつけるならここ。」
「行ったことあんのか。」
「うん。以前この島でブローカーに会ったこともある。あの時とは密会場所は変わってると思うけど。…だけど、ローの欲しがるトップの情報が手に入るかどうかは分からない。」
「いや、それだけ分かれば充分だ。助かった。」
ローの目的は分からない。本当にワンピースを目指しているのか、違う目的の為に海賊をやっているのか、数ヶ月共に過ごしても判明しなかった。ただ1つ確信しているのは、彼らが優しい海賊である事。海賊に対して優しいなんて生ぬるい言葉は褒められた者では無いのかもしれないが、無益な殺生を好まない彼等のスタイルは名前にとって目を見開く程新しい世界だった。
戦争の絶えない北の海 で深い闇に呑まれず光を追い続けている彼等は名前にとっての光でもあったから。
信じると決めた今、彼がどんな道を選び、何を成し遂げようとも後悔はしない。今までとは違い、仕方の無い選択をし仕方の無い行き方だった、なんて言い訳はしない。自分で選び足を進めたこの先の未来に胸を張って生きられるように。
「ところでさ、ロー。」
「どうした。」
「空き部屋欲しいな〜なんて。」
ローの首はググッとこちらへ向くとギロリと鋭い視線が飛んだ。何となくそんな予感はしていたけど、予想通りの結果に名前は乾いた笑いを落とす。
「もう監視する必要は無いでしょ?それに私もクルーとして扱って欲しい。特別扱いは嫌。」
「クルーとして特別に扱うつもりはない。」
「じゃあ!空き部屋使ってもいい!?」
「駄目だ。クルーとしてはと言った。大体お前、俺の女になったなら部屋なんていらねぇだろ。何を隠したいんだ。お前がコソコソ私物を物置に隠してんのはとっくに気付いてる。邪魔になんねぇから持ってこい。」
ローは瞬きをする名前に呆れてため息をした。本当に気付かれていないと思っていたらしい。名前はというもの、自身の秘密を一日に二度も指摘されてしまい一瞬頭が真っ白になる。それにすっかり忘れていた、苦手な珈琲を我慢して飲んでいるという事実を思い出し、確実にローにはバレていると悟れば途端に羞恥が込み上げた。
「そ、それとこれは別!!女性クルーが出来たらどうすんのよ!!用がある時はちゃんと部屋に行くから、女部屋作って!お願い!」
「クルーが出来たら考えればいいだろ。」
「だ、ダメ!!公私混同はしたくない。実力でローの隣に並びたい。お願いします、船長…」
折れたのはローだった。女に溺れて正常な判断が取れない、なんてクルーに思われてしまえば示しはつかない事は事実だったから。許可を出した途端、子供のように喜ぶ女の顔は癪に触ったが仕方の無い事だった。
「そんなに俺の部屋は気に入らなかったのか…。」
ぽつりと呟いた言葉は無駄に広い一人部屋の静寂に消えた。たった数ヶ月で習慣となってしまった、チラリとソファを覗き見る癖だけは、暫くは消えそうになかった。
ソファに座り、本を読む男の額には白いガーゼが乗っている。自分のせいでさせた怪我だというのに、珍しい彼の怪我とその位置に思わず笑みがこぼれた。
「何笑ってやがる。誰のせいだと思ってんだ。」
「でも頭突きしたのはローじゃん。」
「先に手を出してきたのはお前だ。」
「先に手を払い除けたのはローだけど?」
ローの眉間に皺が寄る。こんな言い合いをする為に来た訳では無いのに、気恥しさからつい憎まれ口を落としてしまう。
「ごめんなさい。」
「俺が悪いんだろ。」
「違う、あとこれは返す。」
ローの前に心臓を差し出せば、彼は呆れたと言いたげな表情を見せる。多分彼は気付いている、“心臓を握られているから逃げない“、と自問自答し続けている安心感を。裏切られたとしても、心臓を握られていたから逃げられなかっただけ、という保険を掛けている事を。
「…何も理解してねぇな。」
「違う。それは一旦ローにあげる。だから話を聞いて。」
強引に彼に四角いそれを押し付けた。彼の手の上から感じる鼓動の音から私が緊張しているのは筒抜けだろう。
「また裏切られるのが怖かった。誰も信じないって決めてた。だけど、また信じたくなった。心が揺さぶられた。保険を掛けて裏切られても良いように都合のいい状況を作ってた。でも、もう辞める。ロー…いや船長、私を正式にハートの海賊団のクルーにして下さい。もう迷わない。もう悩まない。ソレをこの船の為に使わせて。…要らないならそのまま捨てて。」
「馬鹿だろお前。先に機嫌を損ねたのは俺だ。」
「原因を作ったのは私でしょ。…応えてくれないの?」
ローが立ち上がると名前の視線は彼の手を捉えた。ドクンドクンと鳴り響くのは自身の心臓だ。四角い箱のようなそれは、名前の胸の前に向けるとスっと音も立てずに彼女の体にピッタリとハマった。自分の音に違和感を感じるのは心臓がない月日があまりにも長過ぎたのだろう。そっと自身の胸に手を当てても実感が湧かないのだから。
「俺はとっくに仲間にしたつもりだった。」
「うん。わかってたよ。ごめんね。だけど組織の事は言えない。」
「何故だ。まだ俺らの事を疑ってんのか。」
「違うよ!!違う…。ただ、先に話を付けたい。自分の手で。」
ローはゆっくりと瞳を細めた。彼女の言葉に嘘は無いだろう。だとしてもモヤモヤと苛立つこの感情は抑えられない。自身も全てを語っている訳では無い過去を、名前にだけ語らせる事も違うと分かってはいるのに。
「あの男は…お前のなんだ…」
「元船長で恩人で…初恋の…人…」
「…やっぱナシだ。俺が話をつけに行く。」
「ま、待ってよ!ロー!だからもうなんの未練もないんだって…それに…」
湧き上がってきた負の感情は名前の顔を見れば消え落ちた。過去を全て手にする事は出来なくとも、未来は奪う事が出来ると確信したから。見たことも無い女の顔をする彼女にニヤリと微笑んだ。
「今はローが好き…だから。お願い…信じて…」
「へェ…てっきり俺の事は眼中に無いのかと思っていた。」
「無かったよ!!今までは。ローとは年が離れてるし、何考えてるのか分からないし、また人を好きになるのは怖かった。それにローって、遊び人っぽいし。」
「は?どこがだよ。テメェこそあの噂は本当だったなんて言わねぇよな。」
「ち、違うよ!能力使って幻覚見せてただけで、本当にそういう事はしてない。信じてよ…」
ジッと視線を合わせた。名前より背の高いローの瞳を見るのは首が痛む。背丈も身体付きも自分よりも大きい彼を必死に好きにならないと意識していた自分がアホらしくなる程に、名前の鼓動は高鳴っていた。こんなに感情が揺さぶられるのはローが初めてだった。
「これからは能力でも、男に肌は見せるなよ。」
「うん。」
「お前を縛るつもりは無いが、もう手放すつもりもない。過去は埋められねぇが、これからの未来は俺が埋めてやる。好きだ名前、俺の女になれ。」
「ふふ、うん。」
「で?場所を教えろ。」
ジッと視線を向けるローにははっと乾いた笑いを落とす。彼の目的は分からないが、ローはどうしてもこの情報が欲しいらしい。
「正直に言うと、分からない。が正しい。私が依頼を受けたのはもう1年も前だし、この船に乗って半年、その辺りの情報は知らないから。」
「…依頼主と武器の密輸を行っていた組織の名前は?」
「んー、戦争が起きる場所に寄るかな。武器売買の為にわざと国同士で戦争を起こさせたり、内紛を起こしたりその時によって状況が違うから。武器を運んでくるブローカーもその時によって違う。正直特定出来ない。」
真剣に思考し机へ向かい資料を手にするローに名前の動きは止まった。彼が何故ここまで裏社会の事に興味を抱いているのか、単純な興味が湧いていた。が、彼の表情、管理された資料の数、丁寧に纏められた新聞や地図に至るまで並大抵の覚悟で足を踏み入れようとしている訳では無い事実。何故そこまで彼を動かすのか。気にはなっても聞き出すことは出来なかった。
「そうか。そろそろ船を出そうと思う。お前には悪いが、先にこっちの用事を終わらたい。
「うん。構わないよ。皆凄い強くなったしね。進路は決まっているの?」
「いや…宛が外れた。取り敢えず戦地へ向かう。」
彼の言う宛とは私の情報の事なのだろう。きっと組織のトップを探しているであろう彼に自分が出来る事が何か思考した時、私が出来るのは何だろうか。
「この国へ行くのが良いと思う。船をつけるならここ。」
「行ったことあんのか。」
「うん。以前この島でブローカーに会ったこともある。あの時とは密会場所は変わってると思うけど。…だけど、ローの欲しがるトップの情報が手に入るかどうかは分からない。」
「いや、それだけ分かれば充分だ。助かった。」
ローの目的は分からない。本当にワンピースを目指しているのか、違う目的の為に海賊をやっているのか、数ヶ月共に過ごしても判明しなかった。ただ1つ確信しているのは、彼らが優しい海賊である事。海賊に対して優しいなんて生ぬるい言葉は褒められた者では無いのかもしれないが、無益な殺生を好まない彼等のスタイルは名前にとって目を見開く程新しい世界だった。
戦争の絶えない
信じると決めた今、彼がどんな道を選び、何を成し遂げようとも後悔はしない。今までとは違い、仕方の無い選択をし仕方の無い行き方だった、なんて言い訳はしない。自分で選び足を進めたこの先の未来に胸を張って生きられるように。
「ところでさ、ロー。」
「どうした。」
「空き部屋欲しいな〜なんて。」
ローの首はググッとこちらへ向くとギロリと鋭い視線が飛んだ。何となくそんな予感はしていたけど、予想通りの結果に名前は乾いた笑いを落とす。
「もう監視する必要は無いでしょ?それに私もクルーとして扱って欲しい。特別扱いは嫌。」
「クルーとして特別に扱うつもりはない。」
「じゃあ!空き部屋使ってもいい!?」
「駄目だ。クルーとしてはと言った。大体お前、俺の女になったなら部屋なんていらねぇだろ。何を隠したいんだ。お前がコソコソ私物を物置に隠してんのはとっくに気付いてる。邪魔になんねぇから持ってこい。」
ローは瞬きをする名前に呆れてため息をした。本当に気付かれていないと思っていたらしい。名前はというもの、自身の秘密を一日に二度も指摘されてしまい一瞬頭が真っ白になる。それにすっかり忘れていた、苦手な珈琲を我慢して飲んでいるという事実を思い出し、確実にローにはバレていると悟れば途端に羞恥が込み上げた。
「そ、それとこれは別!!女性クルーが出来たらどうすんのよ!!用がある時はちゃんと部屋に行くから、女部屋作って!お願い!」
「クルーが出来たら考えればいいだろ。」
「だ、ダメ!!公私混同はしたくない。実力でローの隣に並びたい。お願いします、船長…」
折れたのはローだった。女に溺れて正常な判断が取れない、なんてクルーに思われてしまえば示しはつかない事は事実だったから。許可を出した途端、子供のように喜ぶ女の顔は癪に触ったが仕方の無い事だった。
「そんなに俺の部屋は気に入らなかったのか…。」
ぽつりと呟いた言葉は無駄に広い一人部屋の静寂に消えた。たった数ヶ月で習慣となってしまった、チラリとソファを覗き見る癖だけは、暫くは消えそうになかった。