シャチ
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多分私達は凄く似ている。
「だから!キャプテンは私の事を褒めたの!!」
「はぁ!?どう考えても俺の事だろ!!」
いい加減にしろ、と二人仲良く大きな刀で頭をコツンと叩かれるまで私たちの言い合いは続いていた。思い返せばくだらない事で私達はいつも喧嘩をしている。
でも決して仲が悪い訳では無い。むしろ相性はいい方だと思う。
「ねーシャチこれみて〜」
「んー?ぶっ!!何だよそれ!!」
「ね!これなんてキャプテンみたいじゃない!?こーんな目しててさ!」
「ギャハハ!!おいそれ絶対船長に言うなよ!!また俺らバラされるって!」
シャチと2人、部屋の床で寝そべりながら見ているのは島で買った動物の面白写真集。船内での暇潰しにはもってこいだ。よく喧嘩もするけど、シャチとは何かと気が合う。ノリがいいし、一緒にいる事が多い。
「今日の船長めっちゃかっこよかったね〜」
「今日もだろ!お前船長に助けられた時顔真っ赤だったぞ。」
「え…うそ…恥ずかしい…」
シャチが話すのは食堂での出来事だ。ちょうど立ち上がった時に船が傾き、船長がそれを受け止めてくれたのだ。船長は少し胸元の空いた服を着ていたし、男の人の胸に飛び込むことなんてないから、正直かなり恥ずかしかった。
「…お前にもそんな感情あったんだな。」
「いやいや、私を何だと思ってるんですか?大体あんなカッコイイ人の胸元に飛び込んで照れない女の人なんて居ないと思うけど…」
「…女??誰が?お前の事言ってんの?」
「喧嘩売ってんのか。」
珍しく真剣なトーンで喋るから真面目に返答をすればこれだ。多分シャチは私の事を人間の女と言うより、良くてメスのゴリラだと思っている。もしくはただのゴリラ。街へ行けば女の人にデレデレとするシャチが私にはからっきし反応しない。
「って言うか、いい加減キャプテンに気持ち伝えろよ〜。」
「はぁ!?だから、キャプテンはそういうのじゃないって!しつこいなー。」
「どうだかねー。案外上手く行くと思うけどな。」
雑誌をパラパラ捲りながら、この子可愛い〜と続けるシャチの帽子を取った。返せよ、と言われたけど知らない。ポイッと廊下にそれを投げて部屋からシャチを追い出した。シャチの居なくなった部屋ではぁと大きな溜息を落とした。
「シャチのバカ。鈍感。女たらし。大っ嫌い。」
静かになった部屋で頭を抱えた。何なら少し泣きそうだ。シャチの事が好きだと気付いたのはもう大分昔だ。最初は親友と呼べる程気の合う友達だと思っていたけど、時を重ねるにつれそれは愛に変化した。だけど時すでに遅し。シャチにとっての私は精々良い所で親友止まり。女として見てもらうには色々と手遅れだった。
挙句、シャチは私がキャプテンを好きだと勝手に勘違いしている。好きな男から別の男に告白しろと何度も言われるこっちの身にもなって欲しい。しかも相手がシャチなのが余計に腹が立つ。どうせならキャプテンのような色男に振り回されたかった。
そんな文句を言っても、私が好きなのはシャチなのだ。
前の島で買ったラッピングされた小包。柄にも無く真剣に選んだのは彼の大好きな船長が付けていそうな柄のネックレス。船長はアクセサリーを着けていないけれど、クルーの男達が船長に憧れてツナギの下でごく稀にお洒落をしているのは知っていた。シャチと一緒に街へ行けば意外にもお洒落な彼はそういったものを好んで見ていたし。
そんなお洒落好きなシャチへアクセサリーを渡すのはハードルが高かったけど、たまたま通りかかった船長に確認を取って購入したから間違いは無いはずだ。ついでにその時、シャチの事が好きだとバレた。
告白する気は無かったけど、船長に話してスッキリしたのは事実だ。許可も貰えたし。だから、もうすぐ来るシャチの誕生日に気持ちを伝えようと思っていた。誕生日はもう明日なんだけど。
結局いつもと変わらないまま、シャチの誕生日を迎えた。今回は1番にお祝いしたかったけど、0時に男部屋へ行く勇気なんてないし、2人きりになれる場所へ誘う勇気もなかった。
その後は少し大変だった。今日の主役はシャチだから、シャチはちょっと浮かれている。いつもの調子でお前からのプレゼントは〜??なんでみんなの前で聞いてくる始末だ。こんな人の多い場所で渡せるわけが無い。
「そんな物ないに決まってるでしょ!?大体何日海の上にいると思ってんのよ。シャチのプレゼントなんて用意してないもん。」
「薄情なヤツめ…!!俺達親友だと思ってたのに…」
ガクンと項垂れるシャチにどうすればいいのかわからなかった。あれ?今まで私どうやって接していた?告白しようと思っていたのに、別の人に告白しろと言われ、告白する前から親友だと宣言をされ、私はこれから一体何を言うつもりでソワソワとしていたのだろうか。
「…シャチの事、親友だと思ったことなんて1回も無いから!!!!ばーーーーか!!!」
「はぁ!?なんだお前!?!?ちょっと傷ついたんですけど!!」
「お、また喧嘩してんのかお前ら。」
ガヤガヤと騒がしい室内で私達の声が響けば、面白がってこちらを見る船員の視線が集まる。こんなの日常だし、普段ならなんにも気にしないのに、今日だけはその視線が苦しかった。
「…っおい、どうしたお前…!」
茶化す顔をしていた癖に、急に真面目な顔で心配しないで欲しい。多分自分でも感情を抑えられていなかった。ポロリと頬を伝うものに気付けば、後ろを振り返り室内から飛び出した。
前も見ずに廊下を走ればドンと何かにぶつかった。おい、低い声が上から降ってきて、肩に大きな手が触れる。
「ごめ…ごめなさ…い。」
「…いや…。どうした。たしか今日だったろ。」
いつの間にこんなに泣いていたのかわからない。ぶつかった時キャプテンは怒っていた筈なのに、私の状態に気付いたのかすぐに怒りを収めた。
「ふっ…うっ…で、でも…」
言葉を紡ぎたいけれど、上手く声が出せない。トントンと規則的に優しく背中を叩かれる。ゆっくり呼吸をしろ、とお医者様のように接してくれる船長のお陰で少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「おい、何処へ行く。」
キャプテンの少し張った声は私へ向けたものでは無い。だって私はどこかへ行こうとはしていないから。キャプテンの胸に収めていた自身の顔をあげれば、キャプテンは先を見つめている。振り返る前に後ろから聞こえて来る声でキャプテンが声をかけた主が誰なのかは直ぐに理解した。
「あー、いや、邪魔するつもりじゃなかったんだけど…。」
多分目が合った。帽子に手を当てて、少しおちゃらけた顔をするシャチと。視線が交わったのは数秒だったかもしれないけれど、一瞬時が止まったかのように錯覚する程、時間の流れがゆっくりに感じた。
「あー、いやキャプテンあんまそいつ泣かせないでやってください!意外と強がりなんですよ。」
やっと開いた口からは訳の分からない言葉が放たれる。さっきまでうるさくなっていた喉からは、ひゅっと嫌な音がなりもう何も発さない。私の背中を叩いていたキャプテンの手もピタリと停止した。
「何の話だ。」
静寂を破ったのはキャプテンの言葉。ずっと逸らせなかった視線を離し、再びキャプテンを見上げれば頭にポンを手を置かれる。私達の喧嘩に巻き込んでしまったというのに、まるで黙っていろと言うかのようにキャプテンは私の頭を体に引き寄せた。
「前の島でたまたま聞こえたんだ。船長とそいつが付き合うって話。だから俺は船長とそいつが付き合っているのも知ってる。」
シャチの言葉に私の頭の中にはハテナがいっぱいだった。一体いつそんな話をしたのか。やけにシャチが船長の話をしつこく振ってくると思っていたら、そんな事情があったのかと。
少しの沈黙が続いた後に、キャプテンが言葉を発した
「あぁ…アレか。」
頭のいいキャプテンは答えを導き出したのか、デタラメに答えているだけなのか、私にはさっぱりと分からないけれど、少なくとも私にはそんな会話の記憶は残っていなかった。慌てて違うと答えようとしたけれど、黙ってろと言わんばかりにキャプテンに口を塞がれる。
「アレって…そいつの想いをそんな風に…」
「別にいいだろ。こいつはもう俺の女になってるんだろ?ならどう扱おうとお前には関係のない話だ。」
悪い顔をしてシャチを挑発する船長に私の頭はパニックだ。一体いつ私はキャプテンの女になったのか。
「っ言い訳無いだろ!!!いくらキャプテンでも、そいつを泣かせることは許さねぇから!!大体俺の方がそいつの事を好きだったんだよ!チクショー!!」
シャチの言葉にえっと小さく声がこぼれた。見上げていたキャプテンは面白そうにクツクツと笑っている。
「馬鹿だなお前ら。」
キャプテンの言葉の意図がわかっているから、頬が急激に熱を帯びた。もう後ろは振り向けない。だって、シャチが私の事を好きだと言ったのだから。
「なっ、そいつは関係ないだろ!大体お前もなんか一言言えよ!!!いたたまれないだろうが!!誕生日に盛大に失恋するとは思ってなかったわ!!」
シャチが叫んでいるけど、私は未だにキャプテンから離れられない。嬉しすぎて、唐突過ぎてどんな顔をして振り返れば良いのかさっぱり分からないのだ。
「シャチ、お前が俺達見たのはジュエリーショップの前だよな?」
キャプテンの言葉に肯定をするシャチに、私はじわじわとその時の記憶を呼び起こした。
シャチへのプレゼントにアクセサリーを買うか迷っていた時にキャプテンと出会った。それがあの店だ。正直にシャチへのプレゼントに悩んでいると相談をすれば、キャプテンはへぇと言いながら私のシャチへの想いを直ぐに見破ってしまった。
「ごめんなさい。あの、私そう言うつもりで船に乗ってる訳じゃないんです。だからその、告白とかするつもりも無いし、船に迷惑はかけません。」
みんなに隠していたのはこれだった。私は恋愛をする為に船に乗っている訳では無い。ましてや海賊ごっこをしている訳でもない。目の前にいるこの人に着いていきたくて、船長と共に世界を見たくて覚悟を決めて船に乗っている。
「それはお前を見れば理解っている。迷惑かどうかは俺が決める。少なくとも公私混同はしないタイプだと思っていたが、違うのか?」
「…わからないです。」
正直船長がこんな事を言うなんて思ってなかった。真剣な船長の瞳に私の気持ちも正直になる。散々言い訳を付けて今の関係を続けてきたけれど、わざわざこんな高価な物を買いに来たのはきっともうこの気持ちを隠し続ける事に限界を感じたからだ。
「でも、もう隠し続けるのは無理かもしれません。」
「ふっ、そうか。うまくやれ。海賊なんだ、好きに生きろ。」
「あ、あいあいキャプテン!あの、ありがとうございます!」
一瞬の静寂に包まれた廊下で私は俯いていた。こんな形で自分の想いを人から伝えられるとは思っていなかったのだから。
「えっ、あっ、えっ?いや、それだと…えっ!?まじ!?えっ!?お前って、俺の事好きだったの!?」
コツンと船長のヒールの音が鳴り、思わず顔をあげれば、船長はゆっくりと歩みを進め飯食ってくる、と言いその場を後にした。迷惑をかけないと宣言したのに、結局船長の手を煩わせてしまった。後ろでシャチが騒いでいるけど、今更どうリアクションすれば良いのかもわからない。
「おい!いい加減こっち向けっ…て…。え…やっば…めっちゃ可愛い…」
シャチに無理やり肩を引かれたけれど、初めて言われたシャチからの可愛いに、私の頭はショート寸前だ。さっきまでクルーとしての罪悪感に苛まれていたと言うのに、今は目の前にいる頬を赤くしたシャチで頭がいっぱいなのだ。
「み、見るな!!ヤダ触んないで!!」
思わずシャチを突き飛ばして顔を抑えたけれど、こういう時どういう反応をするのが正解なのだろうか。大体私は本当にシャチとそういう関係になるのだろうか。
「触んなって…いや…そのごめん。お前があまりにも可愛い顔してるから…。って言うか、その、船長とは…」
「付き合って無いって何回も言ってるじゃん!シャチの馬鹿!!!ばかばか!!私がずっと好きなのは…!」
シャチだと叫ぼうとした時、ぎゅっと抱き寄せられて唇は大きな手で覆われた。自分の音じゃない、やけに早い心音が触れている体全身から伝わる。
「それは俺に言わせて。俺、ずっとお前の事が好き。誰にも渡したくねぇ。不器用で口が悪くて素直じゃない所も、俺の前で見せる笑顔も、全部好き。俺の彼女になってください!!」
ぶわっと視界が膜で覆われたのが分かった。だって、だってこんなの知らないもん。シャチのくせに、シャチのくせになんでこんな少女漫画みたいな事をするんだって。
「うっうう…シャチのくせにぃ〜!!」
「は!?それどう言う意味だよ!!俺は真剣にな…!」
胸はドキドキと高鳴っているけれど、自分以上にシャチも緊張しているって気付いたから、ゴシゴシと腕で目を擦ってシャチに向き合った。
「私もシャチが好き。誕生日おめでと。その、本当はこれ渡したかったの。」
「…ありがとう。一生大事にする!!毎日付ける!あ、でも潜水する時に濡れるのは嫌だな…。やっべぇ、めっちゃ嬉しい。えっ?これ夢?」
夢じゃないよ、自分にも言い聞かせるようにそう呟けば、シャチは天井に頭が着きそうなほど体を浮かせて喜んだ。再び包まれた体に、心が暖かくなった。こうしてシャチに包まれるのは初めてだけれど、やっぱりシャチは大きいし男の人だって改めて気付かされる。
シャチの腰に手を回せば幸福に包まれた。
「あのさ、名前、」
名前を呼ばれ上を向けば、酷く緊張した顔をしたシャチ。ゆっくりと顔が降りてくる。多分、もしかしなくてもこれはそういう雰囲気だ。さっきまでショート寸前だった私の頭は時を経て段々と冷静さを取り戻していた。唇が触れるまであと2秒、背中に回していた手はシャチと唇にピッタリと合わさった。
まるで意味がわからない、と言いたげにシャチは目を開けたけど、私はゆっくりとシャチから距離を取った。
「あ、船の中でそういうのは無しで。節度は守らないと。」
「…は?」
「だって私達海賊だし、公私混同はしないってキャプテンとも約束してるね!ふふ、なんかスッキリした!あ!後でキャプテンにお礼言わないと…」
「いやいやいや、ちょっと待て、えっ??なんか思ってたのと違うんですけど…。」
シャチはオロオロしているけれど、私の頭の中は至ってクリアだ。さっきまでどう接すればいいか、なんて悩んでいたけれど、毎日顔を合わせるんだしウジウジしていられない。皆のところ行こ?とシャチの手を引けば、頭をガシガシとかきながら、仕方ねぇなと言うシャチに口元が緩む。
扉を開けば皆がこっちを見ていた。多分何が起きたのか気付いている。
「あのねー!シャチと付き合う事になったよー!」
「ばっ、なんでお前そんな普通に!!」
「おーーー!やっとかー!おめでとーー!」
私達の不安を他所に船内はおめでとうの声に包まれた。なんだか照れくさいけれど、まだ言わなきゃ行けない事がある。
「あ、でも公私混同はしないから、皆安心してね!やっぱり私達海賊だし!キャプテンを海賊王にする為に、日々精進します!!ね!」
「あ―……うん。はい。そうです。そういう事で…。」
彼女がそのまま船長の元へ走り、お礼を言いに行ったのは3秒後。シャチの周りに男達が集まり、肩に手を置きポンと頑張れ、と慰めに入ったのは5秒後。
折角結ばれたのにまだまだ前途多難なこの恋の行方へはまだ誰にも分からない。
「だから!キャプテンは私の事を褒めたの!!」
「はぁ!?どう考えても俺の事だろ!!」
いい加減にしろ、と二人仲良く大きな刀で頭をコツンと叩かれるまで私たちの言い合いは続いていた。思い返せばくだらない事で私達はいつも喧嘩をしている。
でも決して仲が悪い訳では無い。むしろ相性はいい方だと思う。
「ねーシャチこれみて〜」
「んー?ぶっ!!何だよそれ!!」
「ね!これなんてキャプテンみたいじゃない!?こーんな目しててさ!」
「ギャハハ!!おいそれ絶対船長に言うなよ!!また俺らバラされるって!」
シャチと2人、部屋の床で寝そべりながら見ているのは島で買った動物の面白写真集。船内での暇潰しにはもってこいだ。よく喧嘩もするけど、シャチとは何かと気が合う。ノリがいいし、一緒にいる事が多い。
「今日の船長めっちゃかっこよかったね〜」
「今日もだろ!お前船長に助けられた時顔真っ赤だったぞ。」
「え…うそ…恥ずかしい…」
シャチが話すのは食堂での出来事だ。ちょうど立ち上がった時に船が傾き、船長がそれを受け止めてくれたのだ。船長は少し胸元の空いた服を着ていたし、男の人の胸に飛び込むことなんてないから、正直かなり恥ずかしかった。
「…お前にもそんな感情あったんだな。」
「いやいや、私を何だと思ってるんですか?大体あんなカッコイイ人の胸元に飛び込んで照れない女の人なんて居ないと思うけど…」
「…女??誰が?お前の事言ってんの?」
「喧嘩売ってんのか。」
珍しく真剣なトーンで喋るから真面目に返答をすればこれだ。多分シャチは私の事を人間の女と言うより、良くてメスのゴリラだと思っている。もしくはただのゴリラ。街へ行けば女の人にデレデレとするシャチが私にはからっきし反応しない。
「って言うか、いい加減キャプテンに気持ち伝えろよ〜。」
「はぁ!?だから、キャプテンはそういうのじゃないって!しつこいなー。」
「どうだかねー。案外上手く行くと思うけどな。」
雑誌をパラパラ捲りながら、この子可愛い〜と続けるシャチの帽子を取った。返せよ、と言われたけど知らない。ポイッと廊下にそれを投げて部屋からシャチを追い出した。シャチの居なくなった部屋ではぁと大きな溜息を落とした。
「シャチのバカ。鈍感。女たらし。大っ嫌い。」
静かになった部屋で頭を抱えた。何なら少し泣きそうだ。シャチの事が好きだと気付いたのはもう大分昔だ。最初は親友と呼べる程気の合う友達だと思っていたけど、時を重ねるにつれそれは愛に変化した。だけど時すでに遅し。シャチにとっての私は精々良い所で親友止まり。女として見てもらうには色々と手遅れだった。
挙句、シャチは私がキャプテンを好きだと勝手に勘違いしている。好きな男から別の男に告白しろと何度も言われるこっちの身にもなって欲しい。しかも相手がシャチなのが余計に腹が立つ。どうせならキャプテンのような色男に振り回されたかった。
そんな文句を言っても、私が好きなのはシャチなのだ。
前の島で買ったラッピングされた小包。柄にも無く真剣に選んだのは彼の大好きな船長が付けていそうな柄のネックレス。船長はアクセサリーを着けていないけれど、クルーの男達が船長に憧れてツナギの下でごく稀にお洒落をしているのは知っていた。シャチと一緒に街へ行けば意外にもお洒落な彼はそういったものを好んで見ていたし。
そんなお洒落好きなシャチへアクセサリーを渡すのはハードルが高かったけど、たまたま通りかかった船長に確認を取って購入したから間違いは無いはずだ。ついでにその時、シャチの事が好きだとバレた。
告白する気は無かったけど、船長に話してスッキリしたのは事実だ。許可も貰えたし。だから、もうすぐ来るシャチの誕生日に気持ちを伝えようと思っていた。誕生日はもう明日なんだけど。
結局いつもと変わらないまま、シャチの誕生日を迎えた。今回は1番にお祝いしたかったけど、0時に男部屋へ行く勇気なんてないし、2人きりになれる場所へ誘う勇気もなかった。
その後は少し大変だった。今日の主役はシャチだから、シャチはちょっと浮かれている。いつもの調子でお前からのプレゼントは〜??なんでみんなの前で聞いてくる始末だ。こんな人の多い場所で渡せるわけが無い。
「そんな物ないに決まってるでしょ!?大体何日海の上にいると思ってんのよ。シャチのプレゼントなんて用意してないもん。」
「薄情なヤツめ…!!俺達親友だと思ってたのに…」
ガクンと項垂れるシャチにどうすればいいのかわからなかった。あれ?今まで私どうやって接していた?告白しようと思っていたのに、別の人に告白しろと言われ、告白する前から親友だと宣言をされ、私はこれから一体何を言うつもりでソワソワとしていたのだろうか。
「…シャチの事、親友だと思ったことなんて1回も無いから!!!!ばーーーーか!!!」
「はぁ!?なんだお前!?!?ちょっと傷ついたんですけど!!」
「お、また喧嘩してんのかお前ら。」
ガヤガヤと騒がしい室内で私達の声が響けば、面白がってこちらを見る船員の視線が集まる。こんなの日常だし、普段ならなんにも気にしないのに、今日だけはその視線が苦しかった。
「…っおい、どうしたお前…!」
茶化す顔をしていた癖に、急に真面目な顔で心配しないで欲しい。多分自分でも感情を抑えられていなかった。ポロリと頬を伝うものに気付けば、後ろを振り返り室内から飛び出した。
前も見ずに廊下を走ればドンと何かにぶつかった。おい、低い声が上から降ってきて、肩に大きな手が触れる。
「ごめ…ごめなさ…い。」
「…いや…。どうした。たしか今日だったろ。」
いつの間にこんなに泣いていたのかわからない。ぶつかった時キャプテンは怒っていた筈なのに、私の状態に気付いたのかすぐに怒りを収めた。
「ふっ…うっ…で、でも…」
言葉を紡ぎたいけれど、上手く声が出せない。トントンと規則的に優しく背中を叩かれる。ゆっくり呼吸をしろ、とお医者様のように接してくれる船長のお陰で少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「おい、何処へ行く。」
キャプテンの少し張った声は私へ向けたものでは無い。だって私はどこかへ行こうとはしていないから。キャプテンの胸に収めていた自身の顔をあげれば、キャプテンは先を見つめている。振り返る前に後ろから聞こえて来る声でキャプテンが声をかけた主が誰なのかは直ぐに理解した。
「あー、いや、邪魔するつもりじゃなかったんだけど…。」
多分目が合った。帽子に手を当てて、少しおちゃらけた顔をするシャチと。視線が交わったのは数秒だったかもしれないけれど、一瞬時が止まったかのように錯覚する程、時間の流れがゆっくりに感じた。
「あー、いやキャプテンあんまそいつ泣かせないでやってください!意外と強がりなんですよ。」
やっと開いた口からは訳の分からない言葉が放たれる。さっきまでうるさくなっていた喉からは、ひゅっと嫌な音がなりもう何も発さない。私の背中を叩いていたキャプテンの手もピタリと停止した。
「何の話だ。」
静寂を破ったのはキャプテンの言葉。ずっと逸らせなかった視線を離し、再びキャプテンを見上げれば頭にポンを手を置かれる。私達の喧嘩に巻き込んでしまったというのに、まるで黙っていろと言うかのようにキャプテンは私の頭を体に引き寄せた。
「前の島でたまたま聞こえたんだ。船長とそいつが付き合うって話。だから俺は船長とそいつが付き合っているのも知ってる。」
シャチの言葉に私の頭の中にはハテナがいっぱいだった。一体いつそんな話をしたのか。やけにシャチが船長の話をしつこく振ってくると思っていたら、そんな事情があったのかと。
少しの沈黙が続いた後に、キャプテンが言葉を発した
「あぁ…アレか。」
頭のいいキャプテンは答えを導き出したのか、デタラメに答えているだけなのか、私にはさっぱりと分からないけれど、少なくとも私にはそんな会話の記憶は残っていなかった。慌てて違うと答えようとしたけれど、黙ってろと言わんばかりにキャプテンに口を塞がれる。
「アレって…そいつの想いをそんな風に…」
「別にいいだろ。こいつはもう俺の女になってるんだろ?ならどう扱おうとお前には関係のない話だ。」
悪い顔をしてシャチを挑発する船長に私の頭はパニックだ。一体いつ私はキャプテンの女になったのか。
「っ言い訳無いだろ!!!いくらキャプテンでも、そいつを泣かせることは許さねぇから!!大体俺の方がそいつの事を好きだったんだよ!チクショー!!」
シャチの言葉にえっと小さく声がこぼれた。見上げていたキャプテンは面白そうにクツクツと笑っている。
「馬鹿だなお前ら。」
キャプテンの言葉の意図がわかっているから、頬が急激に熱を帯びた。もう後ろは振り向けない。だって、シャチが私の事を好きだと言ったのだから。
「なっ、そいつは関係ないだろ!大体お前もなんか一言言えよ!!!いたたまれないだろうが!!誕生日に盛大に失恋するとは思ってなかったわ!!」
シャチが叫んでいるけど、私は未だにキャプテンから離れられない。嬉しすぎて、唐突過ぎてどんな顔をして振り返れば良いのかさっぱり分からないのだ。
「シャチ、お前が俺達見たのはジュエリーショップの前だよな?」
キャプテンの言葉に肯定をするシャチに、私はじわじわとその時の記憶を呼び起こした。
シャチへのプレゼントにアクセサリーを買うか迷っていた時にキャプテンと出会った。それがあの店だ。正直にシャチへのプレゼントに悩んでいると相談をすれば、キャプテンはへぇと言いながら私のシャチへの想いを直ぐに見破ってしまった。
「ごめんなさい。あの、私そう言うつもりで船に乗ってる訳じゃないんです。だからその、告白とかするつもりも無いし、船に迷惑はかけません。」
みんなに隠していたのはこれだった。私は恋愛をする為に船に乗っている訳では無い。ましてや海賊ごっこをしている訳でもない。目の前にいるこの人に着いていきたくて、船長と共に世界を見たくて覚悟を決めて船に乗っている。
「それはお前を見れば理解っている。迷惑かどうかは俺が決める。少なくとも公私混同はしないタイプだと思っていたが、違うのか?」
「…わからないです。」
正直船長がこんな事を言うなんて思ってなかった。真剣な船長の瞳に私の気持ちも正直になる。散々言い訳を付けて今の関係を続けてきたけれど、わざわざこんな高価な物を買いに来たのはきっともうこの気持ちを隠し続ける事に限界を感じたからだ。
「でも、もう隠し続けるのは無理かもしれません。」
「ふっ、そうか。うまくやれ。海賊なんだ、好きに生きろ。」
「あ、あいあいキャプテン!あの、ありがとうございます!」
一瞬の静寂に包まれた廊下で私は俯いていた。こんな形で自分の想いを人から伝えられるとは思っていなかったのだから。
「えっ、あっ、えっ?いや、それだと…えっ!?まじ!?えっ!?お前って、俺の事好きだったの!?」
コツンと船長のヒールの音が鳴り、思わず顔をあげれば、船長はゆっくりと歩みを進め飯食ってくる、と言いその場を後にした。迷惑をかけないと宣言したのに、結局船長の手を煩わせてしまった。後ろでシャチが騒いでいるけど、今更どうリアクションすれば良いのかもわからない。
「おい!いい加減こっち向けっ…て…。え…やっば…めっちゃ可愛い…」
シャチに無理やり肩を引かれたけれど、初めて言われたシャチからの可愛いに、私の頭はショート寸前だ。さっきまでクルーとしての罪悪感に苛まれていたと言うのに、今は目の前にいる頬を赤くしたシャチで頭がいっぱいなのだ。
「み、見るな!!ヤダ触んないで!!」
思わずシャチを突き飛ばして顔を抑えたけれど、こういう時どういう反応をするのが正解なのだろうか。大体私は本当にシャチとそういう関係になるのだろうか。
「触んなって…いや…そのごめん。お前があまりにも可愛い顔してるから…。って言うか、その、船長とは…」
「付き合って無いって何回も言ってるじゃん!シャチの馬鹿!!!ばかばか!!私がずっと好きなのは…!」
シャチだと叫ぼうとした時、ぎゅっと抱き寄せられて唇は大きな手で覆われた。自分の音じゃない、やけに早い心音が触れている体全身から伝わる。
「それは俺に言わせて。俺、ずっとお前の事が好き。誰にも渡したくねぇ。不器用で口が悪くて素直じゃない所も、俺の前で見せる笑顔も、全部好き。俺の彼女になってください!!」
ぶわっと視界が膜で覆われたのが分かった。だって、だってこんなの知らないもん。シャチのくせに、シャチのくせになんでこんな少女漫画みたいな事をするんだって。
「うっうう…シャチのくせにぃ〜!!」
「は!?それどう言う意味だよ!!俺は真剣にな…!」
胸はドキドキと高鳴っているけれど、自分以上にシャチも緊張しているって気付いたから、ゴシゴシと腕で目を擦ってシャチに向き合った。
「私もシャチが好き。誕生日おめでと。その、本当はこれ渡したかったの。」
「…ありがとう。一生大事にする!!毎日付ける!あ、でも潜水する時に濡れるのは嫌だな…。やっべぇ、めっちゃ嬉しい。えっ?これ夢?」
夢じゃないよ、自分にも言い聞かせるようにそう呟けば、シャチは天井に頭が着きそうなほど体を浮かせて喜んだ。再び包まれた体に、心が暖かくなった。こうしてシャチに包まれるのは初めてだけれど、やっぱりシャチは大きいし男の人だって改めて気付かされる。
シャチの腰に手を回せば幸福に包まれた。
「あのさ、名前、」
名前を呼ばれ上を向けば、酷く緊張した顔をしたシャチ。ゆっくりと顔が降りてくる。多分、もしかしなくてもこれはそういう雰囲気だ。さっきまでショート寸前だった私の頭は時を経て段々と冷静さを取り戻していた。唇が触れるまであと2秒、背中に回していた手はシャチと唇にピッタリと合わさった。
まるで意味がわからない、と言いたげにシャチは目を開けたけど、私はゆっくりとシャチから距離を取った。
「あ、船の中でそういうのは無しで。節度は守らないと。」
「…は?」
「だって私達海賊だし、公私混同はしないってキャプテンとも約束してるね!ふふ、なんかスッキリした!あ!後でキャプテンにお礼言わないと…」
「いやいやいや、ちょっと待て、えっ??なんか思ってたのと違うんですけど…。」
シャチはオロオロしているけれど、私の頭の中は至ってクリアだ。さっきまでどう接すればいいか、なんて悩んでいたけれど、毎日顔を合わせるんだしウジウジしていられない。皆のところ行こ?とシャチの手を引けば、頭をガシガシとかきながら、仕方ねぇなと言うシャチに口元が緩む。
扉を開けば皆がこっちを見ていた。多分何が起きたのか気付いている。
「あのねー!シャチと付き合う事になったよー!」
「ばっ、なんでお前そんな普通に!!」
「おーーー!やっとかー!おめでとーー!」
私達の不安を他所に船内はおめでとうの声に包まれた。なんだか照れくさいけれど、まだ言わなきゃ行けない事がある。
「あ、でも公私混同はしないから、皆安心してね!やっぱり私達海賊だし!キャプテンを海賊王にする為に、日々精進します!!ね!」
「あ―……うん。はい。そうです。そういう事で…。」
彼女がそのまま船長の元へ走り、お礼を言いに行ったのは3秒後。シャチの周りに男達が集まり、肩に手を置きポンと頑張れ、と慰めに入ったのは5秒後。
折角結ばれたのにまだまだ前途多難なこの恋の行方へはまだ誰にも分からない。
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