現パロ
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来世でもまた同じ人と恋に落ちたい
そんな身を焦がす程の愛を知った
時は変わって世界が変わった
正確に言えばどうやら私には前世の記憶って奴があった
物事を事細かく記憶している訳では無いけど、何か行動を起こせばふと記憶の片隅に落ちていた誰かの記憶が蘇るのだ。
初めは小学生の頃だった。多感になる子供時代。女の子が花咲かせる恋のお話。
「みんなは誰が好きなの?」
思い思いの男の子の名前を話すこの時間。私は居ないよと答えたかったはずなのに。
「私はね、ロー!…あれ?」
「ろうくん??そんな子いたっけ?」
不思議そうにする友達に慌てて間違えたなんて答えた。突然口から出てきた言葉に少し困惑した。ロー、ローと頭の中で唱えれば妙に耳に馴染んだ。それに心がやけに暖かくなる。顔も名前も知らない筈なのに、聞いた事もないローと言う名前が頭から離れなかった。
次に異変が起きたのは修学旅行。海に面していない県に住んでいた私は初めて海を見た。日差しに照らされキラキラと輝く青を見た時、心の中から出た感想は懐かしさだった。きっと小さい頃両親と来た事があるのかな?と思い、両親に聞いたけど、どうやら私は海に行ったことは無いらしい。
それならあの船の記憶は何だろう?と両親に問ても、テレビで見たんでしょなんて返された。
やけに見覚えのあるあの光景はテレビで見たものだったのだろうか。
「俺、お前の事好きなんだ。」
甘い青春の1ページだった。中学校へ行き、偶然席が隣になり仲良くなった男の子に告白をされた。全く意識をしていなかったと言えば嘘になる。多分、何となくだけど周りの子にも彼氏や彼女が出来て、自分もそんな風に誰かと付き合うのかな。なんて思っていたから。
「あの、ごめんなさい。…私好きな人いるんだ。」
仲良くなった彼には申し訳無かった。多分、あのままの私だったら彼と付き合っていたと思う。身を焦がす程、彼の事が好きとかそういう訳じゃ無いけど、彼の事は嫌いじゃなかったから。
だけど思い出してしまった。このタイミングで。いつか思い出したあのローと言う名前の正体を。
「あんた告白断ったの!?良い感じだったのに!?」
「う、うん。」
「うわー。絶対付き合うと思ってたのに!あいつ相当凹んでると思うよ…」
「そうだよね。本当に申し訳無い事をしました。」
「てか好きな人なんていたの?誰?」
友達に問い詰められ思わず眉を寄せた。好きな人がいると言い断った手前、実は居ませんでした。なんて言えない。だけどその相手が前世で愛した男です。とも言えるはずが無かった。
「うーん…他校の人…?親戚の知り合いで…」
「は?あんたそんな知り合い居た?」
(居ないけど…)
当然存在しない架空の人物を作り上げているから、友達は不機嫌そうに眉を顰めた。だけどもう仕方が無い。ここで下手に存在する人物を口にして、応援するとか、そういう展開になっても困る。運命なんて信じていなかったけど、都合良く彼の事を思い出してしまった。生まれ変わっても私はローの事しか好きになれないのだと気付いたから。
「トラファルガー・ロー。」
名前は知っているのに、知らない存在。恋焦がれて愛してやまない存在。彼を思い出してから私の世界は180度変わった。この世界にいるのか、同じ国にいるのか、私の事を覚えているのか何もかも分からないけど、もう一度彼に会いたい。
手にかけたスマートフォンに、トラファルガー・ローの文字を打ち込む。彼は医者だった、もし医者になっているのならこの時代、名前さえ調べれば直ぐに見つかると思った。
「わ…出てきた…」
医者では無いけど、彼の名前は出てきた。剣道の中体連、2つ年上の彼は剣道で結果を残していた。驚く事に他にも見知った名前があった。
「ロロノア・ゾロ…」
同盟を組んでいた海賊の1人だった。今まで前世の知り合いとは出会った事が無かったから、もしかしたら誰も居ないのかもしれないとも思っていた。一度に2人も知り合いを見つけてしまえば、胸は高鳴った。ローに会いたいのは勿論、かつて仲間だった皆にも会いたくなった。
ローは私の2つ年上だった、だから彼がどこの学校へ行くのか調べる事が出来た。彼に記憶がなかったら私はただのストーカーだ。
人生は上手くいかないもので、彼の住む場所と私の住む場所はかなり遠かった。平凡な家に産まれ、平凡な成績の私がいきなり遠くへ進学すると言っても、両親からの許しが貰える筈も無かった。
だからこの日から死ぬ程勉強をした。高校は無理でも、大学こそは彼と同じ場所へ行き、彼に会いたかった。もう一度、ローと人生を歩みたかった。
真面目でも不真面目でも無かった私が、友達と遊ぶことも無くなり、勉強に明け暮れたのを見た両親は驚いていた。当然の反応だと思う。だけどもう、私の頭の中はローでいっぱいだった。何となく生きていれば、平凡に恋をしてそれなりに学生生活を送り、条件の合う仕事に就いて、そんな漠然とした未来を考えていた。叶えたい夢が無かった。思い出せばスッキリするのだ、私の夢はあなたの夢だったから。
高校生活はバイトと勉強に明け暮れた。友達なんて居なかったかもしれない。だけど気にしてられなかった。きっとローはお医者さんになる、そうなれば頭のいい大学に行かなければいけない。出来の悪い私は毎日勉強に明け暮れた所で、学年1位になれるような頭は持ち合わせていない。努力するしかないのだ。
ローを思い出してから、彼を思って書いたノートは3冊目に突入した。彼に見せるつもりはないけど、勉強の息抜きやどうしてもローに会いたくなった時、ノートに思いやローに伝えたい事を綴っていた。我ながら気持ちが悪いけど、彼に対する愛の重さは会わない期間が長くても軽くはならない。
やっとの思いで合格した大学。必死に勉強をしバイトで得たお金は全て貯金して、何とか両親を説得しローの通う大学に行く事が出来たのだ。この世界でも密かに有名になっている彼にずっと胸がザワザワしていた。だって彼の大学が分かるのも、彼が有名で検索してしまえば直ぐに出てきてしまう程だったから。高校時代のローは剣道部のイケメンすぎる高校生として、知る人ぞ知る有名人だった。しっかり画像は保存させてもらったけど、どう考えてもモテるであろうハイスペックな元恋人を見て、何とも言えない気持ちになるのは私が平凡過ぎるからだ。
ふと前を見ると、見覚えのあるどこか懐かしい後ろ姿を見つけた。柄じゃないけど、思わず走り出しその人物の腕を掴んだ
「っあの!!」
驚いたと言うよりは、不機嫌そうに眉を顰めこちらを振り返る彼女にモヤが掛かっていた断片的な記憶が少し晴れていく
「…何?」
「あ、すみません…。あの、私名前って言います。」
「名前…?」
彼女…イッカクは前世で同じ船に乗っていたクルーだった。私の記憶って奴は全てを思い出している訳じゃない。名前がわかるのはローとロロノア・ゾロ、そして今出会ったイッカク。何の法則性があるのかは分からないけど、ふとした時に思い出すのだ。
恐らく彼女の反応を見るに、彼女に私の記憶は無いようだった。
「あのすみません…。知り合いに似てたもので。新入生ですか?」
「まぁ、そうだけど…待って私アンタと何処かで会った事ある様な気がする。」
私より背の高いイッカクに見下ろされ、思わずたじろいだ。オマケにイッカクは美人だし。
「う、海…とか?」
「海…?」
「そろそろ始まるぞーー新入生は急いでーー!!」
「あっやば!アンタも新入生よね?一緒に行くよ!」
イッカクに腕を掴まれると、慌てていたはずのイッカクは立ち止まり再び振り返った
「…待って、思い出した。もしかして、名前って、あの名前?」
「う、うん…。あの、イッカク…?だよね?」
「そう!そうだよ!!あああ!!なんで今まで忘れていたんだ!!ってちょっと待って、取り敢えず!入学式に行こう!」
初めて再開する事が出来た前世の仲間に頬が綻んだ。
イッカクと2人でまず始めたのは互いの記憶の確認だった。やはりイッカクも私と同じで断片的なざっくりとした記憶しか分からないらしい。そもそもイッカクの記憶はさっき蘇ったのだが。
「キャプテンって、どんな人だったっけ?なーんか思い出せなくて。船長が居たのは分かるんだけどさー。」
「えっとローは…」
「ロー…?…あー、思い出してきたかも。…あ、思い出したわ。」
名前を言いながら、スマートフォンに入っていた画像を見せればイッカクは直ぐにローを思い出した。同じくロロノア・ゾロの画像を見せると直ぐに彼の事も思い出した。
「んー、つまり顔か名前を見たら思い出すって事なのかな?」
「そういう時もあるし、ふとした瞬間に思い出す事もあるかな…。」
「ふーん。で、アンタはキャプテンを追いかけてこの大学まで来たって訳?」
「う、うん。ローは有名だから直ぐに見付かるかなって思ったんだけど…」
「いないね。」
「いないみたい…。」
「まぁ今日は入学式だしね。アンタの言う通りキャプテンは目立つからきっと直ぐにみつかるよ。っていうか、キャプテンの方がアンタの事を見付けそう。うん。絶対そう。」
「そうだといいなぁ…」
イッカクの言葉に少し弱気になっていた自分の気持ちが晴れた。
もしローが自分を覚えていなかったら、もしローに拒絶されたらどうしようって、ローへ近付けば近付く程、段々怖くなっていたから。
イッカクとは連絡先を交換して、互いの家も行き来する仲になった。前世では同部屋だったし、話したい事も沢山あった、それにイッカクといると落ち着いた。
入学して1週間、未だにローとは会えてなかった。医学部とは校舎が違うし、会うにもハードルが高い。同じキャンパスに通うために医療系の分野へ進もうとは思わなかった。前世でローが何度も命を救ってきたのを見ていたから、私の邪な気持ちで入れる世界では無いと知っていた。
突然鳴った着信に耳をあてた
「ちょっと!!医学部の食堂に来て!!キャプテン見付けた!!」
イッカクからの電話にドキドキと騒がしい心臓に手を当て呼吸をした。
ローに会える。ローに会えるんだ。
初めて入るキャンパスにそわそわした。だって普通ならここに用はないし。イッカクに感謝するしかない。
「こっち!!はーでもやっぱ敷居高いね〜。アタシも用がなきゃ中々来れないわ。あ、でもここの学食人気らしいから、これからは学食目当てって事で通わない?」
「う、うん。」
イッカクは私の気持ちを理解している。だからこうして、一緒にいてくれるのだ。
「ほら、あそこ。」
「わー…、ロー…ローだ。…ローがいる…!」
遠くからだけど、やっと会えた大好きな人の姿を見て思わずポロリと涙が零れた
「ったく…。話す前から泣いてどうすんの…」
「うぅっ…だって…。も、ずっと…会いたかったから…」
「ほら!行くよ!ここで泣いてても仕方が無い!」
「うん…!」
イッカクに手を引かれ、ローの元へ目指した
周りには何となく頭の良さそうな人が座っている。当たり前だけど医学部の人が多いし、正直別世界の住民だ。
「キャ…、あ、すみません!ちょっとお話したくて。」
「ん?君達どこの子?なんの用〜?」
「あー、私は工学部で、あ、トラファルガー・ローさんに用があって。」
「あーローさんね、だってさ!」
ローの座るテーブルへ近付けば、イッカクが話を進めてくれた。ローと同じテーブルに座る、気さくそうな男をまじまじと見つめる。なんかこの人を知っている気がするのだ。
「えっと…お友達はあの…俺に用…?」
「あっ、いやっその!すみません…何処かで会った事があるような気がして…」
「えぇぇ!?ナンパ!?俺女の子からそんな事言われたの初めてっ!!」
イッカクにゴンと肘で叩かれ何してんのよと目で訴えられる。チラッとローを覗くけど物凄く不機嫌そうな顔をしていた
「あー、俺はペンギン。君名前は?」
完全にローが目当てのイッカクとそのお友達の私と言う構図になってしまい、イッカクは頭に手を当てている。そこにフォローを入れる間もなく、ペンギンに差し出された手と顔を交互に見た。
「…ペンギン?」
「う、うん。あの、君の名前は…」
「私は名前です。」
ペンギンの手を取れば勘は正しかったようで、私は彼の記憶を思い出した。どうやらペンギンも同じようで、2人して握手を交わしながら目を合わせた。
「えっと…名前って…えっと…ハハ、まじか。まじか!?えっ!?イッカク!?船長!?」
突然大声を上げるペンギンに、イッカクもローもビクッと反応をした
ずっと不機嫌そうに沈黙を貫いていたローも口を開いた
「…知り合いか?」
「いや、知り合いって言うか…えっローさんはこいつを見て何とも思わないんすか?」
「…は?」
ペンギンが指差したのは私だった。ペンギンが大声を上げたのもあって私達はかなり目立っていた。
「あ、あのペンギン、ちょっと待って、人が…」
「あ、悪い。ちょっと待て場所を変えよう。」
ペンギンに連れられて場所を移したけど、ローは着いてきてくれなかった。どうやらローに私の記憶はないようだ。
「で、アンタ誰?」
「は!?イッカクお前まじかよ!俺だよペンギン!!同じクルーだっただろ!?」
「ペンギン…?あー。あ、思い出した。ペンギンか。」
「いつから俺はシャチのポジションになったんだ…」
「「シャチ??」」
「え??」
1週間前にイッカクとした確認をペンギンとも行った。やっぱり私達は前世の記憶が戻っても全ての記憶が戻る訳では無いようだった。
顔や名前、直接体に触れたり、何かしら前世の人物と関わりを持つ事でその人物の記憶が蘇るという仮説を建てた。
今世でロー、シャチ、ペンギン、ベポは近所で育った幼馴染らしい。ベポは人間の姿だったから、思い出すのは大変だった。人間の写真と白熊の写真を見せられて、私とイッカクは声を揃えて思い出した。
「あ、ローさんはフリーだぞ。ずっと。」
「そ、そうなの!?」
「良かったね〜名前。あとは記憶を取り戻すだけかぁ。」
「う、うん。良かった。」
直ぐにペンギンと連絡先を交換し、講義が終わったあとローを連れてくるという約束も取り付けてもらった。2人には感謝しかない。
「それにしても良かったね。」
「うん!大学に来てすぐ皆に会えるなんて思ってなかった。」
今までずっと独りぼっちのような孤独感を感じていたのは事実。やっと自分のいるべき場所が見付かったのだ。
「いやいや、キャプテンのさ、フリーだって話。モテそうじゃん。」
「うん。私もちょっと不安だった。」
「だよねー。やっぱキャプテンはキャプテンだなーって。一途だったもんねー。アンタとキャプテンが結ばれた時はどれだけ嬉しかったか。」
「ふふ。その節はお世話になりました…。」
前世で私は長い片想いの末にローと付き合った。同部屋だったイッカクには気持ちは伝えていたし、ローと付き合った時誰よりも喜んでくれたのもイッカクだ。
約束の時間になり、ペンギンがローを引き連れてきた。どこからどう見ても嫌そうな顔をしているローに、顔を引きつらせる。
「…またこいつらか。一体何なんだ。」
「いやーその前世って言うか…、ほら名前とイッカク。見覚えない?」
「馬鹿かお前。知らないと言っている。」
迷惑そうにするローに口を噤んだ。
「あ、握手!握手しましょう!」
「は?何故だ?訳が分からない。」
「いや、いいから!お願いします!それで終わり!ね?お願いローさん!」
握手すれば帰っていいんだろ?と言うローは手を差し出した。イッカクとペンギンが目で合図をするけど、その手を取るのが少し怖かった。
「…帰っていいか?」
「あっ、いや、あのす、すみません。失礼します…。」
久しぶりに触れるローの手に体がじんわり暖かくなった。多分顔は真っ赤だ。ずっとこうしてローに触れたかった。瞳がじんわり滲むけど、繋いだ手はすぐに離された。
「で?帰っていいか。」
「…え、ローさん本当に何も思い出さないんですか…?」
「…だから何の話をしてんだ。…高校時代のファンか?いや、覚えがねェな…。」
「俺ら海賊やってて…」
「…はァ?くだらねぇ遊びに付き合ってるヒマはねぇ。」
本当に何も知らない、迷惑そうな顔をするローを見て、腕でゴシゴシと目を拭った。
「は、はい!剣道部のトラファルガー・ローさんを見てファンになりました!握手ありがとうございます。あの、お時間頂いてしまってすみません。失礼します!」
逃げた。逃げ出した。後ろでイッカクとペンギンの声が聞こえていたけど、もう足は止まらなかった。
苦しかったあの場所にいるのが。
こうなる可能性もずっと考えていた。だけど、イッカクとペンギンが前世の記憶を思い出し、安心しきっていた。きっとローも自分の事を思い出して、また元に戻れるって自惚れていた。会えば何か変わるって自惚れていたのだ。
「ふっ…うっ…ロー…。」
そう。1からやり直せばいい。もう一度長い片思いを始めよう。だけど、今日だけはこの涙を止められそうになかった。
翌日ペンギンから連絡を受けて待ち合わせの場所へ行った
「俺が何とかするから、大丈夫だ!ほら、ローさん彼女はいないし、って言うか今までも作ってなかった。中学か高校の頃に好きな奴が居るみたいな事は言ってたけど…。今はそういう話全く聞かないし…。」
「うん。いいの。ありがとう!」
多分ペンギンは私の為に絶対的な協力をしてくれる。幼馴染って言っていたし、私が頼めばローを連れて来てもくれるだろう。
「いや俺の気が済まない。やっぱローさんとお前は一緒に居た方がいい。見てられねぇよ。」
「んーでもローってそういうの1番嫌がるでしょ?それに片思いの期間は長かったから慣れてるよ。だから大丈夫!もう1回頑張るね。あ、ペンギンとは普通に仲よくしたいから一緒に遊んでね!」
嫌な女にはなりたくなかった。それに幼馴染を介して取り入ろうとする狡い女にもなりたくない。
平凡でなんの取り柄もない私だけど、前世で愛してくれた彼に恥じない女で在りたかった。
歩いていたら偶然彼に出会う。なんて運命的な出来事は起きない。私が行動を起こさない限りローには会えないのだ。
迷惑にならない程度に医学部のある学食に顔を出した。運とタイミングが合えばローに会える。
「…またお前か。」
「あ、あはは。どうも。」
心が挫けそうになる程に、迷惑そうな顔をするローにぎこちない笑顔で返事をする。
ペンギンの知り合いだし、食事中はペンギンがいつも居るから拒絶はされなかった。
「あ、あのロー…さんは、おにぎりが好きなんですか…?」
「…ペンギンに聞いたのか。」
ギロリとペンギンを睨むローに、私もペンギンも慌てて両手を横に振った
「俺言ってない!!」
「違います!!あのいつも食べてるなって思って…」
彼と話すのは3度目だけど、食の好みが変わらないようでついつい気になってしまったのだ。
「どうだか。先に言っておくがお前が持ってきた物は食わねェ。」
「あっ、はい。」
不機嫌そうに顔を顰めたローは急いで食事を済ませると、すぐに席を立った。ペンギンが横で頭を抱えているけど、正直私の心もバッキバキだ。
「悪い。ローさん女からの差し入れは受け取らないんだ。ほら、後々面倒だから…」
「うん。わかってる。ペンギンいつも邪魔しちゃってごめんね。」
「俺は良いんだよ!そんなことよりお前…そんな辛そうな顔みてられねぇよ…。」
優しいペンギンに胸が傷んだ。
今日でローに会うのは4度目だったけど、全部この場所だった。他の手段でローに会う方法はわからないし、この場所でローに会えば絶対にペンギンもいる。
ペンギンに甘えてローに取り入りたくはないのに、私にはこの場所でローを見つけるしか手段が無かった。
ぽっかりと穴が空いたみたいだった。
片思いの期間は長かったから大丈夫だと思っていたけど、ローと両思いで愛し合った期間はもっと長い。ローの優しさも愛情も私にだけ見せるあの眼差しも、もう全部知ってしまっている。
恋愛なんてローと船でしかした事ない、好きな人に会うために頭を使ったことなんてない。どうすればいいのか分からなかった。
約1ヶ月経った。
あれからローには会っていない。だけどそろそろ彼を一目見たかった。自分へのご褒美だと言い聞かせて、あの場所へ向かった。
ローの周りには美人な女の子が数人居た。肝心のローは凄く迷惑そうな顔をしていた。眉間に眉を寄せ、不機嫌が身体中から出ているようだった。
女の子がい無くなった後、溜息をつきいつもの真顔に戻る。ずっと見ていた私の視線に気付いたローが目を見開き、再び不機嫌そうに眉を寄せた。
(あぁ、私やっぱり迷惑なんだ。)
ローは私を見てあの子達を見た時と同じ表情をした。大好きだったからこそよく分かるのだ。ローが仲間やかつての私に対してする迷惑の表情と、本当に嫌気が差して嫌悪感を示す表情の違いなんて。
トレーを持つ手に力が入った。もうローの近くには座れない。これ以上彼に嫌われたくない。
ローの視界に入らない適当な場所に座った。
無心で食べ物を口に放り込むけど味なんて分からなかった。低い音が頭の上から降ってきた。
「残念だったなペンギンが居なくて。」
冷たい声に思わず喉がヒュっと鳴る
顔をあげなくても誰かはすぐに理解できる
「ごめんなさい。いつも邪魔して。」
「そうだな。ペンギンに取り入らねェと何も出来ねェような奴に嗅ぎ回されるのは不快だ。二度と俺の前に現れるな。」
「…はい。」
ハッキリとした拒絶だった。何がご褒美だ、何がペンギンには頼らないだ、思いっきり嫌な女になっているじゃないか。涙は流さなかった。ここで泣いたら全て終わってしまいそうだったから。泣き叫んで縋って思い出してって叫んでしまいそうだったから。
大学生になり初めての夏休みを迎えた。アルバイトを始めたから帰省はしない事にした。それにこっちにはイッカク達がいる。あれからローには会っていない。医学部で忙しいローに少しでもストレスを与える事はしたくなかった。…そんな模範解答より、私がローの冷たい視線に耐えれそうにないのが本音だ。
ローの事はなるべく考えないようにした。バイトに勉強、家にはイッカクやペンギン達が遊びに来てくれたり遊びに行ったりしていたから、憂鬱な気持ちになる事は少なかった。皆にローから拒絶された事は言っていないけど、上手くいっていないのは明らかで私からローの話はしなくなった。
「そう言えば、アンタ悪魔の実食べてたよね?」
「え?食べてたかな?」
「こいつ悪魔の実食べてた??船長は確か食べてた気がするけど…」
私の部屋へ集まり、質問をなげかけたのはイッカク。イッカクを除く私達は全員首を傾げた。ペンギン経由で仲良くなったシャチとベポもいる。
「んー。なんか食べてた気がするんだよね。そもそも前世の記憶を思い出すのって絶対名前経由だし。なんか関係ありそう。」
「あー確かに。俺とベポも名前と握手するまでペンギンの頭がイカレたのかと思ってたし。」
「うーん。思い出せないなぁ…。」
頭を捻っても、自分が悪魔の実を食べていた事は思い出せない。ローは確かオペオペの実を食べていて、その能力に何度も救われた。じゃあ私は?能力を使って戦闘をした記憶もないし、そもそも戦った事ある…?
「オレ良いこと思い付いた。」
「んー?なんだベポ。」
「海だよ!海に行ってみよう!」
「おー!それあり!今なら何か思い出すかもしんねえ!」
「いいね!海!夏休みって感じもするし!決定!よし、日程決めよう!」
前世ではいつも一緒にいた皆と、初めてする遠出に胸が踊った。一つ気がかりがあり、こっそりペンギンに話し掛けた
「あの…ローって、来る?」
「あー、一応誘うつもりだったけど、どうしたい?」
「ローが来るなら私は遠慮しようかな。ほら、今わたし印象良くないし。」
ローにまたペンギンを利用して取り入ろうとしているって思われるのは嫌だった。
ローに会うなら自分で行動したい。
「いや、お前が来なきゃ行く意味無いだろ。ローさんとは別のタイミングで行けばいいんだし。そんな顔すんなって。」
「ごめん。ペンギン。」
ポンポンとペンギンに頭を撫でられれば、懐かしい記憶がポロリと落ちた。あぁ、そう言えば船に乗りたての頃もこうしてペンギンが世話を焼いてくれた。
後ろでは、船長の記憶が戻ったら言い付けてやろーなんてシャチが騒いでた。クスッと笑ったけど、本当にローは前世を思い出してくれるのかな。もしローが記憶を取り戻さなかったら、もう一度私の事を好きになる事は無いのかな。
海へは1週間程滞在する事になった。というのも、ベポのお兄さんが海の近くで店を開いているらしい。記憶が戻ったベポは前世では死に別れた兄の事を思い出して泣いたそうだ。
私達の記憶が何処まで戻るのか確認も兼ねて滞在期間は長めにした。
ペンギンは医学部の用があるみたいで、少し遅れるらしい。
私達4人は電車に揺られながら海へ思いを馳せた
「そういえば、ペンギンは何で医学部に入ったの?」
今更だけど、ペンギンも医学部に入っている。前世で医者はローだけだった記憶がある。忘れているだけかもしれないけれど。
「確かローさんに言われて行ったんだよな。」
「オレもローさんと同じ所に行きたい!って言ったらお前には無理だって言われたよ…。」
「そうそう!オペの事は分かるだろうが、お前らに勉強は出来ねぇだろ。って言われたよな!まー、その通りだけど。」
シュンと落ち込むベポとケタケタ笑うシャチに、私は首を傾げた
「オペの事??」
「あー、昔からローさん人体模型使ったり、本読んだりしてたの俺らに見せてきたからさ。多分それの事。」
「そうなんだ。ローは小さい頃からお医者さんを目指してたの?」
「そうだな。うん。って言うかローさん意外と目立ちたがり屋だったんだぜ。」
シャチの言葉にイッカクと私は声を上げた。だってあのローが目立ちたがるなんて有り得ないから。
「いや!ほんとに!確かに昔の事を思い返せばありえねーんだけどよ!ほら!剣道とかも、有名になりたくてやってたし!!モデルとかは断ってけど。」
「えー。意外過ぎる。今はそんな感じないのにね?」
「あー確かに。医学部に行くって本格的決めたからなのかなー。わかんねーけど。」
私の知っているローの筈なのに、全然知らないローが生きている。シャチの言葉を聞いて、自分の感情はよく分からなかった。
海に行ったのは正解だったようで私達は徐々に記憶を取り戻した。と言っても大体は他愛もない日常生活の1ページばかりだったけど。
「ごめんねーベポ。」
「いいや!いいんだ!兄ちゃんが生きてるだけでオレ嬉しい!」
ベポのお兄さんと握手をしても、どうやら前世の記憶は戻らなかった。記憶が戻る人と戻らない人の違いはまだ分からない。私が食べていたかもしれないという悪魔の実が関係するのだろうか?
「ペンギンとローさん明日来るって〜!」
シャチの声に瞳が揺れた
「嘘…」
「ん、どした?」
「ううん。なんでもないよ。」
心配そうに顔を覗くイッカクに作り笑いをした
ペンギンからは、シャチとベポが誘ってたごめんと謝罪のメールが届いていた。ローが来ると知っていたら私はこなかった。だからペンギンは黙っていたんだろう。
ベポのお兄さんが経営する宿泊施設のベッドに身を投げれば既に明日の事を考えるのが嫌になった。
私だけ仮病を使う訳にも行かないし、周辺で買い物でもしてローから逃げようかなって考えた。
「名前明日はどうする?買い物でも行くー?」
「うん。そうしようかな…。ごめんねイッカク。」
「ええ!?なんで謝んだよ!アンタと買い物行くのも楽しみにしてたんだからさ!可愛い服買ってオシャレしちゃお〜!きっと船長もまた名前の事好きになるって。」
「ありがとう。そうだね、もう一度頑張らないとね!」
頑張り方なんてわからない。だけど、これ以上皆に迷惑も掛けたくなかった。
翌日は一日中イッカクと過ごした。次の日は皆で海に行こうって話になったから、多分そこでローの顔を見る事になる。
シャワーの中で何度もため息をついた。もうローからの冷たい視線は浴びたくないから。
買ったビキニと、それを隠す長めのラッシュガード。前世でローは肌を見せるなってうるさかったよなーなんて思いながら買ったものだ。何をしても、思い出すのはローの事ばかりだ。
着替えを済ませればもうみんな揃っていた。ローが私達を見てゲッと嫌そうな顔をするから、私は苦笑いをした。ベタに皆でビーチバレーをやるみたいだ。私は遠慮した。気を使わせるのも悪いけど、運がいいのか悪いのか昨日の買い物で足を少し挫いたのだ。
「審判やるよ!みんなが遊ぶの見てるのも楽しいから!」
「んーじゃよろしく!」
砂浜に座りながら、楽しそうに笑う皆を見てたら私も自然と楽しくなった。ローってこんなに子供みたいに遊ぶ人なんだって新しい発見もあった。
ビーチバレーが終われば各々好きな事をした。ペンギン達は海ではしゃいでる。ローは本を読んでいた。
私は砂をいじって皆を眺めている。サラサラとした砂が手からすり抜ける度に、記憶の糸が解けていくようだった。傍から見ればボーッとしているように見てるかもしれないけど、私は少しずつ物事を鮮明に思い出していた。
「ローさんも海に入ろうよー!」
ベポの声が響いた。ローはあぁと返事をし、読んでいた本を置き海に足を進めた。
ローが海…?海の中に入るの?
頭の中がやけに騒がしかった。ローが海に足を着けた時、考える間もなく走り出していた。
「だ、だめ!!ロー死んじゃうよ!!」
叫びながら走ってきた私にローは目を見開いていたと思う。ローの腰まで浸かる海水に、気にもとめず私は海に体入れローを目ざして身を投げ出した。
水の中に入ってから気が付いた、あれ足がつかない。あれ?どうやって泳ぐんだろう。私って泳げた…?
ブクブクと沈んで行く意識の中で誰かの声が聞こえた
見覚えのない天井が視界に広がった。頭がやけに痛い。ズキッとする頭を抑えると、耳に怒号が飛んだ。
「お前は何やってんだ!!馬鹿野郎!!」
「…ペンギン。…ごめんなさい。」
「ったく!ローさんが助けなかったら大変な事になってたんだぞ。このバカっ!」
ぼんやりとしてるけど、海へ飛び込んだ事は覚えている。それに頭がハッキリとしてきた。
「ごめん。記憶がぐちゃぐちゃになって。全部思い出した。」
「そっか。まぁいいや、こっちもなんだ。少し待っててくれ。ローさん呼んでくる。」
「ごめん。呼ばないで。もう、もうこれ以上ローに嫌われたくない。黙ってたけど、もうローに顔を見せるなって言われてるの。私なりに頑張るから、ごめん。」
言ってて苦しかった。既にローには嫌われているのに、目の前で溺れて、更に迷惑をかけた。顔も見たくない女の私が。
「はぁ、だから泣くなって。」
「泣いてない。泣いてないよ。」
「泣きそうな顔してんだって。まぁ取り敢えずローさん呼んでくるからさ、」
ペンギンが私の腰をトントンと叩けば、扉の方から低い声が聞こえた
「おい、ペンギン。」
「げっローさん。」
「触るな。目が覚めたらすぐ知らせろと言っただろ。」
ローの怒気を含んだ瞳に、ごめんなさいと呟いた
これ以上ローの冷たい顔は見たくないのに
「いやお前に言ってるんじゃないって!船長あとはよろしくお願いしますね!もうこいつずっと泣きそうなんだから!!」
「分かっている。さっさと出ろ。」
ペンギンが部屋から出ていくと、ローはゆっくり歩みを進めベッドの横にある椅子に腰掛けた
ペンギンは何故かローの事を船長と呼んでいた。それに今のローから冷たさは感じられないのだ。
「悪い。さっき思い出した。」
「...えっ。」
「泳げない癖に、俺を助けようと海に飛び込むのは2度目だな。」
堪えていたはずの涙が溢れた。ローは私を抱き締めてくれた。
「忘れて悪かったよ。だから泣くな。」
「うぅっ!ロー!ロー!!ずっと、ローに会いたくて!!」
私が泣き止むまでローは優しくあやしてくれた
「ごめんね、記憶が戻る前のローにいっぱい迷惑かけて。」
「...何言ってんだ。謝るのは俺の方だ。女なんて好きになった事がないからどうすればいいのか分からなかった。」
ローの言う言葉の意味がわからなくて首を傾げた
「俺は興味の無い女に自分から話し掛けねェ。お前がペンギンと仲がいいのが何故か気に食わなかった。記憶が無くてもお前の事は好きだった。だから、謝るのは俺だ。」
あんなに冷たい顔をしていたのに、好きだったなんて嘘だと思い目を見開いた。だってどう考えても拒絶していたのに。
「お前、嘘だと思ってんだろ。大体俺は今まで誰とも付き合ってねェ。誰も愛した事がねぇ。お前のせいでな。」
「...え?なんで!?」
記憶を思い出したのはついさっきなのに、それとこれに何の関係あるのだろうか。ローが本当に女の子と付き合った事が無いのは嬉しい話だけれど。
「お前、いつ思い出した?」
「えっと...小学生の頃にローの名前を思い出して...。ローの事をしっかりと思い出したのは中学の頃かな?」
眉を寄せるローを見て繋いだ手に力が入る
「遅ぇな。」
ローの言葉に思わず口が開いた。だってローが私を思い出したのはついさっきだと言うのに。
「ろ、ローはさっきじゃん...」
「違ぇよ。俺は物心着く前からお前の事を覚えていた。」
「...嘘だぁ...」
それなら今までの態度は何?って話だ。現にローは忘れて悪かったって言っていた
「嘘じゃねェ。俺の家族に聞けばわかる。小学校にあがってから、何とかお前を見つけ出したくて名前が残る事ばかりしてた。」
そう言えばシャチがローは目立ちたがり屋だったって言っていた。話に矛盾は無い。
「お前も言っていたろ。剣道の俺を見てたって。」
「う、うん。ネットでローの名前を調べて見つけて...」
「何故連絡しなかった。その為にわざわざ使わないSNSを作っていた。」
ローの瞳は真剣だ。ふざけて喋っているようでもない。
「ローが覚えているかどうか分からなかったから...」
「馬鹿だな。お前は俺の女なんだから自信を持てと何度も話しただろ。俺はお前を探すために手を尽くしていた。お前より長い期間な。」
「ごめんなさい...。」
「...約束しただろ。生まれ変わってもお前を探し出すって。まぁ見つけたのはお前だから約束は守れなかった。すまねぇ。」
「う、ううん。こちらこそ早くから連絡しなくてごめんなさい。あの、じゃあなんで出会ってからのローは記憶が無かったの?」
ローは頭に手を当てて溜息を零した。
でも疑問だった。
私の食べた悪魔の実は、来世で前世の記憶を呼び起こす能力だった。前世ではそれはそれは役に立たない、ただカナヅチになるだけの能力だった。本当に能力が使えるのかどうかも分からない中、私は自分と関わりのある親しい人物にのみ術を掛けていた。ベポの兄が前世の記憶を思い出さないのもそれが理由だ。
思い出すには私の事を思い出すこと、直接接触する事が条件のようだった。
ローの話だと1度思い出したのに、再び忘れていることになるのだ。
「...気が狂いそうだった。」
「...ローが?」
「あぁ。生まれてからお前の事を直ぐに思い出した。お前に会えない期間が長すぎて、気が狂いそうだった。いや...気が狂ったからだ。お前の事を忘れたのは。」
ローのこんな顔を見るの初めてだった。苦しそうな辛そうな泣きそうなローの顔を。
「手掛かりが何も掴めねェ。医者になって俺の名前が広まれば、お前に届くと思ってた。だが、会えない期間が長過ぎた。お前の事を考えると、頭がおかしくなりそうだった。」
ローの言葉にボロボロと涙が溢れた
私だけじゃなかったんだ。ローもずっと私の事を思っていたんだ。
「受験勉強をしてる時、恐らく体に限界がきて1度ぶっ倒れた。そっからだ、前世の事を忘れたのは。だが、もう二度と忘れねェ。もう二度と離さねェ。もう一度、お前と同じ時を生きたい。...信じられるか?」
「うん...うん!ごめん、ごめんなさい...!遅くなって、いつもローに迷惑かけて...ローの気持ちを信じてなくて...不安になって、ごめんなさい...!ロー好きっ!大好き!!」
涙でぐちゃぐちゃになりながら、ローに抱き着いた。ローはいつでもこんなに思ってくれているのに、私は生まれ変わっても信じられなかったのだ。謝るのは私の方だった。ローにあんな顔をさせたのも自分のせいだった。
「泣くな。俺も約束は守れなかった。見つけてやれなくて悪かった。もう二度とお前にあんな顔をさせない。次こそは約束する。もう一度俺と生きてくれ。」
「ううっ...グズッ...!!はいっ!ローとずっと一緒にいたい!ローに触りたかった、ローの名前を呼びたかった...!」
「俺もだ。...お前、浮気はしてねェだろうな?」
「ローの事しか好きになったことないよ...。男の人と付き合った事も無いもん...」
「ならいい。この世界じゃ相手の事も殺せねぇからな。」
ローの物騒な発言に思わず顔を上げたけど、本気の目をしていた
顔が近い、心臓がうるさく鳴っていた
「名前...」
「なに?」
ローの手が私の手を取ると、ローの胸に私の手を当てた。私の鼓動なのか、ローの鼓動なのか分からないぐらい互いの音はバクバクとリズムを刻んでいる
「ふふ...ローも緊張するんだね。」
「何年待ったと思ってやがる。それに、初めてだ。好きな女が出来たのも、こうして触れ合うのも。お前だけだ。」
再び上を向けばローの唇が降りてきた
チュッと軽く唇を合わせ、顔を見合せ2人で微笑んだ
どちらともなく指を絡めとれば、再び口付けを交わした
そんな身を焦がす程の愛を知った
時は変わって世界が変わった
正確に言えばどうやら私には前世の記憶って奴があった
物事を事細かく記憶している訳では無いけど、何か行動を起こせばふと記憶の片隅に落ちていた誰かの記憶が蘇るのだ。
初めは小学生の頃だった。多感になる子供時代。女の子が花咲かせる恋のお話。
「みんなは誰が好きなの?」
思い思いの男の子の名前を話すこの時間。私は居ないよと答えたかったはずなのに。
「私はね、ロー!…あれ?」
「ろうくん??そんな子いたっけ?」
不思議そうにする友達に慌てて間違えたなんて答えた。突然口から出てきた言葉に少し困惑した。ロー、ローと頭の中で唱えれば妙に耳に馴染んだ。それに心がやけに暖かくなる。顔も名前も知らない筈なのに、聞いた事もないローと言う名前が頭から離れなかった。
次に異変が起きたのは修学旅行。海に面していない県に住んでいた私は初めて海を見た。日差しに照らされキラキラと輝く青を見た時、心の中から出た感想は懐かしさだった。きっと小さい頃両親と来た事があるのかな?と思い、両親に聞いたけど、どうやら私は海に行ったことは無いらしい。
それならあの船の記憶は何だろう?と両親に問ても、テレビで見たんでしょなんて返された。
やけに見覚えのあるあの光景はテレビで見たものだったのだろうか。
「俺、お前の事好きなんだ。」
甘い青春の1ページだった。中学校へ行き、偶然席が隣になり仲良くなった男の子に告白をされた。全く意識をしていなかったと言えば嘘になる。多分、何となくだけど周りの子にも彼氏や彼女が出来て、自分もそんな風に誰かと付き合うのかな。なんて思っていたから。
「あの、ごめんなさい。…私好きな人いるんだ。」
仲良くなった彼には申し訳無かった。多分、あのままの私だったら彼と付き合っていたと思う。身を焦がす程、彼の事が好きとかそういう訳じゃ無いけど、彼の事は嫌いじゃなかったから。
だけど思い出してしまった。このタイミングで。いつか思い出したあのローと言う名前の正体を。
「あんた告白断ったの!?良い感じだったのに!?」
「う、うん。」
「うわー。絶対付き合うと思ってたのに!あいつ相当凹んでると思うよ…」
「そうだよね。本当に申し訳無い事をしました。」
「てか好きな人なんていたの?誰?」
友達に問い詰められ思わず眉を寄せた。好きな人がいると言い断った手前、実は居ませんでした。なんて言えない。だけどその相手が前世で愛した男です。とも言えるはずが無かった。
「うーん…他校の人…?親戚の知り合いで…」
「は?あんたそんな知り合い居た?」
(居ないけど…)
当然存在しない架空の人物を作り上げているから、友達は不機嫌そうに眉を顰めた。だけどもう仕方が無い。ここで下手に存在する人物を口にして、応援するとか、そういう展開になっても困る。運命なんて信じていなかったけど、都合良く彼の事を思い出してしまった。生まれ変わっても私はローの事しか好きになれないのだと気付いたから。
「トラファルガー・ロー。」
名前は知っているのに、知らない存在。恋焦がれて愛してやまない存在。彼を思い出してから私の世界は180度変わった。この世界にいるのか、同じ国にいるのか、私の事を覚えているのか何もかも分からないけど、もう一度彼に会いたい。
手にかけたスマートフォンに、トラファルガー・ローの文字を打ち込む。彼は医者だった、もし医者になっているのならこの時代、名前さえ調べれば直ぐに見つかると思った。
「わ…出てきた…」
医者では無いけど、彼の名前は出てきた。剣道の中体連、2つ年上の彼は剣道で結果を残していた。驚く事に他にも見知った名前があった。
「ロロノア・ゾロ…」
同盟を組んでいた海賊の1人だった。今まで前世の知り合いとは出会った事が無かったから、もしかしたら誰も居ないのかもしれないとも思っていた。一度に2人も知り合いを見つけてしまえば、胸は高鳴った。ローに会いたいのは勿論、かつて仲間だった皆にも会いたくなった。
ローは私の2つ年上だった、だから彼がどこの学校へ行くのか調べる事が出来た。彼に記憶がなかったら私はただのストーカーだ。
人生は上手くいかないもので、彼の住む場所と私の住む場所はかなり遠かった。平凡な家に産まれ、平凡な成績の私がいきなり遠くへ進学すると言っても、両親からの許しが貰える筈も無かった。
だからこの日から死ぬ程勉強をした。高校は無理でも、大学こそは彼と同じ場所へ行き、彼に会いたかった。もう一度、ローと人生を歩みたかった。
真面目でも不真面目でも無かった私が、友達と遊ぶことも無くなり、勉強に明け暮れたのを見た両親は驚いていた。当然の反応だと思う。だけどもう、私の頭の中はローでいっぱいだった。何となく生きていれば、平凡に恋をしてそれなりに学生生活を送り、条件の合う仕事に就いて、そんな漠然とした未来を考えていた。叶えたい夢が無かった。思い出せばスッキリするのだ、私の夢はあなたの夢だったから。
高校生活はバイトと勉強に明け暮れた。友達なんて居なかったかもしれない。だけど気にしてられなかった。きっとローはお医者さんになる、そうなれば頭のいい大学に行かなければいけない。出来の悪い私は毎日勉強に明け暮れた所で、学年1位になれるような頭は持ち合わせていない。努力するしかないのだ。
ローを思い出してから、彼を思って書いたノートは3冊目に突入した。彼に見せるつもりはないけど、勉強の息抜きやどうしてもローに会いたくなった時、ノートに思いやローに伝えたい事を綴っていた。我ながら気持ちが悪いけど、彼に対する愛の重さは会わない期間が長くても軽くはならない。
やっとの思いで合格した大学。必死に勉強をしバイトで得たお金は全て貯金して、何とか両親を説得しローの通う大学に行く事が出来たのだ。この世界でも密かに有名になっている彼にずっと胸がザワザワしていた。だって彼の大学が分かるのも、彼が有名で検索してしまえば直ぐに出てきてしまう程だったから。高校時代のローは剣道部のイケメンすぎる高校生として、知る人ぞ知る有名人だった。しっかり画像は保存させてもらったけど、どう考えてもモテるであろうハイスペックな元恋人を見て、何とも言えない気持ちになるのは私が平凡過ぎるからだ。
ふと前を見ると、見覚えのあるどこか懐かしい後ろ姿を見つけた。柄じゃないけど、思わず走り出しその人物の腕を掴んだ
「っあの!!」
驚いたと言うよりは、不機嫌そうに眉を顰めこちらを振り返る彼女にモヤが掛かっていた断片的な記憶が少し晴れていく
「…何?」
「あ、すみません…。あの、私名前って言います。」
「名前…?」
彼女…イッカクは前世で同じ船に乗っていたクルーだった。私の記憶って奴は全てを思い出している訳じゃない。名前がわかるのはローとロロノア・ゾロ、そして今出会ったイッカク。何の法則性があるのかは分からないけど、ふとした時に思い出すのだ。
恐らく彼女の反応を見るに、彼女に私の記憶は無いようだった。
「あのすみません…。知り合いに似てたもので。新入生ですか?」
「まぁ、そうだけど…待って私アンタと何処かで会った事ある様な気がする。」
私より背の高いイッカクに見下ろされ、思わずたじろいだ。オマケにイッカクは美人だし。
「う、海…とか?」
「海…?」
「そろそろ始まるぞーー新入生は急いでーー!!」
「あっやば!アンタも新入生よね?一緒に行くよ!」
イッカクに腕を掴まれると、慌てていたはずのイッカクは立ち止まり再び振り返った
「…待って、思い出した。もしかして、名前って、あの名前?」
「う、うん…。あの、イッカク…?だよね?」
「そう!そうだよ!!あああ!!なんで今まで忘れていたんだ!!ってちょっと待って、取り敢えず!入学式に行こう!」
初めて再開する事が出来た前世の仲間に頬が綻んだ。
イッカクと2人でまず始めたのは互いの記憶の確認だった。やはりイッカクも私と同じで断片的なざっくりとした記憶しか分からないらしい。そもそもイッカクの記憶はさっき蘇ったのだが。
「キャプテンって、どんな人だったっけ?なーんか思い出せなくて。船長が居たのは分かるんだけどさー。」
「えっとローは…」
「ロー…?…あー、思い出してきたかも。…あ、思い出したわ。」
名前を言いながら、スマートフォンに入っていた画像を見せればイッカクは直ぐにローを思い出した。同じくロロノア・ゾロの画像を見せると直ぐに彼の事も思い出した。
「んー、つまり顔か名前を見たら思い出すって事なのかな?」
「そういう時もあるし、ふとした瞬間に思い出す事もあるかな…。」
「ふーん。で、アンタはキャプテンを追いかけてこの大学まで来たって訳?」
「う、うん。ローは有名だから直ぐに見付かるかなって思ったんだけど…」
「いないね。」
「いないみたい…。」
「まぁ今日は入学式だしね。アンタの言う通りキャプテンは目立つからきっと直ぐにみつかるよ。っていうか、キャプテンの方がアンタの事を見付けそう。うん。絶対そう。」
「そうだといいなぁ…」
イッカクの言葉に少し弱気になっていた自分の気持ちが晴れた。
もしローが自分を覚えていなかったら、もしローに拒絶されたらどうしようって、ローへ近付けば近付く程、段々怖くなっていたから。
イッカクとは連絡先を交換して、互いの家も行き来する仲になった。前世では同部屋だったし、話したい事も沢山あった、それにイッカクといると落ち着いた。
入学して1週間、未だにローとは会えてなかった。医学部とは校舎が違うし、会うにもハードルが高い。同じキャンパスに通うために医療系の分野へ進もうとは思わなかった。前世でローが何度も命を救ってきたのを見ていたから、私の邪な気持ちで入れる世界では無いと知っていた。
突然鳴った着信に耳をあてた
「ちょっと!!医学部の食堂に来て!!キャプテン見付けた!!」
イッカクからの電話にドキドキと騒がしい心臓に手を当て呼吸をした。
ローに会える。ローに会えるんだ。
初めて入るキャンパスにそわそわした。だって普通ならここに用はないし。イッカクに感謝するしかない。
「こっち!!はーでもやっぱ敷居高いね〜。アタシも用がなきゃ中々来れないわ。あ、でもここの学食人気らしいから、これからは学食目当てって事で通わない?」
「う、うん。」
イッカクは私の気持ちを理解している。だからこうして、一緒にいてくれるのだ。
「ほら、あそこ。」
「わー…、ロー…ローだ。…ローがいる…!」
遠くからだけど、やっと会えた大好きな人の姿を見て思わずポロリと涙が零れた
「ったく…。話す前から泣いてどうすんの…」
「うぅっ…だって…。も、ずっと…会いたかったから…」
「ほら!行くよ!ここで泣いてても仕方が無い!」
「うん…!」
イッカクに手を引かれ、ローの元へ目指した
周りには何となく頭の良さそうな人が座っている。当たり前だけど医学部の人が多いし、正直別世界の住民だ。
「キャ…、あ、すみません!ちょっとお話したくて。」
「ん?君達どこの子?なんの用〜?」
「あー、私は工学部で、あ、トラファルガー・ローさんに用があって。」
「あーローさんね、だってさ!」
ローの座るテーブルへ近付けば、イッカクが話を進めてくれた。ローと同じテーブルに座る、気さくそうな男をまじまじと見つめる。なんかこの人を知っている気がするのだ。
「えっと…お友達はあの…俺に用…?」
「あっ、いやっその!すみません…何処かで会った事があるような気がして…」
「えぇぇ!?ナンパ!?俺女の子からそんな事言われたの初めてっ!!」
イッカクにゴンと肘で叩かれ何してんのよと目で訴えられる。チラッとローを覗くけど物凄く不機嫌そうな顔をしていた
「あー、俺はペンギン。君名前は?」
完全にローが目当てのイッカクとそのお友達の私と言う構図になってしまい、イッカクは頭に手を当てている。そこにフォローを入れる間もなく、ペンギンに差し出された手と顔を交互に見た。
「…ペンギン?」
「う、うん。あの、君の名前は…」
「私は名前です。」
ペンギンの手を取れば勘は正しかったようで、私は彼の記憶を思い出した。どうやらペンギンも同じようで、2人して握手を交わしながら目を合わせた。
「えっと…名前って…えっと…ハハ、まじか。まじか!?えっ!?イッカク!?船長!?」
突然大声を上げるペンギンに、イッカクもローもビクッと反応をした
ずっと不機嫌そうに沈黙を貫いていたローも口を開いた
「…知り合いか?」
「いや、知り合いって言うか…えっローさんはこいつを見て何とも思わないんすか?」
「…は?」
ペンギンが指差したのは私だった。ペンギンが大声を上げたのもあって私達はかなり目立っていた。
「あ、あのペンギン、ちょっと待って、人が…」
「あ、悪い。ちょっと待て場所を変えよう。」
ペンギンに連れられて場所を移したけど、ローは着いてきてくれなかった。どうやらローに私の記憶はないようだ。
「で、アンタ誰?」
「は!?イッカクお前まじかよ!俺だよペンギン!!同じクルーだっただろ!?」
「ペンギン…?あー。あ、思い出した。ペンギンか。」
「いつから俺はシャチのポジションになったんだ…」
「「シャチ??」」
「え??」
1週間前にイッカクとした確認をペンギンとも行った。やっぱり私達は前世の記憶が戻っても全ての記憶が戻る訳では無いようだった。
顔や名前、直接体に触れたり、何かしら前世の人物と関わりを持つ事でその人物の記憶が蘇るという仮説を建てた。
今世でロー、シャチ、ペンギン、ベポは近所で育った幼馴染らしい。ベポは人間の姿だったから、思い出すのは大変だった。人間の写真と白熊の写真を見せられて、私とイッカクは声を揃えて思い出した。
「あ、ローさんはフリーだぞ。ずっと。」
「そ、そうなの!?」
「良かったね〜名前。あとは記憶を取り戻すだけかぁ。」
「う、うん。良かった。」
直ぐにペンギンと連絡先を交換し、講義が終わったあとローを連れてくるという約束も取り付けてもらった。2人には感謝しかない。
「それにしても良かったね。」
「うん!大学に来てすぐ皆に会えるなんて思ってなかった。」
今までずっと独りぼっちのような孤独感を感じていたのは事実。やっと自分のいるべき場所が見付かったのだ。
「いやいや、キャプテンのさ、フリーだって話。モテそうじゃん。」
「うん。私もちょっと不安だった。」
「だよねー。やっぱキャプテンはキャプテンだなーって。一途だったもんねー。アンタとキャプテンが結ばれた時はどれだけ嬉しかったか。」
「ふふ。その節はお世話になりました…。」
前世で私は長い片想いの末にローと付き合った。同部屋だったイッカクには気持ちは伝えていたし、ローと付き合った時誰よりも喜んでくれたのもイッカクだ。
約束の時間になり、ペンギンがローを引き連れてきた。どこからどう見ても嫌そうな顔をしているローに、顔を引きつらせる。
「…またこいつらか。一体何なんだ。」
「いやーその前世って言うか…、ほら名前とイッカク。見覚えない?」
「馬鹿かお前。知らないと言っている。」
迷惑そうにするローに口を噤んだ。
「あ、握手!握手しましょう!」
「は?何故だ?訳が分からない。」
「いや、いいから!お願いします!それで終わり!ね?お願いローさん!」
握手すれば帰っていいんだろ?と言うローは手を差し出した。イッカクとペンギンが目で合図をするけど、その手を取るのが少し怖かった。
「…帰っていいか?」
「あっ、いや、あのす、すみません。失礼します…。」
久しぶりに触れるローの手に体がじんわり暖かくなった。多分顔は真っ赤だ。ずっとこうしてローに触れたかった。瞳がじんわり滲むけど、繋いだ手はすぐに離された。
「で?帰っていいか。」
「…え、ローさん本当に何も思い出さないんですか…?」
「…だから何の話をしてんだ。…高校時代のファンか?いや、覚えがねェな…。」
「俺ら海賊やってて…」
「…はァ?くだらねぇ遊びに付き合ってるヒマはねぇ。」
本当に何も知らない、迷惑そうな顔をするローを見て、腕でゴシゴシと目を拭った。
「は、はい!剣道部のトラファルガー・ローさんを見てファンになりました!握手ありがとうございます。あの、お時間頂いてしまってすみません。失礼します!」
逃げた。逃げ出した。後ろでイッカクとペンギンの声が聞こえていたけど、もう足は止まらなかった。
苦しかったあの場所にいるのが。
こうなる可能性もずっと考えていた。だけど、イッカクとペンギンが前世の記憶を思い出し、安心しきっていた。きっとローも自分の事を思い出して、また元に戻れるって自惚れていた。会えば何か変わるって自惚れていたのだ。
「ふっ…うっ…ロー…。」
そう。1からやり直せばいい。もう一度長い片思いを始めよう。だけど、今日だけはこの涙を止められそうになかった。
翌日ペンギンから連絡を受けて待ち合わせの場所へ行った
「俺が何とかするから、大丈夫だ!ほら、ローさん彼女はいないし、って言うか今までも作ってなかった。中学か高校の頃に好きな奴が居るみたいな事は言ってたけど…。今はそういう話全く聞かないし…。」
「うん。いいの。ありがとう!」
多分ペンギンは私の為に絶対的な協力をしてくれる。幼馴染って言っていたし、私が頼めばローを連れて来てもくれるだろう。
「いや俺の気が済まない。やっぱローさんとお前は一緒に居た方がいい。見てられねぇよ。」
「んーでもローってそういうの1番嫌がるでしょ?それに片思いの期間は長かったから慣れてるよ。だから大丈夫!もう1回頑張るね。あ、ペンギンとは普通に仲よくしたいから一緒に遊んでね!」
嫌な女にはなりたくなかった。それに幼馴染を介して取り入ろうとする狡い女にもなりたくない。
平凡でなんの取り柄もない私だけど、前世で愛してくれた彼に恥じない女で在りたかった。
歩いていたら偶然彼に出会う。なんて運命的な出来事は起きない。私が行動を起こさない限りローには会えないのだ。
迷惑にならない程度に医学部のある学食に顔を出した。運とタイミングが合えばローに会える。
「…またお前か。」
「あ、あはは。どうも。」
心が挫けそうになる程に、迷惑そうな顔をするローにぎこちない笑顔で返事をする。
ペンギンの知り合いだし、食事中はペンギンがいつも居るから拒絶はされなかった。
「あ、あのロー…さんは、おにぎりが好きなんですか…?」
「…ペンギンに聞いたのか。」
ギロリとペンギンを睨むローに、私もペンギンも慌てて両手を横に振った
「俺言ってない!!」
「違います!!あのいつも食べてるなって思って…」
彼と話すのは3度目だけど、食の好みが変わらないようでついつい気になってしまったのだ。
「どうだか。先に言っておくがお前が持ってきた物は食わねェ。」
「あっ、はい。」
不機嫌そうに顔を顰めたローは急いで食事を済ませると、すぐに席を立った。ペンギンが横で頭を抱えているけど、正直私の心もバッキバキだ。
「悪い。ローさん女からの差し入れは受け取らないんだ。ほら、後々面倒だから…」
「うん。わかってる。ペンギンいつも邪魔しちゃってごめんね。」
「俺は良いんだよ!そんなことよりお前…そんな辛そうな顔みてられねぇよ…。」
優しいペンギンに胸が傷んだ。
今日でローに会うのは4度目だったけど、全部この場所だった。他の手段でローに会う方法はわからないし、この場所でローに会えば絶対にペンギンもいる。
ペンギンに甘えてローに取り入りたくはないのに、私にはこの場所でローを見つけるしか手段が無かった。
ぽっかりと穴が空いたみたいだった。
片思いの期間は長かったから大丈夫だと思っていたけど、ローと両思いで愛し合った期間はもっと長い。ローの優しさも愛情も私にだけ見せるあの眼差しも、もう全部知ってしまっている。
恋愛なんてローと船でしかした事ない、好きな人に会うために頭を使ったことなんてない。どうすればいいのか分からなかった。
約1ヶ月経った。
あれからローには会っていない。だけどそろそろ彼を一目見たかった。自分へのご褒美だと言い聞かせて、あの場所へ向かった。
ローの周りには美人な女の子が数人居た。肝心のローは凄く迷惑そうな顔をしていた。眉間に眉を寄せ、不機嫌が身体中から出ているようだった。
女の子がい無くなった後、溜息をつきいつもの真顔に戻る。ずっと見ていた私の視線に気付いたローが目を見開き、再び不機嫌そうに眉を寄せた。
(あぁ、私やっぱり迷惑なんだ。)
ローは私を見てあの子達を見た時と同じ表情をした。大好きだったからこそよく分かるのだ。ローが仲間やかつての私に対してする迷惑の表情と、本当に嫌気が差して嫌悪感を示す表情の違いなんて。
トレーを持つ手に力が入った。もうローの近くには座れない。これ以上彼に嫌われたくない。
ローの視界に入らない適当な場所に座った。
無心で食べ物を口に放り込むけど味なんて分からなかった。低い音が頭の上から降ってきた。
「残念だったなペンギンが居なくて。」
冷たい声に思わず喉がヒュっと鳴る
顔をあげなくても誰かはすぐに理解できる
「ごめんなさい。いつも邪魔して。」
「そうだな。ペンギンに取り入らねェと何も出来ねェような奴に嗅ぎ回されるのは不快だ。二度と俺の前に現れるな。」
「…はい。」
ハッキリとした拒絶だった。何がご褒美だ、何がペンギンには頼らないだ、思いっきり嫌な女になっているじゃないか。涙は流さなかった。ここで泣いたら全て終わってしまいそうだったから。泣き叫んで縋って思い出してって叫んでしまいそうだったから。
大学生になり初めての夏休みを迎えた。アルバイトを始めたから帰省はしない事にした。それにこっちにはイッカク達がいる。あれからローには会っていない。医学部で忙しいローに少しでもストレスを与える事はしたくなかった。…そんな模範解答より、私がローの冷たい視線に耐えれそうにないのが本音だ。
ローの事はなるべく考えないようにした。バイトに勉強、家にはイッカクやペンギン達が遊びに来てくれたり遊びに行ったりしていたから、憂鬱な気持ちになる事は少なかった。皆にローから拒絶された事は言っていないけど、上手くいっていないのは明らかで私からローの話はしなくなった。
「そう言えば、アンタ悪魔の実食べてたよね?」
「え?食べてたかな?」
「こいつ悪魔の実食べてた??船長は確か食べてた気がするけど…」
私の部屋へ集まり、質問をなげかけたのはイッカク。イッカクを除く私達は全員首を傾げた。ペンギン経由で仲良くなったシャチとベポもいる。
「んー。なんか食べてた気がするんだよね。そもそも前世の記憶を思い出すのって絶対名前経由だし。なんか関係ありそう。」
「あー確かに。俺とベポも名前と握手するまでペンギンの頭がイカレたのかと思ってたし。」
「うーん。思い出せないなぁ…。」
頭を捻っても、自分が悪魔の実を食べていた事は思い出せない。ローは確かオペオペの実を食べていて、その能力に何度も救われた。じゃあ私は?能力を使って戦闘をした記憶もないし、そもそも戦った事ある…?
「オレ良いこと思い付いた。」
「んー?なんだベポ。」
「海だよ!海に行ってみよう!」
「おー!それあり!今なら何か思い出すかもしんねえ!」
「いいね!海!夏休みって感じもするし!決定!よし、日程決めよう!」
前世ではいつも一緒にいた皆と、初めてする遠出に胸が踊った。一つ気がかりがあり、こっそりペンギンに話し掛けた
「あの…ローって、来る?」
「あー、一応誘うつもりだったけど、どうしたい?」
「ローが来るなら私は遠慮しようかな。ほら、今わたし印象良くないし。」
ローにまたペンギンを利用して取り入ろうとしているって思われるのは嫌だった。
ローに会うなら自分で行動したい。
「いや、お前が来なきゃ行く意味無いだろ。ローさんとは別のタイミングで行けばいいんだし。そんな顔すんなって。」
「ごめん。ペンギン。」
ポンポンとペンギンに頭を撫でられれば、懐かしい記憶がポロリと落ちた。あぁ、そう言えば船に乗りたての頃もこうしてペンギンが世話を焼いてくれた。
後ろでは、船長の記憶が戻ったら言い付けてやろーなんてシャチが騒いでた。クスッと笑ったけど、本当にローは前世を思い出してくれるのかな。もしローが記憶を取り戻さなかったら、もう一度私の事を好きになる事は無いのかな。
海へは1週間程滞在する事になった。というのも、ベポのお兄さんが海の近くで店を開いているらしい。記憶が戻ったベポは前世では死に別れた兄の事を思い出して泣いたそうだ。
私達の記憶が何処まで戻るのか確認も兼ねて滞在期間は長めにした。
ペンギンは医学部の用があるみたいで、少し遅れるらしい。
私達4人は電車に揺られながら海へ思いを馳せた
「そういえば、ペンギンは何で医学部に入ったの?」
今更だけど、ペンギンも医学部に入っている。前世で医者はローだけだった記憶がある。忘れているだけかもしれないけれど。
「確かローさんに言われて行ったんだよな。」
「オレもローさんと同じ所に行きたい!って言ったらお前には無理だって言われたよ…。」
「そうそう!オペの事は分かるだろうが、お前らに勉強は出来ねぇだろ。って言われたよな!まー、その通りだけど。」
シュンと落ち込むベポとケタケタ笑うシャチに、私は首を傾げた
「オペの事??」
「あー、昔からローさん人体模型使ったり、本読んだりしてたの俺らに見せてきたからさ。多分それの事。」
「そうなんだ。ローは小さい頃からお医者さんを目指してたの?」
「そうだな。うん。って言うかローさん意外と目立ちたがり屋だったんだぜ。」
シャチの言葉にイッカクと私は声を上げた。だってあのローが目立ちたがるなんて有り得ないから。
「いや!ほんとに!確かに昔の事を思い返せばありえねーんだけどよ!ほら!剣道とかも、有名になりたくてやってたし!!モデルとかは断ってけど。」
「えー。意外過ぎる。今はそんな感じないのにね?」
「あー確かに。医学部に行くって本格的決めたからなのかなー。わかんねーけど。」
私の知っているローの筈なのに、全然知らないローが生きている。シャチの言葉を聞いて、自分の感情はよく分からなかった。
海に行ったのは正解だったようで私達は徐々に記憶を取り戻した。と言っても大体は他愛もない日常生活の1ページばかりだったけど。
「ごめんねーベポ。」
「いいや!いいんだ!兄ちゃんが生きてるだけでオレ嬉しい!」
ベポのお兄さんと握手をしても、どうやら前世の記憶は戻らなかった。記憶が戻る人と戻らない人の違いはまだ分からない。私が食べていたかもしれないという悪魔の実が関係するのだろうか?
「ペンギンとローさん明日来るって〜!」
シャチの声に瞳が揺れた
「嘘…」
「ん、どした?」
「ううん。なんでもないよ。」
心配そうに顔を覗くイッカクに作り笑いをした
ペンギンからは、シャチとベポが誘ってたごめんと謝罪のメールが届いていた。ローが来ると知っていたら私はこなかった。だからペンギンは黙っていたんだろう。
ベポのお兄さんが経営する宿泊施設のベッドに身を投げれば既に明日の事を考えるのが嫌になった。
私だけ仮病を使う訳にも行かないし、周辺で買い物でもしてローから逃げようかなって考えた。
「名前明日はどうする?買い物でも行くー?」
「うん。そうしようかな…。ごめんねイッカク。」
「ええ!?なんで謝んだよ!アンタと買い物行くのも楽しみにしてたんだからさ!可愛い服買ってオシャレしちゃお〜!きっと船長もまた名前の事好きになるって。」
「ありがとう。そうだね、もう一度頑張らないとね!」
頑張り方なんてわからない。だけど、これ以上皆に迷惑も掛けたくなかった。
翌日は一日中イッカクと過ごした。次の日は皆で海に行こうって話になったから、多分そこでローの顔を見る事になる。
シャワーの中で何度もため息をついた。もうローからの冷たい視線は浴びたくないから。
買ったビキニと、それを隠す長めのラッシュガード。前世でローは肌を見せるなってうるさかったよなーなんて思いながら買ったものだ。何をしても、思い出すのはローの事ばかりだ。
着替えを済ませればもうみんな揃っていた。ローが私達を見てゲッと嫌そうな顔をするから、私は苦笑いをした。ベタに皆でビーチバレーをやるみたいだ。私は遠慮した。気を使わせるのも悪いけど、運がいいのか悪いのか昨日の買い物で足を少し挫いたのだ。
「審判やるよ!みんなが遊ぶの見てるのも楽しいから!」
「んーじゃよろしく!」
砂浜に座りながら、楽しそうに笑う皆を見てたら私も自然と楽しくなった。ローってこんなに子供みたいに遊ぶ人なんだって新しい発見もあった。
ビーチバレーが終われば各々好きな事をした。ペンギン達は海ではしゃいでる。ローは本を読んでいた。
私は砂をいじって皆を眺めている。サラサラとした砂が手からすり抜ける度に、記憶の糸が解けていくようだった。傍から見ればボーッとしているように見てるかもしれないけど、私は少しずつ物事を鮮明に思い出していた。
「ローさんも海に入ろうよー!」
ベポの声が響いた。ローはあぁと返事をし、読んでいた本を置き海に足を進めた。
ローが海…?海の中に入るの?
頭の中がやけに騒がしかった。ローが海に足を着けた時、考える間もなく走り出していた。
「だ、だめ!!ロー死んじゃうよ!!」
叫びながら走ってきた私にローは目を見開いていたと思う。ローの腰まで浸かる海水に、気にもとめず私は海に体入れローを目ざして身を投げ出した。
水の中に入ってから気が付いた、あれ足がつかない。あれ?どうやって泳ぐんだろう。私って泳げた…?
ブクブクと沈んで行く意識の中で誰かの声が聞こえた
見覚えのない天井が視界に広がった。頭がやけに痛い。ズキッとする頭を抑えると、耳に怒号が飛んだ。
「お前は何やってんだ!!馬鹿野郎!!」
「…ペンギン。…ごめんなさい。」
「ったく!ローさんが助けなかったら大変な事になってたんだぞ。このバカっ!」
ぼんやりとしてるけど、海へ飛び込んだ事は覚えている。それに頭がハッキリとしてきた。
「ごめん。記憶がぐちゃぐちゃになって。全部思い出した。」
「そっか。まぁいいや、こっちもなんだ。少し待っててくれ。ローさん呼んでくる。」
「ごめん。呼ばないで。もう、もうこれ以上ローに嫌われたくない。黙ってたけど、もうローに顔を見せるなって言われてるの。私なりに頑張るから、ごめん。」
言ってて苦しかった。既にローには嫌われているのに、目の前で溺れて、更に迷惑をかけた。顔も見たくない女の私が。
「はぁ、だから泣くなって。」
「泣いてない。泣いてないよ。」
「泣きそうな顔してんだって。まぁ取り敢えずローさん呼んでくるからさ、」
ペンギンが私の腰をトントンと叩けば、扉の方から低い声が聞こえた
「おい、ペンギン。」
「げっローさん。」
「触るな。目が覚めたらすぐ知らせろと言っただろ。」
ローの怒気を含んだ瞳に、ごめんなさいと呟いた
これ以上ローの冷たい顔は見たくないのに
「いやお前に言ってるんじゃないって!船長あとはよろしくお願いしますね!もうこいつずっと泣きそうなんだから!!」
「分かっている。さっさと出ろ。」
ペンギンが部屋から出ていくと、ローはゆっくり歩みを進めベッドの横にある椅子に腰掛けた
ペンギンは何故かローの事を船長と呼んでいた。それに今のローから冷たさは感じられないのだ。
「悪い。さっき思い出した。」
「...えっ。」
「泳げない癖に、俺を助けようと海に飛び込むのは2度目だな。」
堪えていたはずの涙が溢れた。ローは私を抱き締めてくれた。
「忘れて悪かったよ。だから泣くな。」
「うぅっ!ロー!ロー!!ずっと、ローに会いたくて!!」
私が泣き止むまでローは優しくあやしてくれた
「ごめんね、記憶が戻る前のローにいっぱい迷惑かけて。」
「...何言ってんだ。謝るのは俺の方だ。女なんて好きになった事がないからどうすればいいのか分からなかった。」
ローの言う言葉の意味がわからなくて首を傾げた
「俺は興味の無い女に自分から話し掛けねェ。お前がペンギンと仲がいいのが何故か気に食わなかった。記憶が無くてもお前の事は好きだった。だから、謝るのは俺だ。」
あんなに冷たい顔をしていたのに、好きだったなんて嘘だと思い目を見開いた。だってどう考えても拒絶していたのに。
「お前、嘘だと思ってんだろ。大体俺は今まで誰とも付き合ってねェ。誰も愛した事がねぇ。お前のせいでな。」
「...え?なんで!?」
記憶を思い出したのはついさっきなのに、それとこれに何の関係あるのだろうか。ローが本当に女の子と付き合った事が無いのは嬉しい話だけれど。
「お前、いつ思い出した?」
「えっと...小学生の頃にローの名前を思い出して...。ローの事をしっかりと思い出したのは中学の頃かな?」
眉を寄せるローを見て繋いだ手に力が入る
「遅ぇな。」
ローの言葉に思わず口が開いた。だってローが私を思い出したのはついさっきだと言うのに。
「ろ、ローはさっきじゃん...」
「違ぇよ。俺は物心着く前からお前の事を覚えていた。」
「...嘘だぁ...」
それなら今までの態度は何?って話だ。現にローは忘れて悪かったって言っていた
「嘘じゃねェ。俺の家族に聞けばわかる。小学校にあがってから、何とかお前を見つけ出したくて名前が残る事ばかりしてた。」
そう言えばシャチがローは目立ちたがり屋だったって言っていた。話に矛盾は無い。
「お前も言っていたろ。剣道の俺を見てたって。」
「う、うん。ネットでローの名前を調べて見つけて...」
「何故連絡しなかった。その為にわざわざ使わないSNSを作っていた。」
ローの瞳は真剣だ。ふざけて喋っているようでもない。
「ローが覚えているかどうか分からなかったから...」
「馬鹿だな。お前は俺の女なんだから自信を持てと何度も話しただろ。俺はお前を探すために手を尽くしていた。お前より長い期間な。」
「ごめんなさい...。」
「...約束しただろ。生まれ変わってもお前を探し出すって。まぁ見つけたのはお前だから約束は守れなかった。すまねぇ。」
「う、ううん。こちらこそ早くから連絡しなくてごめんなさい。あの、じゃあなんで出会ってからのローは記憶が無かったの?」
ローは頭に手を当てて溜息を零した。
でも疑問だった。
私の食べた悪魔の実は、来世で前世の記憶を呼び起こす能力だった。前世ではそれはそれは役に立たない、ただカナヅチになるだけの能力だった。本当に能力が使えるのかどうかも分からない中、私は自分と関わりのある親しい人物にのみ術を掛けていた。ベポの兄が前世の記憶を思い出さないのもそれが理由だ。
思い出すには私の事を思い出すこと、直接接触する事が条件のようだった。
ローの話だと1度思い出したのに、再び忘れていることになるのだ。
「...気が狂いそうだった。」
「...ローが?」
「あぁ。生まれてからお前の事を直ぐに思い出した。お前に会えない期間が長すぎて、気が狂いそうだった。いや...気が狂ったからだ。お前の事を忘れたのは。」
ローのこんな顔を見るの初めてだった。苦しそうな辛そうな泣きそうなローの顔を。
「手掛かりが何も掴めねェ。医者になって俺の名前が広まれば、お前に届くと思ってた。だが、会えない期間が長過ぎた。お前の事を考えると、頭がおかしくなりそうだった。」
ローの言葉にボロボロと涙が溢れた
私だけじゃなかったんだ。ローもずっと私の事を思っていたんだ。
「受験勉強をしてる時、恐らく体に限界がきて1度ぶっ倒れた。そっからだ、前世の事を忘れたのは。だが、もう二度と忘れねェ。もう二度と離さねェ。もう一度、お前と同じ時を生きたい。...信じられるか?」
「うん...うん!ごめん、ごめんなさい...!遅くなって、いつもローに迷惑かけて...ローの気持ちを信じてなくて...不安になって、ごめんなさい...!ロー好きっ!大好き!!」
涙でぐちゃぐちゃになりながら、ローに抱き着いた。ローはいつでもこんなに思ってくれているのに、私は生まれ変わっても信じられなかったのだ。謝るのは私の方だった。ローにあんな顔をさせたのも自分のせいだった。
「泣くな。俺も約束は守れなかった。見つけてやれなくて悪かった。もう二度とお前にあんな顔をさせない。次こそは約束する。もう一度俺と生きてくれ。」
「ううっ...グズッ...!!はいっ!ローとずっと一緒にいたい!ローに触りたかった、ローの名前を呼びたかった...!」
「俺もだ。...お前、浮気はしてねェだろうな?」
「ローの事しか好きになったことないよ...。男の人と付き合った事も無いもん...」
「ならいい。この世界じゃ相手の事も殺せねぇからな。」
ローの物騒な発言に思わず顔を上げたけど、本気の目をしていた
顔が近い、心臓がうるさく鳴っていた
「名前...」
「なに?」
ローの手が私の手を取ると、ローの胸に私の手を当てた。私の鼓動なのか、ローの鼓動なのか分からないぐらい互いの音はバクバクとリズムを刻んでいる
「ふふ...ローも緊張するんだね。」
「何年待ったと思ってやがる。それに、初めてだ。好きな女が出来たのも、こうして触れ合うのも。お前だけだ。」
再び上を向けばローの唇が降りてきた
チュッと軽く唇を合わせ、顔を見合せ2人で微笑んだ
どちらともなく指を絡めとれば、再び口付けを交わした
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