24. I hope you are safe. (完)
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長いようで短い時間だった。小さな吐息と共に二人の唇がゆっくり離れると、ドラコはフォーラに視線を合わせ、彼女の両手を包むように握った。
「フォーラ。僕は君のことを本当に心から大事に想ってる。……だからこそ僕は、この夏休みは君のところへ行けないと思う。君も、きっと僕の家には来ない方がいい。僕の家族がどういう状況にあるかはっきり分からない以上、君を少しでも危険なことに巻き込みたくないんだ。……どうか分かってほしい」
「ええ、勿論理解しているわ……。寂しいことには違いないけれど、大丈夫よ。我慢できるもの。
兎に角、今のドラコはご家族を優先しなきゃ。大変な時なのに、私のことを気にかけてくれてありがとう。」フォーラが優しい声色で言った。
「本当にすまない。君も僕と過ごすのを楽しみにしてくれていたのに」
「ドラコ、本当にいいのよ。だって」フォーラはドラコに微笑みかけた後で、物思いに耽るように中庭の芝生を眺めつつ言葉を紡いだ。
「一年前の今日、この中庭で私が貴方の素敵な告白を断ってしまったあの心苦しさを思えば……。今こうして貴方の傍にいられることが本当に信じられないくらい幸せよ。だから、夏休みの一か月と少しの間くらい離れていたって、その間も貴方に想われていると思うだけで元気でいられるわ。」
フォーラは再び視線をドラコに戻した。
「それに私、何より貴方や貴方のご家族の無事を心から祈っているわ……。だけどもし、夏休みの間に何か困ったことがあったら、いつでも家に来て。私たち家族を頼ってね……。」
「ああ、ありがとう」
フォーラはドラコと哀愁を帯びた笑みを向け合うと、互いに目の前の大切な相手を優しく抱擁した。その間彼女は改めてドラコの存在を心に刻んだ。そしてそれと同時に、彼女は先程ハリーたちとすれ違った際のことを思い出していた。
あの時のフォーラは一度もハリーたちと視線を合わせなかった。とはいえハリーたちからすればそれは特段違和感のないことだった。何せ彼らは以前から合意の上でフォーラと表向きは距離を置いていて、その方がフォーラにとってはドラコから警戒されにくく、騎士団に有益な情報を集められるというメリットがあったからだ。
しかし先程のフォーラはそのような理由でハリーたちから目を逸らしたわけではなかった。フォーラは進行方向にハリーたちがいると気付いた瞬間から、自分の中に彼らに対する嫌悪や憎しみのような気持ちが沸々と湧くのを感じとっていた。その結果、彼女は『ハリーを視界に入れたくない』という正直な心の囁きに従ったのだ。その後直ぐに彼女がドラコの手を強く握ったのだって、その苛立ちに耐えるために無意識にしたことだった。
(今回ハリーのしたことがどれだけ騎士団や世間の役に立っていても、どれだけ私の中でハリーの行動の正当性を並べてみても……。どうあがいても私は、ハリーを許せないみたい。彼だけじゃなくて、クリーチャーを制御できなかったシリウスさんでさえも……)
フォーラは今回のハリーたちの行動が慎重さを欠いた結果、ドラコを危険に晒すことになってしまったことを強く失望し、嫌悪していた。その感情こそ、ドラコを一番に想うフォーラの正直な気持ちだった。
フォーラはそれが騎士団に背を向けるような感情だという自覚が少なからずあった。そしてその裏切りに近い気持ちを、心の中で無意識の内に受け止めてしまった。今後このことをきっかけに、彼女は自分のあるべき立ち位置が何処にあるのか、自分は誰の味方で一体何者なのか、多くの試練を経験しながら長い月日をかけて苦悩することになっていく。今の彼女は自分に何が待ち構えているのか当然予想できる筈などなかった。しかしその数々の障壁は待ってはくれないし、何なら早速彼女のすぐそこまでやってきていた。
翌日、とうとう生徒たちはホグワーツ特急に乗ってホグワーツ城を旅立った。監督生であるドラコとパンジーが車両の見回りを終えた後、フォーラはパンジーやルニー、ドラコやクラッブ、ゴイルと共に同じコンパートメントに納まって会話を弾ませていた。その際、ルニーが期待に満ちた目でフォーラにお願いを投げかけた。
「ねえフォーラ、もしよければ今の内に猫の貴女を撫でさせてもらえない?暫く会えないし……。」
一か月程前にフォーラたち女性陣は、この夏休みにパンジーの家に数日泊りに行くことを計画していた。しかしヴォルデモートの復活が世間に広まり、世間が大変危険な状況であるということもあって、彼女たちはお泊り会を断念することにしたのだ。
「ええ、勿論構わないわ。」
フォーラはルニーのお願いを快く了承し、早速その場で黒猫の姿に変身しようとした。しかしどれだけいつもどおりの変身をイメージしても、彼女の姿が猫に変わることはなかった。
「フォーラ、どうしたの?大丈夫?」
パンジーがフォーラの困惑ぶりを心配して声を掛けた。フォーラの声色は狼狽えていた。
「わ、分からないわ……。私……どうして?アニメ―ガスの力が使えないみたいなの……。」
「因みに、最後に力を使ったのはいつなんだ?」ドラコが心配そうに尋ねた。
「ええと、確か試験が終わった日は変身できたわ。」
「じゃあ直近まで大丈夫だったのね。もしかすると、荷造りなんかで少し疲れちゃったんじゃないかしら?無理なお願いをしてごめんね、フォーラ」ルニーが眉を下げてそのように声をかけた。
「ううん、いいのよ……!そうよね、疲れが溜まっていたのかもしれない。一時的なものよね、きっと。」
フォーラは気さくな声でそのように結論付けてみせた。しかし彼女はこれまで自分がどれだけ疲れていても変身できていたことを知っていた。こんなことは初めてだっただけに、彼女は心の奥底で強い不安感を抱えずにはいられなかったのだった。
おわり(2024/6/24)
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「フォーラ。僕は君のことを本当に心から大事に想ってる。……だからこそ僕は、この夏休みは君のところへ行けないと思う。君も、きっと僕の家には来ない方がいい。僕の家族がどういう状況にあるかはっきり分からない以上、君を少しでも危険なことに巻き込みたくないんだ。……どうか分かってほしい」
「ええ、勿論理解しているわ……。寂しいことには違いないけれど、大丈夫よ。我慢できるもの。
兎に角、今のドラコはご家族を優先しなきゃ。大変な時なのに、私のことを気にかけてくれてありがとう。」フォーラが優しい声色で言った。
「本当にすまない。君も僕と過ごすのを楽しみにしてくれていたのに」
「ドラコ、本当にいいのよ。だって」フォーラはドラコに微笑みかけた後で、物思いに耽るように中庭の芝生を眺めつつ言葉を紡いだ。
「一年前の今日、この中庭で私が貴方の素敵な告白を断ってしまったあの心苦しさを思えば……。今こうして貴方の傍にいられることが本当に信じられないくらい幸せよ。だから、夏休みの一か月と少しの間くらい離れていたって、その間も貴方に想われていると思うだけで元気でいられるわ。」
フォーラは再び視線をドラコに戻した。
「それに私、何より貴方や貴方のご家族の無事を心から祈っているわ……。だけどもし、夏休みの間に何か困ったことがあったら、いつでも家に来て。私たち家族を頼ってね……。」
「ああ、ありがとう」
フォーラはドラコと哀愁を帯びた笑みを向け合うと、互いに目の前の大切な相手を優しく抱擁した。その間彼女は改めてドラコの存在を心に刻んだ。そしてそれと同時に、彼女は先程ハリーたちとすれ違った際のことを思い出していた。
あの時のフォーラは一度もハリーたちと視線を合わせなかった。とはいえハリーたちからすればそれは特段違和感のないことだった。何せ彼らは以前から合意の上でフォーラと表向きは距離を置いていて、その方がフォーラにとってはドラコから警戒されにくく、騎士団に有益な情報を集められるというメリットがあったからだ。
しかし先程のフォーラはそのような理由でハリーたちから目を逸らしたわけではなかった。フォーラは進行方向にハリーたちがいると気付いた瞬間から、自分の中に彼らに対する嫌悪や憎しみのような気持ちが沸々と湧くのを感じとっていた。その結果、彼女は『ハリーを視界に入れたくない』という正直な心の囁きに従ったのだ。その後直ぐに彼女がドラコの手を強く握ったのだって、その苛立ちに耐えるために無意識にしたことだった。
(今回ハリーのしたことがどれだけ騎士団や世間の役に立っていても、どれだけ私の中でハリーの行動の正当性を並べてみても……。どうあがいても私は、ハリーを許せないみたい。彼だけじゃなくて、クリーチャーを制御できなかったシリウスさんでさえも……)
フォーラは今回のハリーたちの行動が慎重さを欠いた結果、ドラコを危険に晒すことになってしまったことを強く失望し、嫌悪していた。その感情こそ、ドラコを一番に想うフォーラの正直な気持ちだった。
フォーラはそれが騎士団に背を向けるような感情だという自覚が少なからずあった。そしてその裏切りに近い気持ちを、心の中で無意識の内に受け止めてしまった。今後このことをきっかけに、彼女は自分のあるべき立ち位置が何処にあるのか、自分は誰の味方で一体何者なのか、多くの試練を経験しながら長い月日をかけて苦悩することになっていく。今の彼女は自分に何が待ち構えているのか当然予想できる筈などなかった。しかしその数々の障壁は待ってはくれないし、何なら早速彼女のすぐそこまでやってきていた。
翌日、とうとう生徒たちはホグワーツ特急に乗ってホグワーツ城を旅立った。監督生であるドラコとパンジーが車両の見回りを終えた後、フォーラはパンジーやルニー、ドラコやクラッブ、ゴイルと共に同じコンパートメントに納まって会話を弾ませていた。その際、ルニーが期待に満ちた目でフォーラにお願いを投げかけた。
「ねえフォーラ、もしよければ今の内に猫の貴女を撫でさせてもらえない?暫く会えないし……。」
一か月程前にフォーラたち女性陣は、この夏休みにパンジーの家に数日泊りに行くことを計画していた。しかしヴォルデモートの復活が世間に広まり、世間が大変危険な状況であるということもあって、彼女たちはお泊り会を断念することにしたのだ。
「ええ、勿論構わないわ。」
フォーラはルニーのお願いを快く了承し、早速その場で黒猫の姿に変身しようとした。しかしどれだけいつもどおりの変身をイメージしても、彼女の姿が猫に変わることはなかった。
「フォーラ、どうしたの?大丈夫?」
パンジーがフォーラの困惑ぶりを心配して声を掛けた。フォーラの声色は狼狽えていた。
「わ、分からないわ……。私……どうして?アニメ―ガスの力が使えないみたいなの……。」
「因みに、最後に力を使ったのはいつなんだ?」ドラコが心配そうに尋ねた。
「ええと、確か試験が終わった日は変身できたわ。」
「じゃあ直近まで大丈夫だったのね。もしかすると、荷造りなんかで少し疲れちゃったんじゃないかしら?無理なお願いをしてごめんね、フォーラ」ルニーが眉を下げてそのように声をかけた。
「ううん、いいのよ……!そうよね、疲れが溜まっていたのかもしれない。一時的なものよね、きっと。」
フォーラは気さくな声でそのように結論付けてみせた。しかし彼女はこれまで自分がどれだけ疲れていても変身できていたことを知っていた。こんなことは初めてだっただけに、彼女は心の奥底で強い不安感を抱えずにはいられなかったのだった。
おわり(2024/6/24)
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