19. 特別な君③
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ドラコは一瞬の戸惑いを見せた。ヴォルデモートやルシウス、そして自分自身の関係が頭をよぎったのだ。自分たちが今、世間の大多数の魔法使いや魔女から後ろ指をさされていることはよく分かっている。しかしこうなった以上はフォーラに正直でいなければならないだろう。だが……どこまで?
ドラコはフォーラが先程投げた『何か事情があったのか』という問いに、静かに頷いた。そして彼女の潤んだ瞳を見た後で、自信なく視線を逸らした。
「君がその事情を知ってしまったら、幾ら温和で優しい君でも、きっと今以上に僕に幻滅してしまう」
それに対してフォーラは首を横に振った。
「ドラコはもう知っている筈だけど、何度だって言うわ。私ね、貴方のことが誰よりも特別で大切なの。だからどんな理由があったって貴方に幻滅なんてしない。寧ろ……貴方を苦しめている何かがあるのなら、一緒に解決したいわ。だからもうこれ以上、私のことを遠ざけないで。」
フォーラの言葉に、ドラコは思わず彼女の方へ顔を向けていた。目の前の美しく潤んだ瞳からはその言葉に似合うだけの強い意志が感じられた。ドラコとしては、その瞳を見るまでは自分の置かれた状況をどこまで打ち明けていいものか躊躇っていた筈だった。それなのに、今はもう彼女を争いに巻き込むリスクを考えることなどすっかり何処かへやってしまっていた。そして後先考えることなく意志の赴くまま、彼女をきつく抱き締めたのだった。
「!」フォーラはドラコの行動に随分驚いた。彼の締め付ける腕の力が幾らか強くて、震えていて……その腕伝いに、彼がこれまでの行いをどれだけ常に悔い続けてきたかが窺い知れた。
「ごめん……」ドラコの震える音色がフォーラの耳元で微かに響き、何回かすすり泣く音も聞こえた。
「本当は、ずっと、ずっとこうしたかった。君に好きだと伝えてから今まで、一度も君への気持ちが変わったことはなかった」ドラコが切迫した様子で短く息継ぎした。「君に、何もかも打ち明けてしまいたかった」
フォーラは返答を言葉にこそしなかったが、その代わりにドラコを優しく抱き締め返した。フォーラの瞳から零れた涙が、ドラコの服を少し濡らした。そして彼の方は抱擁が返ってきて少々びくりと反応した後、落ち着きを取り戻そうと浅く長い息を吐き、ゆっくりと、恐る恐る、丁寧に彼女を抱きしめ直した。
「フォーラに受け入れられていることが、信じられない」
「私だって、ドラコとこうしていられるなんて、思ってもいなかったわ……。」
フォーラの声が随分慈愛に満ちた色をしていたものだから、ドラコは堪らなく自分の気持ちを伝えたくて仕方がなくなっていた。そのため彼女の顔が見えるよう、両手で彼女の腰を抱いて少しばかり身体を離し、その瞳を見つめた。
「……僕は、君にしてきたことを今後ずっと許せないだろう……。君に償うべきことが山ほどある。それに勿論、君が僕を許さなかったとしても当然だ。だが、万が一……」
ドラコはそこで言葉を切ると、浅い息継ぎのような、緊張を纏った息遣いをした。
「叶うなら、僕は君からの信頼を取り戻したい。急にこんなことを言って、本当に自分勝手なのは分かっている。だけどもし君の気が許すなら……どうか、僕を君のそばにいさせてくれないか。これから先も……」
ドラコの表情は、フォーラからの返答を聞くのを恐れるように耐え忍んでいた。しかし彼女はそんな彼を肯定する以外の選択肢を持ち合わせていなかった。寧ろ、この時をどれ程待ち望んだだろうかというくらい、彼の言葉は願ってもないものだった。
「償うだなんてそんな、必要ないわ……。それに勿論私も貴方と一緒にいたい。同じ気持ちだもの……。」
フォーラは確かにドラコと同じく、今後もずっと二人で共に歩みたいという思いは抱えていた。しかし残念ながらそのとおりにはならないとも感じていた。何故なら自身のマグル生まれという秘密を隠した上で、今後ドラコを騙すつもりでいたからだ。彼の懐に入り、少しでも有利な情報を手に入れ、打倒ヴォルデモートの材料として不死鳥の騎士団に還元するために。いつかそれが叶った暁にはドラコに自身の秘密を明かすつもりだが、きっとそれを聞いた彼は、フォーラの愛が全てスパイ活動のための嘘偽りに映り、挙句の果てに血筋を騙されていたことで拒絶せずにはいられない筈だ。
それに万が一、ドラコがフォーラの血筋を受け入れることがあったとしても、彼の両親はそうではないだろう。彼らの純血思想を間近に見てきたフォーラには否定のしようがなかった。
いずれにせよ、フォーラにはどう転んでも自分の立場が良くない結果に行きつく未来しか見えなかった。そしてドラコに相応しい血を持たず、幾ら事情があるとはいえ彼を裏切るために嘘を吐いて近付くような自分は、いつか自ら彼の元を去らなければならないだろう。
(私はドラコが無事生きていられるのなら、それでかまわないわ。私が貴方に相応しくない以上、最後まで隣にいられなくたって……。だけど、我儘だと分かっているけれどせめてその時が来るまでは……どうか一緒にいさせて)
フォーラはそのような考えから再び一筋の涙を流した。しかしそんな事を知る由もないドラコは、てっきり彼女が互いの気持ちを理解し合った喜びの涙を零したのだと思った。そのため彼は親指で彼女の頬を伝う雫を拭うと、自然にそっと顔を近付けた。一方の彼女もそれに応えるように、軽く顔を上げた。
―――その時だった。何処か上階の方で、ガチャン、ドカンという何かが外れたような、壊れたような音が響いたではないか。フォーラもドラコもハッとして顔を見合わせると、音がしたであろう方向を見た。その根源はまだ認識できなかったが、何やらドカンドカンと重く固い物がぶつかる音が確実に近付いてくる。そうして暫くしないうちに音は本当に大きくなり―――。
ドラコはフォーラが先程投げた『何か事情があったのか』という問いに、静かに頷いた。そして彼女の潤んだ瞳を見た後で、自信なく視線を逸らした。
「君がその事情を知ってしまったら、幾ら温和で優しい君でも、きっと今以上に僕に幻滅してしまう」
それに対してフォーラは首を横に振った。
「ドラコはもう知っている筈だけど、何度だって言うわ。私ね、貴方のことが誰よりも特別で大切なの。だからどんな理由があったって貴方に幻滅なんてしない。寧ろ……貴方を苦しめている何かがあるのなら、一緒に解決したいわ。だからもうこれ以上、私のことを遠ざけないで。」
フォーラの言葉に、ドラコは思わず彼女の方へ顔を向けていた。目の前の美しく潤んだ瞳からはその言葉に似合うだけの強い意志が感じられた。ドラコとしては、その瞳を見るまでは自分の置かれた状況をどこまで打ち明けていいものか躊躇っていた筈だった。それなのに、今はもう彼女を争いに巻き込むリスクを考えることなどすっかり何処かへやってしまっていた。そして後先考えることなく意志の赴くまま、彼女をきつく抱き締めたのだった。
「!」フォーラはドラコの行動に随分驚いた。彼の締め付ける腕の力が幾らか強くて、震えていて……その腕伝いに、彼がこれまでの行いをどれだけ常に悔い続けてきたかが窺い知れた。
「ごめん……」ドラコの震える音色がフォーラの耳元で微かに響き、何回かすすり泣く音も聞こえた。
「本当は、ずっと、ずっとこうしたかった。君に好きだと伝えてから今まで、一度も君への気持ちが変わったことはなかった」ドラコが切迫した様子で短く息継ぎした。「君に、何もかも打ち明けてしまいたかった」
フォーラは返答を言葉にこそしなかったが、その代わりにドラコを優しく抱き締め返した。フォーラの瞳から零れた涙が、ドラコの服を少し濡らした。そして彼の方は抱擁が返ってきて少々びくりと反応した後、落ち着きを取り戻そうと浅く長い息を吐き、ゆっくりと、恐る恐る、丁寧に彼女を抱きしめ直した。
「フォーラに受け入れられていることが、信じられない」
「私だって、ドラコとこうしていられるなんて、思ってもいなかったわ……。」
フォーラの声が随分慈愛に満ちた色をしていたものだから、ドラコは堪らなく自分の気持ちを伝えたくて仕方がなくなっていた。そのため彼女の顔が見えるよう、両手で彼女の腰を抱いて少しばかり身体を離し、その瞳を見つめた。
「……僕は、君にしてきたことを今後ずっと許せないだろう……。君に償うべきことが山ほどある。それに勿論、君が僕を許さなかったとしても当然だ。だが、万が一……」
ドラコはそこで言葉を切ると、浅い息継ぎのような、緊張を纏った息遣いをした。
「叶うなら、僕は君からの信頼を取り戻したい。急にこんなことを言って、本当に自分勝手なのは分かっている。だけどもし君の気が許すなら……どうか、僕を君のそばにいさせてくれないか。これから先も……」
ドラコの表情は、フォーラからの返答を聞くのを恐れるように耐え忍んでいた。しかし彼女はそんな彼を肯定する以外の選択肢を持ち合わせていなかった。寧ろ、この時をどれ程待ち望んだだろうかというくらい、彼の言葉は願ってもないものだった。
「償うだなんてそんな、必要ないわ……。それに勿論私も貴方と一緒にいたい。同じ気持ちだもの……。」
フォーラは確かにドラコと同じく、今後もずっと二人で共に歩みたいという思いは抱えていた。しかし残念ながらそのとおりにはならないとも感じていた。何故なら自身のマグル生まれという秘密を隠した上で、今後ドラコを騙すつもりでいたからだ。彼の懐に入り、少しでも有利な情報を手に入れ、打倒ヴォルデモートの材料として不死鳥の騎士団に還元するために。いつかそれが叶った暁にはドラコに自身の秘密を明かすつもりだが、きっとそれを聞いた彼は、フォーラの愛が全てスパイ活動のための嘘偽りに映り、挙句の果てに血筋を騙されていたことで拒絶せずにはいられない筈だ。
それに万が一、ドラコがフォーラの血筋を受け入れることがあったとしても、彼の両親はそうではないだろう。彼らの純血思想を間近に見てきたフォーラには否定のしようがなかった。
いずれにせよ、フォーラにはどう転んでも自分の立場が良くない結果に行きつく未来しか見えなかった。そしてドラコに相応しい血を持たず、幾ら事情があるとはいえ彼を裏切るために嘘を吐いて近付くような自分は、いつか自ら彼の元を去らなければならないだろう。
(私はドラコが無事生きていられるのなら、それでかまわないわ。私が貴方に相応しくない以上、最後まで隣にいられなくたって……。だけど、我儘だと分かっているけれどせめてその時が来るまでは……どうか一緒にいさせて)
フォーラはそのような考えから再び一筋の涙を流した。しかしそんな事を知る由もないドラコは、てっきり彼女が互いの気持ちを理解し合った喜びの涙を零したのだと思った。そのため彼は親指で彼女の頬を伝う雫を拭うと、自然にそっと顔を近付けた。一方の彼女もそれに応えるように、軽く顔を上げた。
―――その時だった。何処か上階の方で、ガチャン、ドカンという何かが外れたような、壊れたような音が響いたではないか。フォーラもドラコもハッとして顔を見合わせると、音がしたであろう方向を見た。その根源はまだ認識できなかったが、何やらドカンドカンと重く固い物がぶつかる音が確実に近付いてくる。そうして暫くしないうちに音は本当に大きくなり―――。