19. You are very special to me: 3rd volume
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「……う……、そんなに心配しなくても、僕は大丈夫だ……」
ドラコが痛みに軽いうめき声を上げながら、何とか上体を起こした。そして彼は自分を囲んでいる友人らを見るでもなく、痛みを堪えながら目の前のフォーラの頭の先から足元まで目を向け、落ち着いた口調で尋ねた。
「どこも何ともないか?濡れたりは?」
フォーラはドラコが優しい瞳でこちらを見ていることや、心の底から心配していると分かる声色に、本当に戸惑いを感じていた。目の前のドラコは最近の彼とは違っていた。慈愛に満ち、丁重に扱われている感覚。それはフォーラが昔から良く知っているドラコだった。
「え、ええ……本当にどこも大丈夫よ。だって、本当に信じられないけれど―――貴方が守ってくれたもの。それに、みんなが偶然いてくれたから、ピーブズを追い払ってもらえたわ。ありがとう……。」
「そうか」ドラコは安堵の言葉をぽつりと呟いた。そして視線を下ろし、何かを思案した後、まるで諦めたように小さくため息をついたのだった。
傍にいたルニーとパンジーはドラコの妙に落ち着いた様子がもどかしくて、言葉を急かそうと彼の方に一歩踏み出した。『何をもったいぶっているのか?やはりドラコはフォーラのことを好きなのか?何故今になってこんな態度を見せたのか?』。彼女らはこの際ドラコにそのように問い詰めるつもりだった。フォーラの友人は二人とも、ドラコがこれまでフォーラにしてきた仕打ちや、不可解な点の真相を明確にし、フォーラを少しでも早く安心させたかったのだ。
そうしてルニーとパンジーが揃って口を開こうとした時、誰かが彼女らの肩をポンポンと軽く叩いた。二人して振り返ってみると、彼女らの背後にいたクラッブとゴイルは揃って首を横に振り、ドラコを責め立てることを制したのだった。
「マルフォイ、僕らは先に玄関ホールへ行って、ウィーズリーの双子を追いかける。君は身体の痛みが引いてからでも、ゆっくり来るといいよ」
クラッブがドラコにそのように伝えると、パンジーたちに「行こう」と促した。そしてドラコがお礼を言う間もなく、クラッブとゴイルはパンジーとルニーがフォーラに後ろ髪を引かれる中、彼女らを大広間の方へ先導したのだった。
四人で廊下を走りながらパンジーとルニーは、やいやいとフォーラが心配だ何だと文句を垂れていたのだが、その際ゴイルが笑顔を見せた。
「マルフォイは……あの二人はもう大丈夫だ、きっとね」
「どうしてよ?」不服そうなパンジーに、クラッブもゴイル同様口角を上げた。
「そんなの、マルフォイの顔を見れば分かるさ」
その頃、フォーラとドラコが取り残された廊下は、ピーブズがいなくなったことで元の静けさを取り戻していた。遠くでロケット花火の音が聞こえることはあっても、先程のように生徒が花火から逃げ惑ったり、廊下を走り抜けたりすることはなかった。まるで、フォーラとドラコだけが喧騒から離れ、二人きりになったかのようだった。
先程クラッブたちがここを立ち去る前、ドラコは俯いてため息をついた。それは自分の咄嗟の行動に、もう一切言い訳のしようがないと認めたからだった。ピーブズに脅かされているフォーラを見た時、ドラコは何も考えず反射的に彼女の方へ走り出していた。彼がこれまで彼女から離れるためにわざとぶつけてきた、数々の仕打ちが意味をなさなくなることなど、彼女の危機の前では全てどうでもいいと言わんばかりに霧散してしまった。
ドラコは四年生の学年末、父親からの言葉―――『来るべきときに備え、今周りにいる友人からいつか離れなければならない覚悟を持っておきなさい。そして、心から大切だと思える人間を作ってはいけない』―――そう書かれた手紙を受け取ってからこれまで、父のその言葉に心を縛り付けられてきた。
ドラコはその手紙をきっかけにフォーラに対する酷い所業を積み重ねてきた。それは彼女をこれから起こるかもしれない争いに巻き込みたくない、彼女が自分から距離を置くことで、彼女に何等かの危害が及ばず済むようにしたいと強く願うが為の行動だった。もしフォーラと幼馴染の良好な関係を保ったうえで「僕と距離を置いてくれ」と伝えても、間違いなく彼女は納得しなかっただろうから。
加えて、父親の言葉はドラコ自身が傷付かないようにするための計らいだと理解していた。来るべき日にドラコが親友らと距離を置くことについて、少しでも寂しさや躊躇いを感じずいられるようにするために。
しかし、この度のドラコは父親の言葉とは真逆の、『自分自身の手でフォーラを守り、共にいたい』という欲をとうとう優先させてしまったのだ。
少しの沈黙の中、先に口を開いたのはフォーラだった。彼女は困惑した様子で質問した。
「ドラコ、その……。何だか今の貴方は、前学年までの貴方に戻ったみたいだわ。」
ドラコはフォーラの言葉を聞いて、静かに顔を上げた。フォーラが続けた。
「ううん、今だけじゃない。この間、湖の側で私がプリムローズの群生の中に倒れていた時だって、貴方は……」
フォーラの期待に満ちた瞳が眩しくて、ドラコはその瞳を見つめ返すだけで精一杯だった。胸の辺りから熱い感覚がこみ上げて来るのが分かる。本心でなかったとはいえ、どれだけ自分は彼女に酷いことをしてきた?それなのに、相変わらず目の前の彼女は自分を慕ってくれているように見える。何処かのタイミングで縁を切られてもおかしくない程、彼女には辛く当たってきた自覚がある。それだけに、ドラコはどうして彼女が自分を好きでい続けてくれるのか分からなかった。
ドラコは罪悪感に押しつぶされないよう堪えるのに必死で、直ぐに言葉を発することができなかった。そして彼が何も言えずにいると、フォーラが眉を下げ、伺うように優しく微笑んだ。