19. 特別な君③
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その頃、フォーラとドラコが取り残された廊下はすっかり誰もいなくなり、花火も飛んでいってしまったきりで、ようやく本来の静けさを取り戻していた。強いて言うなら遠くでロケット花火の音が僅かに聞こえる程度だ。それはつまり、フォーラとドラコだけが喧騒から離れ、二人きりになったことを意味した。
先程クラッブたちがここを立ち去る前、ドラコは俯いてため息を零していた。それは彼が自身の咄嗟の行動に、もう一切言い訳のしようがないと認めたからだった。ピーブズに脅かされているフォーラを見た時、ドラコは何も考えず反射的に彼女の方へ走り出していた。その時既に、これまで彼女と距離を置くためにわざとぶつけてきた数々の仕打ちが意味を失うことなど、彼女の危機の前では全てどうでもいいと言わんばかりに霧散してしまったのだ。
ドラコは四年生の末に父親から受け取った手紙にあった、心から大切だと思える人を作るなという言葉にずっと縛り付けられてきた。それは別に、誰かに酷い態度を重ねてまで距離を置けという意味ではなかった。しかしドラコとしてはこれから起こるかもしれない争いにフォーラを巻き込みたくないと強く願うからこそ、その行動を選んでいた。何せ、もし彼女と幼馴染の良好な関係を保ったまま『僕と距離を置いてくれ』と伝えても、間違いなく納得されなかっただろうから。
加えて父の言葉は、ドラコ自身が傷付かないようにするための計らいだと受け止めていた。来るべき日に親友らと距離を置くことの寂しさや躊躇いを、少しでも感じずいられるようにするために。
しかし、この度のドラコはそういった助言とは真逆の、『自分自身の手でフォーラを守り、共にいたい』という欲を、とうとう本人にも分かるように優先させてしまったのだ。
沈黙が広がる中、先に口を開いたのはフォーラだった。彼女は困惑した様子で尋ねた。
「ドラコ、その……。何だか今の貴方は、前学年までの貴方に戻ったみたいだわ。」
ドラコはそれを聞いて静かにフォーラを見つめた。すると彼女が続けた。
「ううん、今だけじゃない。この間、湖のそばで私がプリムローズの群生の中に倒れていた時だって、貴方は……」
フォーラの期待に満ちた瞳が眩しくて、ドラコはそれを見つめ返すだけで精一杯だった。胸の辺りから熱い感覚がこみ上げてくるのが分かる。本心でなかったとはいえ、どれだけ自分は彼女に酷い事をしてきた?どこかのタイミングで縁を切られていてもおかしくない程、彼女にはつらく当たってきた自覚がある。それなのに相変わらず目の前の彼女は自分を慕ってくれているように見える。どうして彼女が自分を好きでい続けてくれるのか、理解しきれない。
ドラコは罪悪感に押しつぶされないよう耐えるのに必死で、すぐには言葉を発せなかった。そうして何も言えずにいると、フォーラが眉尻を下げ、窺うように優しく微笑んだ。
「もしかして、……もう私のことを嫌う『ふり』をする必要がなくなった?」
「!」ドラコがハッと反応した。「君は……気付いていたのか?いつから……」
ドラコが戸惑う中、フォーラは立ち上がると彼に片手を差し伸べた。彼は遠慮気味にその手を取って勢いに任せて立ち上がった。二人の片手はどちらから離すこともなく、繋がったままだった。
「だって、最近は明らかにドラコの様子がおかしかったんだもの。それにやっぱり、最初に何となくそうかもしれないと期待したのは……実家でのクリスマスパーティーの最中だったわ。貴方は私とダンスを踊った時、ドレスを似合うと褒めてくれたり、転びそうになったところを助けてくれたりしたでしょう?それまで随分私のことを嫌っている素振りだったのに、おかしいと思って……。そこからは日々を過ごす中で、段々と確信のようなものに変わっていったわ。」フォーラが続けた。
「だけど、五年生になって最初の頃から暫くは、本当に貴方に嫌われてしまったと思ったわ。四年生の終わりに貴方の告白を断って傷つけてしまったこと以外に、何か原因はありそうな気はしたけれど、具体的な事までは分からなかった。」
フォーラが当時を思い出し、少々俯いて表情に暗い影を落とした。ドラコはそれを見て繋いだままの彼女の手を咄嗟にぎゅっと握り直した。それに驚いて彼女が顔を上げると、ドラコは目の前の眩しい瞳を真剣に見据えた。そしてそのままの勢いでこれまでの事を弁解しようとしたのだが、自分が言おうとしている言葉が本当に今更で、本来そうする資格がないことをひしひしと実感させられた。それ故に彼の手は罪悪感に微かに震えたし、胸の辺りがぐちゃぐちゃにかき乱され、締め付けられるようだった。そして目頭がじんわりと熱くもなった。
「今更、こんなことを言っても随分遅いが」ドラコが無理矢理絞り出した声は、緊張でかすれていた。
「僕は、一度だって君を嫌ったことはない。それに、君に振られたことを恨んだこともない。一度も……」
ドラコの瞳からは、ぼたぼたと涙が零れていた。
「君に、今までの事を許してもらえるとは思っていない……だけど謝らせてほしい。君を何度も傷つけて、本当にすまなかった。何度謝っても足りない。本当は君を傷つけるその度に、いつも苦しかった。いや、そんな言い訳なんて君には関係ないのに、僕は本当に何を今更」
フォーラはドラコがようやく本心を打ち明けてくれたことが心から嬉しくて、彼を信じ、想い続けて良かったと安堵した。それだから彼女は自然と微笑み、彼と同じく自身の瞳に涙を浮かべていた。
「ドラコったら、最近私の前ですっかり泣き虫さんだわ。」
フォーラは空いている方の手でポケットからハンカチを取り出すと、ドラコの頬を伝う涙を優しく拭った。
「何か、事情があったのよね?きっと……。」
先程クラッブたちがここを立ち去る前、ドラコは俯いてため息を零していた。それは彼が自身の咄嗟の行動に、もう一切言い訳のしようがないと認めたからだった。ピーブズに脅かされているフォーラを見た時、ドラコは何も考えず反射的に彼女の方へ走り出していた。その時既に、これまで彼女と距離を置くためにわざとぶつけてきた数々の仕打ちが意味を失うことなど、彼女の危機の前では全てどうでもいいと言わんばかりに霧散してしまったのだ。
ドラコは四年生の末に父親から受け取った手紙にあった、心から大切だと思える人を作るなという言葉にずっと縛り付けられてきた。それは別に、誰かに酷い態度を重ねてまで距離を置けという意味ではなかった。しかしドラコとしてはこれから起こるかもしれない争いにフォーラを巻き込みたくないと強く願うからこそ、その行動を選んでいた。何せ、もし彼女と幼馴染の良好な関係を保ったまま『僕と距離を置いてくれ』と伝えても、間違いなく納得されなかっただろうから。
加えて父の言葉は、ドラコ自身が傷付かないようにするための計らいだと受け止めていた。来るべき日に親友らと距離を置くことの寂しさや躊躇いを、少しでも感じずいられるようにするために。
しかし、この度のドラコはそういった助言とは真逆の、『自分自身の手でフォーラを守り、共にいたい』という欲を、とうとう本人にも分かるように優先させてしまったのだ。
沈黙が広がる中、先に口を開いたのはフォーラだった。彼女は困惑した様子で尋ねた。
「ドラコ、その……。何だか今の貴方は、前学年までの貴方に戻ったみたいだわ。」
ドラコはそれを聞いて静かにフォーラを見つめた。すると彼女が続けた。
「ううん、今だけじゃない。この間、湖のそばで私がプリムローズの群生の中に倒れていた時だって、貴方は……」
フォーラの期待に満ちた瞳が眩しくて、ドラコはそれを見つめ返すだけで精一杯だった。胸の辺りから熱い感覚がこみ上げてくるのが分かる。本心でなかったとはいえ、どれだけ自分は彼女に酷い事をしてきた?どこかのタイミングで縁を切られていてもおかしくない程、彼女にはつらく当たってきた自覚がある。それなのに相変わらず目の前の彼女は自分を慕ってくれているように見える。どうして彼女が自分を好きでい続けてくれるのか、理解しきれない。
ドラコは罪悪感に押しつぶされないよう耐えるのに必死で、すぐには言葉を発せなかった。そうして何も言えずにいると、フォーラが眉尻を下げ、窺うように優しく微笑んだ。
「もしかして、……もう私のことを嫌う『ふり』をする必要がなくなった?」
「!」ドラコがハッと反応した。「君は……気付いていたのか?いつから……」
ドラコが戸惑う中、フォーラは立ち上がると彼に片手を差し伸べた。彼は遠慮気味にその手を取って勢いに任せて立ち上がった。二人の片手はどちらから離すこともなく、繋がったままだった。
「だって、最近は明らかにドラコの様子がおかしかったんだもの。それにやっぱり、最初に何となくそうかもしれないと期待したのは……実家でのクリスマスパーティーの最中だったわ。貴方は私とダンスを踊った時、ドレスを似合うと褒めてくれたり、転びそうになったところを助けてくれたりしたでしょう?それまで随分私のことを嫌っている素振りだったのに、おかしいと思って……。そこからは日々を過ごす中で、段々と確信のようなものに変わっていったわ。」フォーラが続けた。
「だけど、五年生になって最初の頃から暫くは、本当に貴方に嫌われてしまったと思ったわ。四年生の終わりに貴方の告白を断って傷つけてしまったこと以外に、何か原因はありそうな気はしたけれど、具体的な事までは分からなかった。」
フォーラが当時を思い出し、少々俯いて表情に暗い影を落とした。ドラコはそれを見て繋いだままの彼女の手を咄嗟にぎゅっと握り直した。それに驚いて彼女が顔を上げると、ドラコは目の前の眩しい瞳を真剣に見据えた。そしてそのままの勢いでこれまでの事を弁解しようとしたのだが、自分が言おうとしている言葉が本当に今更で、本来そうする資格がないことをひしひしと実感させられた。それ故に彼の手は罪悪感に微かに震えたし、胸の辺りがぐちゃぐちゃにかき乱され、締め付けられるようだった。そして目頭がじんわりと熱くもなった。
「今更、こんなことを言っても随分遅いが」ドラコが無理矢理絞り出した声は、緊張でかすれていた。
「僕は、一度だって君を嫌ったことはない。それに、君に振られたことを恨んだこともない。一度も……」
ドラコの瞳からは、ぼたぼたと涙が零れていた。
「君に、今までの事を許してもらえるとは思っていない……だけど謝らせてほしい。君を何度も傷つけて、本当にすまなかった。何度謝っても足りない。本当は君を傷つけるその度に、いつも苦しかった。いや、そんな言い訳なんて君には関係ないのに、僕は本当に何を今更」
フォーラはドラコがようやく本心を打ち明けてくれたことが心から嬉しくて、彼を信じ、想い続けて良かったと安堵した。それだから彼女は自然と微笑み、彼と同じく自身の瞳に涙を浮かべていた。
「ドラコったら、最近私の前ですっかり泣き虫さんだわ。」
フォーラは空いている方の手でポケットからハンカチを取り出すと、ドラコの頬を伝う涙を優しく拭った。
「何か、事情があったのよね?きっと……。」