23.Snape's blood
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
スネイプが手中にエメリア・スイッチの著書を出現させた。
「実のところ我輩自身、既にこの本に書かれている方法を試した」
「えっ!?そうだったのですか……?」
スネイプは元々フォーラにマグルの血を提供すると約束していただけに、得体の知れない術を何も試さずに自身の生徒に明け渡すわけにはいかないと感じていた。フォーラの驚きと感謝の視線を遮ってスネイプが話を続けた。
「……本の記述はこうだな。変身したい相手の血を用意し、本に書かれている呪文を血に向かって唱える。そして血を飲み干し、もう一度同じ呪文を唱えれば血の提供者と同じ姿に変身できる。……だがやはり本の著者以外成功していないというだけあって、我輩も漏れなくこのポリジュース薬不要の変身術は成功しなかった。そして失敗した者は我輩含め、良くも悪くも、何の変化も呪いの症状も現れなかった」
「そうですか……。兎に角セブルスさんに何事も無くてよかった……。それにしても、術に長けたセブルスさんでも困難だったのですね。」
「ああ。本来一般的な闇の魔術で血を飲む行為となると、血と何か材料を混ぜて摂取するものだが……記述はそうではなかった。そこから考えるに、あの変身方法は著者のずば抜けた変身センスの賜物か、若しくは嘘八百を綴っただけか。そのどちらかになるだろうが……。フォーラ、我輩が今回この眉唾のような術を頼るのは、お前が我輩と違うからだ。お前はどういうわけか、この長く隠されてきた本の正体を暴くことができた。だから―――」
スネイプはその続きを言うことを酷く躊躇していた。彼はまだ何か他の方法を頭の中で模索しているようだった。しかしそれをフォーラは遮った。
「分かりました。セブルスさん、私、貴方の血を飲みます。手段を選ぶ時間も惜しい筈ですから、今できることをしたいんです。」
フォーラは今こそ騎士団の役に立てる可能性を感じて、真っすぐスネイプを見据えていた。スネイプがフォーラを頼ることを躊躇っていた最も強い理由は、自身の到底綺麗とは言い難い血を教え子に飲ませる行為に抵抗があったからだ。しかしその反面、目の前の可能性に頼りたいと思うのも彼の正直な気持ちだった。
そしてとうとうスネイプは降参したように天を見上げた後で、その悩ましい表情をフォーラに向けた。
「……恩に着る」
それからの準備は手際よく行われた。今、フォーラの目の前のテーブルには30cc程が入る小さなエスプレッソカップが一つと、採血用の一般的な注射針が一つ、そして水の入ったグラスが置かれていた。スネイプはその針で自身の腕から血を三回程採取すると、カップに注いでいった。
赤黒いその液体は、見ていると両親が何度か嗜んでいた赤ワインに少し似ているように思えた。そしてフォーラは何時もより不安定に煩い心臓の音を感じつつ、息を呑みながらショットグラス程の小さなカップに杖を向けると、本に書かれているとおりに振った。
「……イミターティアス・セラム、模倣せよ」
杖先からはフォーラ自身の魔力がエスプレッソカップの中の血に流れ込んだが、カップの中身が目に見えて変化することはなかった。次にフォーラはそのカップを両手でそっと持ち上げてみた。するとスネイプは何か言いたげな様子で自身の片手をそのカップの上に被せるようにした。
「フォーラ、やはり……」
フォーラはスネイプのこんなにも心配そうな表情を見るのが随分珍しいと思った。しかしフォーラの意志は固かった。
「大丈夫です。初めてのことで怖いのは確かですし、まさかセブルスさんが私を頼ってくれるとは思ってもみなくて……いきなりのことに戸惑ってはいます。だけど……元々は、私が騎士団の役に立ちたいからとセブルスさんにお願いしていたことなんですから。寧ろこんなにも可能性の低いことに機会を与えてくださって、嬉しいくらいです。」
そう言ってフォーラはスネイプの手を退けると、ひと思いにカップの中身を喉に流し込んだ。彼女の口の中を、喉を、生温かな鉄錆のような液体が満たすように流れ込んだ。勢いに任せたせいで、彼女はその30ccという飲み物としては随分少なく、血としてはやや多い液体を飲み干した後で、ゲホゲホと軽くむせ込んだ。
「大丈夫か、何か体調に変化は?悪いところはないか?」
スネイプは焦った声色を投げかけ、眉間に皺を寄せてフォーラの顔を覗き込んだ。そして水の入ったグラスを差し出した。
「あ、ありがとう、ございます……」フォーラはグラスを受けとって中の水を飲みほした。「ん……はあ、だ、大丈夫です。少しむせてしまっただけですから……」
その時、フォーラは身体の奥底で普段とは違う血の巡りを感じた気がした。その感覚に彼女は一先ず自身の腕や手のひらを確認してみたのだが、特段見た目には異常は見られなかった。しかし彼女の身体の中には、確かに滾るような感覚があったのだ。
「フォーラ?」
スネイプの心配の声は、今のフォーラの耳に届かなかった。フォーラはドクンドクンと期待に心臓が脈打つのを感じつつ、スネイプの持っていた本の中に夢中で目を通した。
「変身する時は、血の提供者の姿や服装までも、よくイメージすること……」
フォーラは目の前のスネイプを見ないまま自然と瞳を閉じると、その本に書かれているとおり頭の中でスネイプの全身を思い浮かべてみた。黒く肩までかかった髪に、高い鉤鼻、土気色の肌に、コウモリのような黒装束のマント……。本人を見なくとも、フォーラはもう十分彼の姿形を脳裏に映し出すことができた。そうして彼女は瞳を閉じたまま深く息を吸い込むと、もう一度先程の杖の動きに合わせて自分自身に呪文を唱えたのだった。
「実のところ我輩自身、既にこの本に書かれている方法を試した」
「えっ!?そうだったのですか……?」
スネイプは元々フォーラにマグルの血を提供すると約束していただけに、得体の知れない術を何も試さずに自身の生徒に明け渡すわけにはいかないと感じていた。フォーラの驚きと感謝の視線を遮ってスネイプが話を続けた。
「……本の記述はこうだな。変身したい相手の血を用意し、本に書かれている呪文を血に向かって唱える。そして血を飲み干し、もう一度同じ呪文を唱えれば血の提供者と同じ姿に変身できる。……だがやはり本の著者以外成功していないというだけあって、我輩も漏れなくこのポリジュース薬不要の変身術は成功しなかった。そして失敗した者は我輩含め、良くも悪くも、何の変化も呪いの症状も現れなかった」
「そうですか……。兎に角セブルスさんに何事も無くてよかった……。それにしても、術に長けたセブルスさんでも困難だったのですね。」
「ああ。本来一般的な闇の魔術で血を飲む行為となると、血と何か材料を混ぜて摂取するものだが……記述はそうではなかった。そこから考えるに、あの変身方法は著者のずば抜けた変身センスの賜物か、若しくは嘘八百を綴っただけか。そのどちらかになるだろうが……。フォーラ、我輩が今回この眉唾のような術を頼るのは、お前が我輩と違うからだ。お前はどういうわけか、この長く隠されてきた本の正体を暴くことができた。だから―――」
スネイプはその続きを言うことを酷く躊躇していた。彼はまだ何か他の方法を頭の中で模索しているようだった。しかしそれをフォーラは遮った。
「分かりました。セブルスさん、私、貴方の血を飲みます。手段を選ぶ時間も惜しい筈ですから、今できることをしたいんです。」
フォーラは今こそ騎士団の役に立てる可能性を感じて、真っすぐスネイプを見据えていた。スネイプがフォーラを頼ることを躊躇っていた最も強い理由は、自身の到底綺麗とは言い難い血を教え子に飲ませる行為に抵抗があったからだ。しかしその反面、目の前の可能性に頼りたいと思うのも彼の正直な気持ちだった。
そしてとうとうスネイプは降参したように天を見上げた後で、その悩ましい表情をフォーラに向けた。
「……恩に着る」
それからの準備は手際よく行われた。今、フォーラの目の前のテーブルには30cc程が入る小さなエスプレッソカップが一つと、採血用の一般的な注射針が一つ、そして水の入ったグラスが置かれていた。スネイプはその針で自身の腕から血を三回程採取すると、カップに注いでいった。
赤黒いその液体は、見ていると両親が何度か嗜んでいた赤ワインに少し似ているように思えた。そしてフォーラは何時もより不安定に煩い心臓の音を感じつつ、息を呑みながらショットグラス程の小さなカップに杖を向けると、本に書かれているとおりに振った。
「……イミターティアス・セラム、模倣せよ」
杖先からはフォーラ自身の魔力がエスプレッソカップの中の血に流れ込んだが、カップの中身が目に見えて変化することはなかった。次にフォーラはそのカップを両手でそっと持ち上げてみた。するとスネイプは何か言いたげな様子で自身の片手をそのカップの上に被せるようにした。
「フォーラ、やはり……」
フォーラはスネイプのこんなにも心配そうな表情を見るのが随分珍しいと思った。しかしフォーラの意志は固かった。
「大丈夫です。初めてのことで怖いのは確かですし、まさかセブルスさんが私を頼ってくれるとは思ってもみなくて……いきなりのことに戸惑ってはいます。だけど……元々は、私が騎士団の役に立ちたいからとセブルスさんにお願いしていたことなんですから。寧ろこんなにも可能性の低いことに機会を与えてくださって、嬉しいくらいです。」
そう言ってフォーラはスネイプの手を退けると、ひと思いにカップの中身を喉に流し込んだ。彼女の口の中を、喉を、生温かな鉄錆のような液体が満たすように流れ込んだ。勢いに任せたせいで、彼女はその30ccという飲み物としては随分少なく、血としてはやや多い液体を飲み干した後で、ゲホゲホと軽くむせ込んだ。
「大丈夫か、何か体調に変化は?悪いところはないか?」
スネイプは焦った声色を投げかけ、眉間に皺を寄せてフォーラの顔を覗き込んだ。そして水の入ったグラスを差し出した。
「あ、ありがとう、ございます……」フォーラはグラスを受けとって中の水を飲みほした。「ん……はあ、だ、大丈夫です。少しむせてしまっただけですから……」
その時、フォーラは身体の奥底で普段とは違う血の巡りを感じた気がした。その感覚に彼女は一先ず自身の腕や手のひらを確認してみたのだが、特段見た目には異常は見られなかった。しかし彼女の身体の中には、確かに滾るような感覚があったのだ。
「フォーラ?」
スネイプの心配の声は、今のフォーラの耳に届かなかった。フォーラはドクンドクンと期待に心臓が脈打つのを感じつつ、スネイプの持っていた本の中に夢中で目を通した。
「変身する時は、血の提供者の姿や服装までも、よくイメージすること……」
フォーラは目の前のスネイプを見ないまま自然と瞳を閉じると、その本に書かれているとおり頭の中でスネイプの全身を思い浮かべてみた。黒く肩までかかった髪に、高い鉤鼻、土気色の肌に、コウモリのような黒装束のマント……。本人を見なくとも、フォーラはもう十分彼の姿形を脳裏に映し出すことができた。そうして彼女は瞳を閉じたまま深く息を吸い込むと、もう一度先程の杖の動きに合わせて自分自身に呪文を唱えたのだった。