19. 特別な君③
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フォーラの期待に満ちた瞳にスネイプは盛大なため息を吐いた。彼女は闇の魔術の恐ろしさを到底理解できていない。だからこのような表情を見せるのだ。どんな魔法使いや魔女であっても、学生時代には多かれ少なかれ闇の魔術に魅了されてしまうのはよくあることだが、本来あってはならない考えだ。
しかし、スネイプは彼女の気持ちが痛いほど分かるからこそ譲歩してしまった。もし万が一、彼女の両親がこの事を知ったらスネイプ自身が絶縁されてもおかしくないというのに。彼はそんな自分自身に呆れた。
「それはそうと、お前がそんな話をするから面談時間が伸びてしまったではないか。今日はお前が最後の生徒だったからよかったものの。一先ず我輩が選んだ職業資料には目を通しておきたまえ」
スネイプが杖を一振りして幾つかのパンフレットをまとめると、それをフォーラの膝の上に浮かせた。
「はい、分かりまし―――」
フォーラが冊子の束を受け取りながら声を発した時、完全に言い切る前に、上階の遠くの方からドーンという物音が聞こえた。フォーラとスネイプは何事かと互いに顔を見合わせた。
「……何だか、聞き覚えのある音ですね……?」
フォーラが恐る恐るそのように尋ねると、スネイプは眉間の皺を濃くして面倒臭そうにゆったりと立ち上がり、出入口の方へと向かった。
「面談は終わりだ。我輩は上階へ行く」
そうしてスネイプと共にフォーラが一階にたどり着くと、事の全貌が見えてきた。生徒たちは叫び声を上げながら廊下を逃げ回っており、その後を派手な花火がいつかのように飛び回っては追いかけていたのだ。ただ、生徒たちの声は悲鳴というよりも何だかこの状況を楽しんでいるように聞こえた。加えて今回はどういうわけか、全身水浸しの生徒が逃げ惑う姿も時折目にした。
スネイプは生徒らが花火から逃げるために目の前を横切っていくのを視線だけで追った後、相変わらず眉間の皺を深く刻んだまま、表情に呆れの色を浮かべた。
「ほとぼりが冷めるまで、ここに隠れていなさい」
スネイプはそう言って、今上ってきた階段の数段下の辺りを指差した。そして踵を返すと、先程玄関ホールの方へ向かった生徒たちを花火から解放すべく、一人で足早に立ち去ってしまったのだった。
残されたフォーラはスネイプの言いつけどおり、階段を数段下りて状況が落ち着くのを待つことにした。その間、廊下は相変わらず幾つかの花火や生徒がバラバラと行き交っていたのだが、どうにもフォーラからすれば、生徒たちが何やら花火などによって玄関ホールの方に誘導されているように思えてならなかった。しかし彼女がその事を気に掛けている時間は長くなかった。突然、不意に、背後から誰かの声がしたからだ。
「ハァイ!そんなところで突っ立ってどうしたのかな?」
フォーラがビクリと身体を跳ねさせて声の方を振り返ると、なんとそこにはポルターガイストのピーブズがいた。ピーブズと言えば、道化師の格好で誰彼かまわず悪戯を仕掛ける、幽霊のような混沌とした存在であることは城中の常識だ。彼は石壁から上半身だけを真横に突き出して、フォーラに軽快かつ悪巧みするような笑顔を向けていた。加えて、両手にはそれぞれ大きなバケツを一つずつ、自身の身体と垂直に―――つまりバケツの底が床と並行になるように持っていた。しかも中にはどちらも大量の水が入っているではないか。
「……!」
フォーラはピーブズが真後ろに現れていたことに随分驚き、同時に身の危険を強く感じた。それによって声を出せずにはくはくと口を動かすしかなく、身体は自分の意志とは無関係に硬直した。そして何とか一瞬だけ身体が動かせるようになった途端、すぐさま逃げるように階段を数段上がり、廊下に向かって飛び出したのだった。
フォーラは階段の真正面にある廊下の石壁にぶつかる寸前で、反射的にサッと後ろを振り返って杖を構えた。すると丁度そのタイミングで、目の前を数名の生徒が花火から逃れるために玄関ホールの方へ横切っていった。それを境に、どういうわけかピーブズは先程いた場所から姿を消してしまっていた。
「えっ!?い、いないわ。」フォーラは視線を周囲に走らせた―――。
そのほんの一分程前、ドラコを含む尋問官親衛隊のパンジーやクラッブ、ゴイル、そして彼らと偶然同じ場所に居合わせたルニーは廊下をひた走っていた。
「ねえ、どこまで走り続けるつもりなの?」ルニーが息を切らしながらドラコに尋ねた。
「あの双子は玄関ホールの方に行った筈だ!他の親衛隊はもう一つの廊下から向かっている。あいつら、ホールで挟み撃ちにしてやる」
それに続くようにして、パンジーが疲れと呆れを含んだ声色で言った。
「廊下に沼地を作っちゃうなんて、あの双子は本当に馬鹿なことをしたわ!きっとアンブリッジ先生の痛い仕打ちが待っているわよ……。廊下が所々水浸しなのだって、きっとウィーズリーのせいよ。あっ、ほらそこ水溜まりよ、気を付けて!……ねえルニー、息切れが凄いけど、無理せず後から歩いて来たっていいのよ?私たちは仕事で仕方なく追いかけているだけなんだから」
「それだと困るのよ、パンジーたちと一緒にいるわ!一人でいたら、いつ花火に襲われちゃうかも分からないし、うっかり何かの罠に嵌っても一体誰に助けてもらえっていうの?」
ルニーがそのように軽く叫ぶ声と共に、一行は廊下の曲がり角を玄関ホールの方向に折れた。その時、突如大きなロケット花火が目の前を通り過ぎた。先頭を走っていたパンジーとドラコがその花火を避けるべく咄嗟にその場に急停止したものだから、後方に続いていた友人たちは全員前につんのめりそうになった。
「もう!あの花火、本当に危ないったら……」
ルニーが勢い余ってパンジーの背中にぶつけた鼻をさすりながら文句を言い、何の気なしに廊下の向こうを見やった。すると彼女は途端に何かに気付いたようだった。
「えっ……あれって」
その声と視線によって全員が同じ方を向くと、そう遠くない位置にある地下牢に続く階段から、フォーラが廊下に飛び出すように現れ終えたところだった。彼女は何かに怯えるように今来た階段をサッと振り返ったのだが、周囲の生徒たちが幾つかのロケット花火から嬉々として逃げ走っても、それらに一切目もくれなかった。そして彼女が数回ほど周囲を見渡した時、その頭上に突如としてポルターガイストのピーブズが現れたではないか。
しかし、スネイプは彼女の気持ちが痛いほど分かるからこそ譲歩してしまった。もし万が一、彼女の両親がこの事を知ったらスネイプ自身が絶縁されてもおかしくないというのに。彼はそんな自分自身に呆れた。
「それはそうと、お前がそんな話をするから面談時間が伸びてしまったではないか。今日はお前が最後の生徒だったからよかったものの。一先ず我輩が選んだ職業資料には目を通しておきたまえ」
スネイプが杖を一振りして幾つかのパンフレットをまとめると、それをフォーラの膝の上に浮かせた。
「はい、分かりまし―――」
フォーラが冊子の束を受け取りながら声を発した時、完全に言い切る前に、上階の遠くの方からドーンという物音が聞こえた。フォーラとスネイプは何事かと互いに顔を見合わせた。
「……何だか、聞き覚えのある音ですね……?」
フォーラが恐る恐るそのように尋ねると、スネイプは眉間の皺を濃くして面倒臭そうにゆったりと立ち上がり、出入口の方へと向かった。
「面談は終わりだ。我輩は上階へ行く」
そうしてスネイプと共にフォーラが一階にたどり着くと、事の全貌が見えてきた。生徒たちは叫び声を上げながら廊下を逃げ回っており、その後を派手な花火がいつかのように飛び回っては追いかけていたのだ。ただ、生徒たちの声は悲鳴というよりも何だかこの状況を楽しんでいるように聞こえた。加えて今回はどういうわけか、全身水浸しの生徒が逃げ惑う姿も時折目にした。
スネイプは生徒らが花火から逃げるために目の前を横切っていくのを視線だけで追った後、相変わらず眉間の皺を深く刻んだまま、表情に呆れの色を浮かべた。
「ほとぼりが冷めるまで、ここに隠れていなさい」
スネイプはそう言って、今上ってきた階段の数段下の辺りを指差した。そして踵を返すと、先程玄関ホールの方へ向かった生徒たちを花火から解放すべく、一人で足早に立ち去ってしまったのだった。
残されたフォーラはスネイプの言いつけどおり、階段を数段下りて状況が落ち着くのを待つことにした。その間、廊下は相変わらず幾つかの花火や生徒がバラバラと行き交っていたのだが、どうにもフォーラからすれば、生徒たちが何やら花火などによって玄関ホールの方に誘導されているように思えてならなかった。しかし彼女がその事を気に掛けている時間は長くなかった。突然、不意に、背後から誰かの声がしたからだ。
「ハァイ!そんなところで突っ立ってどうしたのかな?」
フォーラがビクリと身体を跳ねさせて声の方を振り返ると、なんとそこにはポルターガイストのピーブズがいた。ピーブズと言えば、道化師の格好で誰彼かまわず悪戯を仕掛ける、幽霊のような混沌とした存在であることは城中の常識だ。彼は石壁から上半身だけを真横に突き出して、フォーラに軽快かつ悪巧みするような笑顔を向けていた。加えて、両手にはそれぞれ大きなバケツを一つずつ、自身の身体と垂直に―――つまりバケツの底が床と並行になるように持っていた。しかも中にはどちらも大量の水が入っているではないか。
「……!」
フォーラはピーブズが真後ろに現れていたことに随分驚き、同時に身の危険を強く感じた。それによって声を出せずにはくはくと口を動かすしかなく、身体は自分の意志とは無関係に硬直した。そして何とか一瞬だけ身体が動かせるようになった途端、すぐさま逃げるように階段を数段上がり、廊下に向かって飛び出したのだった。
フォーラは階段の真正面にある廊下の石壁にぶつかる寸前で、反射的にサッと後ろを振り返って杖を構えた。すると丁度そのタイミングで、目の前を数名の生徒が花火から逃れるために玄関ホールの方へ横切っていった。それを境に、どういうわけかピーブズは先程いた場所から姿を消してしまっていた。
「えっ!?い、いないわ。」フォーラは視線を周囲に走らせた―――。
そのほんの一分程前、ドラコを含む尋問官親衛隊のパンジーやクラッブ、ゴイル、そして彼らと偶然同じ場所に居合わせたルニーは廊下をひた走っていた。
「ねえ、どこまで走り続けるつもりなの?」ルニーが息を切らしながらドラコに尋ねた。
「あの双子は玄関ホールの方に行った筈だ!他の親衛隊はもう一つの廊下から向かっている。あいつら、ホールで挟み撃ちにしてやる」
それに続くようにして、パンジーが疲れと呆れを含んだ声色で言った。
「廊下に沼地を作っちゃうなんて、あの双子は本当に馬鹿なことをしたわ!きっとアンブリッジ先生の痛い仕打ちが待っているわよ……。廊下が所々水浸しなのだって、きっとウィーズリーのせいよ。あっ、ほらそこ水溜まりよ、気を付けて!……ねえルニー、息切れが凄いけど、無理せず後から歩いて来たっていいのよ?私たちは仕事で仕方なく追いかけているだけなんだから」
「それだと困るのよ、パンジーたちと一緒にいるわ!一人でいたら、いつ花火に襲われちゃうかも分からないし、うっかり何かの罠に嵌っても一体誰に助けてもらえっていうの?」
ルニーがそのように軽く叫ぶ声と共に、一行は廊下の曲がり角を玄関ホールの方向に折れた。その時、突如大きなロケット花火が目の前を通り過ぎた。先頭を走っていたパンジーとドラコがその花火を避けるべく咄嗟にその場に急停止したものだから、後方に続いていた友人たちは全員前につんのめりそうになった。
「もう!あの花火、本当に危ないったら……」
ルニーが勢い余ってパンジーの背中にぶつけた鼻をさすりながら文句を言い、何の気なしに廊下の向こうを見やった。すると彼女は途端に何かに気付いたようだった。
「えっ……あれって」
その声と視線によって全員が同じ方を向くと、そう遠くない位置にある地下牢に続く階段から、フォーラが廊下に飛び出すように現れ終えたところだった。彼女は何かに怯えるように今来た階段をサッと振り返ったのだが、周囲の生徒たちが幾つかのロケット花火から嬉々として逃げ走っても、それらに一切目もくれなかった。そして彼女が数回ほど周囲を見渡した時、その頭上に突如としてポルターガイストのピーブズが現れたではないか。